5分でわかるブロックチェーン講座

集英社が人気漫画「ワンピース」をNFT化、ブロックチェーンで美術品としての新たな価値を訴求

米国で加速する規制強化の流れ

(c)2021, Eiichiro Oda /Shueisha Inc. All rights reserved.

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

集英社がワンピース作品をNFT化

 大手出版会社の集英社が、人気漫画「ONE PEACE(ワンピース)」の活版印刷作品をNFT化して販売開始したことを発表した。国内のブロックチェーン証明書サービスを利用する。

 集英社は、今年3月より開始していた漫画アート事業「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE(SMAH)」の一環として、ONE PEACEの100巻発売記念作品を販売した。ブロックチェーンを使うことで、漫画作品に美術品としての新たな価値を訴求するのが狙いだ。

 国内のブロックチェーン証明書サービスを利用することで、販売された作品には専用の証明書を梱包できるという。ブロックチェーンに記録されたデータを確認することもできるのだろう。

 集英社は、原画となるデジタルデータをブロックチェーンに記録することで、経年変化に弱い原画をどう残していくかという問題を解決できると期待する。日本はコンテンツ大国であり、マンガのシリーズが増えるにつれて大量の原画が未整理の状態で溜まっていく点が課題として指摘されていた。

 これまで価値のなかったデジタルデータに新たな価値を与えるという点からも、ブロックチェーンおよびNFTの起こしたイノベーションは大きいと言えるだろう。

参照ソース


    集英社マンガアートヘリテージ、尾田栄一郎『ONE PIECE』活版印刷作品を販売開始
    集英社

Messari主催のカンファレンスにSECが押し入る

 暗号資産分析企業Messariの主催するカンファレンス「Mainnet 2021」で、米国証券取引委員会(SEC)の関係者が無断で踏み入っていたことがわかった。SECの人物は、一部の登壇者に対して召喚状を手渡したという。

 対象となった人物は複数人いるというが、いずれも普段は米国に在住しておらず、カンファレンスへの登壇タイミングを狙って強硬手段に出たとの見解が広まっている。ここ数カ月、SECによる規制強化の流れが加速しており、今回の動きは業界への警告としての側面もあったようだ。

 なお、今回の出来事を受けて、MessariのCEOであるRyan Selkis氏は、2024年に米国上院議員選挙に出馬する意向を固めたと言及している。

 今週は、ここ数カ月SECが強化している暗号資産規制の動向について詳細に整理したい。暗号資産取引所がSECへの登録を必要とする可能性があるなど、その影響はもはや日本でも無視できないものになっている。

参照ソース


    Talk of SEC subpoena swirls at New York crypto event as regulatory scrutiny grows
    TheBlock

今週の「なぜ」米SECの動きはなぜ重要か

 今週は、集英社による人気漫画作品のNFT化や米SECの規制強化の動きに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

論点は暗号資産が証券なのかどうか
暗号資産取引所もSECに登録が求められる可能性
成熟する業界のターニングポイント

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

暗号資産は有価証券に該当するのか

 ここ数カ月、米国ではSECにより暗号資産規制が強化される傾向が出てきている。驚くべきは、ビットコインとイーサリアム以外の暗号資産は全て有価証券に該当する可能性があることを公言した点だ。これについては、昨年末よりXRPを独占販売したとしてリップル社を提訴するなどしてきた点が関係している。

 SECは、その名の通り有価証券に関する規制を取り扱う組織だ。暗号資産業界では最も多く登場する規制当局だといえるが、これは、現在までに暗号資産が有価証券に該当するか否か定まっていないことが背景にある。

 これまでに、ビットコインとイーサリアムについては有価証券ではないとSECは明言している。理由は、この2つのみが十分に分散管理されているからだという。確かに、ビットコインとイーサリアムであれば、それらを独占的にコントロールし利益をあげている企業は存在していないと言える。

Coinbaseのレンディングサービスが中止へ追い込まれる

 SECの主張は、とある金融資産から特定の企業が利益をあげているのであれば、それはSECの管理下で行われるべきだということだ。XRPを独占的に販売したとされるリップル社や、そのほかのICOによって利益をあげたとされるプロジェクトに対する訴訟は、SECからすると一貫した主張を展開しているが故のものと言えるだろう。

 これまで何度も、暗号資産が証券に該当するか否かは業界全体にとって重要になると考察してきた。実際に、ここ数カ月で暗号資産が証券に該当する可能性が強まっていることにより、いくつかのサービスが停止に追い込まれている。

 最も注目を集めたのは、暗号資産取引所Coinbaseが提供予定だったレンディングサービスが、開始前にSECからの提訴を受けて撤退する事態となっていた。これは9月中の出来事であり、ほかにも軒並みレンディングサービスには逆風が吹いている。

 SECの主張は、ビットコインとイーサリアム以外の暗号資産を取り扱うサービスを提供するのであれば、それは事前にSECからの認可が必要になるとの見解だ。

規制次第で業界は大きく変わる

 Coinbaseは、今年に入ってナスダックへの上場を果たし、規制当局からの風当たりが強くなっている。レンディングサービスと同様の理由で、取引所を運営するのであればSECへ登録すべきとの指摘も受けているぐらいだ。

 このように、暗号資産が証券に該当することになると、取引所がサービスを提供できなくなったり、新しいビジネスを始められなくなったりする。

 ブロックチェーンによるイノベーションは、完全な分散化を実現する類のものだけではない。分散型サービスを利用するには一定以上の知識レベルが求められることから、ハードルを下げたサービスを提供する事業者も欠かせない存在なのだ。

 Coinbaseのようなインターフェースを提供する事業者がいてこそ、その基盤となるプロトコルが豊かになっていくため、0か100かのような規制の敷き方には違和感を覚える。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami