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民間発の日本円デジタル通貨発行へ、デジタル通貨フォーラムがホワイトペーパー公開

ConsenSysがWeb3.0レポートを公開、Web1.0/2.0との違いを説明

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

デジタル通貨フォーラムが日本円デジタル通貨のホワイトペーパーを公開

 民間発のデジタル通貨発行を目指すデジタル通貨フォーラムが、日本円デジタル通貨「DCJPY(仮称)」のホワイトペーパーを公開した。

 デジタル通貨フォーラムは、暗号資産取引所ディーカレットが事務局を務め、3大メガバンクや日本銀行、金融庁その他各省庁が参画するプロジェクトだ。日本銀行を含む各国がCBDCの調査・研究を進める中で、民間発のデジタル通貨を発行しようと取り組んでいる。

 今回ホワイトペーパーが公開されたDCJPYは、いわゆる二層構造の決済システムを採用するという。共通領域と付加領域によって二層が構成され、さまざまなWebサービスが決済手段としてDCJPYを組み込むことを想定しているようだ。

 今後は、DCJPYのユースケースを念頭に入れつつ実証実験をを行なっていくという。デジタル通貨フォーラムからは、NFT分科会やセキュリティトークン決済実務・制度検討分科会なども立ち上がっており、デジタル通貨の発行にとどまらず、先進領域での活動を続けていくとしている。

参照ソース


    デジタル通貨フォーラムによるデジタル通貨ホワイトペーパーとプログレスレポートを公表
    ディーカレット

ConsenSysがWeb3.0レポートを公開

 ブロックチェーン開発企業ConsenSysが、2021年夏シーズンのWeb3.0レポートを公開した。DeFiやNFTなどの市場概況をはじめとして、Web3.0に関するトレンドや動向をまとめている。

 ConsenSysは、Web1.0およびWeb2.0とWeb3.0の違いを次のように説明した。

  • Web1.0:TCP/IP、SMTP、HTTPなどの70~80年代のOSSプロトコルが該当する。誰の許可を得る必要もなくWebサービスを開発可能
  • Web2.0:ビジネスモデルはOSSプロトコルの上にクローズドなWebサービスを構築することに限られる。利用者は、自らの個人情報を提供してサービスを無料で利用する
  • Web3.0:OSSプロトコルが暗号経済学によって分散的に構築される。オープン、プライバシー、パーミッションレスがキーワードとなるWebサービスが開発される

 市場概況としては、DeFi市場の継続的な成長を報告している。特にレンディング市場が順調で、約247億ドルもの資金が供給されているようだ。DeFiプロトコルの収益も増加傾向にあり、UniswapなどDEXは1年間で1億ドルの収益をあげているという。

参照ソース

今週の「なぜ」民間発のデジタル通貨はなぜ重要か

 今週はデジタル通貨フォーラムのDCJPYやConsenSysのWeb3.0レポートに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

通貨供給システムは二層構造で成り立っている
DCJPYの1円未満のトランザクションには対応しない
DCJPYの二層構造は共通領域と付加領域で構成される

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

通貨供給の二層構造

 デジタル通貨フォーラムより構想が公開されたDCJPYは、民間銀行が債務として発行することを前提としており、利用者は新たに開設したアカウントで利用可能となる。一見するとCBDCとバッティングしそうだが、民間銀行が債務として扱うのであれば、現状の二層構造に影響を与えることはなさそうだ。

 日本のCBDCは、発行するのであれば二層構造モデルになると以前より言及されてきた。二層構造とは、多くの近代国家が採用している通貨供給のモデルである。中央銀行は、現金と中央銀行預金からなる中銀マネーを一元的に供給し、民間銀行はこの中銀マネーを核とする信用創造を通じて、預金通貨を供給している。

 この二層構造は、情報処理や資源配分などの観点からさまざまなメリットを生み出している。中銀マネーにより通貨に対する信用が確保されつつ、実態経済への資金配分は民間主導で効率的に行うことが可能だ。また、昨今のFinTechトレンドを鑑みても、二層構造における一層目で銀行に配分された資金を、二層目で効率化したものと捉えることができる。

DCJPYの性質

 今回デジタル通貨フォーラムが公開したホワイトペーパーでも、二層構造が採用されていた。加盟企業やオブザーバーに日銀が入っているためこれは自然なことだと言えるだろう。

 要するに、今回のデジタル通貨は1から通貨を発行するのではなく、既存通貨をデジタル化して利便性を高めたものであると言える。世界中でステーブルコイン規制が加速する中、既存規制の枠組みに当てはめて考えられていることがわかるだろう。

 発行されるDCJPYは、日本円と価値が連動する通貨になるといい、最小単位は1円に設定されている。デジタル上の世界では、マイクロトランザクションなどの用途から1円未満の決済需要が存在するため、最小単位が1円というのは違和感を覚える。これについては、今後の需要次第で対応を検討すると言及されている。

 なお、DCJPYは暗号資産ではなく、必ずしもブロックチェーンを活用するわけではない。適用範囲が日本国内に限られると記載されていることからも、国際送金などは想定されていないことがわかる。

共通領域と付加領域

 DCJPYの二層構造は、共通領域と付加領域で構成されるという。

 通貨(コイン)の移転は共通領域にある台帳へ記録し、物や権利の移転および通貨移転の指図内容などは付加領域へ記録する。ホワイトペーパーによると、このような仕組みを採用することで、物やサービス、デジタル資産などの移転と連動したDCJPYの移転が、スマートコントラクトなどを用いることで実現できるようになるという。

 この発想は、ブロックチェーンを使わないにせよブロックチェーン特有のコンポーザビリティ(構成可能性)が採用されていることが伺える。レイヤーを分けることで、下位レイヤーを軸にした上位レイヤーでの相互運用が可能になるということだ。

 これにより、共通領域のモジュールを付加領域で活用できるようになる。すなわち、異なるアプリケーション間でDCJPYが決済通貨として流通することが期待される。ホワイトペーパー内ではデジタル通貨の利用例として、クリーンエネルギーの購入、セキュリティトークン、電子マネーの連携、地域通貨への活用、サプライチェーン、エンタメ領域との連携などがあげられていた。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami