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イーサリアム財団が新たなインセンティブプログラムを開始

CoinbaseがDeFiレンディングサービスをスタート

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

イーサリアム財団が新たなインセンティブプログラムを開始

 イーサリアムの開発を主導するイーサリアム財団が、クライアントソフトウェアの開発者を対象にした新たなインセンティブプログラムを発表した。9つのチームを対象に、計4608ETH相当が報酬として付与される。

 イーサリアム財団は、これまでに多くのインセンティブプログラムを提供してきた。そのほとんどはイーサリアムエコシステムの拡大に貢献した人に付与されるものであり、明確な管理者が存在しない分散型プロトコルを発展させるために必要な取り組みだと言える。

 今回のプログラムでは、イーサリアムネットワークを直接的に支えるクライアントチームに対するものだ。イーサリアムでノードを運用するためには専用のクライアントソフトウェアが必要であり、それらの開発を行うチームへ資金提供するのが目的となっている。

 クライアントチームは、ソフトウェアの開発において一定の成果を出すたびに受け取る報酬がアンロックされるという。今回のインセンティブは、直接ETHを付与するのではなく、イーサリアムネットワークに参加するためのバリデータ権限が144台分付与されるようだ。つまり、バリデータとしてノードを動かすことで、発生する収益を得られる設計となっている。

参照ソース

CoinbaseがDeFiレンディングサービスを提供開始

 米暗号資産取引所Coinbaseが、DeFiを活用したレンディングサービスの提供を開始した。日本や米国は規制の関係で対象外となっているが、世界70カ国に向けて提供される。

 Coinbaseは、もともと米国ユーザー向けに暗号資産レンディングサービスを提供しようと動いていたものの、リリース直前になって証券取引委員会(SEC)より起訴され、公開を断念していた。今回は、国ごとに提供するのではなくDeFiという形でスタートし、各国規制の影響を回避したかたちだ。

 Coinbaseのウォレットアカウントを持っていれば、手数料無しに直接レンディングサービスのCompoundにアクセスできるという。具体的には、ステーブルコインDAIを使って、Coinbaseのウォレットを通す形でCompoundで資金運用できる。Compoundで得た収益の一部を、Coinbaseが徴収するモデルなのだろう。

 DeFiに接続できるウォレットとしては、MetaMaskが有名であり、ほとんど一強状態となっている。しかし、現時点でDeFiはユーザーフレンドリーであるとは言い難く、CoinbaseはDeFiのハードルを下げることを目的としているようだ。

参照ソース

今週の「なぜ」インセンティブプログラムはなぜ重要か

 今週はイーサリアム財団のインセンティブプログラムやCoinbaseのDeFiレンディングサービスに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

ブロックチェーンのような分散型プロジェクトにはグラントというプログラムが存在する
今回のイーサリアムのグラントはETHではなくバリデータ権限
非中央集権といいつつグラントプログラムが存在するという矛盾が発生している

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ブロックチェーンとグラント

 ブロックチェーン業界では、グラントと呼ばれるインセンティブプログラムが一般的だ。プロジェクトは独自のトークンを発行し、それを開発者に付与することでエコシステムを拡大することができる。

 例えば、イーサリアムであればイーサリアム財団がETHを発行し付与することで、今回のように開発者にイーサリアムネットワーク拡大のために活動してもらっている。これは、独自トークンを発行できるブロックチェーンプロジェクトならではと言えるだろう。

 グラントとしてトークンを配ることで、市場での流通量を高めることができるだけでなく、エコシステムの拡大も期待できる。受け取る側は、トークンを市場で売却して活動資金にしたり、そのまま保有してキャピタルゲインを得ることも可能だ。

イーサリアムのグラントプログラム

 今回のインセンティブ付与対象となったのは、イーサリアムのネットワークにアクセスするための専用ソフトを開発するチームだ。

 イーサリアムエコシステムが拡大するにつれて、エクスプローラやDAppsを開発するための周辺環境は充実してきたものの、コアのネットワークに直接貢献できるソフトウェアの開発が少なかったことが課題視されていた。そのため、今回のプログラムを通してこの領域の強化を図ろうとしている。

 一般的に、グラント報酬はトークンであることが多いものの、今回の報酬はバリデータ権限となっている。バリデータ権限をもらい活動することで、そもそもその見返りとしてETHがもらえる仕組みとなっていることから、間接的にETHを付与していることに繋がる。

分散性と旗振り役

 イーサリアムは、コンセンサスアルゴリズムをPoWからPoSへと移行している最中だ。PoSに移行することでマイニングを無くすことになるため、環境への負荷がかかっている現状の問題を解消することができる。

 PoSに移行すると、マイニングの代わりにステーキングが必要となり、そのために多くのバリデータを設置することになる。今回のインセンティブプログラムでは、ネットワークにアクセスするためのソフトウェアの拡充を図りつつ、バリデータの数を増やすことも期待できるわけだ。

 プログラムを提供するイーサリアム財団は、イーサリアムを管理しているわけではなく、あくまでも開発を主導しているに過ぎない。しかし、イーサリアム財団が存在しなかった場合にイーサリアムが発展を継続できるかは、怪しいところだ。

 グラントというかたちでインセンティブプログラムが存在するブロックチェーンプロジェクトには、名目上の管理者は存在しないものの、実質的には旗振り役が存在することになる。事実、ビットコインにはグラントは存在していない。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami