5分でわかるブロックチェーン講座

MITがイーサリアムなどの「PoS」を2022年テクノロジーブレークスルーに選出

三菱UFJ銀行が、邦銀初となるNFT事業に参入

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

MITがPoSを2022年テクノロジーブレークスルーに選出

 マサチューセッツ工科大学(MIT)の科学技術誌MIT Technology Reviewが、2022年のテクノロジーブレークスルートップ10を発表した。コロナ飲み薬や炭素除去工場などと共に、イーサリアムなどで使用されるコンセンサスアルゴリズム「Proof of Stake(PoS)」が選出されている。

 MITはPoSを選出した理由として、ブロックチェーンの環境負荷問題を解消できる可能性がある点を指摘した。ビットコインなどで使用される「Proof of Work(PoW)」と比べて、諸費電力を大幅に削減することが期待されている。

 PoWを使用するビットコインネットワークは、2021年の1年間で100テラワットもの電力を消費したという。これは、フィンランドにおける年間消費電力を上回る規模のようだ。PoWの電力消費問題は長年課題視されてきたため、イーサリアムは2020年12月より、PoWからPoSへの移行を進めている。

 MITは、ブロックチェーンを恒久的なシステムインフラとして確立させるためには、持続可能性が必要であるとし、PoSを使用するブロックチェーンの普及に期待を寄せた。

参照ソース

MIT Names Ethereum PoS 'Top Technological Breakthrough' In 2022
[MIT Technology Review]

三菱UFJがNFT事業を開始

 三菱UFJ銀行が、邦銀としては初となるNFT事業への参入を発表した。NFTをはじめとするWeb3.0事業を運営するAnimoca Brandsと協業する。

 三菱UFJ銀行は、これまでに蓄積してきた金融領域での経験を活かし、NFTを含むデジタル資産事業を開始する意向だ。NFT売買時の本人確認(KYC)や資産の保管などの事業も視野に入れているという。

 2月には、グループ会社の三菱UFJ信託銀行が、独自のデジタル通貨「プログマコイン」の発行計画も明らかにしていた。グループ全体で、デジタル資産への注力を本格化している様子が伺える。

 三菱UFJ銀行と協業するAnimoca Brandsは、NFTやメタバースなどWeb3.0と呼ばれる領域に積極投資を続ける香港の企業だ。昨年10月に、日本拠点の子会社を設立しており、今回の協業は日本企業をハブにしたものになるだろう。

参照ソース

三菱UFJ銀行、「NFT」などデジタル資産事業に参入
[日本経済新聞]

今週の「なぜ」PoSはなぜ重要か

 今週はMITによるPoSの評価と三菱UFJ銀行のNFT事業参入に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

PoSではマイニングが必要ない
PoSはPoWと比べて99.95%もの電力を削減できる
イーサリアムのThe MergeがPoS普及のきっかけに

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

PoWとPoSの違い

 PoWでは、ブロックを生成する際に膨大な計算処理が必要なマイニングを行う必要がある。そのため、マイニングでは大量の電力が消費されており、これが環境負荷が大きいと指摘されてきた。

 PoSの場合、ブロックの生成にはマイニングを必要とせず、保有しているトークンをステーク(デポジット)するだけで済む。PoWに比べて消費電力が非常に少ないのが特徴だ。

 PoWを使用する暗号資産の場合、マイニングによって消費される電力こそが価値の源泉であるとされている。しかしながら、マイニングによって無駄に電力が消費されているのは事実である。イーサリアムは、マイニングによって消費される電力を価値の源泉とするのではなく、開発状況やアップデート、エコシステムといったファンダメンタルズこそ価値の源泉に据えている。

PoSの消費電力

 イーサリアムの開発を主導するイーサリアム財団は、イーサリアムがPoWからPoSへ移行することで消費電力を99.95%削減できるとの試算を出している。

 調査レポートでは、PoSによる消費電力は2.62メガワットになるとされた。これは、米国の一般家庭2100戸分の消費電力に過ぎないという。PoWがフィンランドにおける年間消費電力を上回る規模であるのに対して、PoSは大幅な電力削減が期待されている。

 こういった状況を受け、昨今は新たに誕生するブロックチェーンネットワークでは、PoWではなくPoSを採用するものが一般的となっている。今回MITは、イーサリアムの他にSolana(ソラナ)やAlgorand(アルゴランド)といったブロックチェーンの名前をあげた。

イーサリアムのThe Merge

 MITは、PoSをテクノロジーブレークスルートップ10に選出すると同時に、2022年に起きるであろうイーサリアムの「The Merge」を注目イベントとして言及した。The Mergeは、イーサリアムにおけるPoWとPoSの統合を意味するアップデートであり、これが実装されるとイーサリアムは本格的にPoSのネットワークに移行することになる。

 MITは、The MergeがPoS普及への決定的な瞬間になると説明。計画通りに進めば、イーサリアムはPoSを利用する最も大きなネットワークになると言及した。

 イーサリアムでは、世界最大規模の開発者カンファレンス「Devcon」を1年に1度開催している。Devconでは、毎回イーサリアムにおけるその年の最重要アップデートが発表されるのが慣習になった。今年は10月に開催されることが決定しており、このタイミングでThe Mergeが実装される可能性が高いと考えている。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami