中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/5/8~5/15]
通信分野における外資規制が拡大――対するファーウェイの動向 ほか
2019年5月17日 06:00
1. アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトがこぞってブロックチェーン分野へ参入
ビットコインなどの暗号通貨の高騰から、ブロックチェーンという基盤技術に注目が集まったのが2017年の秋だった。その後、暗号通貨の暴落や流出事件が相次いだ。一方、“暗号通貨以外”へのブロックチェーンへの適用に対する試みはいくつも行われてきたのがこの18カ月間の動きといえよう。そのようななか、ITジャイアント各社のブロックチェーンへの対応は決して早いものではなかったように見受けられる。人材も資金も潤沢な彼らがこの開発競争に名乗りを上げないのには、一過性の技術と評価しているなど、なにか理由があるのかといぶかしく思うこともあった。
そのようななか、2018年後半以降、グーグルはブロックチェーンの人材の獲得を積極的に始めていることやスタートアップとの提携を始めたことは報じられてきた。そして、今春、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックの各社はデベロッパーコンファレンスなどを通じて、この分野における存在感をアピールし始めている。
もちろん、暗号通貨に限らず、各社各様のアプローチをしているわけだが、いずれにしてもブロックチェーンという信頼モデルによる基盤が採用されているということには変わりない。いよいよ本格的な参入が表明されたことで、関連するスタートアップ企業の買収や優秀な人材の引き抜きなども積極化するだろう。さらに、これまで慣れ親しんでいる基盤技術のなかで、ブロックチェーンを容易に扱えるようになってくることだろう。2019年下期の着目点としては、こうしたITジャイアントの動向はもとより、それと伍していくスタートアップとの開発競争ということになりそうだ。
ニュースソース
- マイクロソフトがフルマネージドブロックチェーンサービスを開始[TechCrunch日本版]
- アマゾン参入で激化するブロックチェーン競争──マイクロソフトにどう立ち向かうのか [coindesk]
- フェイスブックの仮想通貨プロジェクト、米上院が懸念。ザッカーバーグ氏に書簡で説明求める [coindesk]
- NYCで議論深めたある熱狂と緊張──ビットコイン高騰する中、Consensus2019・Day1終了[coindesk]
- アマゾン、ビットコイン著名開発者、NYイベントで存在感。Consensus2019・Day2がスタート[coindesk]
- 「仮想通貨の便利さはテロリストに機会をもたらす」米財務省・次官が警鐘 [coindesk]
2. 通信分野における外資規制が拡大――対するファーウェイの動向
ファーウェイの製造した端末機器やルーターにはバックドアがあるのではないかとする疑念はいまだ拭い去られていない。背景には、情報通信技術における覇権をめぐる米国と中国の国家間の争いに加え、米国からすれば安全保障上の大きな懸念があるとしているからである。そのようななか、トランプ大統領は「国家安全保障上のリスクをもたらす企業の通信機器を国内企業が使用することを禁止する大統領令に今週署名する見通し」であるとロイターが報じている。具体的に名指しをしてはいないが、どう見てもファーウェイを意識したものと言わざるをえない。さらに、米連邦通信委員会(FCC)は「中国移動(チャイナモバイル)による米国内でのサービス提供を許可しないことを投票で決め、国家安全保障上の懸念から中国の他の通信事業者についても状況を調査中」とCNETが報じている。
米国と同盟国の関係にある日本もこの問題とは無関係ではいられない。産経新聞デジタル版の記事によれば「政府が安全保障上の理由から、外資規制の対象をIT分野に拡大する」ことが検討されている。つまり、「外国投資家が対象業種の上場企業の株式を10%以上取得したり、非上場企業の株式を取得したりする場合、事前に届け出るよう義務付ける。審査の結果、国の安全を損なう恐れがあると判断すれば、計画の変更や中止を勧告・命令できる」というものである。
ここのところ、各国の動向も踏まえつつ、ファーウェイの梁華会長は「各国政府とスパイ防止協定を結ぶ用意があるとの考えを示した」とされるが、それだけでは各国の対応を変えるのは難しそうだ。
ファーウェイは世界における端末の出荷台数でアップル社を抜いてサムスンに次ぐ第2位になったもされるという調査会社IDCからの発表もあり、その存在感は高まっている。一方、この泥沼化している事態の落とし所は見えてこない。それどころか、そもそも米国は自国第一主義を掲げ、中国に対する追加的関税引き上げを予定していて、その他の中国で生産されているiPhoneなどのデジタル機器にまでも影響が出そうな状況である。
ニュースソース
- ファーウェイ製品の使用禁止に道開く米大統領令署名へ=関係筋[ロイター]
- 政府、外資規制をITに拡大へ PCや半導体……中国念頭に[ITmedia]
- 米FCC、チャイナモバイルの参入を拒否--他の中国キャリアも調査へ[CNET Japan]
- ファーウェイ、各国とスパイ防止協定結ぶ用意=会長[ロイター]
- トランプ政権、対中関税第4弾を発表 iPhoneなど[朝日新聞デジタル]
3. 先進技術と社会的受容性
情報通信技術やそれにもとづくビジネスモデルのイノベーションは人類の生活を豊かにする可能性もあるが、それを社会のなかで受けいれられるかどうかということは別の議題である。日本では課題解決に有用か、あるいは実用になるかどうかという観点での「実証実験」が各社において盛んに行われているが、それだけではなく、社会的受容性についても活発な議論が必要だろう。
そのようなか、米国のカリフォルニア州サンフランシスコ市では「顔認証技術の利用禁止する条例案を可決した」ことがロイターによって報じられた。サンフランシスコ市といえば、比較的革新的な意識の人たちが多い都市とも言えそうだが、「このサービスは肌の色が濃い個人の性別を認識する精度が低いとの指摘が出ており、不当な逮捕につながる可能性が懸念される」としている。ここでいう画像認識技術はアマゾン・ドット・コム社が警察に提供をしたもののようで、アマゾン・ドット・コム側でも株主から懸念の声が出ていることは既報のとおりである。
また、無人キャッシュレス決済の実店舗として設計されたAmazon Goでも、有人による現金払いの対応を始めたと報じられている。つまり、さまざまな理由から銀行口座やクレジットカードを持てない人/持たない人に対する差別となることが指摘されていたのだ。しかし、アマゾンのことなので、現金主義の人でも利便性の高い方法を考え出す可能性もあるだろう。
このどちらの事例も、多様な人が生活する米国ならではの問題と片付けることはできず、我々日本でも無関係とは言えない課題としての考察が必要だ。
また、アップル社のアプリストアであるApp Storeが反トラスト法(日本における独占禁止法に相当)に違反しているとする訴訟が続いている。CNETが伝えたところによれば、代替のきかない販売チャネルをアップル社によって独占され、しかも売上の30%という手数料が課せられていると原告は主張している。この裁判の先行きは見通せないが、判決によって、アップル社はこれからまさにシフトしていこうとしているコンテンツやサービスのビジネスモデルに対して大きな影響を受ける可能性もある。
ニュースソース
- 米サンフランシスコ市、顔認証技術の利用禁止する条例案を可決[ロイター]
- Amazon Go、無人キャッシュレス決済のはずが現金OKにして有人対応[GIZMODO]
- 米最高裁、「App Store」をめぐるアップル独禁訴訟の継続を認める[CNET Japan]
4. コンテンツビジネスの新潮流――鍵は「音声」「動画」
ここのところ国内の各社からは音声広告に関する発表が相次いでいる。
まず、電通グループでは「radiko(ラジコ)」と「Spotify(スポティファイ)」への音声広告の配信をするとしている。また、VOYAGE GROUPもアドプラットフォーム「PORTO(ポルト)」においてオーディオ広告のメニューを拡充した。さらに、ADKマーケティング・ソリューションズのプライベートマーケットプレイス「ADK-PMP」では、放送局各社が取り組む「見逃し配信サービス」に対して、プログラマティック技術を使って動画コンテンツにインストリーム広告を配信するとしている。インターネットでの音声・動画コンテンツの市場規模拡大とともに、広告媒体としての価値が十分に高まってきたことを象徴している。こうした新たなマネタイズの仕組みによりコンテンツビジネスがさらに活性化されることも期待できる。
一方、今後のインターネットコンテンツの発展にとっては、インターネット上に散在する著作権侵害コンテンツに対する手続きも洗練されるべきだろう。昨今、社会問題化しているように、権利侵害者が正当な権利者を差し置いてマネタイズできるようなことはあってはならない。しかし、権利者としては対策のための人的負担や経済的負担ができないということもあるとも聞く。そのようななか、発表されたのは弁護士ドットコムによる著作権侵害コンテンツを取り下げ申請できる新サービス「弁護士ドットコムRights」である。すでに、出版社とのトライアル実績もあるとのことで、権利者による従来よりも積極的な対応が可能になってほしい。
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5. 今週の国内IT関連各社の決算発表
IT関連企業各社の通期・四半期の決算が発表されている。下記には目にとまった企業をいくつか紹介しておく。
このなかで、気になるのはniconico動画の有料会員減などで苦境に立つドワンゴの経営立て直しをめざすカドカワだ。KADOKAWAの出版事業では電子書籍販売が好調で、増収増益としていることから、デジタルコンテンツビジネスにおける成果も上げている。さらに、ぐるなびが大幅な減益となっており、楽天との資本・業務提携を進めることによる今後の成果が期待されるところだ。
ニュースソース
- ソフトバンクグループ 2019年3月期通期決算[官報ブログ]
- ソフトバンク 2019年3月期通期決算[官報ブログ]
- ソフトバンクがヤフーを連結子会社化、連携を大幅強化へ[ケータイWatch]
- メルカリ 2019年6月期第3四半期決算[官報ブログ]
- ユーザーローカル 2019年6月期第3四半期決算[官報ブログ]
- 仮想通貨取引所 bitFlyer 決算公告(第5期)[官報ブログ]
- 楽天 2019年12月期第1四半期決算[官報ブログ]
- 楽天ウォレット株式会社(旧みんなのビットコイン)決算公告(第3期)[官報ブログ]
- ぐるなび 2019年3月期通期決算[官報ブログ]
- 楽天、ぐるなびと資本・業務提携の強化へ協議開始[ロイター]
- ディー・エヌ・エー 2019年3月期通期決算[官報ブログ]
- ミクシィ 2019年3月期通期決算[官報ブログ]
- カドカワ、18年度は最終赤字40億円 ドワンゴの「テクテク」終了など響く niconico有料会員は180万人に減少[ITmedia]
- パナソニック、20年3月期連結営業利益予想は27.1%減の3000億円[ロイター]
- GMOインターネット、仮想通貨事業の再構築が進み収益性は改善に向かう―2019年12月期第1四半期決算説明会[仮想通貨Watch]