中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/5/16~5/23]

米政府によるファーウェイ輸出規制のまとめ――見えない解決の落とし所 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 米政府によるファーウェイ輸出規制のまとめ――見えない解決の落とし所

 今週はまさに米国とファーウェイの問題で一色だったといってよいだろう。ドナルド・トランプ米大統領が現地時間5月15日、米国企業による非米国企業の通信機器使用を禁止する大統領令に署名をしたことが伝えられた。さらに、米商務省は米国政府の許可なしに米国製品を輸出できない規制リストにファーウェイをはじめとした中国企業などを追加したと伝えられた

 かねて、米国政府は5Gの通信インフラをファーウェイをはじめとする中国のベンダーに支配されることにも警戒感を示していた。理由として、中国企業の通信機器にはバックドアが仕込まれている可能性を否定できず、それが安全保障上の脅威となる可能性があるという点である。ただし、具体的な技術的証拠を示されてはいない。それに加え、米国などで開発された技術の知的財産を持ち帰り、この分野で支配をしようとしていることへの不満だ。そして、技術的・産業的にも通信インフラを中国の企業に握られることへの警戒感をあらわにしていた。この分野では自国が世界のリーダーであるべきというプライドもあるだろう。折しも、米中経済摩擦のなかのできごとだけに、解決の落とし所は見えなくなったといえよう。もちろん、両国のみならず、各国の信頼が醸成されなければ本質的な解決は難しそうな事案だ。

 こうした政府の動きをふまえ、グーグルは販売済みのファーウェイ製スマホ向けのオペレーティングシステムであるAndroidに関して、セキュリティアップデートはするものの、新規のライセンスを停止するとした。また、今後はアプリストアの利用にも影響が出そうだ。これに対し、ファーウェイは独自のオペレーティングシステムやアプリストアよって対応しようとしているようだ。今後、Windowsを提供するマイクロソフトがどう動くのか、半導体メーカーや各種のサービスプロバイダーはどう動くのかということが焦点となろう。

 そして、日本でも大手キャリアはファーウェイの新型スマートフォンの発売を見合わせることを発表した。なお、量販店での販売は行われるとも伝えられている。問題は小売りへの影響だけではない。ファーウェイをはじめとする中国メーカーに対して、各種の部品を提供している日本の企業は多数あるので、こうした企業の業績への影響も心配される。

ニュースソース

  • トランプ米大統領、“Huawei締め出し”大統領令に署名[ITmedia
  • 米国商務省、米国製品の輸出禁止対象にファーウェイなど追加[ケータイWatch
  • 米政府、ファーウェイへの輸出規制に90日間の猶予[CNET Japan
  • ドイツ、米国と距離置く 対ファーウェイ措置巡り[ロイター
  • ファーウェイに重大リスク、5G限定参入に反対=英MI6元長官[ロイター
  • オランダでファーウェイ製品の「バックドア」発見、政府が調査[Forbes JAPAN
  • 米グーグル、ファーウェイとの一部ビジネス停止=関係筋[ロイター
  • Google「ファーウェイ端末でGoogle Playは引き続き利用可能」[マイナビニュース
  • グーグル、ファーウェイとの取引を期間限定で継続へ--米政府の猶予措置を受け[CNET Japan
  • ファーウェイ、グーグルに対抗して独自アプリストアの強化を模索か[CNET Japan
  • ファーウェイ、スマートフォンやタブレットへのサポート継続表明[ロイター
  • ファーウェイ、スマホ新機種発表 米政権の輸出禁止規制でも自信[ロイター
  • ファーウェイ、今秋にも自前OSか[日本経済新聞
  • ファーウェイ、米国の輸出規制に強く反発--「米国企業に重大な経済的損害」[CNET Japan
  • ファーウェイCEO、「グーグルと対応協議」。アメリカの規制に「準備はできている」[BUSINESS INSIDER
  • ファーウェイが独自OSを開発中、アンドロイドやウィンドウズの提供中止に備える[BUSINESS INSIDER
  • ファーウェイ呉波氏、「セキュリティ更新とアフターサービスに影響なし」[ケータイWatch
  • ファーウェイ呉波氏、米国の制裁に「再出発になると信じている」[ケータイWatch
  • 3キャリア、ファーウェイ夏モデルの発売を延期の方針[ケータイWatch

2. オープン化される各種専門教育用コンテンツ

 今週は大学や企業などから、複数の教育用教材の無償公開が発表されている。まず、東京大学の松尾研究室では、高度ディープラーニング技術者養成講座の演習コンテンツを無償公開した。そして、ブロックチェーンのオンライン学習サービスPoLは、仮想通貨の税金カリキュラムを無償公開した。さらに、NTTコミュニケーションズはソフトウェアエンジニア向け研修内容・資料を無償公開した

 こうした動きが同じ時期に相次いで報じられたのは偶然なのかもしれないが、一方では、こうした各大学や各企業の教育用資料の公開が進みつつある動きが起きつつあるのかもしれない。例えば、米国ではオープンテキストブックの発行をする動きがある。そもそも専門書が高価であるという背景もあるようだが、こうした資料が安価に、多くの人にとって入手可能になることで、専門的な知識を早く広め、さらにその上に新たな知識を構築できるという考え方である。ある側面ではオープンソースと似たアプローチともいえそうだ。

 技術の高度化とともに、新たな専門知識を持った人材がますます求められるいま、こうした試みは大変に興味深いし、これから広がる可能性も高い。

ニュースソース

  • 東大松尾研、高度ディープラニング技術者養成講座「DL4US」の演習コンテンツ無償公開[ITmedia
  • ブロックチェーンのオンライン学習サービスPoL、仮想通貨の税金カリキュラムを無料公開 ~確定申告周辺を網羅するレッスン。国税庁税務大学校の元教育官安河内氏と共同制作[仮想通貨Watch
  • NTTコミュニケーションズのソフトウェアエンジニア向け研修内容・資料を公開します[NTT開発者ブログ

3. QRコード決済共通化も一筋縄では行かず?

 この7月1日から、セブン-イレブンではQRコード決済の「7Pay」を開始するとともに、「PayPay」「メルペイ」「LINE Pay」や、海外の「アリペイ(Alipay)」「WeChat Pay(微信支付)」も利用できるようになる

 これまでも多数のQRコード決済アプリが登場し、サービスが始まるたびに、とりあえず試してみたり、あるいはキャンペーンにつられてアプリをインストールしてみたりしてきたが、その結果、すでにスマートフォンの1画面はQRコード決済アプリで埋まりそうな勢いだ。

 そのようななか、デジタルガレージがマルチQRコードソリューション「クラウドペイ」を開発し、ドコモが「d払い」で採用すると発表した。クラウドペイの特徴は、d払いのほかにも、LINE Payやメルペイ、Alipay、WeChat Payなど、さまざまな決済サービスにおける店舗掲示用QRコードが共通化できる点であるという。つまり、現実問題として、なにかと手狭な店舗のレジにおいて、いくつものQRコードを提示しておかなくてもよくなる。また、こちらはすでに手数料体系などの詳細も決まっていて、ビジネス化の準備も整っているといえそうだ。

 一方、キャッシュレス推進協議会は統一バーコード・QRコード規格(JPQR)の普及に向けた「統一QR『JPQR』普及事業」を2019年8月1日~2020年1月31日にかけて岩手県、長野県、和歌山県、福岡県の全域で導入することを目指している。こちらはすでに設立が発表されているが、多く事業社を巻き込み、一気に全国展開するような動きはいまのところ見られない。

 両者とも乱立状態ともいえるQRコード決済を分かりやすくしようという狙いは同じともいえるが、果たしてうまく収束していくことができるのか。

ニュースソース

  • コード決済の統一規格「JPQR」普及事業、d払いやPayPay、LINE Payなどが参加[ケータイWatch
  • d払いやLINE Pay対応のクラウドペイは“共通QRコード”となるか[Impress Watch
  • セブン-イレブンのコード決済は7月1日から、「7pay」や「PayPay」など[ケータイWatch

4. “新たな出版”へのアプローチ

 コンビニのコピー機に新たなサービスが追加された。コンビニエンスストアのデイリーヤマザキ、ニューヤマザキデイリーストア、ヤマザキデイリーストアなど全国約1300店舗に設置されたマルチコピー機で公営競技の専門誌、業界紙、地方紙、海外新聞など、さまざまなコンテンツをオンデマンドでプリントして購入できるということだ。ただ、スマホなどのデジタルデバイスをひとりひとりが持ち歩く時代、「消費者がプリントをしてまで読みたいコンテンツとはなにか?」という課題はいつものようにある。ただ、仮にそうした課題はあるにしても、物流や在庫を伴わないコンテンツ流通チャネルとしての可能性は感じる。

 また、2017年12月に出版社の幻冬舎とクラウドファンディングサービス会社のCAMPFIREが共同出資し、設立したエクソダス社だが、その後の動きが見られなかった。しかし、いよいよサービスを開始するようだ。記事によれば「一般の人やライターなどから持ち込まれた企画の出版費用や宣伝費用を、読者・支援者から募る仕組み。1000部から出版でき、著者印税は50%に設定した」としていて、従来のセルフパブリッシングやオンデマンド出版とは違ったアプローチがとられている。企画次第では資金的な裏付けが事前に得られることから、先行投資が難しかった新たな出版企画が花開く可能性がある。

 そして、日経電子版にはピースオブケイクのnoteのソーシャルプラグイン「noteで書く」が追加されている。記事に関連する記事をnoteに書くことで、「日本経済新聞社が運営するビジネスパーソンが知見を共有するプラットフォーム“COMEMO by NIKKEI”や“日本経済新聞 電子版(PC版)”の連動企画に転載される可能性がある」と広くパブリッシュされる可能性もある。

ニュースソース

  • 「eプリントサービス」で専門誌なども購入できるようになったデイリーヤマザキの京セラ製マルチコピー機[livedoor NEWS
  • ピースオブケイク、noteにソーシャルプラグイン「noteで書く」ボタンを公開 日経電子版に実装[Markezine
  • 出版クラウドファンディング「エクソダス」公開 1000部からOK、著者印税50%[ITmedia

5. 夏に向け各種展示会が続く

 これから夏に向け、展示会やコンファレンスもめじろ押しとなる。以下のニュースソースにはこれからの注目の展示会を挙げておく。

 「NHK技研公開」では、いわゆる放送技術のみならず、放送とインターネットを融合した視聴者の体験を拡張するコンテンツやサービスなどにも注目しておきたい。「ワイヤレスジャパン」では5Gを応用するさまざまなサービスや実証実験の成果、さらには新たに開発されたデバイスなどが注目点といえよう。そして、今年も「Interop Tokyo」が開催される。ちょうどWWW(ワールドワイドウェブ)が誕生して30周年ということもあり、それにまつわる企画や基調講演などには期待をしたいところだ。ネットワーク基盤の高度化や高性能化のみならず、その上での社会活動の課題、例えばプライバシー保護やフェイクニュース拡散の問題は拡大を続けていて、まさにインターネットが基盤となっている時代の曲がり角ともいえる時代にどう対処すべきかにもフォーカスされることになろう。

ニュースソース

  • 東京大学、ブロックチェーンの国際協力への応用を議論するセミナーを5月29日開催 ~国連機関UNOPSの山本特別顧問らが登壇。講義は一般向けに無料公開[仮想通貨Watch
  • NHK技研公開2019(2019年5月30日~6月2日)[NHK
  • ワイヤレスジャパン2019/ワイヤレスIoT EXPO2019(2019年5月29日~5月31日)[株式会社リックテレコム/日本イージェイケイ株式会社
  • 「アーカイブサミット2018-2019」6月11日東京で開催(長尾真ほか/アーカイブサミット組織委員会)[hon.jp
  • Interop Tokyo(2019年6月12日~6月14日)[ナノオプト・メディア