中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/5/23~5/30]
今週のファーウェイ問題:さらに広がり続ける波紋 ほか
2019年5月31日 17:00
1. 好業績の大手出版社とデジタル取次――デジタルコミックがさらに伸長
大手出版社の業績が上向きつつあるようだ。とりわけ、電子コミックの売上が貢献しているようだ。今週、小学館が4期ぶりの黒字決算を発表した。その要因として、デジタル収入の増加が目につく。さらに、大手電子書籍取次会社などを傘下に持つメディアドゥホールディングスの2019年2月期通期決算も発表されていて、こちらも本業の売上高・利益額ともに拡大をしている。5月決算の集英社、そして11月決算の講談社の業績も注目しておきたい。
昨年は漫画が違法にアップロードされ、誰でも閲覧できるウェブページである「漫画村」などの海賊版サイトが大きな社会問題化した。これら海賊版による業界全体での損害額はそれを算定した団体によって大きな差があるものの数百億円から数千億円とも言われた。国の研究会でも早急な立法による対策が必要であるとして議論が重ねられたが、当該ウェブページへのアクセスを遮断するための技術的手法をめぐって紛糾し、結果としては中間報告書も採択されず、いまだ具体的な対策は行われていない。
その後、問題となった大規模な海賊版サイトが閉鎖されたこともあり、当初よりも健全化が回復されたともいえ、それを踏まえて全体としての市場拡大へとつながったともみられるとともに、加えて、「コミカライズ」と呼ばれる漫画という表現手法による、新たな魅力ある作品の登場なども大きな要因とみられる。
2. 今週のファーウェイ問題:さらに広がり続ける波紋
米国による中国通信機器大手企業ファーウェイの締め出し政策はさらに波紋を広げつつある。
各社の報道によれば、「Wi-Fi Allianceはファーウェイの参加を『一時的に制限』しており、SD Associationはファーウェイを組織から除名した」という。また、日本でもアマゾンジャパンは「ファーウェイ製品の販売を見合わせ」たとしている。さらに、パナソニックも「ファーウェイとの該当取引を中止したことを明らかにした」としている。そして、ソフトバンク傘下にあるスマートフォン向け半導体技術を手掛ける英国のARMは「ファーウェイとの取引中断を認める内容であり、なおかつ解決を求める」という趣旨のコメントを発表した。
当初、ファーウェイ製品におけるバックドアの存在が疑われるという技術的な問題が指摘されていたのだが、その後、どこもそれを示す具体的な技術的証拠を示すことなく、米中を中心とした政治的問題化へと変質をしているといえよう。折しも、5Gサービスが開始されようとしているこの変革期での大きな問題により、産業全体へのさらなる大きな影響が危惧される段階にある。
ニュースソース
- SDカードとWi-Fiの標準化団体も--広がるファーウェイ排除の動き[CNET Japan]
- ファーウェイ排除加速へ、CEOは「うそつき」=米国務長官[ロイター]
- 中国外務省、ファーウェイ巡る米国務長官の発言を批判[ロイター]
- Amazon.co.jp、ファーウェイ製品の販売を見合わせ中[ケータイWatch]
- パナソニックが米ファーウェイとの該当取引中止、米政府規制受け[ロイター]
- ファーウェイ・ジャパン、「アフターサービスに影響ない」と声明を発表[ケータイWatch]
- ファーウェイ問題は「世界経済のブレーキに」、日立の東原社長[日経XTECH]
- 一部報道について[ニュースリリース]
- 家電量販のノジマも発売延期、ファーウェイ製スマホの新製品[日経XTECH]
- IIJ、ファーウェイ製「P30/P30 lite」などの発売を延期[ケータイWatch]
- Arm、ファーウェイへのライセンス供与停止報道にコメント[ケータイWatch]
- Huawei幹部、米国による排除を批判 「同じことがどの企業でも起こりうる」[ITmedia]
- Kirinが作れなくなる。ARMもファーウェイとの取引を停止か[GIZMODO]
- SIMフリー「HUAWEI P30/P30 lite」も米制裁の影響なし、公式ストアでは予定通り5月24日発売へ[ITmedia]
- ファーウェイ会長がドイツで講演「もう壁を作ってはならない」[ケータイWatch]
- 英Arm、ファーウェイとの取引停止へ。今後のチップ設計が困難に[Engadget日本版]
- 英アームとの取引停止問題、解決可能=ファーウェイ[ロイター]
- 中国がアップルに報復すれば反対する─ファーウェイCEO=通信社[ロイター]
- ファーウェイが2位維持、第1四半期の世界スマホ販売=ガートナー[ロイター]
- ファーウェイ携帯のクリック数が急減=英価格サイト[ロイター]
- 「Huawei独自OS」は非現実的か “オープン”なOSと“クローズ”なアプリの関係[ITmedia]
3. 今週の政策動向:デジタルファースト法と改正放送法が成立
5月24日、行政手続きを原則デジタル化することを定めた「デジタル手続法(いわゆる“デジタルファースト法”)」が参議院本会議で可決、成立した。
また、5月29日には、NHKが番組をインターネットで同時配信できるようにする「改正放送法」が参議院本会議で可決、成立した。
どちらも消費者にとっては日常的に関係の深い分野において、情報通信技術の進化を踏まえた法律である。いずれも、利便性が高まることが期待される一方で、前者は抜け道もあると指摘されていたり、後者は受信料が改定される(視聴者の経済的な負担が増加する)可能性なども指摘されていたりするようだ。今後の具体的な施策については注目をしておくべきだろう。
4. HTML標準決定の主導権がW3Cからブラウザーベンダーの団体WHATWGへ
HTML標準の主導権をめぐる交渉でW3CとWHATWGが合意をした。今後はウェブ(HTMLやDOM)の仕様決定にあたっての主導権はブラウザーを開発する業界団体のWHATWGが握ることになったと伝えられている。これまで、仕様を決定する標準化組織であるW3Cとそれを実装するブラウザーベンダーの業界団体WHATWGで、一部の仕様が異なるなどの温度差がみられた。いうなれば、理想である「仕様」と現実である「実装」との間での“二重化”が起きていたとも言える。今後はWHATWGの決定を受けて、W3Cが標準として勧告されることになるとされている。
こうした変化により、今後は新たな仕様がこれまでよりもスムーズに決まり、より短い期間で実装されて市場に出ることが期待される。そして、仕様と実装の食い違いもなくなっていくと見込まれる。もちろん、こうしたプラスの影響は歓迎するが、組織間のパワーゲームによる長期的なマイナスの影響はないように願いたい。
ニュースソース
- HTML標準めぐりブラウザー業界団体とW3Cが合意--主導権は業界側に[CNET Japan]
- HTML標準仕様の策定についてW3CとWHATWGが合意発表。今後はWHATWGのリビングスタンダードが唯一のHTML標準仕様に[publickey]
5. 次週のイベント:近づくアップル社のデベロッパーカンファレンスWWDC
毎年恒例となっているアップル社のデベロッパーカンファレンス「WWDC 2019」が現地時間6月3日10時(日本時間6月4日2時)より米国カリフォルニア州サンノゼで開催される。現地の専門メディア各誌では、そこでの発表内容を予測する記事がいくつか発表されている。主に、ハードウェアではなく、OSなどのシステムソフトウェアや基盤となるサービスを中心とした発表ということになりそうだ。
ニュースソース
- アップル、WWDC 2019基調講演の招待状を報道関係者らに送付[CNET Japan]
- WWDC 2019 キーノートはココに注目。新iOS、watchOS、macOSの「見かた」と噂まとめ[GIZMODO]