中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/10/24~10/31]
「Cookie」を使った情報収集を規制へ ほか
2019年11月1日 14:25
1. ガートナーが「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル:2019年」を公開
ガートナージャパンが日本国内におけるデジタル技術のトレンドを示す「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル:2019年」を公開した(仮想通貨Watch)。「テクノロジーハイプサイクル」は同社が定期的に発表している技術トレンド分析の手法で、新しい技術が生まれた(黎明期)のち、注目を集めて盛り上がり(「過度な期待」のピーク期)を経て、現実的な課題に直面(幻滅期)しながら、広く実装が進み(啓蒙活動期)、社会的に定着する(生産性の安定期)ようになるまでの一連の状態を表そうとする手法である。つい最近、ブロックチェーンという特定分野におけるハイプサイクルを発表(仮想通貨Watch)していたり、ワールドワイドでのハイプサイクルも発表(仮想通貨Watch)していたりしていて、現在の状況を共有したり、ディスカッションをしたりする資料としてよく引用される。
この「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル:2019年」での特徴的な部分を紹介してしておこう。まず、ブロックチェーンが幻滅期のピークに向かいつつあり、ウェアラブルデバイスがそこから幻滅期から脱しようとしている。ブロックチェーンに関しては、通貨以外の分野では各社ともPoC、実証実験がかなり行われ、その技術特性の理解や有効な応用場面に関する考察も進んだと思われるが、実際のサービスとして提供されたかというと具体的な成果は少ない。一方、ウェアラブルデバイスについては出荷額が増加しつつあるという統計もあり、医療分野や一般的なヘルスケアでのアプリケーションなどの登場とともに、本格的な普及に向かいつつあるようだ。一方、「過度なピーク」の周辺にあり、「幻滅期」に向かいつつあるのがIoTプラットフォーム、エッジコンピューティングといった分野である。これらが社会的に定着をするためには、それなりの規模の投資も必要になると思われ、もう少し時間が必要なのかもしれない。
また、同社による世界の動向における今後5年間の予想が「Gartner IT Symposium/Xpo」で紹介された(ZDnet Japan)。AI、仮想通貨、オンラインショッピングなど、テクノロジーによる変化について、よい予想と悪い予想に分けて説明されている。それぞれ同社が調査したさまざまな外部環境や技術情報などを背景に導かれたもので、年末から2020年へと向かうなか、次年度計画を考える上で目を通しておいてもよい記事だろう。
ニュースソース
- ガートナー「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2019年」を公開 ~ブロックチェーン・AI・IoTは幻滅期を迎えリアルな課題に直面。見極めのタイミング[仮想通貨Watch]
- ガートナー予測。2022年に大企業の4割が人事業務にブロックチェーン・AI導入 ~採用効率化と従業員管理それぞれの利点が実証済み[仮想通貨Watch]
- AIやブロックチェーンなどテクノロジーでどう変わる?--ガートナーが2020年以降を予想[ZDnet Japan]
2. 「Cookie」を使った情報収集を規制へ
一部メディアの報道によると、公正取引委員会では、ウェブの利用者の同意なく、閲覧履歴を記録するために使われる「Cookie(クッキー)」を収集したり、それを利用したりした場合、独占禁止法違反になる恐れがあるとし、具体的な規制を検討するという(朝日新聞デジタル)。すでにこの8月、公正取引委員会では「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業が、利用者の個人情報を本人の同意なく収集した場合、独占禁止法が禁じるところの「優越的地位の乱用」とみなすなどとしたガイドライン案を公表していて、今回はそれを踏まえたものと考えられる。
そもそもCookieはおよそ25年前にウェブブラウザーが登場したときから、さまざまな場面において、ユーザーの知らぬ間に利用されてきた。とりわけ、ユーザー属性に合わせた広告掲載をするためなどに利用されていることはいまではよく知られているところだ。日本では就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア社が情報を閲覧した就職活動学生に無断でその閲覧履歴を取得し、そこから算出した内定辞退率を企業に販売していたという事件は記憶に新しい。
すでにヨーロッパでは「EU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」により、ユーザーに同意に基づかずにこうした個人的な情報を取得することは厳しく規制されるようになっている。さらに、グーグル、モジラ、アップルなどのブラウザーベンダーでもCookieに対する機能の制限も進めつつある。
しかし、Cookieは巨大なインターネット広告産業はもとより、ウェブのユーザービリティを高める上でも中心的な機能であったことから、ウェブの実装はもとより、ビジネスモデルや運用方法の観点からも今後の具体的な規制の範囲については留意しておく必要がある。課題の解決には、ユーザーとの間で、情報取得をするという合意形成のプロセスを入れたり、プライバシーが保護されるような新たな手法の開発、標準化も必要になるだろう。
ニュースソース
- 「クッキー」情報収集、公取委規制へ スマホ位置情報も[朝日新聞デジタル]
3. 中国の仮想通貨戦略の影響力
先ごろ、フェイスブックのCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏が米国議会公聴会に出席し、議員らの仮想通貨リブラ発行に関する懸念に対して答えたことは大きく報じられた。さらに同時期、G20でも十分な規制がないままでのステーブルコインの扱いには慎重に対処するという合意がなされたことも報じられている。
そのようななか、中国ではブロックチェーンへの積極的な取り組み姿勢を明確にしている。それは「習近平中国国家主席は10月24日、中国共産党中央政治局が開いたブロックチェーン関連の研究会に出席し、『ブロックチェーン技術の応用は、新たな技術革新と産業のイノベーションにおいて重要な役割を担う。我が国はブロックチェーンのコア技術を自主イノベーションの需要な突破口として、力を入れていかなければならない』と述べ、投資を加速する考えを示した」(仮想通貨Watch)ということに起因する。
直前では、グーグルによる「量子コンピューター」に関する論文が発表されたことを踏まえ、暗号技術が無力化されてしまうことが懸念されたことにより、ビットコインなどの暗号資産の価値が大幅に下落していたが、この中国の姿勢が報じられたことで、中国元とリンクした「法定デジタル通貨」の登場が現実味を増したことから、大幅にその値を戻すなどの激しい展開が見られた。また、中国の関連産業の株価も大きく動いたとも報じられている(ロイター)。
これまで各国は民間による仮想通貨による法定通貨へのさまざまな影響を懸念しているわけだが、すでにこうした民間規制の観点だけでなく、デジタル化された法定通貨の覇権をどの国が握るかという段階に進みつつある。
ニュースソース
- Facebook「リブラ」での違法送金を警戒:中国高官[coindesk]
- 習近平主席「中国はブロックチェーンで世界の先頭を走る」 ~経済・社会への導入向け投資加速を明言[仮想通貨Watch]
- 中国、北京・深センを軸に「ブロックチェーン時代のシリコンバレー」へ ~技術には長期的な希望。仮想通貨は取り締まり強化[仮想通貨Watch]
- 中国で「暗号法」成立。「暗号技術」の実用化全面支援 ~ブロックチェーン業界のカンフル剤に2020年1月1日施行[仮想通貨Watch]
- 中国共産党、ブロックチェーン上で忠誠を示す分散型アプリを公開[coindesk]
- 中国国営メディア、ブロックチェーン関連株の急伸に警鐘[ロイター]
4. グーグルが検索アルゴリズムを大幅更新
米国グーグル社が検索エンジンのアルゴリズムをアップデートしたことが大きく報じられている(TechCrunch日本版)。この変更はここ数年では最大規模だとされ、技術的には「検索者の意図の推測精度を改善するためにニューラルネットワークを利用する」としている。当面は米国における英語の検索が対象だが、他の地域や言語へも順次適用されるとしている。
具体的な効果としては、「長く会話的な検索の場合に特に威力を発揮する」としていて、ユーザーが知りたいと思っていることを言語の文脈を理解した上で、最適な検索結果を表示するということだ。
ニュースソース
- Google、複雑な会話型クエリでも意図をくんで答えるBERT採用検索を英語で開始[ITmedia]
- Googleがここ数年で最大の検索アルゴリズム更新、ニューラルネットのBERTテクノロジー投入[TechCrunch日本版]
5. インターネット誕生から50年
1969年10月29日はインターネットの前身であるARPANETが開発されたとされていることから、この日が「インターネットの誕生日」であるし、海外メディアではその話題を取り上げている(Google)。また、この3月にはWWW(ワールドワイドウェブ)の30周年があり、2019年は大きな記念すべき年だったといえる。
いうまでもないことだが、インターネットは中央で管理されないにもかかわらず、世界規模で自律的に動くコンピューターネットワークである。世界におけるインターネットの人口普及率はすでに60%を超えたともいわれている。さらに端末もデスクトップだけでなく、スマートフォンのようなモバイルデバイス、さまざまなセンサーなどのデバイスへと広がっている。その上での人と人のコミュニケーションや情報の伝送だけでなく、ブロックチェーンのような技術が登場したことにより価値の移転も安全にできるようになってきた。そうした意味を考えると、インターネットはこの50年という歳月のなかで、人類が発明し、育て上げてきた大きな成果であることは間違いない。