中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/10/31~11/7]
電力使用状況のデータをもとに不在配送問題を解決 ほか
2019年11月8日 12:00
1. 研究領域の注目技術:電力使用状況のデータをもとに不在配送問題を解決
オンラインショッピング市場は拡大を続け、経済産業省がこの6月に発表した2018年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模推計では、約18.0兆円(前年比8.96%増)にまで拡大、そのうちの物流が伴う物販系分野は9兆円強(前年比8.12%増)となっている。
そのようななかでの最大の課題は、増え続ける荷物をいかには効率よく配達するかということだ。最近では、宅配ロッカー、コンビニでの受け取り、そして「置き配」といったような不在でも配達が完了する仕組みも増えてきたが、まだまだ普及はしていないし、とりわけコンビニでは店主や従業員の業務増加による疲弊の問題も指摘されている。
そのようななか、住宅に備えられているスマートメーターから送られる電力使用状況のデータを使い、配達先が不在かどうかを分析、配送ルートを作るという研究が進められている。これは佐川急便、日本データサイエンス研究所(JDSC)、東京大学大学院の越塚登研究室・田中謙司研究室によるもので、「AIと電力データを用いた不在配送問題の解消」という3者での共同研究開発を発表した(CNET Japan)。すでに東京大学本郷キャンパス内での実験では不在配送が9割削減でき、総移動距離は5%減少したとしている。
不在かどうかの判定に家庭の電力使用状況が利用されるという点に違和感がある人もいると思われるが、一方で、こうした仕組みなくしては当面の物流課題の解決は難しいのかもしれないとも思う。
ニュースソース
- AIと電力データで不在配送問題の解消へ--佐川急便ら共同研究開発[CNET Japan]
2. 焼失した首里城の3Dモデルを写真や動画から生成
首里城が火災により焼失したことは連日大きなニュースとして報じられている。今後は原因究明を進め、他の施設でも同じことが起こらないような対策をとるとともに、いかにこの歴史的資産を復元するかということも大きな課題であろう。経済的にはすでに、再建に向けた多額の寄付も寄せられているとも報じられているが、完成までにはかなりの時間もかかりそうだ。
そのようななか、全焼した首里城を3Dモデルで復元するという「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」が東京大学情報理工学系研究科の川上怜特任講師の呼び掛けで始まった。「異なる視点から撮影された複数の写真や動画をもとに、一つの3次元形状を復元する技術『Structure from Motion』(SfM)を活用する。3Dモデルで復元した首里城をARやVRなどで疑似体験できるようにすることで、実物が再建されるまでの観光資源として役立てる」(ITmedia)としている。
とりわけこのプロジェクトで興味深いのは、画像の合成技術のみならず、地元の人や、沖縄を旅行した人など不特定多数である「みんな」からの思い出の写真や動画を募って、協力によって部分ずつ復元しようというところだ。完成したら、この3Dモデル自体もある意味でのデジタルモニュメントになりうるかもしれない。
ニュースソース
- 「全焼した首里城を3Dモデルで復元する」 東大研究者ら有志が写真・動画の提供を呼びかけ 再建までの観光資源に[ITmedia]
3. 公取委がITプラットフォーマーに関する報告書を公表
公正取引委員会は「デジタルプラットフォーマー」とも呼ばれている巨大IT企業による取引慣行に関する実態調査を行い、その報告書を公表した。この報告書では「オンラインモール」と「アプリストア」を対象に、それぞれのプラットフォーム運営会社とその利用事業者からの聞き取り調査をしている。
それによれば、運営事業者が手数料を一方的に引き上げたり、検索アルゴリズムを恣意的に操作することにより、特定の商品が有利になるような検索結果表示の操作したりすることは、独占禁止法に違反する可能性があるなどと指摘している。
こうした行為が問題視されていることは、これまでも何例かが報じられて、過大意識が高まってきているところだが、重要な点は、優越的な地位にあるとされるプラットフォーマーは、そのプラットフォームを利用している事業者やそこで購入する消費者に対して、きちんとした説明責任を果たし、合意を形成する努力をしているかどうかということだろう。一方、利用する側も契約条件だけでなく、技術的な仕組みの観点からもプラットフォーマーが行っていることの意図について理解と検討をする姿勢が必要だろう。
ニュースソース
- 「手数料を一方的に値上げ」「検索結果の基準が不透明」 デジタルプラットフォーマーの取引実態、公取委が報告書[ITmedia]
4. インターネットアーカイブが電子化書籍へリンク
ウィキペディアは広範な知識を幅広く集積したことにより、高い利便性がある。一方で、不特定多数が執筆や編集に関与することから、その情報の真偽、正確性について疑問が呈されることも多い。もちろん、ウィキペディアの各項目の末尾には、出典となる文献へのリンクが用意されているわけだが、インターネットの上の情報では「リンク切れ」になってしまっていたり、プリント版出版物の場合、すでに容易には入手できなくなっていたりすることもあり、情報の検証としての役割が果たされていないこともある。
そこで、米国の非営利団体のインターネットアーカイブは「ウェブサイトや書籍、音楽、ゲームなどといったマルチメディア資料のアーカイブ閲覧サービスを提供する非営利団体のインターネットアーカイブは、Wikipediaの記事に出典として記載される参考文献13万件を、インターネットアーカイブが保管している書籍データ5万件分にリンクした」(Gigazine)と発表したと報じられている。
こうした取り組みは一般に多大なコストがかかり、さらにビジネスモデルとしても成立が困難と思われるが、市場では出版物の電子化も進んでいることから、論文アーカイブ、電子書籍書店などとの連携を模索して、さらに有機的な結合ができないものだろうか。
ニュースソース
- Wikipediaの13万件もの参考文献を閲覧可能にするインターネットアーカイブの取り組み[Gigazine]
5. セキュリティトークンの実用化へ動き出す
ブロックチェーンは仮想通貨の技術基盤として利用されたことで大きな注目を集めた。そして、今後の価値交換の社会基盤として大きな影響を持つことになりそうだ。
さらにブロックチェーンを利用した社会基盤として、セキュリティトークンを挙げることができる。セキュリティトークンとは、証券性のある現実世界における資産(不動産信託受益権・ファンド持ち分など)をトークンで表したものである。本年5月に資金決済法や金融商品取引法の改正が国会で可決され、そのなかで「セキュリティトークン」や「電子記録移転権利」という単語が登場したことから、各分野では活発な動きが出てきている。
セキュリティトークンのメリットは、一般的にいうと高額な資産を小口でも保有することが可能になること、それにより二次流通市場ができること、記録の真正性、履歴の透明性が確保されていることなどがあり、これまで証券化の対象ではなかったものまでも証券化がされる可能性もあるといわれている(仮想通貨Watch)。すでに業界団体でもセキュリティトークンに対する規制のあり方についての提言書が公開されている(仮想通貨Watch)。
今週報じられた記事のなかでは、3つほどの関連する動きが目に止まった。1つは三菱UFJら21社によるセキュリティトークンの実用化に向け「ST研究コンソーシアム」を設立したことを発表(仮想通貨Watch)した。
また、デロイトトーマツコンサルティングはフィンテックアセットマネジメント、クニエとともに、セキュリティトークンを用いた不動産証券化の実証実験を開始した(ZDnet Japan)。
そして、TARTとナンバーナインはマンガ作品のオーナーとしての権利をトークン化して、その売買をすることで、作品がヒットして売り上げが上がる前の作家を経済的に支援しようという試みを発表した(仮想通貨Watch)。
今後も金融はもとより、幅広い分野において、こうした証券化の実証実験は活発になっていくものと思われる。
ニュースソース
- 三菱UFJら21社、セキュリティトークンの実用化に向け合弁会社設立 ~証券決済と資金決済を自動化する「プログマ」を開発[仮想通貨Watch]
- デロイト、セキュリティトークンを用いた不動産証券化を実証実験[ZDnet Japan]
- TART、イーサリアム活用のマンガ権利売買サービスCANDLの実証実験開始 ~経産省J-LOD採択。印税権をトークン化し売買・収益の還元を実現[仮想通貨Watch]