中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/4/2~4/9]
ウェラブルデバイス/IoTによる新型コロナウイルス研究 ほか
2020年4月10日 14:15
1. 新型コロナウイルスまん延による各種制度の変更
深刻化する新型コロナウイルスのまん延を踏まえ、不要不急の外出を減らすためや休校措置により登校ができない生徒のための施策が具体的に発表されている。これまでさまざまな規制などにより、なかなか実現しなかった情報通信技術を積極利用する運用が進む。もちろん、現下の国家的な危機に対応するための時限措置ではあるが、これらは皮肉なことに、延期されたオリンピック開催に合わせて建設されたレガシー(後世に業績として評価されるモノやコト)よりももっと多くの人にとって意義のある重要なデジタル化社会の「レガシー」となるかもしれない。
まず、定期的な通院により投薬を受けている人とともに、初診からもオンラインでの診療ができるように条件付きで容認する方向での検討が開始された。政府の規制改革推進会議は「厚生労働省に、院内感染や医療崩壊を防ぐため、受診歴のない初診の患者をオンラインや電話による診療の対象にすることや、それらの診療の報酬が対面診療と同等とすることなど」を求めた。現状では初診では対面診療が原則となっている(ITmedia)。
また、経済産業省では、株主総会の入場制限やオンライン開催に対する見解を公表した。報道によれば「感染防止のため会場の規模縮小や入場者数の制限ができるとしたうえで、『会場の出席者がいなくても開催可能だ』として、事実上オンライン参加に限った開催を特別に認めた」ということだ(日経XTECH)。
さらに、文部科学省は「小中学生がいる低所得者世帯のインターネット環境の整備を支援する方針」(朝日新聞デジタル)を固めた。それとともに総務省では「電気通信事業者関連4団体に対して学生の学習に係る通信環境の確保について要請」を行っている(ケータイWatch)。具体的には「各団体に対して通信容量の制限などについて柔軟な措置を講ずること、またその措置をユーザーに対して広く周知するとともに、インターネットの適切な利用についての啓発の強化」することである。すでに、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクの携帯大手3社は「25歳以下の学生を対象に50ギガバイトまで無料でデータ容量を追加できるようにするなどの特別措置をそれぞれ発表」し、「新型コロナウイルスの影響で在宅学習やオンライン授業が常態化するなか、容量不足の不安を解消して学生を支援する」(日経XTECH)としている。
そして、学校でのオンライン授業などで著作物を教材として扱いやすくするため、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会はでは「インターネットを通じた著作物の無償利用を2020年度のみ認める方針」を示した(ITmedia)。記事によれば、すでに改正著作権法では「教育機関が授業の過程で新聞記事などの著作物を利用する場合、著作権者の許諾がなくても同協会に一定の補償金を支払う」ことでインターネットを通じた利用を認めていたが、「制度の前倒しと20年度の無償利用を認めること」を決定し、4月中の制度開始を目指すとしている。
2. ウェラブルデバイス/IoTによる新型コロナウイルス研究
米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)では、市販のスマートリング「Oura」で体温などのバイタルデータを連続して計測し、毎日の症状に関するアンケート調査結果と併用することで、新型コロナウイルス感染症の早期発症例を検知しようという新たな研究が始まった(CNET Japan)。まずはUCSFの医療従事者2000人にOuraを装着してもらい計測をする。さらに、世界中のOuraのユーザーもオプトイン方式により参加できるという。「3カ月にわたるこの研究の目標は、病気の症状を予見可能なアルゴリズムを開発することだ。将来的には、このアルゴリズムが他のウェアラブルデバイスにも導入可能になるかもしれない」としている。
また、スマート体温計メーカーのKinsa(キンサ)のヘルスウェザーマップでは、地理的な情報と発熱状況は確認ができている(新型コロナウイルス感染症を特定した感染拡大を追跡することはできない)。同社ではすでに「インフルエンザなどの季節性疾患が地域でどのように感染拡大するかを示す正確かつ予測的なモデル作りに着手しており、ヘルスウェザーマップは新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにおいて役立つ可能性がある」としている(TechCrunch日本版)。
現在の世界的な課題を解決しようとするなかで、こうした研究が成果を挙げることを期待したい。
挙げる
ニュースソース
- スマートリングで新型コロナの早期検知へ--カリフォルニア大が研究を開始[CNET Japan]
- スマート体温計の発熱者マップが新型コロナ対策での外出自粛の重要性を示す[TechCrunch日本版]
3. 約2454万人が回答したLINEの全国調査――グーグル、フェイスブック、ヤフーも統計情報を提供
新型コロナウイルスのまん延が続くなか、人々の体調や動態を把握することは重要な施策である。しかし、これまでは巨額の費用ととてつもない時間がかかることから現実的とは思えなかった。こうした施策も現在の情報通信技術の発達によって現実のものとなった。
読者のなかにもこの調査に参加した方も多いと思われるが、LINEはおよそ8300万人を対象として第1回「新型コロナ対策のための全国調査」を実施、有効回答者は2453万9124人(回答率は29.6%)だったと発表した。データは厚生労働省にて解析し、新型コロナウイルス対策以外で利用することはなく、調査に回答したデータは統計処理されるほか、調査・分析後は速やかに破棄するという(CNET Japan)。
すでに厚生労働省はその一部の集計結果を発表している。それによると「三密(対策)は十分ではなく、テレワークも進んでいない」(ITmedia)としている。「手洗い・うがいやアルコールによる手や指の消毒」(85.6%)や「せきやくしゃみをする時は、マスク・ハンカチ等を口にあてる」(74.4%)などの基本的な予防は進んでいるものの、近い距離で他人と会話しないよう配慮している人は約30%で、仕事でテレワークをしている人はわずか約5%だったとしている。
また、携帯キャリアやプラットフォーム事業者などに統計データの提供を要請していた政府に対し、ヤフーでは新型コロナウイルス感染症の拡大防止策のため「ユーザーのプライバシー保護やプロセスの透明性を確保することを前提としたうえで、個人情報を含まない統計データを分析した形で政府に提供する」としている(ITmedia)。
そして、グーグルではスマートフォンの位置情報を使った全世界におけるユーザーの移動データを匿名化と統計処理をして公開した(ケータイWatch)。「外出自粛などの政策で人々の行動がどのように変わったかをデータ化し公開するもので、娯楽施設や店舗・公共交通機関などの大分類を用いこれらの場所の傾向を時系列のグラフで表示している。訪問率の増減は表示するが、絶対数は公開しない。また、個人の位置や連絡先・移動先など個人を特定できる情報は含まれない」としている。
また、フェイスブックでも「匿名化された位置情報を利用したデータを研究者に提供し、人々が自宅にとどまっているかどうかを把握したり、新型コロナウイルスが次に広まる可能性がある場所を予測したりするのに役立てる」(CNET Japan)という。
こうしたユーザーのデータを蓄積している企業が積極的な対応をしていることは評価できる一方、プライバシーに対する懸念も皆無ではない。現在の状況下では課題解決が優先されることから、厳しく問われなくても、それが平時にまで常態化してしまうことなども懸念されることから、今後はより明確な合意を形成していくことも必要となるだろう。すでに欧州データ保護会議(EDPB)は新型コロナウイルス感染症に関連する調査を目的とするデータ収集のガイドラインを策定することを明らかにしている(ZDnet Japan)。
ニュースソース
- LINE、新型コロナ対策のための全国調査データを厚労省に提供--約2454万人が回答[CNET Japan]
- テレワーク実施率は5% LINEと厚労省の新型コロナ調査で判明[ITmedia]
- ヤフー、政府に統計データ提供へ 新型コロナ対策で[ITmedia]
- ヤフー、東京23区の来訪者数などオープンデータで公開 「外出自粛の効果分析などに使って」[ITmedia]
- 渋谷の人出が半減 外出自粛要請の効果、行動データで明らかに[ITmedia]
- グーグル、新型コロナ対策での世界の移動データを公開[ケータイWatch]
- 感染症対策の専門家を支援。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と戦う上で役立つデータを[Google]
- COVID-19調査目的の位置データ追跡、EUがプライバシー指針を策定へ[ZDnet Japan]
- Facebook、新型コロナの感染予測に役立つデータを研究機関に提供[CNET Japan]
4. 高性能な計算資源で新型コロナウイルスへ対抗
新型コロナウイルスとの戦いには「バイオインフォマティクス、伝染病学、分子モデリングなどの分野における広範な研究により、人類が直面している脅威を理解し、それに対処するための戦略を策定することが必要」だとし、米IBMなどは「COVID-19 ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC) コンソーシアム」を発足したと発表した。このコンソーシアムは「ホワイトハウス科学技術政策局、米国エネルギー省、およびIBMが主導する官民連携による取り組みで、米国政府、産業界、学界の各リーダーを結集し、これらの組織が持つ世界有数のコンピューティング資源を無償で提供する」(マイナビニュース)としている。
日本では、理化学研究所が計算科学研究センターで開発中の次世代スーパーコンピュータ「富岳」を新型コロナウイルス対策の研究のため、試験利用を開始すると発表した(ITmedia)。当初の計画では2021年度の運用開始を目指して開発を進めていたが、その計算能力の一部を前倒しして提供することにした。現在の計算能力は完成時の10~20%程度とされ、完成時には、2019年に運用を終えたスーパーコンピュータ「京」の約100倍を実現する見込みである。
さらに、「Folding@home」というプロジェクトも話題となっている。Folding@homeは、世界中にあるパーソナルコンピューターなどで余っているCPUやGPUのリソースを使い、難病の解析に役立てる分散コンピューティングプロジェクトである。このFolding@homeでは3月12日から新型コロナウイルスを解析するプログラムが提供されている。そして、開始からわずか1カ月未満で、計算能力が1.5EFLOPSに到達した(PC Watch)。2020年の年初にはわずか3万台だったコンピューター数は100万台を超え、このうち35万6000基のNVIDIAのGPUが動作していると推定されているとしている。
歴史に残る世界的な疫病の流行時とは異なり、21世紀の人類はこうした大きな計算資源を手にしている。ここから大きな成果が得られることを願っている。
5. ビデオ会議システム「Zoom」の脆弱性に対する懸念が高まる
先週も紹介したが、その後もビデオ会議システムの「Zoom」の脆弱性に対する指摘が厳しさを増している(CNET Japan)。
ニューヨーク市は学校でのZoomの利用を禁止し、マイクロソフトのTeamsへ移行し(TechCrunch日本版)、また、台湾でもZoomの使用を禁止したと報じられいる(CNET Japan)。
こうした動きに対して、ZoomのCEOは謝罪し、脆弱性の修正と透明性の確保を約束(ITmedia)、機能追加を90日間凍結したうえで、セキュリティ問題の解決に集中する(CNET Japan)とともに、元フェイスブックのセキュリティ責任者をアドバイザーに指名してCISO評議会を結成する(ITmedia)などの内部体制の強化を進めていることが報じられている。
新型コロナウイルスのまん延により、テレワークが進んだことで、にわかに注目を浴びたZoomだが、急成長の過程でつまずいた。今後はスピード感のある信頼回復ができるかどうかが鍵となるだろう。一方、マイクロソフトをはじめとする競合サービスを提供する各社は安全性などについてのアピールをしている(CNET Japan)。
ニュースソース
- ZoomからWindowsの認証情報が盗まれる脆弱性[PC Watch]
- ニューヨーク市は学校でのZoom禁止、セキュリティ上の懸念からMS Teamsに移行へ[TechCrunch日本版]
- ビデオ会議のZoom狙う「Zoom爆弾」は犯罪--米司法省[CNET Japan]
- 台湾、政府機関でビデオ会議サービス「Zoom」の使用禁じる--セキュリティなど懸念[CNET Japan]
- Zoom、機能追加を90日間凍結--セキュリティ問題の解決に集中[CNET Japan]
- Zoom、元Facebookのセキュリティ責任者をアドバイザーに指名し、CISO評議会を結成[ITmedia]
- Zoom、北米のWeb会議の暗号キーを誤って中国データセンター経由にした問題について説明[ITmedia]
- ZoomのCEOが一連の問題について謝罪 修正と透明性を約束[ITmedia]
- マイクロソフト、「Teams」のセキュリティをアピール--「Zoom」に批判集まる中[CNET Japan]