中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/3/26~4/2]
新型コロナウイルス:「Adobe Summit 2020」のオンデマンド配信開始――日本語字幕も ほか
2020年4月3日 12:00
1. 新型コロナウイルス:情報通信技術を利用した動態調査が始まる
新型コロナウイルスの感染者は増加傾向にある。各自治体では疑わしい症状のある人に対し、PCR検査を実施し、その上での感染者数を日次で発表をしている。これは隔離したり、治療したりすべき人を見つける目的で、都市や国などの広い対象においてどのような状況にあるのかを測ることが目的ではない。また、外出自粛要請下において、人がどのような行動をする傾向にあるのか、あるいはどのような行動をしたのかは、今後の感染を防ぐための具体的な施策を設計する上においても重要だ。
これをふまえ、情報通信技術の利用がようやく始まった。まず、高市早苗総務大臣は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスター早期発見などのため、携帯キャリアやプラットフォーム事業者などに統計データの提供を要請する」(ITmedia)と発表した。これは総務省のほか、内閣官房、厚生労働省、経済産業省の連名での要請としているが、「法的な強制力はない」ものであるとしている。民間企業の中にはすでにこうしたデータを分析している企業もあるが、国がデータの提供を受けることで、厚労省の新型コロナウイルス感染症対策本部クラスター対策班らの分析から得られる知見などとも合わせ、より最適な解が導かれるのであれば意味があることだろう。ただし、懸念されるのは匿名化はされるとはいえ、ユーザーのプライバシー問題、そもそも国がこうしたデータを保有することに対しての懸念もある。
また、LINEは厚生労働省への情報提供を目的として、アンケート形式での「新型コロナ対策のための全国調査」を行った(ケータイWatch)。いまや国内のLINEユーザーは8300万とも言われており、人口のかなりをカバーしている。「調査の結果は感染状況の把握、感染拡大防止のための対策の検討に向けて活用される。また、回答データは統計的に処理され、個人が特定されることはなく、調査の分析後、速やかに破棄される」としている。
このような大規模な調査を短期間、低コストで行えることは、いうまでもなく最近のデジタル技術基盤に由来している。過去にも感染症による悲惨な歴史はあったが、この時代だからこそ、デジタル技術を総動員して、国家的難局を乗り越えられることを信じたい。
2. 新年度に入り、新たな事業フォーメーションも発表される
新年度に入り、各社からは新たな事業フォーメーションである提携や企業設立が発表されている。
まず、KDDIとソフトバンクは5G通信網に使う基地局の共同利用などを担う合弁会社を設立した(ITmedia)。いまだカバー範囲が狭い5Gエリアを全国レベルに拡大するため、呉越同舟の画期的な提携である。
また、昨秋の「CEATEC」でも話題となったANAのアバター事業を進めるため、avatarin(アバターイン)株式会社が設立された(トラベルWatch)。半年前の展示会場ではコンセプトデモとも感じられたが、今後、事業化が具体化していく流れだろう。
さらに、NTTはゼンリンと資本・業務提携すると発表した(ITmedia)。「NTTは、サイバー空間上に現実世界を再現した3D地図を構築し、その中でさまざまなシミュレーションを行うことで、道路やビルを新設した場合の車の流れの変化などを予測可能にする取り組み『デジタルツインコンピューティング』を進めている」とし、両者のリソースを組み合わせて、スマートシティ基盤での応用を進めるものと思われる。すでに、NTTはトヨタとともにスマートシティの基盤技術へ取り組むとしていて、要素技術などを積み上げている。
ニュースソース
- 5G基地局の相互利用で合弁設立 KDDIとソフトバンク 通信エリア早期整備へ[ITmedia]
- ANA、アバター事業を進める「avatarin(アバターイン)株式会社」を設立[トラベルWatch]
- KDDIとJapanTaxiが資本業務提携、MaaSプラットフォームの構築や自動運転実現へ[ケータイWatch]
- LINE、出前館に300億円出資。「LINEデリマ」は「出前館」に[Impress Watch]
- NTTとゼンリンが資本業務提携 3D地図の高度化で協業 サイバー空間に現実世界を再現へ[ITmedia]
- Spectee、米大手気象情報会社Weather Groupと事業提携・・・気象コンテンツ配信を強化[Media Innovation]
- ソニーデザインを社外にも提供--新会社「ソニーデザインコンサルティング」設立[CNET Japan]
- ソフトバンク、xRライブの普及促進を目指し講談社と協業[ケータイWatch]
- ヤマト、物流のDXを目指すCVCファンド「KURONEKO Innovation Fund」を設立[CNET Japan]
- 朝日放送グループHDがファンドを通じ米国の動画配信事業者に出資[日経XTECH]
3. 新型コロナウイルス:セキュリティに対する懸念も増加
新型コロナウイルスのまん延により、テレワークが増加したり、オンラインショッピングなどの需要が高まったりしていることは既報のとおりであるが、それに乗じたサイバー犯罪が報告されている。いずれも巧妙な手法であり、十分に注意すべきだ。
とりわけ注意が必要と思われるのはLINEの「新型コロナ対策のための全国調査」を偽装したものである(共同通信)。本物はあくまでも匿名での調査なのに対し、偽装された調査では質問項目は年齢や性別、郵便番号などで、クレジットカード番号を聞き出すようだ。人々の不安心理、そして社会的に協力しようというところにつけ込んできている。
また、オンライン会議のツールとして一躍注目を集めている「Zoom」でもプライバシー問題が浮上している(INTERNET Watch)。通信経路が暗号化されていないことや、アプリケーションインストール時のファイルシステムへのアクセス権限の与え方などで問題が指摘されるなど、設計上、仕様上の不備とも思われる点が多く、至急、改善されることを望みたい。
ニュースソース
- Amazon.co.jpをかたるフィッシングメールが拡散、「パスワードの入力を数回間違えた」として偽サイトに誘導[INTERNET Watch]
- LINE調査装う詐欺注意 コロナで厚労省呼び掛け[共同通信]
- そのウェブ会議は本物? 偽の招集メールかも!? 「テレワーク時のセキュリティ7つの落とし穴」ラックが注意呼び掛け[INTERNET Watch]
- テレワークでニーズ急増も……オンライン会議ツール「Zoom」でプライバシー問題が続出[INTERNET Watch]
- ルーターのDNSを乗っ取り、COVID-19感染情報と称してダウンロードさせ、パスワードを盗む悪質なマルウェアが横行
[PC Watch]
4. 新型コロナウイルス:「Adobe Summit 2020」のオンデマンド配信開始――日本語字幕も
新たに発表された、国内外で予定されていたイベントの中止・延期の情報は下記のニュースソースのとおりである。
5月13日から15日まで、東京ビッグサイトで計画されていた「ワイヤレスジャパン2020」は12月1日から3日に東京流通センターでの開催に延期となった(ワイヤレスジャパン)。5Gのサービス開始されて初の開催になり、さまざまな具体的ユースケースについて見ることができると期待されていた。
また、海外では「ハノーバーメッセ」(ドイツ)も中止となった(日経XTECH)。73年もの歴史がある展示会だが、中止は初だということだ。
一方、「Adobe Summit 2020」のオンデマンド配信が開始された。配信では「100を超えるセッションが展開され、同社が展開するツールやトレンドを紹介。アドビのリーダーが業界の新たなトレンドや製品開発について説明する」(Markezine)としている。基調講演のほか、「『Customer Journey Management』『Data & Insights』『Content』『Advertising』『BtoB』『Commerce』のテーマでそれぞれの部門長クラスがトレンドと事例」が含まれていて、それぞれ日本語字幕に対応している。例年、ラスベガスまで行かなければ参加できず、興味があっても、時間も費用もかかり、そして何よりも英語の壁により断念していた多くの人たちにとっては朗報だ。世界的な難局を迎える中でも、こうした試みが行われるようになったことはうれしい。
ニュースソース
- AWS Summit Tokyo / Osaka 2020 (日本最大級のクラウドカンファレンス)[アマゾン]
- コミケ中止 新型コロナ拡大防止で[ITmedia]
- ワイヤレスジャパン2020[ワイヤレスジャパン]
- 2020年のハノーバーメッセは中止、新型コロナの影響 「73年の歴史で初」[日経XTECH]
- Adobe Summit 2020のオンデマンド配信が開始 顧客体験の潮流をデジタルで届ける[Markezine]
- ガートナー、8月までのカンファレンスを中止または延期[ZDnet Japan]
- マイクロソフト、当面のイベントはオンラインのみ--2021年はどうなる?[ZDnet Japan]
5. 衛星通信網構築を目指すOneWebが経営破綻
衛星通信基盤の構築を進めていた英新興企業OneWebが米国破産法第11章(チャプター11)に基づく破産保護を申請したと発表した(ITmedia)。「世界中の全ての人々にネット接続を提供することをミッション」とした企業で、最終的には約650基の低軌道衛星による上空での通信基盤を構築し、2021年に商用サービスを開始する予定だった。経営破綻の理由は「新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関連する経済的影響と市場の混乱のため、新たな資金調達ができなかった」と報じられている。
当初、この計画を耳にしたとき、にわかには信じがたいような計画だったが、すでに74基が上がっていたということにも驚かされる。今後は事業の売却先を模索する。
なお、類似の計画はイーロン・マスク氏率いるSpaceXの「Starlink」、アマゾンの「Project Kuiper」などもあり、宇宙での通信基盤構築という壮大なビジョンは何らかのかたちで引き継がれていくことになるのだろう。
ニュースソース
- ソフトバンクGも出資の英OneWebが新型コロナで破産申請 74の衛星を残して[ITmedia]