中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/5/21~5/28]

通過・可決した情報通信関連法「スーパーシティー法」「著作権法改正」「巨大IT企業の規制強化法」ほか

eHrach/Shutterstock.com

1.「CEATEC 2020」の通常開催中止――「ニューノーマル社会」での開催方式を模索

 10月20日~23日に開催が予定されていた展示会「CEATEC 2020」(千葉市・幕張メッセ)の通常開催中止が発表された。今後、「CEATEC 2020 ONLINE」としてオンラインで開催をする(INTERNET Watch)。「これまで幕張メッセで20年間、毎年開催してきた総合展示会としてのCEATECとは別の新たな取り組みと位置付け、新たな社会や暮らし(New Normal:ニューノーマル)を考え、共に歩み、共創を実現するための企画をオンラインならではの特長を生かして展開する予定」だとしている。

 この展示会は、不特定多数の人が集まる「三密」となることは必至であり、他の展示会と同様に中止の判断は当然と思われるが、むしろニューノーマル(新たな日常)におけるデジタル社会の姿を具現化するメインストリームの展示会として、その企画内容には大いに期待したいところである。

ニュースソース

  • 「CEATEC 2020」はオンラインで開催、幕張メッセでの通常開催を中止 「ニューノーマルを考え共創していく」[INTERNET Watch

2. 一気に動き出したSNSでの誹謗中傷への各方面での対応

 フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演をしていた女子プロレス選手の木村花さんが急死したことは大きな事件として報じられている。急死の原因がSNS上での多くの誹謗中傷を受けてのことだったとされ、これまでも折に触れて指摘されてきているこうしたSNS上の行き過ぎた行為が「ネットいじめ」であるとし、法整備などの必要性が指摘され始めている(ITmedia)。

 これを受け、ByteDance、Facebook Japan、LINE、Twitter Japanなどが中心となり先ごろ設立された「一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)」は緊急声明を出し、「他人への嫌がらせ、個人に対する名誉毀損や侮辱などを意図したコンテンツの投稿を禁止する」と表明した(CNET Japan)。

 また、高市総務大臣は「匿名で他人を誹謗中傷する行為は人として卑劣で許しがたい」とし、発信者の特定を容易にするための制度改正を「スピード感を持って行う」と語った(ITmedia)。

 一方で、動画配信サービス「ABEMA」を運営するサイバーエージェントは、番組出演者向けに誹謗中傷を受けた際の相談窓口を開設したと発表した(ITmedia)。「被害の調査や訴訟手続きなどを行い、出演者が安心して番組に出られるようサポートする」としている。

 これまではプロバイダー責任制限法により、違法・有害情報の発信者情報の開示請求ができることを定めていたが、それだけでは十分に対応ができない規模へとそれぞれの事案が拡大したと捉えるべきだろう。今後の具体的な議論の推移には注目をしておきたい。

ニュースソース

  • SNSでの中傷で自殺に追いやる“指殺人” 世界でも問題視、法整備求める声も[ITmedia
  • SNSでの名誉毀損や侮辱などの投稿を禁止へ--TwitterやLINEらが緊急声明[CNET Japan
  • ネット上の誹謗中傷、発信者特定を容易に[ITmedia
  • ABEMA、出演者向けに中傷被害の相談窓口 調査、訴訟の体制強化で保護[ITmedia

3. 通過・可決した情報通信関連法「スーパーシティー法」「著作権法改正」「巨大IT企業の規制強化法」

 コロナ禍のなかでも、通過・成立した重要な情報通信関連法について報じられている。

 まず、人工知能やビッグデータを活用した最先端都市「スーパーシティー」構想の実現に向けた国家戦略特区法改正案が参院本会議で可決・成立した(ITmedia)。報道によれば、「複雑な制度設計や個人情報流出の懸念から法整備が遅れていたが、新型コロナウイルスの影響で遠隔診療やオンライン教育の重要性が高まっている」ことから、こうした課題への対応も期待されているようだ。しかし、昨今のオンライン手続きの混乱ぶりを見ていると、これまでの法整備が不十分だったことだけが原因とは思いにくい。これによって、どれほどの課題解決が図られるモデルを作れるのかは、運用する行政側と活用しようとする利用者の意識の中のデジタルトランスフォーメーションの本気度合いにかかっている。

 また、かねてより議論されてきていた「海賊版サイト」の対策を目的とした著作権法改正案が衆議院を通過した。海賊版サイトへ利用者を誘導する、いわゆる「リーチサイト」も規制対象となる一方、「軽微な事案」や権利者の利益を不当に害しない「特別な事情がある事案」は除外されるとしている(NHK)。

 そして、寡占化が進むオンラインストアとアプリストアなど、いわゆるプラットフォーマーと呼ばれる大手事業者を対象に「出店者らとの契約条件に関する情報開示を促し、政府への定期報告を義務付ける」とする「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」も参院本会議で可決・成立した(Yahoo!ニュース/共同通信)。

ニュースソース

  • “スーパーシティー法”成立 AIや自動運転技術など活用に向け規制緩和[ITmedia
  • 「海賊版サイト」対策強化の著作権法改正案 衆院を通過[NHK
  • 巨大IT企業の規制強化法成立 情報開示、報告義務付け[Yahoo!ニュース/共同通信

4. 安倍首相が「接触確認アプリ」の6月投入を明言

 安倍首相は、緊急事態宣言解除を発表した5月25日の記者会見において、新型コロナウイルス対策の1つとして「接触確認アプリ」を6月中旬に導入すること明言した(INTERNET Watch)。このアプリは「スマートフォンの通信機能を利用し、陽性が判明した人と一定時間近くにいたこと」を判定・通知できるというものだ。

 そして、政府CIOポータルには新型コロナウイルス感染症対策テックチームにより開発が進められている「接触確認アプリ」の仕様書が公開された(Impress Watch)。「アプリをスマホにインストールしておき、新型コロナ陽性者との接触が疑われる場合に、本人にその旨を通知する。通知されるのは、陽性者との接触により感染のおそれがある期間に、陽性者との間で概ね1m以内の距離で継続して15分以上の近接状態が続いた場合。プライバシーの保護と潜伏期間等を考慮し、過去に遡って利用者が自らの接触の情報を確認できるのは、14日間までとする」としている。

 ただし、「およそ6割の人が使えば効果が得られる」、逆に言うなら、6割の人が使わないと効果が得られないとしていることから、直感的にはLINEのように、周りの誰しもが入れているように感じるようなインストールベースが必要になる。このアプリに対するプライバシー問題への懸念を持つ人の理解も得ながら、どのように広く普及させていくかがこれからの課題だ。もし、初期段階でプライバシー保護などについてのイメージが損なわれるようなことがあると、その後の挽回は難しかろう。そのためにも、さまざまな人向けに説明が必要だ。

 国外ではスイスにおいて、アップルとグーグルが開発したAPIを採用した接触確認アプリ「SwissCovid」の試験運用が開始されているようだ(ITmedia)。この記事によればスイスでは「全人口の約7割がこのアプリを肯定的」に見ているという。

 なお、アップルとグーグルが開発した接触通知APIの開発背景については、「アップルとグーグルが新型コロナ濃厚接触通知APIをリリース、各国公衆衛生機関はアプリ開発へ」(TechCrunch日本版)や「グーグルとアップルの「濃厚接触通知アプリ」APIが登場、開発の課題は何だったのか」(ケータイWatch)という記事が参考になる。

ニュースソース

  • 首相が「接触確認アプリ」の6月投入を明言、普及を目指す「6割に普及すれば大きな効果」 Bluetooth LEを活用、Google/Appleの新APIで[INTERNET Watch
  • 政府の「接触確認アプリ」仕様書公開。6月中旬にiOSとAndroidで提供[Impress Watch
  • AppleとGoogleのAPI採用新型コロナ接触確認アプリのスイス版「SwissCovid」パイロット開始[ITmedia
  • アップルとグーグルが新型コロナ濃厚接触通知APIをリリース、各国公衆衛生機関はアプリ開発へ[TechCrunch日本版
  • グーグルとアップルの「濃厚接触通知アプリ」APIが登場、開発の課題は何だったのか[ケータイWatch

5. 暗号通貨ウォレット「Calibra」が「Novi」に改称

 フェイスブック社は仮想通貨「Libra(リブラ)」のデジタルウォレットの名称を「Calibra(カリブラ)」から「Novi(ノビ)」に変更すると発表した(CNET Japan)。

 これについて、ジャーナリストの星暁雄氏は「『暗号通貨』(cryptocurrency)の看板を下ろし、『決済システム』(payment system)となった」(ITmedia)と評したが、これが最も分かりやすい表現ではないだろうか。

 当初、この新たなグローバル通貨システムは、これまでの金融システムを補完し、途上国の人々にも金融サービスが提供できるという金融包摂を実現するというコンセプトも示してきたが、既存の通貨システムを混乱させる危険も否定できないという懸念から、各国の金融当局はそのままでは受け入れがたいという態度を示してきた。その結果、コンセプトを修正するに至り、当面、リブラは各国の法定通貨とペッグされたデジタル法定通貨のプラットフォームとして機能をしていくことになりそうだ。

ニュースソース

  • Facebook、デジタルウォレット「Calibra」を「Novi」に改称[CNET Japan
  • 「暗号通貨」の看板を下ろしたLibraの勝算[ITmedia
  • フェイスブックはLibraのウォレットCalibraをNoviに改名し独立させようとしている[TechCrunch日本版

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。