中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/5/28~6/4]
検討が始まるマイナンバーと銀行口座ひも付けの義務化 ほか
2020年6月5日 12:00
1. 国と自治体で取り組む“新型コロナウイルス感染拡大防止アプリ”の動向
5月25日、緊急事態宣言の解除を発表する安倍首相の記者会見において、「接触確認アプリ」が6月中にも提供されることが明らかにされた。
この接触確認アプリの導入の経緯について、新型コロナウイルス感染症対策テックチームの事務局長を務める平将明内閣府副大臣が日経ビジネス誌のインタビューに応じている(日経ビジネス)。政府は独自のアプリを開発していたが、グーグルとアップルがOSレベルでの対応を発表してから、その開発方針が変わったという趣旨である。
これまでも特別定額給付金の申請に際してのマイナンバーカードによるオンライン手続き、そして役所と保健所との間のファクシミリによる伝達手段など、行政組織の情報化の遅れによる不手際が指摘されるなか、コンタクトトレーシングについては、長いものに巻かれたことによる結果がどう出るか。さらには、今後はマイナンバーカードと銀行口座のひも付け議論なども含め、国民のプライバシーと有事の際の効率的な運用を目指すシステムとのバランスをどうとるかという議論も高まると思われる。
このグーグルとアップルのシステムは国の保健当局のみが利用できるとしているが、すでに各地方自治体では、別のアプローチでスマートフォンを使った独自の取り組みも始まっている。神奈川県(神奈川県)、千葉県(Impress Watch)、大阪府(産経新聞)、宮城県(産経新聞)などが運用を開始している。いずれも、店舗やイベント会場に訪問した際に、専用のアプリでQRコードを読み取ることで、そこで感染が発生した場合に通知されるという仕組みである。
また、クリプトン・フューチャー・メディアでは、同様な機能を提供する「リスク通知システム」を開発し、オープンソースソフト(MITライセンス)として、GitHubで無償公開した(CNET Japan)。
このようにさまざまな選択肢があると、各自がリスクを勘案してアプリを選択できるが、逆に利用するアプリが分散をしてしまい、国が進める「接触確認アプリ」が目指す6割の普及が困難になる可能性もあるが、その場合の実効性がどうなるのだろう。
ニュースソース
- 「接触確認アプリ」開発の紆余曲折、平内閣府副大臣が語る[日経ビジネス]
- 「接触確認アプリ」で生じた三つの想定外[日経ビジネス]
- 「千葉市コロナ追跡サービス」開始。QRコードからメール登録[Impress Watch]
- 大阪府、QRコード活用し感染者発生を一斉通知 月内に導入[産経新聞]
- 大阪府がキャッシュレス決済のアプリ開発へ[SankeiBiz]
- LINEコロナお知らせシステム[神奈川県]
- QRコード活用で新型コロナ感染情報を発信 宮城県がアプリの運用開始[産経新聞]
- クリプトン、QRコード活用の新型コロナ対策「リスク通知システム」--GitHubで公開[CNET Japan]
2. 米国トランプ大統領 vs. SNS
米国で続く人種差別抗議キャンペーンは市中のみならず、SNSでも活発化し、世界にも波及をしつつある。
米国時間6月2日、人種差別への抗議と黒人コミュニティへの連帯を示すためのキャンペーン「Blackout Tuesday」がインターネット上で行われた。インスタグラムなどでは、多くの黒く塗りつぶされた画像が投稿された(CNET Japan)。
一方のトランプ大統領は、抗議キャンペーンに参加し、市中で暴力的な活動をする人などを「悪党」とし、「州兵が射殺するだろうと威嚇したように受け取れる投稿」を行ったことをきっかけに、フェイスブック社の従業員たちが抗議の声を上げ始めた。すでにツイッター社では、これまでのトランプ大統領のツイートに「要ファクトチェック」のバッジを表示したり、ルール違反によるツイートの非表示にしたりするなどの対応をしてきたが、それと比べフェイスブック社は政治的なコンテンツにはほぼ無干渉であったため、従業員からの批判の声が高まった(CNET Japan)。
これに対して、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏は「大統領の投稿を当社が放置していることに、多くの人が怒っているのは私も承知している。だが、当社の立場は、明確なポリシーに書かれている特定の害や危険の差し迫ったリスクをもたらすのでない限り、できるだけ幅広い表現を可能にすべきだというものだ」(CNET Japan)と述べたことが報じられている。すなわち、自分たちはプラットフォーマーとして、あくまでニュートラルであるべきだということだろう。そうした説明に納得できない従業員たちは退職を検討するまでに至る動きが出てきている。
さらにトランプ大統領は「Facebook、Google、Twitterなどのオンラインプラットフォームによる『検閲』を取り締まるための大統領命令に署名」(Engadget日本版)をしたと報じられている。これは「インターネットサービスがユーザーから投稿されたコンテンツに対する最終的な責任を問われない根拠とされる、米通信品位法第230条にメスを入れようとしている」というものだ。しかし、所管する連邦通信委員会(FCC)がそれに「同意するかは不明」(ロイター)とも報じられていている。
それどころか、新型コロナウイルスの感染拡大を阻止することが目的だったはずの「接触確認アプリ」も、ミネソタ州公安当局の不用意な発言から「警察が犯罪捜査のモデルとしてこれに注目しているのではないか」(CNET Japan)とも受け取られたことから物議を醸すことになっている。
この一連の問題は混迷を極めていて、解決の出口が見えてこない。
ニュースソース
- 「Blackout Tuesday」の人種差別抗議キャンペーン、ハッシュタグの濫用に懸念の声も[CNET Japan]
- Facebook、暴力を示唆するトランプ氏の投稿を削除せず--CEOが見解[CNET Japan]
- Facebook従業員がストライキ--トランプ大統領の投稿を放置する対応に抗議[CNET Japan]
- Snapchatがトランプ大統領の投稿をDiscoverタブに掲載しないと発表[TechCrunch日本版]
- トランプ大統領、SNS標的の大統領命令に署名。通信品位法第230条の見直しを指示[Engadget日本版]
- トランプ米大統領のSNS規制方針、FCCが同意するかは不明[ロイター]
- 米警察がデモ逮捕者の「接触追跡」を開始と発言、物議を醸す[CNET Japan]
3. 総務省が「令和元年通信利用動向調査」の結果を公表
定点で情報通信の利用動向や産業動向を把握するのに広く参照される総務省の通信利用動向調査の最新版が公表された(総務省)。
今年のポイントは次の4点である。
- インターネット利用者の割合が全体の89.8%と9割に迫っていて、特に6~12歳と60歳以上での利用割合が大きく増加
- スマートフォンの世帯の保有割合が8割を突破、個人の保有割合も67.6%に増加
- 企業におけるクラウドコンピューティングサービスの導入割合は初めて6割を突破
- テレワークを「導入している」または「具体的な導入予定がある」と回答した企業は約3割と増加傾向(ただし、新型コロナウイルス感染拡大前の令和元年9月末に調査)
なお、テレワークについては、今春以降の新型コロナウイルスへの対応によりさらに増加したと思われるが、どこまで伸びたのかと、それによる企業にとって、そして従業員にとってのメリット/デメリット、そして「新しい日常」として継続するかどうかの意向が明らかになるのは1年後ということになる。テレワークについては類似の調査結果を多数の民間調査会社でも発表をしているが、調査対象や調査方法によって結果の傾向が違うようなので、いまのところはそれらをもっても大局的な傾向を言うのが難しそうだ。
ニュースソース
- 令和元年通信利用動向調査の結果[総務省]
4. 検討が始まるマイナンバーと銀行口座ひも付けの義務化
特別定額給付金の手続きの非効率さについては多くのメディアでも指摘をされてきたところだ。もちろん、システム上の都合もあるだろうし、突発的に発生した事務を処理するためのパワー不足などもあるだろう。しかし、紙による手続きであれ、オンラインでの手続きであれ、銀行口座情報の記入間違いも多いという指摘もある。そのため確認作業ややり直しなども、全国民を対象とする事業ではばく大な損失となる。
こうしたことを踏まえてマイナンバーと預貯金口座情報のひも付けを義務化する検討が始まっていると報じられている(毎日新聞)。来年の通常国会での関連法の改正を目指すとしている。一方で、記事によれば「実現すれば、政府は国民の資産状況を正確に把握することが可能となり、必要に応じて給付などに活用するほか、徴税の強化を図る方針だ。一方、国民への監視が強まり、プライバシー権の侵害を懸念する反発も予想される」と指摘している。利便性が高まることはいいが、指摘されているような懸念を払拭できるような法案が作れるかどうかに、注目をしておくべきだろう。そして、そもそもマイナンバーカードの普及率をどう高めるかという観点も必要だ。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により、経済的に困窮している学生に文部科学省が最大20万円を支給する「学生支援緊急給付金」の申請を行うためのLINE公式アカウントが開設された(ITmedia)。記事によると、「給付条件に該当するかどうかをチェック。学生番号や振込先銀行口座などの情報を入力し、学生証の写真などを添付して送る」という手続きができるとしている。学生にとってはパソコンよりもスマートフォンが日常的に使う主要なデジタル機器であるということを考慮したことから、こういう方法になったものと思われる。ただし、申請を受け取った役所側が、特別定額給付金の時のように手作業だと効率は半減するのはいうまでもないことなので、このような経験を踏まえたうえで、将来に向け抜本的な情報化をさらに進めることは急務だろう。
5. [イベントカレンダー]オンラインイベントが活況――米国CES2021はリアルとオンラインでの開催か?
緊急事態宣言が解除され、産業も動きを取り戻しつつある。6月以降のさまざまなオンラインイベントが発表されている。
そのようななか、米国CTA(コンシューマー・テクノロジー・アソシエーション)は、2021年1月に開催予定の「CES 2021」についての開催方針を発表している(CNET Japan)。それによると、リアルとオンラインの併催を計画しているようだ。気になるリアルの会場も十分は感染予防策をとったうえで開くとしている。まだ半年先のことなので、そのときの感染が拡大しているのか、終息してるのかは分からないなかで、国際的な大規模イベントの主催団体としては何らかの発表をせざるを得ないタイミングだったということだろう。
開催されるとなれば、ポストコロナ時代の「新しい日常」のためのさまざまな製品やサービス、そして技術なども出展されることになるだろう。もちろん、オンラインでの開催は、これまで参加が困難だった人には朗報となるだろう。
ニュースソース
- NICT特別オープンシンポジウム 2020.6.12[NICT]
- NTTコミュニケーション科学基礎研究所「オープンハウス2020」をWebにて開催[NTT]
- 国内最大規模のAndroidイベント「ABC」。5月30日にオンライン開催となった「ABC 2020 Spring in KAWASAKI」の講演動画公開中![GAPSIS.JP]
- 今年の「Interop Tokyo カンファレンス」はかなりお得!? 1万5千円で約50セッション全部を聴講可能 来週水曜6月10日からオンラインで開催[INTERNET Watch]
- 日本マイクロソフト、テクニカルカンファレンス「de:code 2020」をオンライン開催[Markezine]
- 日本学術会議ホームページ[日本学術会議]
- 不動産テック協会、2週間連続オンラインイベント「The Retech Week 2020」開催[CNET Japan]
- 米CTA、「CES 2021」の計画発表--リアルとオンラインの二刀流で[CNET Japan]