中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/6/4~6/11]

Cookieと個人情報ひも付けに新たなルール――改正個人情報保護法が可決・成立 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 本格的な議論が始まる「接触確認アプリ」などの新型コロナウイルス感染症対策

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を抑えることを目的とし、この6月中にも利用が開始されるとされている「接触確認アプリ」に関するオンライン会議が開催される。GLOCOM六本木会議オンラインと題するシリーズの第1回で「接触確認アプリとはなにか~データ活用時代の新たな公衆衛生を考える~」と題された企画である(六本木会議)。開催日時は6月13日(土)13時30分~15時。ここでは日本政府が発表している「接触確認アプリ」と、アップルやグーグルが推進する「Exposure Notification」との関係、利用者のプライバシーへの懸念、政府と民間との連携のあり方などについて、政府の有識者検討会メンバーを交えた議論が予定されている。

 また、ブロックチェーンのビジネスコミュニティ「btokyo members」によるオンラインイベント「デジタル医療に学ぶ『ブロックチェーン活用の最前線』──トレーサビリティ、臨床試験、データシェアリング」は6月3日に開催された(coindesk)。この会ではデジタル医療におけるブロックチェーン活用のポイントや課題などについて議論した。次回は6月11日15時から「アフターコロナの世界において企業が求められている『新たなDX』とは何か?」をテーマに開催される予定としている。

 いずれも、感染症の流行拡大を抑止する上での情報通信技術の応用と、プライバシーをはじめとする課題について、議論が深まるだろう。

 そして、東京都は6月12日からLINEを活用した「東京版新型コロナ見守りサービス」を開始すると発表した(CNET Japan)。すでにいくつかの地方自治体でも取り組んでいるように、「美術館や博物館、図書館といった文化施設、庭園、動物園、スポーツ施設といった都立施設を利用したユーザーを対象に、当該施設で新型コロナウイルスのクラスター感染が確認された場合、施設の訪問履歴にもとづき、利用者に感染情報を通知する」ものである。

 国が計画している「接触確認アプリ」との関係や、その役割、目的の相違点、ユーザーにとっての使い分けはもちろん、懸念されるユーザープライバシーに対する対処など、一般への理解はいまだ浸透していないと思われ、普及を進めるためにはさらなる広報活動も必要。

ニュースソース

  • GLOCOM六本木会議オンライン#1:接触確認アプリとはなにか ~データ活用時代の新たな公衆衛生を考える~[六本木会議
  • 医療×ブロックチェーンの可能性──サスメド・経産省が「課題と規制」を議論[coindesk
  • QRコードの読み取りでクラスター感染発生時にLINEで通知--東京都が見守りサービス[CNET Japan

2. Cookieと個人情報ひも付けに新たなルール――改正個人情報保護法が可決・成立

 企業などの個人情報の取り扱いを規定した改正個人情報保護法が可決・成立した。これは2019年に発覚した就職情報サービスを運営するリクルートキャリアによるリクナビ事件(当事者である就活生に十分な説明をしないまま、就職情報の閲覧履歴を分析し、内定辞退の可能性などを予測し、その情報を一部の企業に提供していた事件)を踏まえ、「企業がインターネットの閲覧履歴が分かるクッキー(Cookie)などを個人情報にひも付ける場合、データに関わる本人の同意を求める新たなルールを設けた。企業に対して、自らの個人データの利用停止や消去などを請求できる権利も拡充する」という規制である(日経XTECH)。記事によれば「利用停止を請求できる場合の基準が曖昧で同意取得のあり方も企業に委ねられているなどとして反対意見も出た」とされていて、その実効性を持つかどうかは今後の運用によることになりそうだ。

 また、高市総務大臣はマイナンバーと銀行口座のひも付けの義務化に向けて取り組むと表明した(Impress Watch)。特別定額給付金の全住民への給付にあたっては、地方自治体では膨大な書類による事務作業に追われ、住民も書面での申請や申請書での書き間違いなどによる混乱も見られた。この銀行口座とマイナンバーのひも付けは、将来的にもこうした有事の際に、速やかな対応をするための施策とししている。ただ、マイナンバーカードが十分に普及をしていない状況ではひも付けただけでは抜本的な効率化にはつながらないともみられるとともに、国による個人資産の把握につながるのではないかという懸念もある。

ニュースソース

  • マイナンバーと銀行口座の紐付け義務化へ準備。高市総務相[Impress Watch
  • 改正個人情報保護法が成立、クッキーと個人情報のひも付けに同意取得を義務化[日経XTECH

3. 開催が近づくアップル社の開発者会議「WWDC2020」

 米国時間6月22日からオンラインでの開催が予定されているアップル社の開発者会議「WWDC2020」における発表内容を予測する報道が増えてきている。

 Bloombergをはじめとし、CNETなどのIT系専門メディアでも報じられているのが「Macに搭載するプロセッサーを自社開発チップに切り替えると発表して、再び世界を驚かすかもしれない」(CNET Japan)という情報である。つまりスマートフォンやタブレットと同様に、Macでもインテル製プロセッサから、Armのデザインをベースの独自プロセッサへと変更されるという予測だ。その結果、「エネルギー効率の高い製品が実現可能になる」ことが期待されている。

 それ以外にも、新しいOSや開発環境などについても発表されると見込まれているようだ。

ニュースソース

  • アップル、「Mac」への独自開発チップ搭載計画をWWDCで発表か[CNET Japan

4. ステイホームでインターネット接続環境はどう影響を受けたか?

 日本経済新聞社は2020年上期の「日経MJヒット商品番付」を発表した。東の横綱には「オンライン生活ツール」が選ばれている(日本経済新聞)。「新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が求められるなど生活が一変。ビデオ会議システムが仕事や私生活のあらゆる場面に登場した」ことを反映していると分析している。

 また、ツールのみならず、インフラにも変化が見られる。6月10日にMMD研究所が発表した「在宅勤務における自宅のインターネット通信回線の実態調査」の結果によると、新型コロナウイルスの影響で「在宅勤務者」を経験したユーザーに在宅勤務の前後で自宅のインターネット回線を新たに契約したり、変更したりしたかを尋ねると、「新たに契約した割合は『光回線』が7.3%、『ホームルーター』が15.0%、『モバイルルーター』が14.3%という結果となった」(ITmedia)としている。

 さらに、MM総研の「ブロードバンド回線事業者の加入件数調査(2020年3月末時点)」の結果によると、FTTHの契約数は3306.8万件で、2019年度の純増数は133.7万件となったとしていて、2018年度の純増数が86.2万件だったことと比較すると、それ以上の伸長をした(INTERNET Watch)ということだ。理由としては携帯キャリアなどによる「光コラボレーション」、集合住宅向けのインターネット導入、CATVインターネットの光化などがあるが、本年度については「新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとした自宅でのテレワークや遠隔授業、動画視聴等の需要増を背景に、通信インフラとして再評価の機運が高まっている」ことからさらにそれを上回るとの予測をしている。

 テレワークが浸透するとともに、Zoomをはじめとするビデオ会議システムを利用するとなると、それなりの帯域を必要とすることから、通信性能はもとより、月間利用可能データ量や料金なども勘案することになる。それまではワイヤレスで十分だった家庭でも、光ファイバーを選択するのは必然ともいえそうだ。こうした工事を伴うような変更をへと動いたということは、今回、一時的にしのぐためだけではなく、当面、こうしたワークスタイルが求められることになるという認識も背景にありそうだ。

ニュースソース

  • 2020年上期ヒット商品番付 デジタル生活全面に[日本経済新聞
  • テレワークでモバイルルーターを契約した人はどれぐらい? MMDの調査から[ITmedia
  • テレワークなどで「FTTH再評価」の機運、今年度141.7万件の純増~MM総研が予測[INTERNET Watch

5. 国際的大手IT企業は医療分野へ事業を拡大中

 国際的な大手IT企業各社は医療分野へと事業領域を広げている。BUSINESS INSIDERでは、大手4社が手掛ける医療関連の技術やサービスについて、各社の強みや弱点を分析し、医療業界に与えている影響を分析(BUSINESS INSIDER)をしている。記事によれば「マイクロソフトは医療機関向けのクラウドサービスに注力している。アップルは臨床研究にウェアラブルデバイスを役立てる取り組みを発展させている。アルファベットが得意とするAI技術は、プレシジョンメディシン(精密医療)の研究開発に活用されている。そしてアマゾンは、医薬品の宅配、医療用品の配送、遠隔医療など、幅広い分野に進出している」といった特徴があるとしている。

 言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症がそのきっかけとなっているわけだが、これまでのような家庭、オフィスというような典型的なユースケースではない新たな領域、しかもそれは私たちの健康や生命と関係のある分野において、各社が新たなパワーゲームを繰り広げることになるのかもしれない。それだけでなく、医療産業の既存プレーヤーが大きな影響を受けることは必至であり、そこでの各社の戦略が繰り広げられることになるだろう。

 日本でも、すでに「接触確認アプリ」はアップルとグーグルが開発した技術を採用することになっているが、今後はそれ以外でも国際的な大手IT企業が開発したソリューションやプラットフォームが導入されていく可能性もある。日本の産業としても、どう取り組むかは今後の大きなテーマであろう。

 そして、アップル社は日本において医療機器等外国製造業者として認定されたことが報じられている(INTERNET Watch)。Apple Watchにはすでに心電図を計測する機能が含まれていることが一部で知られていたが、日本では医療機器としての認可がされていないことから、その機能を使うことができない。今回、アップル社がこうした認可に向けた動きをしていることを垣間見ることができたことから、将来的には日本でもこうした機能が有効化される可能性を感じる。すでに、米国の大学等では、さまざまなウェラブルデバイス使って人のバイタルの変化を測定し、それを分析することで病気が発症する前兆をつかもうという研究が行われている。もちろん、プライバシー問題に対する懸念も指摘されるようになってきていることはいうまでもない。そうした課題の解決も模索しつつ、医療分野における情報通信技術によるこれまでにはないような成果を期待していきたい。

ニュースソース

  • Apple Watchの心電図機能、日本も近日対応? Appleが医療機器等製造事業者に登録[INTERNET Watch
  • 医療進出を狙うIT4社の戦略…アマゾン、グーグル、アップル、マイクロソフトは何を狙う?[BUSINESS INSIDER

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。