中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/6/11~6/18]
「接触確認アプリ」リリース直前――議論が活発化するプライバシーと公共性 ほか
2020年6月19日 12:30
1.「接触確認アプリ」リリース直前――議論が活発化するプライバシーと公共性
これまでも政府がアナウンスしてきたが、6月19日には「接触確認アプリ」が公開される予定になっている(執筆時点では確認されていない)。この接触確認アプリは新型コロナウイルス感染症の陽性と判定された人と濃厚接触があったかどうかを本人に通知するスマートフォンアプリだが、このアプリをめぐるプライバシー保護、有効性、法制度などに関する議論が活発化している。
6月13日にはオンラインイベント「GLOCOM六本木会議オンライン#1:接触確認アプリとはなにか~データ活用時代の新たな公衆衛生を考える~」が開催された。日本政府の接触確認アプリ有識者会議メンバーである藤田卓仙氏をはじめ、慶應義塾大学教授の村井純氏らが登壇した(INTERNET Watch)。記事では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は鎮静化の方向にはあるようだが、いつ第2波、第3波が訪れるかもしれない。そのようななか「個人の自由とプライバシーを最大限に尊重する」のか、「場合により強制力も行使して対処していくやり方」なのかという選択が求められていると課題を提示している。
なお、藤田卓仙氏へのインタビュー記事はForbes Japanに掲載されている(Yahoo!ニュース/Forbes)。記事では「人権を保護しながら、ビジネスも円滑に行っていくためにどうすればいいのか。また、ビジネスだけでなく、新型コロナなどの感染症対策や災害対策、環境問題でもデータの利活用が極めて重要になっている。そういった公共性の高いデータの利活用と企業の利益、個人の人権の三者をバランスさせる」ことを指摘している。
また、日本ハッカー協会では「新型コロナウイルス接触追跡アプリ解析」というオンラインイベントを計画している(日本ハッカー協会)。「このイベントではアプリの解析を通して、どのようなデータをどこに送っているかなどを、検証し正しく運用されているかどうかを確かめることを体験」することだとし、公開されている仕様どおりに実装されているのか、ソースコードと同じものなのかということも踏まえた解析を行うとしている。
そして、この「接触確認アプリ」を日本マイクロソフトが受託して開発したという報道が一部でなされたが、同社ではそれを否定した(ITmedia)。その後、菅義偉官房長官は「厚生労働省が接触確認アプリの工程管理をパーソルプロセス&テクノロジー社に発注し、同社は日本マイクロソフトを含む2社に再委託した」と発表した。そして、具体的なソフトウエアの開発は日本マイクロソフトの社員を含む民間技術者が参加するオープンソースコミュニティーが担うとした(日経XTECH)。
一方、ドイツでは一足先に「コロナ警告アプリ(Corona-Warn-App)」が導入されたようだ。これは日本で開発が進められている接触確認アプリとほぼ同じ仕様だという(ITmedia)。しかし、記事によれば、ドイツ国民の間では反対派が多いと指摘している。
どの国においても、国民的な議論を経て「新しい日常」下におけるプライバシーと、公共性についての新たな合意形成が行わないことには、過半数の人が賛同し、自ら進んでインストールするようになることは難しい。
ニュースソース
- 「接触確認アプリ」で議論、プライバシーや有効性、法的側面は? ~個人の自由の尊重か、パターナリズムか[INTERNET Watch]
- コロナウイルス接触追跡アプリ解析[日本ハッカー協会]
- 接触確認アプリは米MS製? 日本MSは「事実ではない」と否定[ITmedia]
- 政府の接触確認アプリ、厚労省がパーソルプロセス&テクノロジーに発注[日経XTECH]
- 「データは誰のもの?」は成り立たない。個人の権利と公共性の両立へ[Yahoo!ニュース/Forbes]
- ドイツで公開された「コロナ警告アプリ」、現地でどう受け入れられているか[ITmedia]
2. 次世代のインフラ整備、そしてその利活用のビジョン
総務省は「ICTインフラ地域展開マスタープラン プログレスレポート」を公表した。これは、2019年6月に策定した「ICTインフラ地域展開マスタープラン」の進捗状況と今後の取り組みをまとめたものである。それによると「5G基地局の整備について、2023年度末をめどに開設計画の3倍となる約21万局以上の展開を目標」とし、「5G基地局やローカル5Gの導入促進のための周波数拡充や税制優遇措置の導入」をすることなど、37.4億円の新規補正予算を組んでいる。また、「当初予算の約10倍となる501.6億円の2020年度補正予算により、2021年度中に市町村が希望するすべての地域で光ファイバーを整備し、光ファイバーの全国展開を大幅に前倒しする」ともしている(ケータイWatch)。
インフラ整備は地上だけではない。NTTとJAXA(宇宙航空研究開発機構)は「1基の人工衛星で日本列島全域をIoT通信のエリアにして、しかもSigfoxやLoRaなど920MHz帯を利用するあらゆる方式に対応する」という技術開発に取り組んでいることが日経XTECHでレポートされている(日経XTECH)。記事によれば、2022年度に打ち上げる高度500kmの低軌道衛星で実証実験を行うとしていることから、それほど未来の話でもない。
このように、国も民間も、インフラ整備という分野では結果を出してきているし、引き続き順調に整備されていくことが期待される一方で、そのインフラの「利活用」についてはなかなか結果が出せていないのが実情だということを今回の新型コロナウイルス感染症の拡大という事態において大きな課題として認識することができた。そのようななか、自由民主党のデジタル社会推進特別委員会は「デジタル・ニッポン2020」というデジタル社会推進の観点から必要な政策提言を公表した(自由民主党)。「COVID-19でおきたこと」「危機から学ぶべきこと」「2030年を見据えた概念」という観点から整理され、医療、健康、ワーキングスタイル、防災、エンターテインメント、セキュリティ、スマートシティ、行政などの各論でのビジョンが示されている。
3. 「新しい日常」に向けたサービスが次々登場
日本における新型コロナウイルス感染症の感染拡大は抑えられる方向にあるようだが、一部ではいまだクラスター感染が発生し、第2波、第3波も懸念されている。徐々に店舗は通常営業に戻り、オフィスではリモートワークも終了し「かつての日常」を取り戻りつつある職場もあるようだが、まだまだ安心できる状況にはない。国際的な観点でもそれはいうまでもないことだ。欧州ではリモートワークの法制化の動きもあるようだ(日本経済新聞)。
そのようななか、さまざまな「新しい日常」に向けたソリューションやサービス、そして運用の事例も出てきている。
凸版印刷が発表した工場や博物館などにおける「オンライン施設見学ソリューション」(マイナビニュース)は想定されている用途以外でも、観光産業などでも利用できそうだ。
ビジネスの場面ではSansanのオンライン名刺(CNET Japan)はすんなりと受け入れられそうだ。また、株主総会もリモートでの参加やスマートフォンからの議決などが広まりつつある(ITmedia)。
物流分野では、米国アマゾンが3密になりやすい倉庫でのソーシャルディスタンシングを確保することをサポートする画像認識技術を開発し、無償で公開する意向を表明している(CNET Japan)。
教育分野ではVRを使って、実際に外国人がいるような擬似的環境で英会話を学習するツールの実証実験が行われている(ITmedia)。
エンターテインメント分野ではサイバーエージェントとEXILEら所属のLDHが合弁会社を設立して、オンラインでもリアルでもLDHのコンテンツが楽しめるデジタルコミュニケーションサービスとして展開するとしている(CNET Japan)。
それぞれのアイデアは利用者にとって、当初は違和感があるかもしれないが、だんだんと有用性が確認されたり、使用に慣れてきたりすることで、「新しい日常」として定着していくことになるのだろう。
ニュースソース
- 凸版印刷、工場や博物館などにおける「オンライン施設見学ソリューション」[マイナビニュース]
- 法人向け名刺管理「Sansan」に「オンライン名刺」機能--Eightとの連携も[CNET Japan]
- アマゾン、対人距離を保つためのAIシステムを倉庫に導入--オープンソースに[CNET Japan]
- VRで英会話学習、目の前に外国人がいるような感覚再現 中学校で実証実験[ITmedia]
- 株主総会、下旬にピーク 新型コロナ対応で様変わり 動画ライブ配信、スマホ投票も[ITmedia]
- サイバーエージェント、EXILEら所属のLDHと合弁会社--映像配信サービス「CL」を展開[CNET Japan]
- 在宅勤務が標準に 欧州は法制化の動き、米は企業主導[日本経済新聞]
4. プロ野球も開幕――当面の観戦はリモートで
プロ野球がいよいよ開幕する。しかし、いたしかたないことではあるが、当面は無観客である。
そのようななか、福岡ソフトバンクホークスとソフトバンクは福岡PayPayドームで開催するソフトバンクホークスの公式戦全60試合を4台のカメラでVRライブ配信する「ソフトバンクホークスチャンネル」を提供する(ITmedia)。また、ARコンテンツなども提供したり、SNSで自宅観戦を盛り上げる企画なども実施されるとしている。
さらに、横浜DeNAベイスターズとKDDIは、すでに2019年に締結している「スマートスタジアム」の構築に向けたパートナーシップをさらに進めた「ビジネスパートナーシップ」を新たに締結した(ケータイWatch)。「au 5GやIoTを活用した『スマートスタジアム』の構築に加え、バーチャル「横浜スタジアム」を構築し、新たな野球観戦モデルなどを検討していく」という。
こうした試みは他球団、さらには他の競技へも適用されると見込まれることから、新たなデジタルエンターテインメントとしてのジャンルが確立していく可能性を感じる。
5. Zoomに追いつけ! 追い越せ! ビデオ会議システムの覇権争いが激化
各社のビデオ会議システムは頻繁な機能追加が行われている。
NTTコミュニケーションズはリモート環境から、オフィスの電話番号を使った電話の発着信が可能になるサービスをマイクロソフト社のTeams向けに開始をした(NTTコミュニケーションズ)。テレワークの環境から取引先などへ通話をする場合、発信者番号を切り替えることができないというニーズに応えるものだ。
また、マイクロソフト社ではTeamsで任意のバーチャル背景を設定できるようになった(PC Watch)。すでにいろいろな企業やブランドなどからも、バーチャル背景の画像や動画も提供されていることなどからも、この機能を備えることはビデオ会議システムとしては当たり前のものになったといってもよいだろう。自分のデスク周りをカスタマイズするようなものだ。
グーグルではスマートフォンにGmailアプリを入れておくだけで、Google Meetが利用できるようになった(ITmedia)。こうして新たなアプリをインストールすることがないことや、最も利用頻度の高いメールアプリのなかに機能を包含することで、利用者の心理的なハードルを下げようという狙いだろう。
快走中のZoomではエンドツーエンド暗号化の機能が無料ユーザーにも提供されることになった(CNET Japan)。つい先日、この機能は有料プランにのみ適用されると発表されたばかりだったので、この仕様変更はいいニュースといえるだろう。
ニュースソース
- 「Microsoft Teams」上でオフィスの電話番号を利用したテレワークを実現する「Direct Calling for Microsoft Teams」新機能の提供を開始[NTTコミュニケーションズ]
- Microsoft、Teamsで仮想背景に好きな画像を設定可能に[PC Watch]
- GmailアプリだけでスマートフォンでのGoogle Meet利用が可能に[ITmedia]
- Zoom、エンドツーエンド暗号化を無料ユーザーにも提供へ[CNET Japan]
- Zoom、ドメイン単位で待合室をスキップできる機能を追加[PC Watch]