中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2021/1/21~1/28]
ワイヤレスブロードバンドインフラ構築のための技術開発 ほか
2021年1月29日 15:20
1. ワイヤレスブロードバンドインフラ構築のための技術開発
スマートフォンをはじめとするワイヤレスデバイスの普及により、日常的にもワイヤレスインフラのさらなる充実が求められる。また、大規模災害などを想定したワイヤレスインフラの対応も重要である。すでに人口カバー率としては高い水準にまで達しているが、人口の少ない地域では十分にカバーされていなかったり、災害時に基地局にダメージがあるといきなり多くの人が通信環境から切り離されてしまったりする。
KDDIとKDDI総研は災害時のヘリコプター基地局の実証実験を行った。これは災害時に携帯電話の基地局設備をヘリコプターに搭載し、一時的に通信可能エリアを作り出すことを目指したものだ。記事によれば、「無線設備やモバイルコア設備を、人が担いでヘリコプターに搭乗できる総重量約7kgまで小型化したものを使用。直径約2kmの範囲をエリア化し、エリア内で通話やメールなどau商用網の通信サービスが利用できる」(ケータイWatch)としている。
また、ソフトバンクでは5Gのアンテナ設置工事の工期を短縮するための施工技術を開発したと発表した(ケータイWatch)。高まる通信ニーズに対して、より短期間にインフラを作っていくために、こうした取り組みはその重要性が増すと見られる。
一方、米国グーグルの親会社となるアルファベット社は気球でインターネット環境を作る「Loon(ルーン)」というプロジェクトの解散を発表した(CNET Japan)。このコラムでも何度か紹介してきたが、途上国などで安価にワイヤレスインフラを構築する手法として期待されていた。記事によれば「商用化実現への道は、期待よりも長く高リスクであることが分かった」とコメントしていて、事業化のハードルが高さが伺える。
ニュースソース
- KDDIとKDDI総研、災害時のヘリコプター基地局の実証実験に成功[ケータイWatch]
- ソフトバンク、5Gアンテナ増設を平均6日間から2時間へ大幅短縮[ケータイWatch]
- Alphabet、気球でネット接続の提供を目指すLoonを解散へ[CNET Japan]
2. Apple Watchでも心電図記録が可能に
日本でもiOSのアップデート(ケータイWatch)により、Apple Watchの「心電図アプリケーション」と、「不規則な心拍の通知」が利用可能となる(ケータイWatch)。近頃のウェラブルデバイスはさまざまなバイタルを測定するセンサーを搭載するようになってきていて、機能としては実装されていてもそれぞれの国の認可の問題ですぐには利用できないことが多い。しかし、こうしたデータをビッグデータとして集めることで、個人の健康管理が次のステージに上がるとも考えられることから、今後の注目すべきポイントということができる。また、すでに他社では血圧や酸素飽和度などを扱えるデバイスも開発されていることから、今後は急速に発展しそうだ。データが充実してくると、いずれは発病する前日に、病院の受診をリコメンドされるのも夢ではない。
一方、アップル社ではiPhone 12シリーズとMagSafeアクセサリーの医療機器への影響について「医療機器に大きな影響を与えることは確認されていないとしながらも、ペースメーカーなど体内に医療機器を埋め込んでいる場合、iPhone 12シリーズおよびMagSafeアクセサリーは15cm以上、ワイヤレス充電中は30cm以上離して使用するように」という情報を出している(ケータイWatch)。日本語では案内されていないということだが、念のために留意しておく必要もあろう。
3. Cookieに代わる追跡技術の模索とウェブビジネスモデル
インターネットのビジネスは消費者の利用動向を追跡することで成り立ってきている。つまり、消費者の関心などをインターネットの閲覧履歴から追跡して、対象者に広告を掲出したり、リコメンドをしたりできる。また、事業者側は市場の動きを製品開発にフィードバックすることもできる。その結果として、消費者はコンテンツやサービスそのものに対価を払わなくても多様な情報を得たり、サービスを受けたりできる。一方で、それが高度になり、さらには行きすぎることで、消費者のプライバシーが守られないという懸念も生じている。アドテクノロジーは年々高度になり、さらにはブラックボックス的な側面もあることから、閲覧システムとサーバーの内部で何が行われているのかが一般人には理解しにくくなっているからだ。もちろん、多様な関連事業者が参入していて、アドテクノロジー産業の構造も複雑化している。
すでに報じられてきたように、アップル社がiOSアプリの広告用ユーザー追跡技術を変更したことで、各社は新たな技術を開発することでその対応を進めている。例えば、グーグルはFederated Learning of Cohorts(FLoC)と呼ばれる技術を開発している(CNET Japan、TechCrunch日本版)ことが報じられている。
また、ウェブブラウザーのFirefoxには、Cookieを削除しても取り除くことができないキャッシュからユーザーを追跡する「Supercookie」をブロックする機能が追加された(livedoor NEWS)ようだ。
特にこの両者はユーザーのプライバシーを第一に考えることを表明したうえでの施策である。
一連のトラッキング技術に関する動向と今後の課題については「もうすぐやってくるAfter Cookieの世界、メディアが直面する課題と好機とは?」という記事が詳しい(Media Innovation)。インターネット上のビジネスモデルと消費者のプライバシー保護の両立は大きな曲がり角であるとともに、今後も大きな論点である。
ニュースソース
- Firefox、ユーザーを追跡する「Supercookie」のブロックに最新版で対応[livedoor NEWS]
- GoogleがCookieに代わるターゲット方式による広告収入はほぼ変わらないと主張するもプライバシー面は不透明[TechCrunch日本版]
- グーグル、iOSアプリの広告用ユーザー追跡技術を変更[CNET Japan]
- もうすぐやってくるAfter Cookieの世界、メディアが直面する課題と好機とは?[Media Innovation]
4. 新型コロナウイルス感染症に対するグーグルの取り組み
米グーグルは新型コロナウイルス感染症ワクチンの公平で迅速な接種を目指すとして、1億5000万ドル(約156億円)の提供など、さまざまな取り組み策を発表した(ITmedia)。具体的には「WHOやCDCに1億ドルの広告助成金、公衆衛生機関に5000億ドル」「Google検索とGoogleマップで予防接種提供スポットを紹介」「Googleの施設を予防接種スペースとして提供」「医療機関や薬局によるワクチン配布をGoogleの技術で改善」などが挙げられている。
そもそも日米では制度が違うことから一概に同じサービスが必要になるのかどうかは分からないが(ITmedia)、規模が大きな施策に対して、行政と民間企業とが協力してスピードアップを図ろうとしているという意味において、参考とすべき要素も含まれていると思う。
5. 2020年の出版市場は電子版の拡大により大幅に伸長
出版業界の調査・研究機関である出版科学研究所が、2020年の出版市場規模の推計を発表した(ITmedia)。
それによると、プリント版と電子版を合算した推定販売金額は、1兆6168億円(前年比4.8%増)となったとしている。その内訳ではプリント版の出版市場が同1.0%減、電子版の出版市場は同28.0%増となり、両者の合計で2年連続のプラス成長を達成したようだ。また、出版市場全体に占める電子出版の割合は24.3%だとしている。出版市場は長らく低迷が続いてきているが、コミックスを中心とする電子出版市場の拡大と、本年度は新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言による「ステイホーム」により、巣ごもり需要が高まったこと、さらには「鬼滅の刃」というヒット作があったことなど、出版市場全体に対してのプラス効果があったとみられる。
ニュースソース
- 2020年の出版市場、『鬼滅の刃』効果でプラス成長 電子出版も大幅伸長[ITmedia]