中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2021/2/25~3/4]

2020年の「日本の広告費」は9年ぶりのマイナスだが、インターネット広告は成長 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 教育ICTに向けた動きが活発化

 コロナ禍ということもあり、教育のICT化が一層活発になっている。そのなかで、日本電子出版協会は「緊急提言 今こそ国は学校電子図書館の準備を!」を発表した(日本電子出版協会)。「国は1人1台の端末環境整備に合わせて直接、全国一律、全ての小中学校に5万点の読み放題の電子図書館サービスを提供する」ということと、「サービス利用料は、全額、国の負担とする」という2点がその骨子である。

 また、高校生向けにはアドビとインテルが「メディアラボ」を東京都立三鷹中等教育学校に開設して、実証実験を開始したと発表している(ITmedia)。これは「動画制作ソフトなどのクリエイティブツールに対応可能な機器を備えた教育用の教室」で「高校生の創造性の育成と発揮を支援する」ことを目的にしている。

 そして、経済産業省も小中高の教員や児童・生徒向けのデジタル教材を集めたウェブサイト「STEAM(スティーム)ライブラリー」を開設したと報じられている(読売新聞オンライン)。記事によれば「温暖化や貧困といった国際的な課題や、企業活動などについて学ぶなかで、科学技術や数学などの知識を身につけてもらうのが狙い」だとしている。教材は東京理科大や通信教育大手のZ会、民間企業など24団体の協力で、63テーマのデジタル教材を集めたという。教育関係者でなくとも一見の価値があると思う。

 一方で、教育現場での課題も指摘されている。「職員室の『IT化』を阻むものは何?元教員が考える課題と解決策」という記事(ITmedia)では、学校の内側からの視点で課題がまとめられていて興味深い。

 最後に、MM総研はGIGAスクール構想で導入される端末の最新のメーカー別出荷台数の調査結果を発表しているので紹介しておく(ITmedia)。メーカー別で出荷台数はAppleのiPadが210万7935台となった。Windows/Chrome OS端末の合計は538万4139台で、そのうちのメーカー別ではLenovoが151万1356台となっている。なお、Chromebookが139自治体に導入され、大きくシェアを伸ばしたと指摘している。

ニュースソース

  • 緊急提言 今こそ国は学校電子図書館の準備を![日本電子出版協会
  • アドビ、教育ICT化推進のための実証実験を開始 インテルと共同で東京都立三鷹中等教育学校に「メディアラボ」を開設[ITmedia
  • 「GIGAスクール」端末シェアでAppleが首位に MM総研調べ[ITmedia
  • 職員室の「IT化」を阻むものは何? 元教員が考える課題と解決策[ITmedia
  • デジタル教材63テーマ「ウェブ図書室」…Z会やシャープ、日航など協力[読売新聞オンライン

2. 集合住宅でも「置き配」が可能に

 アマゾンジャパンが「Key for Business」の導入を開始すると発表した(CNET Japan)。これはオートロック付きマンションに居住する人への配達時に「委託を受けた配送業者や配送ドライバーが専用アプリを利用してマンションのオートロックを解除できる仕組み」で、オートロック内の玄関先への置き配が可能になるという。セキュリティへの配慮として「玄関への配送が完了するとロック解除の期限が切れ、それ以降は同じ日でもマンションに入館できなくなる」としている。サービス開始時には200棟のマンションへの導入が予定されている。

 また、ライナフとヤマト運輸でも同様にオートロック付きマンションでも玄関前への置き配をするため、「配送スタッフ専用のウェブアプリケーションから、オートロックの解錠を可能にする」実証実験を行うという(CNET Japan)。

 こうしたネット通販で購入したも商品の「置き配」について、サービス開始当初、懸念を抱いていた消費者もいたと思うが、だんだんと慣れてきたということ、そして増加する荷物の効率性を実現する手法としての事業者ニーズも高い。オートロックの解除が実現すると、首都圏など都市部でさらに普及が進むものとみられる。

ニュースソース

  • アマゾン、日本でも荷物受け取りシステム「Key for Business」を導入--配送業者がオートロック解除[CNET Japan
  • ライナフとヤマト運輸、マンションの玄関前まで荷物を配送--置き配の実証実験[CNET Japan

3. 新たな非接触の本人認証方法

 コロナ禍により、大型イベントの自粛が続いている。そのようななか、今後のスポーツイベントの開催に向け、イベント会場での接触を減らす工夫も出てきている。

 実証実験としては東京ドームの取り組みが挙げられる(Impress Watch)。「ジャイアンツ×東京ドーム デジタルトランスフォーメーション プロジェクト」として、「顔認証技術を使った入退場管理や電子チケット」そして「コロナに関する情報を提供するシステムとして導入したTOKYO DOME ALERT」を組み合わせ、試合後も来場者にコロナの感染状況を通知できるようにするという試みだ。さらに、顔認証システムによって、「買物では会計時に購入金額を確認し、顔照合とPIN(暗証番号)の二要素認証により、支払いが完了する」という要素も含まれている。

 また、日立製作所は非接触の生体認証デバイスと、専用装置不要のPCカメラ向け生体認証ソフトウェア開発キットを発売すると発表した(Impress Watch)。これにより「非接触で3本の指をかざして認証を行い、数百万規模の会員数でも認証が可能」となる。さらにセンシングデバイスだけでなく、PCに接続されたカメラでも認証が可能になる。このような接触しないで生体認証を行うソリューションとしてオフィス・流通・小売などに展開をしたいとしている。指ならばマスクをしていても認証できるし、スマホを使う電子決済システムとの組み合わせることができれば利用者の利便性が増すのではないか。

 生体認証はプライバシー問題なども内包しているが、用途に応じ、こうしたさまざまな手法のなかかから適切な方法が選択されて導入されていくようになるのだろう。

ニュースソース

  • 東京ドーム 巨人戦で顔認証入場/決済、電子チケット、現金決済全廃[Impress Watch
  • 日立、3本指で数百万人認証の非接触端末[Impress Watch

4. デジタル化が順調に進む出版ビジネス

 今週は出版業界のデジタルにまつわる話題が多く報じられた。出版業界はレガシーな産業と思われているかもしれないが、ここのところデジタルメディアには意欲的な取り組みが見られる。

 まず、出版科学研究所が2020年の国内コミック市場規模を発表した(ITmedia)。それによると、「紙と電子を合わせたコミック市場規模(推定販売金額)は6126億円。同社の統計開始(1978年)以来最高の規模となり、コミック市場の最盛期といわれた1995年を超えた」としている。

 また、講談社は決算を発表した(新文化)。対前年比で増収増益になるとともに、市場規模拡大と呼応するかたちで、事業収入のうちの「デジタル・版権」が「紙」の製品売上を上回ったという。

 こうした足元のビジネス以外にも、先行的に取り組まれているプロジェクトも活発だ。その1つとして報じられているのは集英社の「マンガアート」の発売だ(Impress Watch)。「制作されるマンガアート作品はそれぞれ5~20枚に限定される。加えて、ブロックチェーン技術により、作家と版元の真正性が保証される。所有者情報も、個人情報を秘匿した上でブロックチェーン上に永続的に記録され、その変遷が分かるようになっている」とし、作品の価値を長期にわたり担保する仕組みである。

 そして、イーストは共立出版株式会社とともに、月刊誌「bit」の創刊号(1969年3月)から最終号(2001年4月)までの386巻についてデジタル化と権利処理を行い、電子図書館サービス最大手の丸善雄松堂から販売をする(イースト)。歴史的出版物・雑誌のデジタルアーカイブ化の重要性は関係者の間ではたびたび話題に上がるものの、現実的には権利処理や電子化コストの回収がハードルとなっている。しかし、こうした具体的、かつ地道な取り組みが図書館などでの理解者を増やすことにつながるのではないだろうか。

ニュースソース

  • 「鬼滅」「巣ごもり」でコミック市場規模は史上最高に 電子版好調の内実を分析する[ITmedia
  • 講談社決算、増収増益 「デジタル・版権」が「紙」上回る[新文化
  • 集英社、「マンガアート」世界販売。ブロックチェーンで来歴記録[Impress Watch
  • イースト、共立出版と提携し、月刊『bit』全386巻の販売を丸善雄松堂より開始[イースト

5. 2020年の「日本の広告費」は9年ぶりのマイナスだが、インターネット広告は成長――電通発表

 電通は「2020年 日本の広告費」を発表した(ITmedia)。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、6兆1594億円(前年比88.8%)に減少し、東日本大震災のあった2011年以来、9年ぶりのマイナス成長となった。そのようななかで注目すべきは、マスコミ四媒体広告費が大幅に前年割れした一方、インターネット広告費は対前年比105.9%と好調だった。2020年4月~6月は新型コロナの影響を受けたものの、巣ごもり需要により、SNSやネット通販への接触機会が増えたことから、運用型広告の需要が高まったとしている。

ニュースソース

  • 2020年「日本の総広告費」、9年ぶりのマイナス成長 リーマンショックに次ぐ下げ幅[ITmedia
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。