中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2021/3/4~3/11]

スーパーコンピューター「富岳」完成、いよいよ供用開始 ほか

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1. スーパーコンピューター「富岳」完成、いよいよ供用開始

 理化学研究所と富士通が開発を進めてきたスーパーコンピューター「富岳」が3月9日に完成した(ITmedia)。今後、産業界や学術界など向け供用が開始される。これまでも新型コロナウイルス感染症対策として、完成する前から試験運用としてさまざまなシミュレーションに活用されてきたことから、すでに完成をしていたと思っている人もいたかもしれない。今後、さらなる課題の解決に活躍することを期待したい。高度情報科学技術研究機構では小規模な課題やアプリケーションの動作検証課題などの公募受付を始めている(高度情報科学技術研究機構)。

ニュースソース

  • スパコン「富岳」完成 共用開始 研究課題も募集中[ITmedia

2.[ヘルスケア]ワクチン接種の管理、そしてヘルスケアの情報化へ

 新型コロナウイルスに対する対応やヘルスケア分野の充実に向けた技術開発についても新たな取り組みがいくつも報じられている。

 政府は自治体向けの「ワクチン接種記録システム(VRS)」で、マイナンバー法の例外規定を初めて適用しマイナンバーを利用すると報じられた(日経XTECH)。こうした番号を使って管理するのは異なる市区町村が住民らの接種履歴を迅速に把握することが目的としている。マイナンバーはこれまでは主に納税などで利用されていたが、いよいよそれ以外の用途での利用も始まるのかと感じる。

 また、ワクチンの接種を証明する方法として、国際航空運送協会(IATA)のスマートフォン向けの新型コロナウイルス感染症対策アプリ「IATAトラベルパス」の実証実験にANAが参加すると発表している(日経XTECH)。この記事によれば、「IATAトラベルパスは、ユーザーの新型コロナ検査履歴やその結果、ワクチンの接種履歴などをデジタル証明書として記録し、搭乗手続きや出入国手続きの際に係員へ提示する」ということが想定されているようだ。

 また、マイナンバーカードの健康保険証としての運用も開始された(NHK)。3月4日から利用できるのは11の都府県の合わせて19カ所の診療所や薬局と限定的だ。医療機関での機器の導入コスト問題、利用者によっての利便性の向上、さらには診療記録が有効に利用されることの価値が認識されることが、さらなる普及のための鍵となりそう。

 そのようななか、神戸市は独自に構築した「ヘルスケアデータ連携システム」の運用成果などに関する記者説明会を開催したと報じられている(ASCII.jp)。個人を特定できるデータ(氏名や生年月日、住所など)を削除したうえで、研究用データセットとして学術機関に提供可能にするという意欲的な取り組みといえよう。

 医療や介護の分野では埼玉県と埼玉県産業振興公社による「埼玉県社会課題解決型オープンイノベーション支援事業」についての記事も紹介しておこう。アバターロボットや小型無人搬送車を用いた自動運転など、意欲的な事業創出に取り組んでいるが、ここで紹介するのは「医療・介護現場での有益な歩行評価を可能にする自動歩行計測システムの開発」についてである(INTERNET Watch)。ロボティクスやAI技術を活用し、高齢者の生活支援や病気になる前の未病対策などでの活用を目指すとしている。

ニュースソース

  • 「ワクチン接種」にマイナンバーの例外規定を初適用、番号の利点示せるか[日経XTECH
  • ANAがワクチン接種記録アプリに参加、国際線で6月までに実証開始[日経XTECH
  • マイナンバーカード 健康保険証としても利用可に 本格運用へ[NHK
  • 神戸市、市民ヘルスケアデータの学術活用に向けたシステムを構築[ASCII.jp
  • 歩く姿を分析して病気を発見! AIとロボティクスが融合した「自動歩行計測システム」とは? 「歩くだけ」で病気発見を目指す、人を追尾するロボット[INTERNET Watch

3.[ビルディング]活発な実証実験が進む建設テック分野

 建設分野においては、労働人口の減少傾向が長期的に続くことなどにより、新たな建築現場はもとより、既存建築物の維持管理作業などに従事する人員不足が今後もますます深刻化するという。それを解決するためのさまざまな取り組みも活発だ。

 鹿島建設とPreferred Networks(PFN)は建築現場で使用するロボットが現場内を自律移動するためのシステム「iNoh(アイノー)」を共同開発したと発表した(TechCrunch日本版)。GNSS(全球測位衛星システム)や人による事前設定がなくても、各種のロボットがリアルタイムに自己位置や周辺環境を認識して、工事の進ちょくに合わせて状況が変化する現場内を安全かつ確実に移動できる技術である。

 東京大学発の建設テックベンチャー企業ARAV(アラヴ)は建設機械向けの自動制御システムの開発に乗り出す(ITmedia)。東大系ベンチャーキャピタルの東京大学協創プラットフォーム開発から6300万円の出資を受けた。今後、「土砂の積み込みや輸送などの単純かつ反復作業の多い現場作業の効率化につながる自動制御システムの早期製品化」を目指すとしている。

ニュースソース

  • Preferred Networksと鹿島建設が建築現場用ロボ向けAI搭載自律移動システム開発、GNSS計測不可の屋内も対応[TechCrunch日本版
  • 建機向け自動運転システム、東大発建設テックベンチャーのARAVが開発へ[ITmedia

4.[オートモーティブ]自動運転車やロボットでの輸送技術の動向

 さまざまな情報通信基盤や要素技術が充実してきたこと、そして社会的な要請から自動運転に向けた動きが顕著である。

 注目すべきニュースとして、ソニーが電気自動車「VISION-S」の施策車両を3月28日より東京世田谷区のFUTAKO TAMAGAWA riseで開催される「EV:LIFE 2021 FUTAKO TAMAGAWA」で日本初公開する(CNET Japan)。昨年の1月、米国の展示会「CES2020」でお披露目されてから大きな話題となっていた。記事によれば「公道走行可能車両は、2020年12月に完成しており、すでに欧州において走行テストを実施。今後も車両開発を継続し、他の地域においても順次走行テストを実施する計画」ということだ。

 また、デンソーとKDDIは5Gを使った自動運転の共同検証を開始するという(ZDnet Japan)。デンソーの研究開発拠点「Global R&D Tokyo, Haneda」のテスト路に5Gの通信環境を整備し、高精細車載カメラ、路側センサーなどによる自動運転車両に関する技術を検証するとしている。

 経済産業省や国土交通省も人が運転する先頭車のトラックを2台の無人トラックが連なって走行する「隊列走行」の実験を静岡県内の新東名高速道路で行った(朝日新聞デジタル)。「時速80キロで約9メートルの車間を保ち、約15キロの距離を走」り、「先頭車のコースから50センチ以上ずれることがなかった」と報じられている。こうした技術により、運転手不足の解消、隊列を組むことで風の抵抗の減少し、燃費が向上することなどが期待されている。

 消費者向けとしては、楽天、西友および横須賀市が自動配送ロボット(UGV)でスーパーマーケットで購入した商品を自宅まで配送するサービスを期間限定で実施する(Impress Watch)。使用される自動配送ロボットはパナソニック製で最高速度は時速4km、本体サイズは115×65×115cm(長さ×幅×高さ)、重量は30kgとなっている。

 そして、市販車の技術も進んできた。本田技研工業(ホンダ)は「レベル3」相当の自動運転を実現した乗用車「LEGEND Hybrid EX・Honda SENSING Elite」(レジェンド)を発表した(ITmedia)。これまでのレベル1、レベル2の運転支援から一歩進んだレベル3相当の実用化は世界初であるということだ。

ニュースソース

  • ソニー、自社開発EV「VISION-S」の試作モデルを国内で一般公開へ[CNET Japan
  • デンソーとKDDI、自動運転に5Gを活用する共同検証を開始[ZDnet Japan
  • トラックの隊列走行運転に成功 運転者不足解決に期待[朝日新聞デジタル
  • 「自動運転レベル3」対応レジェンド 検証走行は130万km、世界初となる実用化の舞台裏[ITmedia
  • 楽天と西友、ロボットでスーパーの商品を自動配送。横須賀市で国内初[Impress Watch

5.[セキュリティ]有名企業からの大規模情報漏えいが続く

 今週は有名企業からの個人情報漏えいが続けて報じられている。

 スイスに本社を置く国際的な企業SITA社(世界の航空会社、旅行代理店に対してネットワークや業務用アプリケーションなどのサービスを提供する企業)がサイバー攻撃を受けたことにより、ここからANA(トラベルWatch)やJAL(トラベルWatch)のマイレージ会員の情報が漏えいした。漏えいしたのはアルファベット表記の氏名、マイレージ番号、ステータス情報とされているが、該当する人は留意が必要だろう。

 また、SMBC日興証券とSMBC信託銀行では「合計11万8764件の個人情報が外部から閲覧可能な状態になっていた」いうことが報じられている(ITmedia)。原因はCRMのソリューションであるセールスフォースのアクセス権限設定の不備だという。同様な運用上の不備はこれまでも報じられている事例があり、他の利用企業でも再確認と留意が必要だろう。

 アパレル事業を手掛けるアーバンリサーチでは同社のECサイトへの不正アクセスがあったと報じられている(ITmedia)。流出した可能性がある情報はこのサイトに会員登録されていたユーザーの住所、氏名、電話番号、メールアドレス、生年月日、会員IDなど31万7362人分とみられる。

 警察庁では「去年1年間に国内で確認されたサイバー攻撃に関係するとみられる不審な通信は一日当たりおよそ6500件と、これまでで最も多くなった」としている(NHK)。

 そもそも金融機関のような基幹産業にある企業からの情報漏えいは許されないこととして、さらに厳しい運用を求めたいところだ。それ以外の分野でも、もちろん理想は情報が漏えいしないような運用をしてもらうことだが、消費者としては情報が漏えいすることは不可避と考えたうえで、そうしたリスクへの対応を念頭におくべき段階か。しかし、流出した情報を紐付けられると、個人のプライバシーはリアルに把握されてしまうことにもなりかねない。

ニュースソース

  • サイバー攻撃か 不審な通信が去年は過去最多 警察庁[NHK
  • ANAマイレージクラブの会員情報の一部が漏洩、SITA社にサイバー攻撃[トラベルWatch
  • JALマイレージバンクの会員情報の一部が漏洩、SITA社にサイバー攻撃[トラベルWatch
  • SMBC日興証券・信託銀行に不正アクセス、個人情報約12万件が流出か Salesforce製品に設定ミス[ITmedia
  • アーバンリサーチの公式ECサイトに不正アクセス 会員情報約32万件が流出した可能性[ITmedia
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。