中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2021/4/15~4/22]

国際化するデジタル社会と行政府の対応 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 国際化するデジタル社会と行政府の対応

 LINEが保持する個人情報に対して、国外の協力会社からアクセスが行われていたことや、国外にあるサーバーに情報が蓄積されていたことが問題視されたことについて、武田総務大臣はLINEから「LINEの個人情報管理に関する一連の事象」についての報告を受け、今後必要な対応を行っていくという考えを示した(ケータイWatch)。国境のないネットワーク上において、大規模なサービス事業者がどのような管理体制を取るべきか、また、利用者にどのように周知すべきかということについて、さらに検討が進むものと思われる。もちろん、ユーザーであるわれわれもその意味を理解する必要がある。

 また、楽天グループが中国企業から出資を受け、同社の大株主になった事象を踏まえ、日米両政府が経済安全保障の観点から楽天グループを共同で監視する方針を固めたと報じられている(ITmedia)。記事によれば、「外為法では安全保障にかかわるサイバーセキュリティーや通信などの分野で外国の企業と投資家が国内企業に1%以上出資する際、事前届け出を求めている」が、楽天はこの出資は「資産運用目的で経営に関与しない『純投資』」であるとし、事前届け出の「免除」に該当すると説明をしている。しかし、楽天は米国でも関連事業を手掛けていることも考慮して、楽天の情報管理の実態を継続的にチェックし、米国当局とも意見交換をする方針だとしている。経営的な体力として国際的な競争力を高めることとは必要なことだが、日本の情報インフラの健全性との整合をどう取るかは今後の課題といえよう。

 そして、先ごろ開催された菅義偉首相と米バイデン大統領の首脳会談において、「5Gの安全性についてやBeyond 5Gについて、新たな枠組みを立ち上げることを含め連携していく」と合意された。この合意では「Beyond 5Gに日米で45億ドル投資する」とされていて、総務省は「世界シェア3割の獲得を目指し、2020年度の補正予算でNICTに300億円の研究開発基金を創設し、当面5年間で1000億円超のBeyond 5G研究予算の確保を目指していく」という方針も示している(ケータイWatch)。

ニュースソース

  • 「LINEの報告は精査中、今後対応していく」武田総務相がLINEに対する今後の方針をコメント[ケータイWatch
  • 日米が楽天グループを監視 中国企業株主で両国の情報流出を警戒[ITmedia
  • 武田総務相、5Gに関する日米首脳間の連携合意に「極めて有意義」と評価[ケータイWatch

2. 通信事業者と大学の共同研究の発表が相次ぐ

 4月に入り、通信事業者とアカデミアとの共同研究計画の発表が目立つ。ここでは今週の記事から注目しておくべき話題を紹介しておく。

 KDDI総合研究所は南カリフォルニア大学と「XR分野のコア技術のひとつであるフィジカル空間再現に関する最先端の研究成果」を目指す(マイナビニュース)としている。

 ソフトバンクは九州大学とともに「新型コロナウイルス感染症に関する共同研究をはじめとして、SDGsの取り組みに関する研究や、DXの実現に向けて互いのリソース(研究・人・設備など)を生かした新たな共生モデルの構築」を目指す(ケータイWatch)としている。

 楽天モバイルは東京工業大学と連携し「『Beyond 5G』を見据えたエッジクラウドコンピューティングに関する研究開発」(ITmedia)、筑波大学とは「5Gを活用した新たなビジネスモデルなどの研究開発」(ケータイWatch)の計画を発表した。

 NTTドコモは神戸大学と「医療用ロボットを開発するメディカロイドの国産初の手術支援ロボット『hinotori サージカル ロボットシステム』を、商用5Gで遠隔操作する世界初の実証実験を開始した」ことを発表した(CNET Japan)。

ニュースソース

  • KDDI総研、XRに関する研究を南カリフォルニア大学と共同で開始[マイナビニュース
  • ソフトバンクと九州大学が連携、新型コロナに関する研究など行う[ケータイWatch
  • 楽天モバイルが「Beyond 5G」に向けたエッジクラウドコンピューティングを研究開発 東京工業大学と連携[ITmedia
  • 楽天モバイルと筑波大学が「5G体験デザイン特別共同研究事業」を開始[ケータイWatch
  • 神戸大とドコモ、手術ロボ「ヒノトリ」を5Gで遠隔操作する世界初の実証実験に成功[CNET Japan

3. ウェアラブルデバイスで新型コロナ感染を予測?!

 アップル社、ワシントン大学医学部、感染症研究プロジェクトSeattle Flu Studyが連携し、Apple Watchで新型コロナウイルス感染症などの呼吸器疾患を検出できるかどうかの研究を開始したと報じられている(Engadget日本版)。こうしたウェアラブルデバイスによる健康管理、とりわけ新型コロナウイルス感染症の感染や発症を予測する研究はすでにいくつかのプロジェクトで取り組まれているので、これ自体は決して目新しい話題ではない。しかし、ウェアラブルデバイスの新型では次々に新たなセンサーが搭載される傾向にあり、多様な情報が取得できることから、予測の信頼性も格段に上がっていくことになるとみられる。さらに次期Apple Watchでは血糖値測定機能が搭載されるといううわさもあり、新型コロナウイルス感染症はもちろん、それ以外の疾病の検知や管理も可能になるとみられる。

 バイタルを計測する技術が高まることはプライバシーについての懸念も生じる一方、「病気の早期発見により医療費が大幅削減される」というメリットがあるとされている。もちろん、日本においても医療費の負担は大きな社会的な課題であることは変わりなく、多くの研究組織での研究や制度の整備が進むことを期待したい。

ニュースソース

  • アップル、Apple Watchで新型コロナ感染予測ができるか研究を開始[Engadget日本版

4. アマゾンの低軌道衛星プロジェクト「Project Kuiper」

 Project Kuiperは3200基以上の低軌道衛星を打ち上げて最大400Mbpsのインターネット接続を可能にする衛星コンステレーションを構築する計画だ。衛星を利用するインターネットインフラとしてはスペースXやワンウェブなどが先行している。Project Kuiperでは衛星打ち上げのために、9機のロケットを確保したと報じられている(CNET Japan)。これはロケット打ち上げサービスUnited Launch Alliance(ULA)との提携によるものとされている。

 インターネットインフラは途上国など、まだまだ整備されていない地域が地球上に存在している。衛星を利用することで一気にカバーエリアを拡大できることが期待される。宇宙というとわれわれ一般人には現実的なイメージを持ちにくいのだが、こうしたインフラ整備が大資本を背景に競争が進みつつあることを再認識した。

ニュースソース

  • アマゾンの衛星ブロードバンド計画「Project Kuiper」、9機のロケットを確保[CNET Japan

5. アップルが新製品を発表――M1チップ搭載iPad ProとiMac、そしてうわさのAirTagなど

 日本時間の4月21日にアップル社は新製品を発表した。同社の独自プロセッサ「M1」をiPad Pro(ケータイWatch)とiMac(PC Watch)で採用した。気になる性能の評価についてはベンチマークテストの結果が各メディアから発表されることになるだろう。

 また、これまで何度もうわさになっていた忘れ物防止タグ「Air Tag」が発表された(ケータイWatch)。macOSやiOSに内包される「探す」アプリで、その場所を探し出せる忘れ物防止タグだ。バッグや財布などの貴重品に装着することで、捜索する助けとなる。これまでも類似な機能の製品は他社からもいくつか発売されていたが、こうして純正の製品・機能として提供されたことで、ここからさらなる市場の拡大が期待される。また、どう利用するかの工夫もいろいろと出てきそう。

 そのほか、iPhone 12の新色であるパープルと(ITmedia)、Apple TV 4K(ケータイWatch)もあわせて発表されている。

 そして、近々リリースが予定されるiOSの新バージョン「14.5」ではApple WatchとiPhoneを併用することで、マスクをしていてもロックが解除できる機能が付加される(ケータイWatch)ようだ。Apple Watchが必要というところがハードルだが、出口が見えないコロナ禍において、当面は需要が高そうな機能といえそう。

ニュースソース

  • 5G対応、M1チップ搭載の新型「iPad Pro」発表[ケータイWatch
  • Apple、M1搭載で超薄型になった「iMac」[PC Watch
  • iPhone 12に新色「パープル」 4月30日発売[ITmedia
  • アップル、忘れ物防止タグ「AirTag」発表[ケータイWatch
  • 次世代「Apple TV 4K」は「iPhone」でカラーバランスを自動調整[ケータイWatch
  • 「iOS 14.5」は来週登場、Apple Watchでマスク着用中でもiPhoneのロック解除[ケータイWatch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。