中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/7/20~7/26]

JASRACが「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」を発表 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. JASRACが「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」を発表

 生成AIの著作物への影響が懸念されるなか、日本音楽著作権協会(JASRAC)が「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」という声明を発表した(Impress Watch)。

 4項目からなり、「人間の創造性を尊重し、創造のサイクルとの調和を図ることが必要」「フリーライドが容認されるとすればフェアではない」「AIには国境がなく、国際的な調和を確保すべき」「クリエイターの声を聴き、懸念の解消を図るべき」と主張している。

 このなかで注目しておきたいのは「著作権法第30条の4の規定によって、営利目的の生成AI開発に伴う著作物利用についてまで原則として自由に行なうことが認められるとすれば、多くのクリエイターの努力と才能と労力へのフリーライド(ただ乗り)を容認するものにほかならず、フェアではない」とする部分だ。いま行なわれているようなAIによるコンテンツの学習、すなわち学習した内容をもとにした“作品”の生成を前提とするコンピューターによる著作物の読み込みは「著作権法第30条の4」が想定していたことなのかどうかについての課題を投げ掛けていて、容認するということは「フリーライド」を容認するものにほかならないとしている。

ニュースソース

  • JASRAC、生成AIのフリーライドに懸念[Impress Watch

2. 米ホワイトハウスとIT企業7社が「自主的な約束」を交わす

 米ホワイトハウスは、人工知能関連のリスク軽減に取り組むというIT企業7社と「自主的な約束」を交わした(CNET Japan)。

 バイデン大統領は「Amazon、Microsoft、Meta、Google、OpenAI、Anthropic、Inflection AIとホワイトハウスで会合し、AI技術開発において『安全性、セキュリティ、信頼性』を重視することで合意を得た」と発表している。そして、各社とも「自主的な約束」への支持を表明している。

 また、バイデン政権は「AIから『米国人の安全性を確保する』ための大統領令の作成と超党派での法整備も進めている」とし、「米行政管理予算局は、AIシステムを調達または利用するすべての連邦機関に対するガイドラインを発行する予定だ」とも伝えられている。

 グーグルの声明文では「私たちは誰も、自分だけでAIを正しく理解することはできません。Googleは、他のAI企業と協力してこれらの取り組みを支援し、情報とベストプラクティスを共有することを約束します」としている(グーグル)。

ニュースソース

  • グーグル、マイクロソフト、アマゾン、Metaら、責任あるAI開発を米政府に約束[CNET Japan
  • 大胆かつ責任ある AI への共同の取り組み[グーグル

3. メディア企業との関係を模索するOpenAI

 米ニューヨークタイムズが報じたところによると、グーグルがニュース記事を生成できるAIツールをテストしているということだ(CNET Japan)。

 「現在起きている出来事に関する情報を収集し、ニュース記事を作成できる。(中略)Googleはこれを、人間が書く記事に取って代わるものではなく、ジャーナリストの補助ツールとして売り込んでいる」という。そうはいっても、もし実用化されるとなれば記者の仕事には大きな影響があるに違いない。

 一方、OpenAIは全米の非営利ニュース団体に助成金を提供する慈善団体「American Journalism Project(AJP)」と提携したと報じられている(Gizmode)。記事によれば「AIツールがどのようにローカルニュースに役立てるかを探求するため」というのがOpenAIの意図であるという。

 7月13日には、OpenAIはAP通信とのライセンス契約を結んだことが報じられているが、メディア企業との関係を強化する狙いがあるのだろうか。確かに、メディア企業にとっては大きな影響を受ける技術ではあるし、技術側からすれば学習するための情報を多く保持していることは魅力だろう。生成AIのニュース記事での実用化は意外と早いかもしれない。

ニュースソース

  • グーグル、ニュース記事を作成するAIツールを開発--大手メディアに売り込み[CNET Japan
  • OpenAI、米ジャーナリズム慈善団体に500万ドル提供。その狙いは?[Gizmode

4. 生成AIで映画産業はどのように変わるのか――ストライキの影響広がる

 ハリウッドでは米俳優組合や全米脚本家組合がストライキを実施している(ITmedia)。生成AIが脚本を書き、俳優は生成された動画によって置き換えられてしまうのではないかという危惧だ。仕事量だけでなく、報酬の問題にも直結する。加えて、俳優の場合、肖像権の問題もある。俳優の死後もその俳優が新しい作品に出続けることも不可能ではなくなる未来だ。

 すでに、ストライキの影響で新しい作品の撮影にも影響が生じているともいうが、この交渉は世界の同じ産業の先例になるともみられることから、今後の動向には注目が集まる。

ニュースソース

  • AIに“役”を奪われる──ハリウッドの俳優組合がストライキ AIに危機感強める俳優や脚本家たち[ITmedia

5. 「Twitter」から「X」へ――事業領域拡大の意思表示か

 Twitterは名称が「X」に変わった(ケータイWatch)。すでに、ウェブ版の画面ではロゴマークが変わっている。執筆時点ではiOS版アプリのアイコンは変わっていないようだが、時間の問題だろう。

 このサービス名称の変更の意図をヤッカリーノCEOがツイートしている。それによれば「オーディオ、ビデオ、メッセージ、金融を中心とし、相互にアイデアや商品、サービス、グローバルなマーケットプレイスを想像するなど無限の可能性を秘めた状態」ということだ(ケータイWatch)。つまり、総合的なプラットフォームとして事業拡張をしようという狙いがあるとみられる。

 サービス名称だけでなく、ドメイン名にも影響がある。現在のところ、「twitter.com」はそのまま使え、「x.com」と入力すると「twitter.com」に転送されるようになっている。さすがにドメイン名まで変更するのは影響が大きすぎるか。ところで、このドメイン名だが、どう入手したのかという経緯が記事になっている(INTERNET Watch)。「『X.com』は1999年にイーロン・マスク氏によって創設されたオンライン銀行の名称で、その後ライバル会社と合併を経て名称をPayPalに改めたという経緯がある。マスク氏は2017年になってこのドメインをPayPalから買い戻し、その後は一時期を除いて放置状態にあった」という。また、1999年にイーロン・マスク氏が取得する前には他の人が利用していた記録がWayback Machineに記録されている。

 ちなみに、イーロン・マスク氏の「X」好きの経歴も記事になっていいる(Forbes JAPAN)。こだわりの名前というわけだ。

ニュースソース

  • Web版Twitter内のロゴも「X」に[ケータイWatch
  • TwitterがXに、ヤッカリーノCEO「Xは音声・動画、メッセージング、金融を軸にした双方向の世界」[ケータイWatch
  • 「X.com」ドメインはどこから来た? Twitterへの転送開始でサイトのこれまでの経緯が注目される[INTERNET Watch
  • 「X」ブランドに固執するイーロン・マスク[Forbes JAPAN
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。