中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/7/27~8/2]

生成AIを駆使して書かれた書籍とはどのような内容なのか ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 生成AIを駆使して書かれた書籍とはどのような内容なのか

 AIを専門とするプログラマーで、ギリア株式会社の創業者である清水亮氏がWirelessWire Newsに「生成AIで執筆時間を大幅短縮。果たして『書く』とはどういうことか?」という記事を寄せている(WirelessWire)。

 7月26日に著書「教養としての生成AI」が幻冬社から発売され、8月には「検索から生成へ」がエムディーエヌコーポレーションから発売されるという。もちろん、その本の内容も気になるのだが、もっと気になるのは、これらは清水氏がAIを駆使して書いたというところだ。

 記事によれば「ChatGPTがほとんど書いた」という。「執筆時間は10時間ほどで、そのうち半分はChatGPTを使って僕が書いたプログラムが、インターネットを検索して情報を拾ってきて集約し、本の形にしていくという形式で行われた」と、その執筆プロセスの概略を述べている。もちろん、生成AIが中途半端に生成した文章をそのまま載せているわけではないだろう。完全に自分の手の代わりのツールとして使っているに違いないのだ。記事中でも「ChatGPTを使うと、タイプする絶対数が減る」と感想を述べている。つまり、キーボード(IMEの代わり)というわけか。まさに、生成AIのなんたるかを理解し、技術的にも使いこなせる人による成果の1つといってよいのではないだろうか。

 そして、清水氏は「ChatGPTを使って本を書く、もしくはChatGPTによって書かれた本を読んだ人はどのような感想を抱くのか。正直反応を見るのが怖い。今のところ、評判は上々のようだが、僕としてはどこか他人の仕事のようにも感じている部分がある。簡単に言うと、この本に愛着を持てない」とも書いている。そう言われると、ぜひ読んでみたくなる。

ニュースソース

  • 生成AIで執筆時間を大幅短縮。果たして「書く」とはどういうことか?[WirelessWire

2. 米国で進む、さまざまな分野の企業間連携

 これは偶然ではなく、あるトレンドなのだろう。今週、米国の大手IT企業が3つの分野でそれぞれ連携を進める動きを発表している。

 まず、ピクサー、アドビ、アップル、オートデスク、NVIDIAの5社がLinux Foundationの関連団体Joint Development Foundation(JDF)と、ピクサーの開発したUniversal Scene Description(USD)技術の標準化を目指す「Alliance for OpenUSD」を発表した(Impress Watch)。これは3Dエコシステムの標準化を目標としたアライアンスで、3Dツールやデータの相互運用性を高める狙いとしている。

 さらに、アマゾン、メタ、マイクロソフト、トムトムが2022年に立ち上げたOverture Maps Foudationが初のオープンマップデータセット「Overture 2023-07-26-alpha.0」をリリースした(ITmedia)。

 そして、アンスロピック、グーグル、マイクロソフト、OpenAIは、安全で責任あるAI開発に向けた業界団体「Frontier Model Forum」を立ち上げると発表した(Impress Watch)。

 大手企業が技術標準化、共通の利益のために企業が手を組むニュースが続いたのは、より競争領域と非競争領域を仕分けて、よりスムーズな技術革新を進める狙いがあるのではないだろうか。または、国際競争を念頭に置いた経済政策的な意味もあるのかもしれない。

ニュースソース

  • 3Dコンテンツのオープン標準に向け、PixarやAdobe、アップル、NVIDAらが協力[Impress Watch
  • Amazon、Meta、Microsoft、TomTomのオープン地図団体、初のマップデータセットをリリース[ITmedia
  • Google、MS、OpenAIらが責任あるAI開発に向けた業界団体[Impress Watch

3. 生成AIに対抗したり、牽制したりする新技術

 生成AIの可能性は誰しもが理解できるが、同時にそこに含まれるリスクに対する懸念はぬぐいきれない。しかし、そうしたリスクも新しい技術の研究開発によって抜本的に解決したり、あるいはなんらかの牽制するような効果をもたらすことになるのかもしれない。

 まず、米メリーランド大学の研究者らが発表した論文「A Watermark for Large Language Models」では、大規模言語モデル(LLM)が出力するテキストに対して電子透かし(ウォ―ターマーク)を入れるフレームワークを提案している(ITmedia)。「電子透かしは、テキストの品質にほとんど影響を与えず、人間には見えない形式で埋め込める。さらに、言語モデルのAPIやパラメータにアクセスせずにも、効率的なオープンソースのアルゴリズムを使って検出できる」という技術だ。AIによって生成された証拠を保持することになるとみられる。

 MITの研究チームが開発した技術は「目に見えない変化を写真に加えることで生成AIを混乱させ、画像の改変を防ぐ」というものだ(MIT Technology Review)。つまり、自分の画像をSNSにアップロードする前に、こうした処理をすることで、フェイク画像のネタにされないようにする技術といえそうだ。

 パナソニックは「画像認識AIの“知ったかぶり”を防ぐ新技術」を開発した(ケータイWatch)。この技術では、「AIモデルが認識結果にどれくらい自信を持っているか(不確実性)を推定する」というもの。「(AIが)学習した既知の物体」と「学習していない未知物体や誤分類」を分離させることができるということから、分からないものに対して、自信満々に反応することを阻止しようというわけだ。

 こうした研究は各所で行われているとみられるが、生成AIそのものに取り入れられたり、ユーザーが自分を守るために利用したりすることで、健康的な技術発達の一歩となることが見込まれる。

ニュースソース

  • AIが書いたテキストに“電子透かし”を入れる技術 人に見えない形式で埋め込み 米国チームが開発[ITmedia
  • 生成AIによるディープフェイクを防げ、MITが新手法[MIT Technology Review
  • パナソニック、画像認識AIの“知ったかぶり”を防ぐ新技術[ケータイWatch

4. 文化庁長官の諮問機関、AIで生成された文章や画像などの扱いの検討を開始

 日経クロステックによれば、文化庁長官の諮問機関である文化審議会著作権分科会法制度小委員会において、「生成AI(人工知能)の利用が急拡大していることを踏まえ、AIで生成された文章や画像などの扱いを検討。著作権法などの改正につなげていく」とする議論が始まるという(日経XTECH)。文化庁著作権課は「(1)学習用データとして用いられた元の著作物と似たAI生成物を利用する場合の著作権侵害(2)学習済みAIを作成するための著作物の利用(3)AI生成物の著作物性」という3点の論点を提示した。そして「生成AIに関しては利用が急速に拡大していることを踏まえ、仮に全ての論点で合意形成に至らなくても、合意形成できた一部の論点のみで法案提出に向けたプロセスを進めたい」との意向を持っているとされる。

 コンピューターによる著作物の読み込み(非享受利用)については著作権法での規定ができたものの、急速に技術向上する生成AIの学習に当てはめたとき、どのようなときに著作権者の利益を不当に侵害するものと判断するのかという課題も指摘される。そして、学習結果から生成された結果に対する著作権的な判断をすることは難しい。

 こうした議論を通じ、時代に即した対応をし、産業面でも萎縮せずに、かつ新たな価値が生み出せる環境を作る必要があるだろう。

ニュースソース

  • 著作権法での生成AIの扱い、文化審小委が検討開始[日経XTECH

5. 日本ブロックチェーン協会、暗号資産に関する税制改正の要望を政府に提出

 日本ブロックチェーン協会(JBA)が日本政府に対して、2024年版の暗号資産(仮想通貨)に関する税制改正の要望を提出した(NFT LABO)。

 JBAは、現在の暗号資産の税制が日本におけるWeb3(分散型ウェブ)事業の成長を阻害していると主張し、次の3点を要望している(日本ブロックチェーン協会)。

  1. 第三者発行トークンに対する期末含み益課税の撤廃
  2. 個人の暗号資産取引に対する課税方法を申告分離課税に変更し、税率を一律20%に
  3. 暗号資産同士の交換時の都度利益に対する所得税課税の撤廃

 いろいろな意味で、政策的な話題も生成AIに集まっているように感じるが、ブロックチェーンは有用な技術であり、引き続き、この分野での議論を進めることは必要だろう。

ニュースソース

  • 日本ブロックチェーン協会、暗号資産税制改革の提言 – 日本経済の革新を求めて[NFT LABO
  • 暗号資産に関する税制改正要望(2024年度)[日本ブロックチェーン協会
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。