中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/8/3~8/16]

日本の中枢機関へのサイバー攻撃 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 日本の中枢機関へのサイバー攻撃

 米国の新聞大手ワシントンポストが8月7日(現地時間)に報じたところによると、「米政府の元高官への取材により、中国人民解放軍のサイバースパイが2020年に日本の防衛ネットワークに侵入していたことが分かった」という。「米政府の高官は急きょ日本に駆け付け、脅威について情報共有した」とされる(ITmedia)。これを受け、松野博一内閣官房長官が8月8日の定例会見で「報道は承知している。サイバー攻撃により防衛省が保有する機密情報が漏えいした事実は確認していない」とコメントしている(ITmedia)。

 国際情勢を見れば、物理的な攻撃がなくても、ネットワーク上では目に見えない攻撃もあるということを認識すべきだろう。

 また、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)では、8月4日に同センターの「メール関連システムに対する不正な通信が確認され、個人情報を含むメールデータの一部が外部に漏えいした可能性がある」と発表した(INTERNET Watch)。この不正な通信が何を指しているのか分からないが、日々、こうした不正のリスクにさらされている。

 そして、こうした事案について、あまりメディアで取り上げられていないこと、つまり社会的に共有されていないことも不安になる。マイナンバーやそのひも付けの問題について、それなりに話題にされているにもかかわらずだ。もはやネットワークでの情報漏えい事案には慣らされてしまったのか。それとも目に見えないことは理解しにくいということか。

ニュースソース

  • 中国軍、日本の防衛ネットワークへ侵入していた可能性 米紙報道 2020年に「日本史上最も有害なハッキング」[ITmedia
  • 中国から日本へのサイバー攻撃「機密の漏えい確認していない」 官房長官・防衛大臣が報道にコメント[ITmedia
  • 内閣サイバーセキュリティセンターでメールデータ漏えいの可能性、不正な通信を確認 原因はメール関連機器における未確認の脆弱性[INTERNET Watch
  • NISCで情報漏えいの疑い、JPCERT/CCは立場と見解を説明[ZDnet Japan

2. 生成AIの出力を検証する技術とは

 生成AIの出力に誤りがしばしば含まれることはすでに指摘されているとおりだが、これを検出しようという技術開発も行われている。中国の上海交通大学やMeta AIなどに所属する研究者らが発表した論文では、「生成コンテンツに対して、真実ではないかもしれない要素を複数抽出する。次に、各要素をクエリのリストに変換する。これらのクエリから、Google検索、Google Scholar、Code Interpreterなどに投げて、関連する証拠文を収集する。そして最後に、収集した証拠を用いて、各要素の事実性を評価」するという手法だ(ITmedia)。

 いずれこうした研究が積み重ねられ、生成と何らかの方法による検証をワンパッケージで実施して回答するAIなどというものも現れるのか。

ニュースソース

  • 生成AIの文章やコード、論文が“事実か”チェックする技術 米Meta含む研究者らが開発[ITmedia

3. 音楽レーベルがInternet Archiveを提訴

 Internet Archiveはデジタルアーカイブのあり方やそのサービスの提供の仕方をめぐり、出版社から提訴されているが、今度は音楽レーベルから提訴されている。

 Internet Archiveでは数年前から古いSP規格で発売されていたアナログレコードをデジタル化する「Great 78」というプロジェクトを実施していているが、それに対して、ソニー、ユニバーサルなどの複数の音楽レーベルはInternet Archiveが音楽著作権を侵害しているとして提訴した(TECHNO EDGE)。

 記事によれば、Internet Archive側は「Great 78プロジェクトは、あくまで『78rpmレコードの発見、研究、保存』が目的」だと主張していて、レーベル各社は「これらの録音は既に音楽会社によって承認された数多くのサービスを通じてストリーミングやダウンロード販売などで提供されている」とし、さらには「記録媒体はともかく『録音物そのものは失われることも、人々から忘れられることも、破壊されることもない』」と反論している。

 おそらく、従来でいうところの図書館などの社会に根ざした公共サービスと、事業者が行う商用サービスとの立ち位置の違いが争点ということになるのだろう。

ニュースソース

  • ソニーら音楽各社、著作権侵害でInternet Archiveを提訴。SPレコード2749作品以上をデジタル化・公開[TECHNO EDGE

4. 定着してきたテレビ見逃し配信サービス

 民放公式テレビ配信サービス「TVer」は、2023年8月9日に配信されたバラエティ番組「水曜日のダウンタウン」(TBS系)の見逃し配信をもって、TVerで配信された全ての番組のなかで、初めて1億回再生を突破したと発表した(ENCOUNT)。また、2023年4月から6月の番組再生数ランキングトップ20も発表している。上位5位までは次のようになっている(TVer)。

1位:フジテレビ 木曜劇場「あなたがしてくれなくても」5481万
2位:TBSテレビ 火曜ドラマ「王様に捧ぐ薬指」3589万
3位:フジテレビ 月9「風間公親―教場0―」3056万
4位:日本テレビ 金曜ドラマDEEP「夫婦が壊れるとき」2914万
5位:TBSテレビ 日曜劇場「ラストマンー全盲の捜査官ー」2571万

 かつてはハードディスクレコーダーなどに予約録画していたが、予約なしでも見逃した番組を見られる配信サービスはかなり定着してきたということができる。逆に、リアルタイム視聴のスタイルは減少しているということか。メディア消費のスタイルが変わってきている。

ニュースソース

  • 『水曜日のダウンタウン』TVer初の1億回再生を突破 演出・藤井健太郎氏「誇らしいです」[ENCOUNT
  • 2023年4-6月 番組再生数ランキングトップ20を発表! ~第1位、フジテレビ 木曜劇場『あなたがしてくれなくても』TVerで5,480万回再生超~」[TVer

5. AIによる「学習」を禁止する動き

 米国の大手新聞社ニューヨークタイムズがオンラインサービスの利用規約を変更し、AIに記事や写真などを学習させることを原則禁止としたと報じられている(NHK)。「無断で機械学習やAIシステムに記事や写真などを学習させることを原則禁止し、違反した場合には民事や刑事などで責任が問われる可能性がある」と表明している。

 また、オンライン会議システムで知られるZoomは「『顧客の同意なしに』サービス上の音声、動画、テキストチャットのデータをAIモデルのトレーニングに使っていない」と公式ブログで説明し、利用規約にもその旨が追加された(ITmedia)。ビデオ会議の音声やビデオなどは、なんとなくどこかで記録されてはいるかもしれなとは思っていたが、AIでの学習に使われる可能性にまでは気が回らない。

 そうしたなか、OpenAIはクローラーでウェブのコンテンツを収集されないようにする方法を公開している(ITmedia)。「Webオーナーがrobots.txtにGPTBotを追加したり、IPアドレスを直接ブロックしたりしないと、ユーザーがWebサイトに入力するデータを含むWebサイトのデータがAIモデルのトレーニングデータとして収集される」ということも認識すべきだ。

ニュースソース

  • ニューヨーク・タイムズ AIによる記事などの学習を原則禁止に[NHK
  • Zoom、「顧客の同意なしに」ユーザーデータをAIトレーニングに利用しないと約束し、利用規約を更新[ITmedia
  • OpenAI、Webデータ収集クローラー「GPTBot」のブロック方法を説明[ITmedia
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。