中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2024/2/29~3/6]
コネクテッドTVでも「優越的地位の濫用」の懸念 ほか
2024年3月8日 19:00
1. コネクテッドTVでも「優越的地位の濫用」の懸念
コネクテッドTV(インターネットに接続したテレビ)で動画配信サービスを利用するユーザーはこの数年で大きく増加した。こうした市場変化を踏まえ、公正取引委員会は「基本ソフト(OS)を提供する米巨大IT企業アマゾンとグーグルが一方的な規約変更などによって配信事業者に不利益を与えた場合、独禁法が禁じる『優越的地位の乱用』に当たる」との認識を示した(時事通信、公正取引委員会)。
ここでいうコネクテッドTVには、インターネットに接続する機能を内蔵する「スマートテレビ」と、テレビ画面上で主に動画配信サービスの利用を可能とする機器であるスティック型の「ストリーミングデバイス」が含まれる。これらのデバイスでは、グーグルのAndroidやアマゾンのFire OSが大きなシェアを持っているところから、こうした認識を示すに至ったものとみられる。
これは、これまでのパーソナルコンピューターやスマートデバイスのOSやアプリケーションでも行われてきた議論と本質的には変わらないのだろう。つまり、こうした基盤となるソフトウェアが、動画配信事業者のコンテンツをメニューに表示する場合にも、どのような順番で表示するのか、おすすめやリコメンド機能での透明性はどうなのか、事業者が不当に排除されていないか、さらに配信プラットフォームを使う事業者やユーザーにとって不当な状況にならないのかということが懸念され始めているということだ。
2. 政府与党で進む「サイドローディング」の議論
スマートフォンのアプリストアなどが大手IT企業による寡占状態にあるとし、この状況を解消するための法案の検討が行われている。2月29日には自民党の競争政策調査会でその検討状況が示された(ケータイWatch)。具体的には「OS提供事業者以外のストアでアプリを導入する『サイドローディング』の義務付けや独自の課金システムの開放などを事業者に求める」ものだ。こうした論点の議論は日本だけでなくEUでも行われ、すでにアップルは「デジタル市場法」を受けてサイドローディングを認めている状況である。
CNETの記事によれば、「Appleが近くリリースする『iOS 17.4』は、(中略)欧州のユーザーを対象に、サードパーティーのアプリストアをダウンロードして、同社の公式『App Store』以外の提供元からアプリをインストールすることを許可する」と報じている(CNET Japan)。
この問題以外でも、欧州では米国の大手IT企業に厳しい規制を課している。一方、日本ではこれまであまりこうした問題がクローズアップされてこなかったし、どちらかというと、流通するサードパーティーのアプリの安全性を維持するためには、資金力を生かして、これまでのようにアップルやグーグルがアプリストアを管理する方がいいのではないかという意見も見られる。一方、決済に関しては、それぞれのプラットフォーマーのシステムに縛られ、かつ手数料がかかることを指摘するソフトウェアベンダーも少なくはない。
多くの人がスマートフォンでのアプリやコンテンツを利用するという状況で、健康的なビジネスモデルはいかにあるべきかという議論が続きそうである。
ニュースソース
- スマホアプリ「サイドローディング」義務付ける法案、課金システムも自由化[ケータイWatch]
- アップル、「iPhone」向けサードパーティーアプリストアに対するセキュリティ計画を公表[CNET Japan]
3. 欧州委員会、アップルの音楽配信に対して制裁金を課す
アップルが音楽ストリーミングアプリを配信するにあたり、支配的地位を濫用したとして、欧州委員会は18億ユーロ(約2900億円)を超える制裁金を科すことを発表した(Impress Watch)。
記事によれば「アップルがアプリ開発者に対し、アプリの外で利用可能な安価な音楽配信サービスをiOSユーザーに知らせることを妨げる制限(アンチステアリング条項/anti-steering provisions)を適用したことが、EUの独占禁止法違反である」ということを根拠としている。これにより「ユーザーが自分のデバイスで使用する音楽ストリーミングを、どこでどのように購入するか、十分な情報を得た上で効果的な意思決定を行なえないようにした」などの問題があるという。
一方、アップルは、「『最大の受益者はスウェーデンのストックホルムに拠点を置くSpotifyである』と声明を発表。Spotifyはヨーロッパにおける音楽ストリーミング市場で56%と競合の2倍以上のシェアを誇るが、そのベースがApp Storeである」としたうえで、「Spotifyは無料アプリのためAppleに何も支払っておらず、ストリーミングのサブスクリプションはWebサイトで行なっている」と反論し、不服として控訴するとしている(PC Watch)。
つまり、欧州のSpotifyは、アップルのプラットフォームの上でビジネスを成功させていて、そのユーザーも含めて、アップルによって何ら阻害されていないという主張だ。
ニュースソース
- EU、アップルに2900億円の制裁金 “音楽アプリ独占”にアップル反論[Impress Watch]
- 欧州委員会、音楽ストリーミング独禁法違反でAppleに約2,938億円の制裁金。Appleは「Spotifyが最大の受益者」と非難[PC Watch]
4. 放送法の一部を改正する法案が閣議決定される
放送法の一部を改正する法案が閣議決定され(総務省)、今後、国会に提出され審議が進むことになる。主な趣旨は、NHKのウェブでの番組配信が地上波放送と同じ「必須業務」に位置付けられ、受信契約の義務の範囲などが変わるということだ(ケータイWatch)。
すなわち、スマートフォンにNHK+のアプリをインストールしたり、コネクテッドTVやアマゾンのFire TV Stick、グーグルのChrome Castを使ってNHK+を視聴したりした場合などの受信契約の在り方に影響が出るものとみられる。放送の配信技術がデジタル化されることで、アナログ時代からの受信料制度は議論になることが多く、今回の改正案も国会での議論には注目が集まりそうだ。
5. 文化庁が「『AIと著作権に関する考え方』の素案」へのパブリックコメントを公表
文化庁は「『AIと著作権に関する考え方』の素案」(文化庁)についてパブリックコメント(意見公募)の募集を行っていたが、2月29日には、その結果が公表された(文化庁、文化庁)。この意見公募には、約2万5000件が寄せられている。ここに寄せられた意見は表形式でまとめられていることから、今後の議論の参考のためにも、多くの人にとって一読の価値がある。
その内容は、賛否両論がある。「今般の文化庁の素案は、クリエイターの懸念を考慮に入れつつ、事業者が配慮すべきリスク管理の視点を30条の4の基本的考え方をベースにしながら敷衍しており、極めて有益である」と好意的に捉える意見もあるが、「今回、文化庁著作権課がまとめた『AIと著作権に関する考え方について(素案)』は実務に非常に強い影響を及ぼすと考えられ、このような資料を公表することは時期尚早ではないか」と、このタイミングでの素案の取りまとめに懸念を示すものや、「本素案がこのまま確定することによって、権利者による現行の著作権法の拡大解釈が行われ、日本のAI開発に大きな萎縮的効果が発生することを強く懸念する」と、内容が踏み込みすぎているという懸念も見られる。
文化庁は「AIと著作権の関係については、今後も著作権侵害に関する判例等の蓄積や、AI関連技術の発展、諸外国における立法や検討の進展といった動きも想定されます。文化庁として今後も引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて、著作者人格権や著作隣接権とAIとの関係(俳優・声優等の声を含んだ実演・レコード等の利用とAIとの関係等を含みます)において検討すべき点の有無やその内容に関する検討を含め、本考え方の見直し等の必要な検討を行ってまいります」とまとめている。