中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/2/22~2/28]

アップルが電気自動車の開発から撤退? ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. グーグルが人物画像の生成を停止

 画像を生成するAIの問題が明らかになった。グーグルは、生成AI「Gemini(ジェミニ)」(旧Bard)の人物の画像生成を一時的に取りやめている(Impress Watch)。その理由は、「歴史的な画像生成の描写が不正確」ということだ。例えば、「『1943年のドイツ兵を描いて』と指示すると、ナチスドイツの制服を着た黒人やアジア人の画像が生成されたほか、米国の建国の父(Founding Fathers)の画像に黒人やネイティブアメリカンが含まれる」というようなことだ。

 この発表により、2月26日の米国株式市場ではグーグルの株価が大幅に下落し、「時価総額13.5兆円消失」と報じられた(Forbes JAPAN)。

 大手IT企業の間では、生成AIの技術開発競争が激しくなっているが、そのなかでのグーグルのつまずきは大きな失点となった。しかし、他の生成AIにもこれに類似する問題が内在していないという確証はない。あくまでも利用者の責任という側面もあるが、今後の各社の課題は学習と出力の品質の向上・担保ということではないだろうか。

ニュースソース

  • グーグル、Geminiの人物画像生成を停止「歴史的な人物の描写が不正確」[Impress Watch
  • 生成AI「Gemini」の失態でアルファベット株急落、時価総額13.5兆円消失[Forbes JAPAN

2. 電通が「2023年 日本の広告費」を発表

 電通が日本の総広告費と媒体別・業種別広告費を推定した「2023年 日本の広告費」を発表した(電通)。

 それによると、日本の総広告費は、過去最高の7兆3167億円(前年比103.0%)と、2020年にコロナ禍で大きく縮小したのち、3年連続で成長軌道に戻している。とりわけ、インターネット広告費は、3兆3330億円(前年比107.8%)となり、広告市場全体の成長をけん引している。そのほか、アフターコロナを象徴するように、プロモーションメディア広告費における「イベント・展示・映像ほか」は、前年比128.7%の高い伸びを示している。

 媒体別に見ると、インターネット広告費は、総広告費の45.4%を占め、マスコミ4媒体(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)の31.7%を大きく超過している。なかでも、動画サービスにおける利用者数・利用時間がともに前年に続き増加したことに伴い、動画広告が伸長したと指摘している。すでに、インターネットで配信される動画コンテンツはパソコンやスマートフォンだけでなく、テレビでも見るようになっていて、メディアとしてのさらに浸透が進んだといえる。

 なお、電通メディアイノベーションラボの北原利行氏がこの調査結果について、細かくコメントをしているので、数字の読み解きの参考になる(電通報)。

ニュースソース

  • 「2023年 日本の広告費」解説──新型コロナ5類移行が追い風となり過去最高を更新。コロナ禍で広告費はどう変わった?[電通報
  • 2023年 日本の広告費[電通

3. KDDI、Starlinkで南極昭和基地と8K映像のリアルタイム伝送に成功

 衛星通信網のStarlinkによる技術検証が進んでいる。KDDIと国立極地研究所は、南極昭和基地とKDDI総合研究所本社間でStarlinkを使った8K映像のリアルタイム伝送の実証実験に成功したと発表した(INTERNET Watch)。

 また、KDDIは、バルセロナで開催されている「MWC Barcelona」において、災害時の応用なども踏まえ、これまでのStarlinkでの取り組みの成果を発表し、「通信サービスが行き届いていない地域でも、高速で低遅延の通信を可能にする」という可能性について実証をしたとしている(ITmedia)。

 平時の地理的なカバーエリアだけでなく、さまざまな場面を想定した通信インフラの機動的な活用は、今後、さらに注目を集めることになりそうだ。

ニュースソース

  • KDDIら、南極昭和基地から「Starlink」による8K映像リアルタイム伝送に成功[INTERNET Watch
  • Starlinkは「スマホと衛星の直接通信を最も早く実現できる」 KDDIとT-Mobileが語る展望[ITmedia

4. アップルが電気自動車の開発から撤退?

 米国ブルームバーグが報じたところによれば、アップルは電気自動車(EV)の開発プロジェクトを断念するということだ(Bloomberg)。かれこれ10年ほど、アップルが電気自動車を開発しているといううわさが絶えなかったが、ここにきて大きな決断をしたようだ。情報ソースは匿名の関係者ということで、公式な発表やコメントはない。しかし、昨今の電気自動車の市場動向、技術動向、他社製品との差別化=アップルらしい製品としての市場からの期待など、資金と人材が潤沢な巨大企業であっても、そのハードルは決して低いものではなかったということか。

 一方、米国のCNETでは、アップルがスマートリングの開発をしているのではないかということを報じている(CNET Japan)。記事では「Apple Ringに関する報道が出たのは今回が初めてではない。Appleは、少なくとも2015年からスマートリングに関する特許を出願している。特に今、サムスンがスマートリングの発売を予告していることを考えると、そのようなデバイスの商品化が近い可能性があるという情報は理にかなっている」とコメントしている。

ニュースソース

  • アップル、EV開発計画ついに断念-生成AIにリソースをシフト[Bloomberg
  • アップル、スマートリングを開発か[CNET Japan

5. 「インスタント伝記」という、生成AI時代の闇

 著名人が亡くなると、「伝記」が出版されることがよくある。場合によっては、大ベストセラーになることもある。そうしたことに目をつけ、伝記を生成AIに書かせて、Kindle本として出版するやからがいるようだ。こうした本を「インスタント伝記」というようだ。JBpressの記事によれば、「訃報に目を光らせ、スピード勝負で金を稼ぐインスタント伝記作家の不謹慎」というわけだ(JBPRESS)。

 確かに、著名人であれば、Wikipediaなどにも経歴が細かく記されているし、メディアでのインタビュー記事や動画なども多いのだろう。それを学習したAIが伝記を生成するというのは、いまや不可能ではない。しかも、そうやって書かれたKindle本は「$5.99と1000円近い価格設定でありながら、ボリュームはたったの22ページしかない」というお粗末さだ。

 こんないい加減なコンテンツが技術によって生成されて、流布されたるのも、生成AI時代の闇だ。

ニュースソース

  • Amazonにあふれる「インスタント伝記」、亡くなった有名人の伝記を生成AIに書かせる“作家”が急増 【生成AI事件簿】訃報に目を光らせ、スピード勝負で金を稼ぐインスタント伝記作家の不謹慎[JBPRESS
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。