中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/5/9~5/15]

ステップアップした生成AI――OpenAIとグーグルがそれぞれ発表

eHrach/Shutterstock.com

1. OpenAIが「GPT-4o」を発表――さらに進化したAI

 OpenAIが新たなAIモデル「GPT-4o」を発表した(Impress Watch)。「o」は「オムニ(omni)」の頭文字で、「全~」「総~」などの意味がある。文字通り、「文字・音声・視覚」という入出力を持ち、それを同時にこなすことができる。デモの動画が記事中にいくつか公開されているので、それを見るのがいい。そして「自然なリアルタイムの音声会話や、リアルタイムの動画でChatGPTと会話できるといった使い方にも対応予定。例えば、ChatGPTにスポーツの試合中継を見せて、ルールを説明してもらう、といったことを可能にする」という。

 また、音声については「トーン、複数の話者、背景のノイズなどを理解する点が、既存のモデルとの大きな違い」だとしている。「話者の特徴を把握できる」「創作した昔話について、『もっとドラマチックに』『年寄り風に』といったトーンの指示にも対応し、人間のような感情表現や振る舞い」もできるようだ。

 ユーザーインターフェースが高度化し、いよいよAIが本格的な領域に入ってきたように感じる。今後、スマホやPCだけでなく、ロボティックスなどの分野で実装が進むと、ますます擬人化のレベルが上がる。

ニュースソース

  • OpenAI、「GPT-4o」発表 高速応答で音声・画像・テキスト対応[Impress Watch
  • 3分でわかるOpen AIの発表「友達みたいに話せるGPT-4o」[Gizmode

2. グーグルも生成AIを大幅に進化させた

 グーグルの年次開発者会議「Google I/O」が開催された。そこではやはり生成AIが大きな話題である。

 発表の内容は、ケータイWatchの『グーグルのAI祭り「Google I/O 2024」基調講演を総まとめ』が分かりやすい(ケータイWatch)。それぞれの個別の記事も含めて、ニュースソースの欄に示す。

 この開発者海外で大きな話題として上がっているのは次の項目だ。

  • GoogleフォトにGeminiを使った新機能「Ask Photos」を追加
  • Geminiはより長いコンテキストに対応
  • 静止画・音楽・動画の生成AIもアップデート
  • クラウドサーバーは新TPU/GPUで強化
  • Google検索には概要テキストが表示される「AI Overview」を追加
  • GmailなどのGoogleアプリ群もGeminiが使いやすく連携
  • Geminiアプリには自然に会話できる「Gemini Live」などを追加
  • AndroidをGoogle AIを体験できる最高の場所に

 つまり、生成AIの技術そのものは「文字・音声・視覚」というインターフェースを持ち、それを同時に処理する。そして、単体のアプリではなく、写真、音楽、動画などのアプリへの実装も進んでいる。とりわけ、グーグルの基幹サービスである「検索」とのインテグレーションはかなり進んだ。記事によれば「ユーザーが尋ねたことに対し、『Googleがユーザーに代わってググってくれる』ようになる」というわけだ。デモとして見せた「Google検索アプリで正常に動作しないレコードプレーヤーを撮影し、どうしてそうなるのかを音声で質問すると、AI Overviewが原因や対策を答える」というところに、これらの技術のレベルと特徴が象徴されているといえるだろう。

 これまでの生成AIはプロンプトを書くスキルが求められたが、これからはそうしたスキルそのもがいらなくなりそうだ。

ニュースソース

  • ChatGPTを牽制? Google I/O前日に「Gemini」の新デモ動画公開[PC Watch
  • グーグルのAI祭り「Google I/O 2024」基調講演を総まとめ[ケータイWatch
  • グーグル、独自生成AI「Gemini 1.5 Pro」新機能と廉価版「Gemini 1.5 Flash」を発表[ケータイWatch
  • グーグル、動画撮影中に検索ができる新機能「Ask with Video」を発表[ケータイWatch
  • グーグル、「Google フォト」にAI新機能「Ask Photos」を発表[ケータイWatch
  • グーグル、テキストから動画を生成するAI「Veo」を発表[ケータイWatch
  • グーグルが開発中の「Project Astra」、現実世界を理解する対話型AIエージェント[ケータイWatch
  • Google検索にAI新機能導入へ――動画検索や「AIによる検索結果まとめ」など[ケータイWatch
  • Androidで詐欺電話の警告や「かこって検索」による宿題の手助けなど、Google I/O 2024[ケータイWatch
  • 「かこって検索」、24年末までに2億台以上の端末に拡大へ[ケータイWatch
  • パソコン向けChromeに生成AI「Gemini Nano」を搭載、翻訳や要約をオンデバイスで実現[ケータイWatch

3. 混沌とするLINEヤフーのガバナンス問題

 LINEの情報漏えい問題を受け、松本剛明総務大臣は、韓国のネイバーとの資本関係の見直しを求めている(NHK)。

 一方、韓国政府側は「株式売却に関して日本政府から圧力があるとの認識を示し、遺憾の意を表明した」ことが伝えられている(ブルームバーグ)。国際的な政治課題に発展しつつある。

 LINEヤフーはソフトバンクが株式の過半数を持つ体制への変更を要望しているとされ、すでにソフトバンクとネイバーとの間の交渉は始まっているようだ(Impress Watch)。これについて、ソフトバンクの宮川潤一社長は、「LINEヤフーからの要請を受けたので、親会社としてセキュリティガバナンスの強化、事業強化の観点からなにがよいか議論をしている。現在の比率は半々だが、一株でも動けばどちらかがマジョリティになる。ソフトバンクの投資に見合うかどうかを冷静に判断し、事業の展開に影響ない範囲で検討していく」と説明している。

 こうした一連の出来事について、宮川社長は「ちょっとスタート、ずいぶんけつまずいている」と、現状の認識も述べている(ケータイWatch)。

 いずれにしても、LINEは日本での通信アプリになっているばかりか、行政も含めた多くのサービスもその上で提供されていることから、一企業のガバナンスの問題というだけでなく、早期の解決が望まれるところだ。

ニュースソース

  • LINEヤフーに引き続き資本関係見直し要求 総務相 情報漏えいで[NHK
  • LINEヤフー株巡る日韓親会社の協議が本格化-韓国政府はけん制[ブルームバーグ
  • ソフトバンク、LINEヤフー株のNAVERとの交渉は「時間が必要」[Impress Watch
  • ソフトバンク宮川社長、LINEヤフーの現況に「スタート、ずいぶんけつまずいている」[ケータイWatch

4. 偽造マイナンバーカード問題で「ICによる本人確認を推進」

 「何者かがソフトバンク契約者本人になりすまし、偽造したとされるマイナンバーカードを使って、ソフトバンクの携帯端末を機種変更し、端末にひも付けられていたクレジットカードで高級腕時計を購入した」と報じられた事件について、ソフトバンクの宮川潤一社長は「現状、店舗でのオペレーションでは、マイナンバーカードの原本の確認と、本人確認の二重チェックを行う」としつつ、「一部の店舗でそのプロセスが不十分であった」と説明した(ITmedia)。なお、事件の手口については、Impress Watchの記事を参照してほしい(Impress Watch)。

 この問題は、マイナンバーカードそのものではなく、デジタル技術を使った認証ができるカードなのに「デジタル技術を使わずに目視で確認をしている」という運用のアンバランスさにある。

 これについて、河野太郎デジタル大臣は「目視ではなくICチップの読み取りによる厳格な本人確認を推進する」と表明している(CNET Japan)。すでに可能なPCにNFC Type-Bリーダーを組み合わせて行う本人確認以外にも、スマートフォンを使った読み取りなども検討するとしている。

ニュースソース

  • マイナカードで不正に機種変更 ソフトバンク宮川社長「一部の店舗で本人確認が不十分だった」 目視ではなくIC読み取りが求められる[ITmedia
  • マイナンバーカードを用いた本人確認とiPhoneへの機能搭載[Impress Watch
  • 偽造マイナ問題で河野大臣「ICによる本人確認を推進」--スマホがリーダーになるアプリ検討[CNET Japan

5. 障害が相次ぐ電子決済システム

 モバイルSuicaとPASMO、そしてPayPayが相次いでシステム障害を起こしている。

 モバイルSuicaは、5月10日夕方から22時30分ごろにかけて、「モバイルSuica」アプリへのログインや、アプリでのチャージなど、通信を必要とするサービスでつながりにくい状態が発生した(Impress Watch)。

 PayPayは、5月15日12時15分ごろから15時30分ごろにかけて「利用できない場合がある」という状況が発生した(ケータイWatch)。

 いずれもユーザー数が多いシステムで、障害が発生した時間を考えると、帰宅や昼食に支障が出た人は多かったに違いない。かくいう筆者も、現金を持たずにコンビニに入って「PayPayが使えない」と告げられた。こう考えると、いざというときのために、多少の現金はかばんに忍ばせておくような自衛手段を考えておくべきなのかとも思う。今後、利用場面が増えたり、さまざまなシステムとの連携なども進むと考えると、こうしたリスクは想定せざるを得ない。

ニュースソース

  • PayPayで障害、15日昼~[ケータイWatch
  • モバイルSuicaやPASMO、ログインやチャージで繋がりにくい状態【更新】[Impress Watch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。