中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/5/16~5/22]

「オンラインコンテンツは儚いものである」 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. OpenAIとグーグルに続き、マイクロソフトも生成AIの次のステップとなる技術を発表

 先週のOpenAI、グーグルに続き、マイクロソフトも生成AIに関する製品と技術の発表を行った(INTERNET WatchImpress Watch)。

 マイクロソフトは、AI向けのPCの仕様として「Copilot+ PC」のコンセプトを紹介した。今後、マイクロソフトだけでなく、主要PCメーカーからCopilot+ PCに準拠した製品の発売される。

 具体的な使用は、次のようなものだ。

  • 40以上のTOPS(Trillion Operations Per Second、毎秒40兆回の演算が可能) を持つニューラル処理ユニット(NPU)を組み込むプロセッサまたはシステムオンチップ(SoC)の搭載
  • RAM:16GBのDDR5/LPDDR5
  • ストレージ:256GBのSSD/UFS以上

 さらに、キーボードには「Copilot キー」を付け、生成AIへのアクセスを容易にする。

 マイクロソフトは、PCのローカル環境でも、クラウド環境でも生成AIを実行できるようにし、「応答時間の遅さ」「コスト」「セキュリティ」などの課題解決を狙う。

 こうしたハードウェア、OS、クラウドまでを一貫して提案できるところがマイクロソフトの強みでもある。もちろん、Officeスイートとの連携も強化されるだろう。

 さらに、Windowsを使用する多くの場面(エンタープライズからホームユースまで)での生成AIの導入が行いやすくなり、社会的な実装の推進力となることも期待できる。

ニュースソース

  • Microsoft、AI向けの新しいカテゴリー「Copilot+ PC」を紹介、6月18日から製品発売予定[INTERNET Watch
  • 「Copilot+ PC」とはなにか マイクロソフトが狙うUX変化とWindowsの再設計[Impress Watch

2. 「オンラインコンテンツは儚いものである」

 米国のシンクタンクであるPew Research Centerは、「When Online Content Disappears(オンラインコンテンツが消えるとき)」と題するレポートを公表した(INTERNET Watch)。

 それによれば、「2013年から2023年の間に存在したウェブページの4分の1が、2023年10月の時点でアクセスできなくなっている。古いコンテンツについては、この傾向はさらに顕著である。2013年に存在したウェブページの38%が現在利用できず、比較的最近の2023年に存在したウェブページの8%が現在利用できない」と述べている。

 具体的には、「2023年春の時点で、政府やニュースのウェブサイト、Wikipediaの『参考文献』セクションに表示されるリンクを調査した。その結果、次のことが分かった。ニュースのウェブページの23%は少なくとも1つのリンク切れを含んでおり、政府系サイトのウェブページの21%も同様である。サイトトラフィックの多いニュースサイトと少ないニュースサイトでは、リンク切れの可能性はほぼ同じである。地方政府のウェブページ(市政府のもの)は特にリンク切れが多い。Wikipediaのページの54%は、『参考文献』のセクションに、もはや存在しないページを指すリンクを少なくとも1つ含んでいる」という。

 これについて、「オンラインコンテンツがいかに儚いものであるかが分かる」というコメントをしている(Pew Research Center)。

 ウェブ上のコンテンツのソースをもとにして「エビデンス」を残そうとしても、数年のうちに意味がなくなるというわけだ。印刷物であれば、書店からなくなっても国会図書館などで保管されている。米国のInternet Archiveは、ウェブのアーカイブを残す活動をしているが、全てが残せるわけではない。ウェブとはこういうメディア特性なのだと理解をして使うべきなのだろうか。さらに、生成AIが学習したソースもいずれは消えていき、どのような学習をしたかの記録もなくなるということなのだろうか。

ニュースソース

  • 10年前に存在していたウェブページ、38%は現在アクセス不能であると判明[INTERNET Watch
  • When Online Content Disappears[Pew Research Center

3. OpenAIのAGI(汎用人工知能)の技術的な課題と安全性対策はどうなる

 OpenAIで、Superalignment(超知能)チームのトップだったヤン・ライケ氏が5月17日に退職した。

 ライケ氏は、「私がOpenAIに参加したのは、ここが超知能の研究を行うのに世界で最適だと思ったからだ。だが、OpenAIの幹部チームと中核的優先事項についてずっと同意できず、限界点に達した」というコメントをXに投稿している。また、ライケ氏はOpenAIに対して、「AGIの重要さを実感してください。AGIにふさわしい厳粛な態度で臨んでください」「私も世界中も、あなたたちを信頼しています」とコメントをしている(ITmedia)。

 こうした事態を踏まえ、OpenAIのグレッグ・ブロックマン社長は、OpenAIの全体的な戦略について説明した。「私たちは、将来起こりうるすべてのシナリオを想像することができないことを知っています。そのため、非常に緊密なフィードバック・ループ、厳格なテスト、あらゆる段階での慎重な検討、世界最高水準のセキュリティ、そして安全性と能力の調和が必要なのです。私たちは、さまざまなタイムスケールをターゲットに安全性の研究を続けていきます。また、政府や多くの利害関係者との安全性に関する協力も続けていきます」(X)。

 しかし、これは退職したリーダーたちが抱いていた懸念に直接的に応えてはいなかった(ITmedia)。

ニュースソース

  • OpenAIのAI危険対策チームトップが「限界に達し」退社 「安全確保が後回しになっている」[ITmedia
  • OpenAI、退社したライケ氏のAGI警鐘に応じるも具体策は明示せず[ITmedia

4. 前澤友作氏、メタに1円の賠償求め提訴

 有名人の肖像や名前を語った詐欺広告、いわゆる「なりすまし広告」に利用された被害者の実業家の前澤友作氏がメタを相手どり、1円の賠償を求める訴訟を起こした(共同通信)。前澤氏はXに「あえて1円にしました。彼らの行為が違法なのか合法なのかまずははっきりさせたい」「詐欺広告対策についての具体的な内容提示、責任者への証人尋問を求めます」とコメントを書いている。

 また、これと関連する話題として、警察庁がこの1月~3月における「SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺」についての認知・検挙状況を発表している(INTERNET Watch)。それによると、「2024年1月~3月の期間における、SNS型投資詐欺の認知件数は1700件で、被害額は約219.3億円。SNS型ロマンス詐欺の認知件数は603件で、被害額は約60.6億円。1件あたりの平均被害額は、SNS型投資詐欺が約1300万円、SNS型ロマンス詐欺が約1000万円」であるという。SNSの広告などを起点とする事件の急増は至急解決すべき課題だろう。

 そのような中、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会は「社会問題化するデジタルメディア上の詐欺広告に対して緊急提言」を発表している(日本アドバタイザーズ協会)。この中では、プラットフォーマー、テクノロジーパートナー、メディア、アドバタイザー、エージェンシー、パートナー企業のそれぞれに対して責任を呼び掛け、「倫理観に基づく役割の一つに、出稿した広告の行き先に責任を持つことがあります。アドフラウドやブランドの毀損といった社会的に不適切なものにつながる動きはないかを自らに問いながら、広告活動を行わなければなりません。そして問題があった場合は、後回しせずに対応を行わなくてはなりません。私たちアドバタイザーが、生活者との健全な関係を追及し続けることができるのか、今、私たちの行動にかかっていると考えます」とまとめている。

ニュースソース

  • 前沢氏、メタに1円賠償求め提訴 詐欺広告巡り[共同通信
  • 警察庁が発表、今年1月~3月に「SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺」の被害急増! 被害者は50代以上に多く、平均1千万円超の高額被害[INTERNET Watch
  • 社会問題化するデジタルメディア上の詐欺広告に対する緊急提言[日本アドバタイザーズ協会

5. NHKが「技研公開2024」を開催、5月30日から

 NHK放送技術研究所(東京都世田谷区砧)が「技研公開2024」を開催する。会期は5月30日から6月2日まで(NHK)。

 「技研公開」は、NHKが放送技術の研究・開発成果を発表する催しとして、毎年開催されている。今年のテーマは「技術で拓くメディアのシンカ」で、「イマーシブメディア」「ユニバーサルサービス」「フロンティアサイエンス」「メディアを支える」などの29項目を展示する。それぞれデバイス技術、伝送技術、コンテンツ表現まで扱っていて、動画の先端技術を体験できるのではないか。

ニュースソース

  • 技研公開2024「技術で拓く メディアのシンカ」[NHK
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。