中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/5/23~5/29]

AI時代の知的財産権検討会が「中間とりまとめ」を公表 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. AI時代の知的財産権検討会が「中間とりまとめ」を公表

 内閣の知的財産戦略本部の「AI時代の知的財産権検討会」が「中間とりまとめ」を公表した(知的財産戦略本部)。

 生成AIについて、文化庁は著作権の観点での検討をしてきたが、この「中間とりまとめ」では、「産業競争力強化の視点」「AI技術の進歩の促進と知的財産権の保護の視点」「国際的視点」という3つを基本的な視点で検討をしている。例えば、知的財産法(商標法、不正競争防止法)、AIが生成したコンテンツを識別したり、コンテンツの収集を拒否したりすることなどの技術、AIによる発明の保護についても言及している。

 注目すべきポイントは、現在のところ、AIは自律的に何かをするわけではなく、人間の指示によって結果を出す「道具」だという認識だ。これについて、「中間とりまとめ」ではこう書いている。

 「現時点では、AI自身が、人間の関与を離れ、自律的に創作活動を行っている事実は確認できておらず、依然として自然人による発明創作過程で、その支援のためにAIが利用されることが一般的であると考えられる。このような場合については、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者を発明者とするこれまでの考え方に従って自然人の発明者を認定すべきと考えられる。すなわち、AIを利用した発明についても、モデルや学習データの選択、学習済みモデルへのプロンプト入力等において、自然人が関与することが想定されており、そのような関与をした者も含め、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したと認められる者を発明者と認定すべきと考えられる。」

 しかし、あくまでも「現在のところ」であり、いずれはAIが自律的に何かをするようになる可能性も念頭におく時期も来るのかもしれない。

 また、俳優や声優の声を生成することについても言及している。「『声』がどのように保護されているのかということに対する懸念も示されたことから、『声』の保護に関する法の適用関係について、整理を行う必要がある。ただし、『声』の保護をめぐっては、肖像権・パブリシティ権といった、知的財産法の周辺の法領域に関する検討も必要と考えられる」。声については、先ごろも米国でOpenAIが生成した音声が俳優の声に似ているということが問題視されたが、今後、こうした問題にも具体的な指針を示す必要がある。

 このように、AIがコンテンツをクロールして学習することの是非だけでなく、さまざまな観点からのより具体的な考察が求められるほどの技術的な進展があるということだ。

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2. 新たな生成AIによるCMモデルが登場

 衣料品販売チェーン大手のしまむらは、生成AIで制作したモデルを広告や公式SNSで起用している(産経新聞)。生成AIによるモデルの起用は、野村ホールディングスの新NISAの広告ポスター、伊藤園の「お~いお茶」のテレビCMなどがあるが、このように消費者の気付かないところでだんだんと活躍の場を広げているようだ。

 記事よれば、とりわけファッションの分野では、「人間のモデルを起用する場合、モデルやスタッフの手配が必要になり、撮影から広告にするまでに時間がかかる。スピード感で課題があった」という。こうしたファッショントレンドに対応するために、AIなど最新のデジタル技術を活用するという必然性があるというわけだ。決して、生成AIの話題性に乗っかっているわけではないという説明には納得する。

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  • しまむらが広告にAIモデル『瑠菜』を起用 トレンドに素早く対応、若い女性にアピールも[産経新聞

3. 広告ブロックツールがクリエイターへの還元を阻害する

 ニコニコを運営するドワンゴは、広告を非表示にするツール「広告ブロックツール」(AdBlock)によって、年間1億円以上の損失が発生していると発表し、広告ブロックツールを使うユーザーにその無効化を呼び掛けている(ITmedia)。もちろん、ドワンゴの収益だけでなく、クリエイターへの還元にも影響が出ているという。こうした問題が発生することは、広告モデルを考えればすぐに分かることではあるが、このように具体的な損害金額を明示して、広告ブロックツールの無効化を呼び掛ける例は珍しい。ドワンゴは、呼び掛けをするだけではなく、広告ブロックツールへの対策も検討も進めているという。

 広告モデルはインターネットのコンテンツビジネスでは重要なものであるが、表現の質的な低下、「なりすまし広告」のような詐欺的な広告、掲載頻度や掲載方法などの課題も多い。技術的にブロックできてしまうということは消費者の協力を仰ぐしかないのかもしれないが、広告主にとっては、消費者が「見たくない広告」から「見たい広告」とは何かを考えるきっかけでもあるだろう。

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  • ニコニコ、広告ブロックツールで年間1億円を超える損失 「クリエイターへ還元できていない」 無効化など呼び掛け[ITmedia

4. 大手メディアとの提携を進めるOpenAI

 「ウォール・ストリート・ジャーナル」や「バロンズ」などを傘下に持つメディア大手ニューズ・コーポレーションが、生成AIを開発するOpenAIと提携をした(ブルームバーグ)。この提携によって、OpenAIは生成AIでニューズ・コーポレーションの持つ十数の出版物のコンテンツを使用できるようになる。契約金額について、ブルームバーグの記事では「5年間で2億5000万ドル(約390億円)強に相当する可能性がある」と書いている。

 さらに、「ニューヨーク・マガジン」などを保有するヴォックス・メディア、政治経済雑誌を発行するジ・アトランティックの2社もOpenAIと提携をした(ITmedia)。

 すでにこのコーナーでも紹介しているように、日本経済新聞の傘下にあるフィナンシャル・タイムズもOpenAIと提携をしている。こうした大手メディアとの提携はさらに増えてくるのではないだろうか。それによって、OpenAIは、他のメディアとの差別化において、学習の量と質の向上を狙っているとみられる。また、それぞれのメディア会社がOpenAIの技術を採用するという相互の関係も促進されるとみられる。

 他方、ニューヨーク・タイムズや米国の複数の地方紙とは係争中である。

 大手メディアはOpenAIとの協調路線か、敵対路線かの選択を迫られているようだ。そのようななか、日本のメディア各社はどのように動くことになるのだろうか。

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  • オープンAIがニューズと提携、WSJなどのコンテンツ表示可能に[ブルームバーグ
  • OpenAI、老舗メディアThe AtlanticおよびThe Vergeの親会社Vox Mediaともライセンス契約[ITmedia

5. 「パスワードは定期変更の必要なし」総務省が正式見解

 総務省は、「国民のためのサイバーセキュリティサイト」をより読みやすく、最新動向を反映してリニューアルした(INTERNET Watch)。このサイトの存在はあまり露出されていないように思えるが、多くの人が参照しておくべき情報だろう。

 ところで、その中に注目の記述がある。それは「安全なパスワードの設定・管理」というページにおいて、「利用するサービスによっては、パスワードを定期的に変更することを求められることもありますが、実際にパスワードを破られアカウントが乗っ取られる等のサービス側から流出した事実がない場合は、パスワードを変更する必要はありません」と明言しているところだ(INTERNET Watch)。

 これまで、一部ではパスワードの定期変更を推し進めると、結果としてパスワードがパターン化したり、使い回しをする動機につながることが指摘されてきたが、十分に安全な形式のパスワードを使い続けることが重要だということは大きな変更ともいえる。

 そして、次はぜひとも「PPAP」に意味があるのかどうかについても言及してほしいところだ。

ニュースソース

  • 総務省、「国民のためのサイバーセキュリティサイト」をより読みやすく、最新動向を反映してリニューアル[INTERNET Watch
  • 「パスワードは定期変更の必要なし」総務省が国民向けサイトで正式見解[INTERNET Watch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。