中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/5/30~6/5]

マイナンバーカード、生成AIに関する政府の対応 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. マイナンバーカード、生成AIに関する政府の対応

 すでに多くのメディアが報じたように、アップルが「Appleウォレット」の身分証明書機能を米国外へも展開する(アップル)。日本ではマイナンバーカードの機能を搭載することになる。この発表と歩調を合わせ、改正マイナンバー法が5月31日の参院本会議で可決、成立した(日本経済新聞)。アップルの発表文によれば、「Appleウォレットの身分証明書は、モバイルデバイスで身分証明書や運転免許証を提示する際の消費者のプライバシー保護について明確なガイドラインを定めているISO 18013-5シリーズとISO 23220シリーズの規格に対応しています」としている。こういう文を見ると、なんとなく安心してしまう人も多いが、その技術内容についての理解は十分にされていない。日本では、こうしたプライバシーに直結した情報の管理がアップルや政府でどのように行われるのか、そしてそれはどの程度のリスクを伴うものなのか、そして利用者が留意することはなんなのかについては、今後の情報の提供が待たれるところだ。

 また、デジタル庁は、「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」を公表している(デジタル庁)。この文書の目的について、「テキスト生成AIを活用した政府情報システムの開発及び業務改善に従事する関係者に対して、想定されるリスクの内、テキスト生成AI固有と考えられるリスクを特定し、そのリスクに対する軽減策の一般論を示すことを主な目的としている」としている。具体的な記述も多く、参考になるのではないか。

ニュースソース

  • マイナンバーカード全機能、スマホ搭載可能に 改正法が成立[日本経済新聞
  • Apple、日本でのAppleウォレットの身分証明書機能の展開を発表、米国外で初[アップル
  • テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)[デジタル庁

2. 博報堂メディア環境研究所が「メディア定点調査2024」を発表

 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所は、生活者のメディア接触の現状を捉えるために実施している「メディア定点調査」の2024年版の結果を公表している。今年1月から2月に行った今年度の調査では、主に次のような特徴が見られたとしている(博報堂メディア環境研究所)。

  • メディア総接触時間は432.7分(1日あたり/週平均)。「携帯電話/スマートフォン」のシェアが前年比約3%増、「テレビ」が約2%減
  • スマートフォンでのテレビ番組視聴の増加など、コンテンツ×視聴デバイスの組み合わせの多様化が加速
  • スマートフォンからのチケット購入や店舗予約が増えた人は6割超に。生活行動のモバイルシフトも進んでいる

 この中でとりわけ特徴的なのは、テレビを使って、インターネットで配信される動画を閲覧する環境を持つ人の割合やその利用率が引き続き上昇していることだ。テレビはもはや放送コンテンツを表示するだけではなく、インターネットの動画を表示する装置となっている。さらに、スマートフォンでの動画視聴も上昇している。つまり、コンテンツの提供者(放送だけでなく、ユーチューバーなども含めて)による視聴者の映像を見る時間の奪い合いという構図がより厳しくなってきているということだ。こうした状況は、番組企画にも大きな影響があることは間違いないだろう。

ニュースソース

3. インターネット広告を起点とする詐欺問題

 インターネットの閲覧中に画面に表示される広告などを起点とする詐欺行為や消費者トラブルが増加している。

 まず、「マルウェア感染など偽のセキュリティ警告を画面に表示した後、サポートに誘導し、復旧を名目に金銭を騙し取ろうとする詐欺行為」(サポート詐欺)については、トレンドマイクロが「国内サポート詐欺レポート 2024年版」を公開している(トレンドマイクロ)。これによれば、2023年の1年間で900万件に達したという。金銭的には、100万円以上の高額被害も見受けられる。

 また、このコーナーでも何度か取り上げてきたが、SNS上で有名人になりすまして投資や情報商材への誘導をする「なりすまし広告」も後を立たなない(Impress Watch)。国民生活センターも注意喚起を行なっている。折しも「新NISA」などの投資に注目が集まっていることから、こうした話題につられるケースが多いのだろう。

 さらに、国民生活センターは、ネット広告から別サイトに誘導して、意図しないサブスクリプション契約を結ばせる手法についての注意喚起も行なっている。これは、インターネット上のコンテンツの中に、「スタート」や「OK」「いますぐ視聴」などのボタンを模した画像を表示して、あたかもコンテンツの一部であるかのように見せかけて誘導しようというものだ。誘導先では、クレジットカード情報などを入力させるという手法である(INTERNET Watch)。

 ここで紹介した手法は多くの人が日常的に目にしていると思われるが、警戒心のない人に対して、いかにこれを伝達していくかが課題だ。また、日々、新たな演出が考案されていることから、留意していても、今後は引っかかる可能性があることも肝に銘じておくべきだろう。

ニュースソース

  • 「Google広告からの誘導が6割」との分析結果。より巧妙化し、高齢者を狙う「サポート詐欺」に注意![INTERNET Watch
  • 国内サポート詐欺レポート 2024年版」を公開~2023年は、100万円を超える高額な金銭被害が複数発生~[トレンドマイクロ
  • SNS上の勧誘をきっかけとした消費者トラブル増加 国民生活センター[Impress Watch
  • まぎらわしい“ボタン風広告”から意図しないサイトに誘導されサブスク契約してしまうトラブルに、国民生活センターが注意喚起[INTERNET Watch

4. NTTドコモ、「IOWN」の導入によりスマートスタジアム実現へ

 NTTドコモを代表企業とし、前田建設工業、SMFLみらいパートナーズ、日本プロサッカーリーグで構成されるコンソーシアム「国立競技場×Social Well-beingグループ」は、日本スポーツ振興センターが進める「国立競技場運営事業等に係る公募手続き」において、優先交渉権者として選定された(NTTドコモ)。この事業は、「国立競技場をスポーツ振興の中核拠点として運営するとともに、日々人々が集まり長く愛されるスタジアムとすることを目指し、民間事業者のノウハウと創意工夫を活用した効率的な運営や利用促進による収益拡大などを図ることにより、国民の利益につなげること」を目的としている。

 この計画の具体的な骨子は発表資料を参照してもらいたいが、その中に「次世代コミュニケーション基盤『IOWN』の導入によるスマートスタジアムの実現」「スポーツ・音楽・その他さまざまなコンテンツを掛け合わせた総合エンターテイメントイベントの開催」が謳われている。「IOWN」は、光技術を中心に構成され、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信や膨大な計算リソース等を提供できるネットワーク・情報処理基盤の構想だ。

 国立競技場にこうした通信・情報処理能力が付加されることでの企画が生み出されてくるものと思われるが、このところ活況な新しい技術、例えばVR/AR、生成AI、リアルタイム性の高い動画配信・機器制御などを導入できる大規模イベント空間になるのではないかと思われる。

 なお、事業概要によると、2025年4月に運営を開始する計画だ。

ニュースソース

  • ドコモら、国立競技場運営の優先交渉権 25年から運営開始[Impress Watch
  • 国立競技場運営事業等公募における優先交渉権者に選定[NTTドコモ

5. 「企業IT利活用動向調査2024」にみる最新技術への取り組み

 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)とアイ・ティ・アール(ITR)は、国内企業983社のIT戦略策定または情報セキュリティ施策の従事者を対象に、2024年1月に共同で実施した「企業IT利活用動向調査2024」の結果を発表した(日本情報経済社会推進協会)。

 そこで示されているポイントは次の6点である。

  1. 生成AIの使用企業は35.0%、導入進行中が34.5%となり、今後急速な拡大が見込まれる
  2. 生成AIの使用においては、機密情報の漏洩とハルシネーションが大きな懸念点となっている
  3. DXでは「業務のデジタル化・自動化」に取り組む企業の半数が成果を出しているが、ビジネス成長に向けた取り組みでは成果を出している企業がまだ少ない
  4. ランサムウェアの感染経験のある企業は47.1%。身代金を支払った企業の3分の2が復旧できず
  5. 3分の2の企業がデータの越境移転を行っているが、複雑化する各国のデータ保護規制対応が課題
  6. プライバシーガバナンスへの取り組みは「責任者の任命」と「姿勢の明文化」が先行している

 まず、生成AIについては、2023年の実証実験期間とも言える時期を経過し、いよいよ本格的な企業活動への導入が進みつつあることを感じさせる。一方で、機密情報や誤情報に対する懸念も確認されている。

 一方、この数年来、各業界で取り組まれてきた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」については、いまだ業務のデジタル化・自動化にとどまり、新たな価値の創出によるビジネス成長は確認できていないと読める。「DX」の意味の捉え方にもまちまちのようだが、そもそものスタートラインがアナログ書類だったところからだとすると、大きな前進はあったものの、デジタルならではの成果を実感できるところには至っていないようだ。

 一方で、ランサムウェアについて、「身代金を払った企業の3分の2が復旧できず」という衝撃的な結果もある。ランサムウェアについて報じられることはあるが、その後がどうだったのかは報じられることも少ないので、可視化されないが、被害にあるとその傷は深いと考えるべきだろう。

ニュースソース

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。