中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2024/6/6~6/12]

総務省が「通信利用動向調査」の結果を公表 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 巨大IT企業への規制法が可決・成立、「なりすまし広告」も対策強化

 巨大IT企業に対する規制をする法律が可決・成立した(Impress Watch)。「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(スマホソフトウェア競争促進法)」で定められる主な禁止事項と遵守事項は次のようになっている。

  • 他の事業者がアプリストアを提供することを妨げてはならない
  • 他の課金システムを利用することを妨げてはならない
  • デフォルト設定を簡易な操作により変更できるようにするとともに、ブラウザー等の選択画面を表示しなければならない
  • 検索において、自社のサービスを、正当な理由がないのに、競争関係にある他社のサービスよりも優先的に取り扱ってはならない
  • 取得したデータを競合サービスの提供のために使用してはならない
  • アプリ事業者が、OSにより制御される機能を自社と同等の性能で利用することを妨げてはならない

 2023年の日本の個人でのスマートフォン所有率は78.9%(令和5年通信利用動向調査)と、ほとんどの国民が利用するような機器・通信サービスになっていることから、より健全な競争を促すことが狙いとされる。

 一方、規制の対象となっているアップルは「日本の消費者のみなさんと、そのみなさんがiPhoneに期待する、セキュリティやプライバシーが確保されたユーザー体験に対して、この法律が実際に与える影響について懸念を持ち続けながら、法律の施行に向けて、引き続き日本の公正取引委員会と密に連携していく」とのコメントを発表、グーグルは「グーグルはこれまで政府に積極的に協力し、変化が早く競争の激しいこの業界における弊社の事業運営について説明してきた。今後も政府および業界関係者と建設的な議論を深めていく」とのコメントを発表している。

 また、日本経済新聞の報道によれば、SNS上の「なりすまし広告」についても、巨大IT企業であるSNS事業者に対しても、対策強化を求めるということだ(日本経済新聞)。この問題については、被害も出ていると報じられていることから、即効性のある対策が必要だ。

ニュースソース

  • アップルやグーグルら大手IT規制 スマホソフト競争促進法が成立[Impress Watch
  • なりすまし広告対策、SNS事業者に審査強化要請へ 政府[日本経済新聞

2. 日本でもアップルの「Vision Pro」発売が決定

 日本でもアップルの空間コンピューティングデバイス「Vision Pro」が6月28日に発売される(ケータイWatch)。価格は59万9800円~となっている。個人で入手するにはハードルは高いが、将来のコンピューティング環境を体験するうえで、その象徴的な商品の発売と捉えてもいいのではないか。

 これに合わせて、日本経済新聞社はVision Pro向けのニュースアプリ「日経空間版」をリリースする(ITmedia)。「立体的な新しいUI『Paperium (ペーパーリウム)』と『StoryFlow (ストーリーフロー)』」という機能が実装されている(いずれも特許出願中)。ペーパーリウムは、新聞の全てのページを空間に浮かべて表示し、指でタップすることで紙面が手前に拡大表示されるもの。ストーリーフローは、タップしたニュースの関連記事をAIが抽出し、空間上に時系列で浮かべる機能だという。写真は公開されているが、実際に体験をしてみたいものだ。

 また、電通グループは、3D空間メディアのマーケティング効果を測る指標「ブランドイマーシブタイム」開発した(Web担当者フォーラム)。これまで、3D空間メディアにはマーケティング効果を測定する確立された手法がなかった。さまざまなハードウェア/ソフトウェア環境が整い、コンテンツも増加すると見込まれることから、指標が開発されたものと思われ、今後、こうした指標がさまざまな施策の目標設定や評価につながるとみられる。

ニュースソース

  • 「Apple Vision Pro」、日本で6月28日に発売[ケータイWatch
  • 「日経空間版」28日リリース 立体的な新UIを搭載したApple Vision Pro用ニュースアプリ[ITmedia
  • 電通グループが3D空間メディアのマーケティング効果指標「ブランドイマーシブタイム」提唱[Web担当者フォーラム

3. 総務省が「通信利用動向調査」の結果を公表

 総務省は、令和5年8月末の世帯および企業における情報通信サービスの利用状況等について調査した「通信利用動向調査」の結果を公表した(総務省)。

 本年度のポイントは次の4点である。

  1. 世帯の主な情報通信機器の保有状況について、スマートフォンの割合が90.6%となり、引き続き増加傾向だが、それ以外の情報通信機器の保有状況は、概ね減少傾向となっている
  2. テレワークを導入している企業の割合は約5割で昨年に続き減少傾向。導入目的は、「勤務者のワークライフバランスの向上」「非常時の事業継続に備えて」が増加している
  3. クラウドサービスの利用企業は約8割、IoT・AI導入企業は16.9%といずれも増加傾向
  4. インターネット利用者の約7割がインターネット利用時に何らかの不安を感じている。不安の内容については、「違法・有害情報や真偽の不確かな情報を見てしまわないか」が大きく増加している

 全体を通して見ると、通信インフラ、および通信機能を持つ機器が広く普及する中、パソコンやテレビなどの従来からあるデバイスの減少が目につく。一方で、通信インフラを経由する動画視聴環境が増加していることや、SNSなどのコミュニケーション手段が広まりつつあることも特徴的だ。デバイスの世代交代と放送から通信へのコンテンツ消費の経路の変化などは今後も続くものと思われる。消費者のこうした変化にともなって、コンテンツ事業者の収益モデルの変化も大きく変化することになるだろう。

 企業ではテレワークの導入企業は減少傾向にあり、コロナ禍後、再び従来の勤務スタイルに戻りつつあることを示しているようだ。

 また、インターネットに対する不安も増大していて、より信頼できる情報流通とはどうあるべきかという基本的な課題が提示されていると考えられる。

ニュースソース

  • 令和5年通信利用動向調査[総務省

4. KADOKAWAのウェブサイトに大規模障害が発生中

 6月9日10時7分、株式会社KADOKAWAは、グループの複数のウェブサイトが利用できない事象が発生しているとのプレスリリースを発表した(KADOKAWA)。原因は「外部からの不正なアクセスが行われたことによる可能性が高い」としている。これにともない、ニコニコは「16日までの番組を中止または延期する」との予定などを発表した。また、一部の内容を変更して、YouTubeで配信する旨が告知されている(INTERNET Watch)。

 これまでにも不正アクセスによる被害は報じられてきているが、まれに見る長期にわたる被害が出たことになる。

ニュースソース

  • KADOKAWAグループの複数ウェブサイトにおける障害の発生について[KADOKAWA
  • ニコニコ、復旧の見通し立たず、16日までの番組中止/延期を発表。今週中に状況説明の予定 11日20時の「月間ニコニコインフォ」はYouTubeとXで放送[INTERNET Watch

5. アップルが生成AI機能「Apple Intelligence」などを発表――WWDC2024

 アップルは開発者向けイベント「WWDC24」で、「iOS 18」「iPadOS 18」「WatchOS 11」「macOS Sequoia」などのオペレーティングシステム(OS)に加えて、生成AI機能となる「Apple Intelligence」を発表した(ケータイWatch)。

 詳細は関連記事を参照してほしいが、注目度の高いApple Intelligenceについてその概略をまとめると「同社のプラットフォームに統合されるAI/生成AI基盤で、OSやアプリ上でAIを活用した機能が利用できる。複数のアプリを横断した回答や成果物を出力できる。AI処理は、原則オンデバイスで運用され、より大きな処理が必要な場合は、Appleシリコンを採用しプライバシー保護が強化されたサーバーで処理される」というものだ。実際にはリリースされてから使ってみないとなかなか評価はしにくいが、後発ということでもあり、従来とは違うユーザビリティを期待したいところだ。いずれにしても、これで、大手IT企業各社の生成AIの取り組みが出そろったことになる。

 また、アップルのティム・クックCEOは現地メディアとのインタビューの中で、「Apple Intellingenceが幻覚を生み出す可能性はゼロではない」と発言したことが伝えられている(Gigazine)。さらに、「私たちは、テクノロジーを使用する分野での即応性について念入りに検討するなど、やるべきことは全てやったと思います。そのため、Apple Intelligenceは非常に高品質になると確信しています」とも述べている。生成AIの出力を100%信じることができないことは決して驚くべきことではないが、アーリーアダプター以外の幅広いユーザーが利用するようになることを踏まえたうえでの発言ともいえるかもしれない。

 そして、イーロン・マスク氏は「AppleがOSレベルでOpenAIを統合するならば、私の会社ではApple製デバイスを使用禁止する」と表明している(Gigazine)。歴史的経緯を見ても、OSがオフィススイートやウェブブラウザーなどの基本的な機能と統合されることは、その都度、議論の対象となってきた。生成AIの場合、どのようなかたちでOSに実装されるのかは情報を待ちたいところだ。

ニュースソース

  • Apple「WWDC24」本誌記事まとめ――今秋登場のiOS 18/iPadOS 18やAI/生成AI機能「Apple Intelligence」が発表[ケータイWatch
  • iPhone向け「iOS 18」発表、アップルのAI「Apple Intelligence」やアプリアイコンのカラーカスタマイズなど[ケータイWatch
  • 「iPadOS 18」発表、手書きの計算やデバイス遠隔操作に対応[ケータイWatch
  • Apple、「iOS 18」でRCSをサポート[ケータイWatch
  • アップル、「iOS 18」の対応機種を発表[ケータイWatch
  • アップル、「iPadOS 18」の対応機種と料金を発表[ケータイWatch
  • アップル、macOS Sequoiaで利用できる新機能「iPhoneミラーリング」を発表[ケータイWatch
  • Appleのティム・クックCEOが「Apple Intelligenceが虚偽や誤解を招く情報を生み出す可能性はゼロではない」と発言[Gigazine
  • イーロン・マスクが「AppleがChatGPTを統合するなら我が社ではAppleデバイスを使用禁止にしてゲストからも没収する」と発言しコラ画像も作成してリスクをアピール[Gigazine
  • イーロン・マスクがOpenAIに対する訴訟を取り下げ[Gigazine
  • ついにアップルも生成AIを本格活用へ。「Apple Intelligence」がもたらす“利益”と新たな課題[WIRED日本版
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。