中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2024/4/25~5/8]
コンテンツホルダーはOpenAIと協業すべきか敵対すべきか ほか
2024年5月13日 06:55
1. アップル、M4プロセッサ搭載「iPad Pro」発表。プロモーション動画は大炎上
アップルは日本時間5月7日に新製品発表イベントを開催し、「iPad Air」と「iPad Pro」の新モデルなどを発表した(ケータイWatch)。最も注目されるのは、新しい高性能プロセッサ「M4」を初搭載し、これまでになく薄くなった「iPad Pro(M4)」だ。今後のAIでの用途を見込んでのものと思われるが、具体的なことは発表されていない。予定されている開発者会議「WWDC」での話題となるのだろうか。
この新製品の仕様はさておき、SNS等で炎上しているのが、そのプロモーション動画だ(PC Watch)。問題となっているのは、楽器、画材、カメラなど、クリエイターにとっての道具が巨大なプレス機によって圧砕され、そこからiPad Proの機能性が誕生するという演出だった。この映像の狙いとしては、さまざまな機能性をこの薄いデジタルデバイスの中に包含するものであるということを表したいのだろうが、これまでアップルが大切にしてきたと思われているクリエイターや創作の道具をスクラップにするということからは敬意が感じられないどころか、むしろ毀損していると受け取れるというわけだ。
日本では映像が流れた直後からこうした意見がSNSに多く投稿されたが、海外でも同じような印象を持った人やメディアもあったようだ。
そして、もう1つは、価格の問題だ。最上位機種なので当然と言えば当然だが、iPad Proの全盛りで50万円ほどになる。為替の問題だけでなく、改めて日本の経済的な低下を思い知ることとなった。
2. コンテンツホルダーはOpenAIと協業すべきか敵対すべきか
OpenAIと英経済紙のフィナンシャル・タイムズグループは、戦略的パートナーシップとライセンス契約を締結したと発表した(Impress Watch)。狙いは、フィナンシャル・タイムズのコンテンツを使ってChatGPTを強化させ、新たなサービスを作り出すことだとされる。フィナンシャル・タイムズグループは日本の日本経済新聞社の傘下にあることから、こうした動きは日本の新聞業界へも影響を及ぼすのではないだろうか。
また、OpenAIは、プログラマー向けのQ&Aコミュニティサイトである「Stack Overflow」の情報をAPI連携させる協業を発表している(Impress Watch)。
このように、OpenAIはコンテンツホルダーとの提携を積極的に進めているが、一方で、訴訟も抱えている。既報のとおり、米ニューヨーク・タイムズはOpenAIを提訴しているし、今週、それに加えて、シカゴ・トリビューンやデンバー・ポストなどの8つの地方新聞社が、生成AIの学習用に許可なく記事を使用したとして、OpenAIとマイクロソフトの双方を提訴している(Gigazine)。
コンテンツホルダーとしては、生成AIの開発会社とライセンス契約をしたり、協業をしたりする道を選ぶのか、それともコンテンツの勝手な利用を許さないという姿勢で敵対的な道を選ぶのかという2つに分かれている。
日本では、コンピューターソフトウェアによるスクレイピングと分析は認められているという事情もあり、こうした裁判にはなりにくいのかもしれないが、今後の両業種の距離感についてはさまざまな思惑があるのではないか。
ニュースソース
- OpenAI、フィナンシャル・タイムズと提携 ChatGPTで情報活用[Impress Watch]
- OpenAIとプログラミングQ&Aサイトが協業 ChatGPTから参照可能に[Impress Watch]
- MicrosoftとOpenAIが著作権侵害で新聞社8社から訴えられる[Gigazine]
3. デジタル技術への一定の規制は必要――2つの世論調査から
NHKは、生成AIに関して世論調査の結果を発表している(NHK)。調査対象は「全国の18歳以上を対象に無作為に電話をし、3129人で、49%にあたる1534人から回答を得た」としている。
それによると、「『生成AI』による偽の動画や画像」について、「規制を強化すべき」が61%となっている。その理由として、「偽の情報によって人権が侵害される恐れがあると思うから」が48%、「偽の動画や画像を作ったり広めたりすることで著作権や知的財産を侵害すると思うから」が26%という。一般的に、著作権の観点が中心になりがちな生成AIの話題だが、昨今の情勢を反映し、偽画像や偽動画による人権の問題がクローズアップされているようだ。
また、朝日新聞は、ソーシャルメディアに関する全国世論調査(郵送)を実施している(朝日新聞デジタル)。それによると、「ソーシャルメディアの偽情報で、選挙の際に影響を受けることを心配する人」が82%で、そのうちの88%は「ソーシャルメディアでの情報について、一定の規制が必要だ」と回答している。また、「ソーシャルメディアでの他人への誹謗や中傷」についても同様な傾向が見られる。
デジタル技術の発展に対して、何らかの規制(ルール)の策定が必要なのだろうが、それだけで全てが解決するわけではない。これからさらに長い議論も必要になるということだ。
4. TikTok、米連邦政府を「憲法違反」で提訴
バイデン米大統領は、米国でTikTokを禁止する条項を含む法案に署名をした(Impress Watch)。TikTokの運営母体が中国資本であることから、米国での安全保障上の理由を挙げ、「TikTokの米国事業を1年以内に売却するよう」迫っている。これに対して、中国のバイトダンスとその傘下のTikTokは、米連邦政府を憲法違反で提訴したと発表した(ITmedia)。訴状によれば、「ジョー・バイデン米大統領が4月に署名した法律は、言論の自由を守る合衆国憲法修正第1条に違反する」と主張している。なお、同社によると、米国でのユーザーは1億7000万人以上としている。
日本ではLINEヤフーの情報漏えいに端を発した同社の経営体制の問題が注目されている。いずれも経済安全保障という問題であり、世界にはこうした動きもあるということは念頭におくべきだろう。
ニュースソース
- TikTok米国禁止法案にバイデン大統領が署名[Impress Watch]
- TikTok、米連邦政府を「憲法違反」で提訴 数百万人の言論弾圧[ITmedia]
5. 既刊本・既刊雑誌のデジタル化 3題
既刊本や既刊雑誌がデジタルで復活する話題が続いている。
まず、「サンリオSF文庫」が国立国会図書館デジタルコレクションで無料公開されている(INTERNET Watch)。1978年に創刊され、休刊となった1987年までに全197冊が発刊された。今回の収録タイトル数は160前後と約8割をカバーしている。
また、一般社団法人光文文化財団はウェブサイト「ミステリー文学資料館 WEB版」を開設した(カレントアウェアネス)。こちらは「同財団が所蔵する探偵雑誌のうち、複写が可能な資料の検索・複写申込みができるほか、所蔵する希少な本や雑誌、個人コレクション、グッズを展示するコーナー『展示室』が設けられ」ている。
そして、誠文堂新光社は、雑誌「子供の科学」の創刊100周年を記念して、創刊号の1924年(大正13年)10月号から1934年(昭和9年)9月号まで、10年間のバックナンバーを電子書籍にて復刻している(誠文堂新光社)。
言うまでもなく、デジタル化しておくことで、紙やインクの物理的劣化が避けられるということ、資料へのアクセスが容易になることなどのメリットがある。一方で、かかるコストをどうまかなうのかという経済的な問題もある。だからと言って、こうした資料が失われていいものでもないので、何らかの形で徐々にデジタル保存が進んでいってもらいたいものだ。
ニュースソース
- 幻の「サンリオSF文庫」、国立国会図書館デジタルコレクションで無料公開中[INTERNET Watch]
- 光文文化財団、ウェブサイト「ミステリー文学資料館 WEB版」を開設[カレントアウェアネス]
- 100年前の最新科学が読める!小中学生向け科学雑誌『子供の科学』創刊号から10年間のバックナンバーを復刻《雑誌『子供の科学』創刊100周年記念プロジェクト》[誠文堂新光社]