山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

2009年6月:フィルタリングソフト導入義務付け騒動 ほか


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

フィルタリングソフト「グリーンダム」導入義務付け騒動

 中国の工業情報省は6月、7月1日以後に販売されるPCについて、ポルノサイトなど有害なサイトを検閲するフィルタリングソフト「グリーン・ダム(「緑〓」、〓は土へんに覇)」の導入を義務づけすると発表した。

 発表されるやインターネット利用者を中心に話題となり、ネット上の掲示板などにはこの政策への反対意見が多数書き込まれた。

 反対ユーザーは、「ユーザー名やパスワードなどの個人情報が政府に筒抜けとなり、オンラインショッピングやオンラインバンキングが安心してできなくなるおそれがある」「なぜ多数あるフィルタリングソフトからわざわざマイナーなグリーン・ダムを選定し、政府資金を流し込んだのか」などの点を批判していう。

 グリーン・ダム導入義務づけに関して欧米や日本のメディアでは、“中国人の自由をまたひとつ奪う”とする論調が多く、欧米や日本政府は中国政府に7月1日からの強制実施に対して再考するよう訴えているとも伝えられた。しかし、そうした「利用者の自由を失うから」との反対理由を明記する報道は中国国内では少ない。

 中国政府は新聞紙面やニュースメディアで「各利用者の個人情報を犯すことはない」「インストールは必須ではない」と、個人情報漏洩への不安に対してフォローしている。

 また、グリーン・ダムに関しては、「盗用ソフトだ」として、カナダのソフトウェアベンダー「Solid Oak Software」や、米ミシガン大学のJ. Alex Halderman教授が訴訟を起こすという動きも報道されており、この動きについては中国メディアでも取り上げられている。

 こうした状況の中、ヘビーユーザーの一部は「グリーン・ダム」を徹底的にハッキング。その結果抽出された禁止サイトリストや、禁止検索ワードリストが多数のブログや掲示板に転載されてしまった。かくして、中国国内でも暗黙の了解だった、政治的禁止語句などの見えない機密情報が公にばらまかれるという結果を招いた。

 実施予定日の7月1日、中国政府情報産業化省(工業和信息化部)は、「インストールが遅れても構わない」というコメントを発表。新華社通信はすでに前日の30日付けで、「グリーン・ダム」のインストール義務づけは無期限延期されたと報道していた。

中国最速の10Mbps光ブロードバンドサービス開始

 中国で最も高速な10Mbpsのマンション向け光ブロードバンドサービスが、湖北省武漢で開始された。最高速度は北京など一部の都市でも8Mbps、その他の地域では2Mbpsとなっている。コストは都市部住民の平均月収の約2カ月分となる年間3588元(5万円強)。企業向けではなく個人向けでのマンション向け光ブロードバンドサービスは中国全土でも珍しい。

「グーグルが低俗な情報を流している」と大々的に非難

 1月から4月にかけて、グーグル中国が大量のポルノ情報と低俗な情報のリンクを表示していたとして、中国互聯網協会らは「国家の法律に触れ」「社会モラルに背き」「公共の利益に背く」と強い非難のコメントを発表。中国のさまざまなメディアが報道したほか、国営テレビのゴールデンタイムのニュース番組でも大きくこの問題をとりあげた。

 グーグル中国はこうした動きを受け、「迅速に低俗な内容を一掃する」とのコメントを発表。暫定的に、グーグル中国(google.cn)では中国国外のサイトを検索対象から外し、Google サジェストを無効にするなどの対処を行った。

グーグル中国、逆風の中、中国向け新サービスを投入

 「低俗な情報を流している」との非難への対応に追われたグーグル中国だが、一方で中国向けの新サービスをリリースしている。

 新サービスは「谷歌高考2009(http://www.google.cn/intl/zh-CN/landing/gaokao/gaokao.html)」と名付けられたが、これは日本風に言えば「中国全土大学受験センター試験合格大学地図」という名称になる。

 中国での大学受験は全土統一の「高考」という試験結果の点数で一発で決まり、その点数によりどこの大学に行くかを選ぶ。新サービスはこの「高考」対策ツールとなる。点数を何点から何点と設定し、省を設定すれば、その省内の(省を設定しなければ中国全土の)合格可能大学が地図上に表示される。

 グーグル中国はこのほか、淘宝網(TAOBAO)やAmazon中国をはじめとして、様々なオンラインショッピングサイトが乱立する現状に対し、欲しい商品を検索すると各サイトの価格が表示される「Googleショッピング検索(gouwu.g.cn)」をリリースした。

グーグル中国の新サービス「谷歌高考2009」同じくグーグル中国の新サービス「Googleショッピング検索」「Googleショッピング検索」で検索した例

中国での検索数の74%を百度が占める

 中国のリサーチ会社iResearchによれば、2009年第1四半期の検索数は442億7000万回となった。前年同期の295億6000万回に比べて49.8%増、2008年第4四半期(468億回)に比べて5.4%減した。また、検索広告市場は、13億200万元で前年同期比40.2%増の成長を遂げた。

 ベンダー別シェアでは、百度は前期比2.1%増の74.1%に、グーグルは前期比2.1%減の20.9%となった。中国では4月から6月末までの第2四半期の間に、前述のグーグルに対するネガティブな報道が大々的に報道された。このため、Googleの検索シェアはさらに下がるおそれがあると見られている。

内陸重慶で公共料金の第三者支払サービス開始

 中国政府の直轄市である内陸の重慶で、6月1日から、アリババグループの第三者支払いサービス「アリペイ(支付宝)」による公共料金の支払いが可能になった。上海、杭州、北京、天津などの沿岸部の大都市では採用例があるものの、内陸部ではまだこうした採用例はまれだ。

 アリペイ(支付宝)への入金は、中国国内の36の銀行と、中国国内で発行された11のクレジットカードなどから可能で、アリペイ(支付宝)の主な出金用途であった、オンラインショッピングサイト「淘宝網(TAOBAO)」の決済の他、水道・電気・ガス・固定電話・携帯電話・インターネットプロバイダーへの支払いも可能になった。

2億元規模のハッカー市場にメス

 中国のセキュリティソフトベンダーである瑞星のセキュリティセンターによれば、6月10日、最高学府の北京大学ほか、北京外国語大学、中国政法大学など著名大学にハッカーが侵入、各大学のサイトにバックドア型ウイルスが仕掛けられた。このほか6月には、Facebook似の著名なSNSサイト「校内網」にハッカーが侵入した事件があり、多くの利用者の日記が書き換えられた。

 セキュリティベンダーの金山軟件(キングソフト)は6月11日、5月に前月比38%増となる249万もの新しいトロイの木馬がつくられ、2000万台のPCが感染したと発表した。 

 こうしたセキュリティ関連の大きなニュースが毎月複数報道されている。中国政府のコンピューターネットワークに関する部署「国家互聯網応急中心(CNCERT)」の発表によれば、ハッカー市場は年2億3800万元(約33億5000万円)規模まで拡大しており、ハッカー産業による消失は76億元(約1060億円)に達すると試算している。

 こうした中、中国政府工業和信息化部(工業と情報化省)は、6月1日、トロイの木馬の対抗措置「木馬和僵屍網絡監測与処置機制」を発表。国家互聯網応急中心(CNCERT)が、トロイの木馬を感知したら、2時間以内にIDC、インターネットデータセンター、プロバイダーと提携し発信源を分析、公安当局に連絡する体制を作った。

新型インフルエンザで「隔離日記」が人気に

 中国でも外国から帰国した中国人や、航空機内でその周辺に座っていた人が新型インフルエンザに感染し、一部の人が隔離された。その隔離された人による、隔離日記と呼ばれる病院内日記をしたためたブログが話題を呼んだ。

 大手ポータルサイトは、人気あるブログを集めた隔離日記特集ページを開設。人気が高いのは、よい隔離先環境を享受した人のブログだ。新型インフルエンザは弱毒性ということもあり、多くの読者が公認の休暇を羨ましがっている。

「中国で約半数の信用情報が登録済み」と中国人民銀行

 日本で言えば日本銀行にあたる、中国人民銀行の信用情報を扱う部署の主任、戴根有氏は6月「現在までに中国大陸の(13億の全人口の約半数にあたる)6億5000万人の個人信用情報が登録されており、毎日企業から14万5000回、個人信用システムから70万回の問い合わせがあるほか、既に公安など政府機関16部門とも連携している」とコメントした。

 戴根有氏はまた「現在の信用情報を管理する法律法規は充分でない」とし、新条例を煮詰めている段階とコメント。また「国際慣例と中国の国情を合わせた信用情報制度の設立を推し進める」という。


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2009/7/3 11:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。