清水理史の「イニシャルB」

ネットが遅い!を解決、実質2倍以上に速くなる@nifty「v6プラス」を試してみた

PINGも倍近く高速に、ただし技術的な制約も

@niftyのIPv6プラスサービス。通常のプロバイダーサービスを契約すると、無料で追加できる

 夜間などの混雑時間帯になるとインターネット接続が遅くなる……。そんな状況の改善を見込んで、いわゆる「v6プラス」のサービスを利用するユーザーが増えてきた。制約が多いため導入を見送っていた筆者だが、ものは試しと、@niftyの「v6プラス」サービスに加入してみた。

開通まで1カ月……、申し込んだのは8月6日

 1週間ほどで各種書類が郵送で届き、PPPoEでの接続サービスは使えるようになったものの、肝心のv6プラスが使えるようになったのは、9月1日。

 約1カ月という期間は長いようにも思え、サポートに2度ほどメールを送ったものの、「お待ちください」という回答だったので、まあ、そんなものなのだろう。

 ようやく筆者宅でも「v6プラス」のサービスが利用可能になった。

 もともと利用していたのは、ぷららのインターネット接続サービスだが、いわゆる回線とプロバイダーサービスが一体化した「光コラボ」は意図的に避けてきた。このため今回、回線と既存のぷららのサービスをそのまま維持した状態で、@niftyのプロバイダーサービスである「@nifty光ライフ with フレッツ」だけを新たに契約した。

 費用は余計に掛かるが、@niftyでは接続サービスに無料でv6プラスのサービスを追加できるため、月額費用1200円(2年割りなし)で利用可能となった。

 「v6プラス」は、日本ネットワークイネイブラー株式会社(JPNE)が提供するIPv4/IPv6インターネット接続サービスのことだ。

 IPoE方式のIPv6接続サービスをベースに、MAP-E方式のIPv4接続サービスも提供するもので、利用するには、NTT東日本・西日本のフレッツ光回線、およびフレッツ・v6オプションが必要となる。現状、@niftyのほかに、「GMOとくとくBB」「DMM光」などが、同様のサービスをユーザーに提供している。

JPNEのv6プラスを利用したサービス

 このサービスが注目を集めている理由は、その特徴として通信速度の速さが大きく訴求されているためだ。

 以前から、夜間など一部の時間帯に、混雑によってインターネット接続が極端に遅くなる状況が話題になることがあったが、v6プラス(もしくは同様のサービス)を利用すると、こうした問題を回避することが可能で、現状、時間帯を問わず快適な通信速度を実現できる。

 せっかくの光回線なのに、数Mbps(もしくはそれ以下)の速度しか出ず、ゲームや動画ストリーミングがまともに使えなかった人々の避難先となっているわけだ。

PPPoEとは経路が違う、だから高速

 なぜ、v6プラスが速いのかというと、簡単に言えば、空いているから。

 従来のフレッツ光では、PPPoEと呼ばれる方式を利用して、家庭内に設置したホームゲートウェイ(HG)やルーターから、フレッツ網を介してプロバイダーの設備に接続していた。

 夜間などに回線速度が遅くなるのは、このプロバイダー設備の容量の問題だ。多くの接続が集中することで、1契約者あたりが使える帯域が極端に低くなっていたためとなる。

 そこで、v6プラスでは、従来のPPPoEによる接続先とは別の接続先を用意。言わば、渋滞を避けて、別の高速道路をバイパスすることで、高速な通信を実現できることになる(IPv6通信も分離できる)。

 もちろん、v6プラスという名前の通り、もともとはIPv6の普及を狙ったサービスであり、枯渇するIPv4ネットワークからの移行を目指したものとなっている。

 基本的には、IPv6のネットワークとなっており、IPoE(イーサネット上でIPv6でネイティブ通信する)方式で、特別な接続設定などをせずに(IPv6の有効化は必要)、IPv6での通信が可能となっている。

v6プラスのサービス詳細。IPv6上でIPv4を実現する。従来のIPv4サービスは混雑が原因で速度が遅くなるが、v6プラスサービスは現状利用者が少ないため空いており、高速な通信がしやすい

 一方、従来のIPv4は、このIPv6ネットワーク内で提供されており(IPv4 over IPv6)、IPv4の通信をカプセル化してIPv6ネットワーク内でやり取りを行い、端末やJPNE側の装置でカプセル化を解除して、IPv4ネットワークへ流すという仕組みになっている。

 IPoE方式のIPv6サービスは、OCNなどでも提供されているが、IPv4の通信が従来のPPPoEのままとなっている点が、v6プラスとの違いとなる。

 また、IIJも同様にIPv4 over IPv6のサービスを提供しているが、カプセル化の方式が異なっており、v6プラスの「MAP-E」に対して、IIJは「DS-Lite」を採用している(違いに興味がある人はこちらを参照)。

 さらに、以前はビッグローブもv6プラスサービスを提供していたが、現状はIPv6オプションという名称で別のサービスを提供している(方式としてはMAP-E)。

 実にややこしいところだ・・・・・・。

ホームゲートウェイ利用ならv6プラス開通後に接続先が自動で切り替わる

 v6プラスの使い方は、大きく分けて2通りある。

 ひかり電話などを契約している場合で、対応HG(PR-500、RT-500、PR-400、RV-440、RT-400、RT-S300、PR-S300、RV-S340の各シリーズ)を利用している場合は、v6プラスの契約後、開通案内が届くまで、ひたすら待っていればいい。

 v6プラスに対応したHGには、「フレッツジョイント」と呼ばれる機能が搭載されており、HG向けに事業者がソフトウェアをリモート配信できるようになっている。

 この仕組みを利用して、v6プラス用のソフトウェアがHGに配信されれば、IPv4接続が自動的に従来のPPPoE接続からv6プラスへと切り替わる。

v6プラスサービスが有効になると、PPPoE接続はグレーアウトして利用不可になる
フレッツジョイントでHGに配信されたプログラムを利用して、v6プラスサービスが提供される
v6プラスサービスの設定画面

 接続確認は、インターネット上の確認サービスなどを利用するのが手っ取り早い。http://ipv6-test.com/などにアクセスすると、IPv6でアクセスできるかどうかが表示される(Supportedと表示されアドレスなども表示される)。そして、IPv4の部分でHostnameに「xxxxxxx.v4.enabler.ne.jp」とJPNEのホスト名が表示されていれば、切り替えは完了だ。

インターネット上のテストサイトなどを利用すると、v6プラスサービスでアクセスできているかどうかが確認できる

 もう1つは、市販のルーターを利用する方法だ。最新情報については、JPNEのウェブサイトを参照してほしいが、現状はバッファローの無線LANルーター「WXR-2533HP2」「WXR-2533DHP」「WXR-1900DHP3」「WXR-1901DHP3」「WXR-1900DHP2」「WXR-1900DHP」「WXR-1750DHP」「WXR-1750DHP2」「WXR-1751DHP2」と、アイ・オー・データ機器の「WN-AX1167GR」「WN-AX1167GR/V6」のそれぞれファームウェアバージョン3.20以降が対応している。

 設定は、ウィザードや接続設定画面で、接続方式として「IPv6プラス」を選択するだけとカンタンだ。

 ただし、手元にあったWXR-2533DHP(最新ファーム)で試したところ、HG(PR-500KI)では問題なく接続できるものの、WXR-2533DHPではIPv4通信がどうしても確立できなかった。古い機器のため個別のトラブルのようにも思えるが、今回は原因までは特定できなかった。

回線速度は倍以上、時間帯によってPINGが3倍に

 実際の効果だが、非常に安定して、速度も出ている印象だ。

 以下は、v6プラスが開通した後の9月2日(土曜日)に、約1時間ごとに「speedtest.net」を利用して速度を計測した結果だ。

 HGからネットワークケーブルを分岐させ、スイッチ経由でHGのルーターとASUSTeKの「BRT-AC828」を接続。HGは@niftyのv6プラスサービスに接続し、BRT-AC828はPPPoEでぷららに接続した状態で、両者のスピードを計測している。

PINGの比較。時間帯によってはIPv6プラスが3倍以上高速
ダウンロードの比較。IPv6プラスの速度は倍以上で、時間帯によっては3倍近い
アップロード速度は、IPv6プラスが5倍近く高速な時間帯もある一方で、差の小さい時間帯も
ぷらら(PPPoE)@nifty(IPv6プラス)
計測時間PINGDOWNUPPINGDOWNUP
7:1713285.11392.154549.04626.53
8:277406.04417.584647.58671.98
11:158274.02472.684720.82526.4
12:037330.03423.746825.56700.2
15:337402.79453.395669.2506.51
16:388225.2597.54655.01496.63
17:396217.01341.334479.02438.38
18:357366.26456.974763.08688.27
19:286365.4410.633813.7694.09
20:517348.26329.094681.65515.78
21:297380.28262.234719.83640.36
22:0412300.9328.84643.83455.21
22:258243.66443.615599.63427.23

 筆者宅の場合、もともとのぷららの回線がさほど遅くなかったにもかかわらず、v6プラスの方が速度も高い上、何よりPINGの値が4~5msと常に安定している。

 下のぷらら公表データを見ると、21時前後からトラフィックが高くなり、21~22時台はPINGの値、速度ともにぷららは低くなる。一方のv6プラスは若干落ち込みは見られるものの、それでもPINGは4~5ms、転送速度もダウンロードで600Mbpsほどの高い値を維持できている(アップロードが若干遅い)。

ぷららの公表しているトラフィックデータ。週末が比較的混雑するようなので土曜日を選択。時間はやはり21時以降が混雑する

 ここまで安定した速度を実現できていることを考えると、現時点ではIPv6が利用できるプロバイダーの乗り換えや追加契約を検討する価値は確かにありそうだ。

技術的な制約も一部アリ、ゲームやネットワーク機器の外部利用に制限

 このように、設定がカンタンな上、移行後のパフォーマンスも良好なv6プラスだが、いいことばかりではない。

 安定性と引き換えに、ユーザーは自由度を手放す必要がある。

 具体的には、自宅に設置したネットワーク機器(サーバーやカメラ)の外部への公開や、ネットワークゲームのプレイなど、一部の利用に制限がある。

 v6プラスでは、MAP-E方式が採用されているが、この方式では、1つの(IPv4の)グローバルIPアドレスを複数ユーザーで共有する。従来のPPPoE方式では、接続ユーザーごとに1つのグローバルIPアドレスが割り当てられていたが、そうではなく、自分に割り当てられたグローバルIPアドレスは、別のユーザーも利用しているわけだ。

割り当てられたIPアドレスやポートは設定画面で確認可能。ただし、通常の設定画面では確認できないため、「http://192.168.1.1:8888/t/」でアクセスする必要がある

 もちろん、そのままでは、特定のグローバルIPアドレス宛てに送られた通信が、どのユーザー宛てのものなのかを判断できない。このため、v6プラスでは、ユーザーごとに使えるポートを制限している。

 例えば、仮に「100.100.100.100」が割り当てられたAさんとBさんがいたとして、Aさんにはポート101~116、Bさんにはポート201~216が割り当てられていたとしよう。単純に「100.100.100.100」だけでは、AとBのどちら宛てかを判断できない。だが、ポートを指定することで「100.100.100.100:101」ならAさん宛て、「100.100.100.100:201」ならBさん宛てと区別できることになる。

 なお、IPアドレスは、割り当てられたIPv6アドレスをベースに設定され(IPv6アドレスはプレフィックス+MACアドレスなので事実上固定IP)、同様に利用可能なポートも固定的に割り当てられる。

 このため、従来のPPPoEのように、再接続やルーターの再起動でも、IPアドレスやポートが変更されることはない。

 ちなみに、割り当てられるポートは1ブロックあたり16個で15ブロックとなっており、合計で240となる。

筆者宅に割り当てられたポート
開始終了使用可能数
Block15568558316
Block29664967916
Block3137601377516
Block4178561787116
Block5219522196716
Block6260482606316
Block7301443015916
Block8342403425516
Block9383363835116
Block10424324244716
Block11465284654316
Block12506245063916
Block13547205473516
Block14588165883116
Block15629126292716
合計240

 このような制約は、普通にウェブページを見たり、ファイルをダウンロードする分には、ほとんど問題にならない。

 しかし、以下のようなケースでは、“場合によっては”機器やソフトウェアの利用をあきらめざるを得ない。

  • 自宅やオフィスに設置したNASに外出先からアクセスする
  • 自宅でウェブサーバーやFTPサーバーを公開する
  • 自宅にVPNで接続する
  • 自宅の監視カメラの映像を見る
  • 自宅の家電を外出先から制御する
  • ネットワークゲームのホストになる

 ポイントは、上記のような利用が全くできないわけではなく、場合によってできたり、できなかったりする点だ。

 具体的には、ポートが変更できるかどうかが大きな焦点になる。

 例えば、ウェブサーバーを公開する場合、一般的にはポート80でアクセスすることになるが、v6プラスで80が割り当てられなければ(実際に割り当てられることはない)、ウェブサーバーに別のポートを割り当てて起動すればいい。

 前述した方法でルーターの設定画面で、自分に割り当てられたポートを確認し、そこから任意のものを選んでウェブサーバーに設定しておけば、外出先から「http://○×△.com:[選択したポート]」でアクセスできることになる。

外部からアクセスしたい機器側で利用するポートを変更。v6プラスで割り当てられた範囲から選択すれば、外部からのアクセスが可能となる

 やっかいなのは、ポートが固定されていて変更できないサービスだ。例えば、VPNのPPTPやL2TP/IPsecなどは変更できない。可能であれば、OpenVPNなどポートを変更できるものを利用しよう。また、ネットワークゲームなどでポートが固定されていて変更できない場合も、利用を諦めざるを得ない。

 ただし、最近のネットワークカメラやNASは、中間サーバーを経由するなど、NAT越えで培った技術が搭載されているため、v6プラス環境でも外部からの接続に支障がないものも少なくない。

 例えば、SynologyのNASは、「QuickConnect」と呼ばれる独自の接続技術が搭載されている。これを利用すれば、v6プラス環境でも中間サーバー経由でアクセスできる(ポートを変更すれば直接接続も可能)。

 また、以前、本コラムで取り上げたSafieのウェブカメラも試してみたが、こちらもv6プラス環境で問題なく外部から映像を確認できた。

 古いところでは、nasneのリモート視聴サービスも試してみたが、こちらも問題なく外出先から録画番組を視聴できた。

 実際に、どのような機器やサービスがNGで、何が大丈夫かは、やってみないと分からないが、実際に試してみると、意外に苦労しないという印象だ。

 とは言え、IPアドレスをほかのユーザーと共有していることに変わりはないため、ダイナミックDNSサービスなどで特定のホスト名を割り当てるのは、できれば避けたいところだ。特定のポートしか使わないとしても、そのホスト名に対して第三者がアクセスすれば、意図せず、ほかのユーザーが利用しているポートに接続される可能性もある。

 モラルの問題もありそうで、このあたりは、なかなか判断が難しいところだ。

現状で速度にさほど不満がないなら、しばらく様子見で

 以上、@niftyのv6プラスサービスを実際に利用してみたが、確かにパフォーマンスは良好だ。日時を問わず、安定した通信ができるのは、大きな魅力と言える。

 しかしながら、仕組みが特殊で制約も少なくない。多機能なルーターを利用したり、NASを利用するといったケースでは、いくつかの機能が制限される場合も考えられるので、無条件にお勧めできるものでもない。

 現状、インターネット接続速度がどうしようもなく遅く、とてつもないストレスとなっているのであれば、移行を検討する価値はあるが、その場合、フレッツ以外の回線を選ぶという選択肢もあるので、難しい判断となりそうだ。

 今後、ネットワーク機器やサービスがIPv6を前提とした対策を進めれば、上記のような制約に悩まされることもなくなるため、個人的には、もう少し様子見でもいいのかなとも思える。ほかのプロバイダーの動向なども見つつ、ゆっくりと検討すべきだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。