清水理史の「イニシャルB」
NVMe SSDキャッシュ対応のSynology「DS918+」 写真を自動的にAIで分類! 「Moments」と「Drive」を試す
HDD込み10万円で選べる4ベイ+Apollo Lake CPUの高コスパモデル
2017年11月27日 06:00
Synologyから4ベイNASの新モデル「DiskStation DS918+」が登場した。新世代のCPUを搭載したほか、筐体が一新され、さらにはNVMe SSDキャッシュにも対応した製品だ。現在、ベータテストが実施されている新アプリ「Moments」や「Drive」と併せてテストしてみた。
「予算は10万円」の枠内で選ぶなら……
ファイルサーバーの購入で、「予算は10万円」と言われたら、本製品はかなりいい選択肢になるんじゃないだろうか。
Synologyから登場した「DS918+」は、同社のラインアップでは、ビジネス向けに位置付けられる「Plusシリーズ」の最新モデルだ。
4ベイで容量にも余裕を持てる上、複数ユーザーのアクセスが集中する環境でネットワーク負荷を軽減できるリンクアグリゲーション(LAG)にも対応し、非常にバランスがいい。
それでいながら、実売価格は本体のみで税込6万5千円(2017年11月20日Amazon.co.jp調べ)。HDDの容量と価格にさえ注意すれば、10万円以内で収めることができる。搭載するHDDの選択にこだわって、10万円オーバーしそうなら、まずは3本でスタートして、後でHDDの追加購入を申請する手もある。
後述するNVMe SSDも……、と欲を出せばきりがないが、スモールスタートで必要に応じて簡単に拡張していけるのも、Synologyに代表される海外製NASならではのメリットだろう。
中小企業や部署内の情報共有が目的なら、まず本製品を検討したい。
上位モデルのデザインを採用それでは、実際に製品を見ていこう。
まず目に付くのは本体のデザインだ。従来モデルとなる「DS916+」では、フロントに脱着式のカバーが装着されていたが、本製品はカバーレス。見た目はカバー付きの方がスッキリした印象があるが、5ベイ以上のシリーズでは、もともとエアフローなどを考慮してカバーレスのデザインが採用されており、それに準じた格好になる。
これに伴ってHDDトレイも鍵付きとなり、防犯を考慮した設計となった。ビジネスモデルらしい、王道の進化を遂げたと言っていいだろう。
もちろん、従来モデルからの進化は見た目だけにとどまらない。内部も大幅に進化しており、CPUは従来のPentium N3710から、Apollo LakeベースのCeleron J3455(クアッドコア、1.5GHz)へと進化。メモリも標準で4GBへと増量されるなど、パフォーマンスの向上が図られているほか、わずかながら消費電力も減少している。
なお、同じ4ベイモデルには、同時に発表された個人向けの「DS418play」も存在するが、下のスペック表でも明らかなように、CPUやメモリの性能は、明らかにDS918+の方が上だ。
DS918+ | DS916+ | DS418play | |
CPU | Celeron J3455(クアッドコア、1.5GHz、TurboBoost 2.3GHz) | Pentium N3710(クアッドコア、1.6GHz) | Celeron J3355(デュアルコア、2GHz) |
AES-NIハードウェア暗号化 | ○ | ← | ← |
ハードウェアエンコード | ○ | ← | ← |
メモリ | 4GB(最大8GB) | 2GB(最大8GB) | 2GB(最大6GB) |
ベイ数 | 4 | ← | ← |
M.2スロット | 2 | × | ← |
LAN | 1000Mbps×2 | ← | ← |
LAG | ○ | ← | ← |
USB | 3.0×2 | 3.0×3 | 3.0×2 |
eSATA | 1 | ← | - |
本体サイズ | 166×199×223mm(幅×奥行き×高さ) | 165×203×233.2mm(幅×奥行き×高さ) | 166×199×223mm(幅×奥行き×高さ) |
動作時消費電力 | 28.8W | 30W | 29.01W |
NVMe SSD×2をオプション不要で搭載可能
このように、内外ともに進化したDS918+だが、最大の注目は、NVMe SSDに対応した点だ。底面にM.2スロットを2基搭載しており、ここにキャッシュ用にNVMe SSDを搭載可能となっている。
同社製のこれまでのNASでも、SSDをキャッシュに利用することはできたが、HDDベイを消費したり、別途、M.2スロット用の拡張カードを利用する必要があった。これに対し本製品では、本体底面に標準でM.2スロットを搭載している。
もちろん、NVMe SSDは別途購入する必要はあるが、装着は非常に簡単だ。
底面の2つのカバーを取り外すと、それぞれのM.2スロットが姿を現わす。ソケット側にNVMe SSDの端子を差し込み、反対側を本体側の樹脂製ノッチで固定すればいい。
HDDトレイのネジレス機構など、個人的には、こうしたSynologyのユーザーフレンドリーな姿勢は高く評価したいポイントなのだが、キャッシュデータが書き込まれれたNVMe SSDの盗難が懸念される上、キャッシュとしての構成後に取り外されてしまった場合のデータロスも懸念される。ビジネス向けということを考えると、ネジで固定する方式も選べるなど、ココは、もう少し、慎重になってもよかったのではないだろうか。
NVMe SSDキャッシュは、複数ユーザー利用で特に効果大
気になるキャッシュの実力だが、用途によっては大きな効果が期待できそうだ。
まずは、CrystalDiskMark 6.0.0を使って、ネットワーク内のPCから速度を計測してみた。こうしたベンチマークソフトでは、キャッシュの影響を受けないよう工夫されている上、ネットワーク帯域がボトルネックになってしまうために大きな違いは見られないが、ランダム(Q8T8とQ32T1)の書き込み速度は若干、上がっている。恐らく、データの書き込み先がNVMe SSDに変更されたことが影響していると思われる。
続いて、PCから733個、約7GBのファイルを転送してみた結果をみてみよう。Robocopyを使ってPC(SSD)上のデータをネットワークドライブとして割り当てたDS918+にコピーした結果だ。
こちらも、やはりネットワークがボトルネックになってしまっているが、読み書きともに若干ながらキャッシュON時の方が値が高くなっている。
DSM(設定画面)のSSDキャッシュの状況をベンチマークテストの最中に眺めていると、CrystalDiskMark実施時は、Read時もキャッシュにヒットする様子はほとんど見られなかったが、Robocopyの場合、読み込み時(NAS→PC方向)は、最初から最後までヒット率が100%で、完全にNVMe SSDからデータを読み込んでいることが分かった。
日常的な利用シーンでは、このように同じファイルを複数ユーザーで何度も開いたり更新したりという作業が頻繁に発生する。そう考えると、特に複数ユーザーでの利用が前提のビジネスシーンでは、NVMe SSDのキャッシュのメリットが活きてくると言えそうだ。
Read | Write | |
キャッシュOFF | 89.34 | 80.15 |
キャッシュON | 92.82 | 83.82 |
写真を整理する時間がない?ならAIで自動分類してくれる「Moments」で
このように、魅力的なハードウェアを備えたDS918+だが、ソフトウェア面でも興味深い機能が利用できる。
まず、注目したいのが、現在ベータテスト中のアプリ「Moments」だ。
現行のDSM 6.1でも、パッケージセンターで「ベータ版の利用」を許可すれば使用できる最新のアプリで、ひと口で言えば画像をAIで分類・管理できる機能となる。
ホームフォルダへスマートフォンの写真をアップロードする機能は、Photo Stationにも搭載されていた。しかし、Momentsはバックアップのためではなく、写真を管理する目的である点が異なる。
画像管理であれば、従来から「Photo Station」が利用できるが、これとは少し用途が異なる。どちらかというとPhoto Stationは、NAS上で共有された写真をみんなで管理・活用するためのアプリと言える。ユーザー別に利用することも可能だが、みんなが共有フォルダーにコピーした写真を、自分たちのルールに従ってフォルダーやアルバム、タグで管理することができるようになっている。
一方、新たに登場したMomentsは、「個人的な」写真をNASに「自動的に」管理してもらうための機能で、写真は標準でユーザーのホームフォルダーに保存されるため、従来の「Photo」フォルダーでの管理とは別になる。
一見、面倒そうに思えるが、企業や家族でNASを共有する場合を考えれば、実はとても効率的だ。
例えば、出張の写真をNASで管理することを考えてみよう。会社のカメラで撮影したなら、写真は基本的に共有すべき(しても構わない)データなので、出張先などの名前を付けて「Photo」フォルダーに保存しておけばいい。
このとき、同じ出張時に自分のスマートフォンで撮影した写真があったとしよう。スマートフォンにはプライベートな写真もあるため、会社のカメラのように、すべての写真を共有フォルダーに放り込むような使い方は避けたい。このため、写真を1枚ずつ確認して、NASに保存するかどうか、みんなで共有しても問題ないか、いちいち考えなければならない。
Momentsを使えば、こうした手間から解放される。
NAS側にパッケージを導入後、スマートフォンにMomentsアプリをインストールすると、スマートフォンの写真を自動的にNASにアップロードすることができるのだが、このアップロード先は、前述したようにユーザー個人のホームフォルダだ。このため、アップロードされた写真は、基本的に自分しか見ることができない。
アップロードされた写真は、AIエンジンによって自動的に分類されるようになっており、「人々」「主題」「場所」「タグ」の各カテゴリに加え、さらに詳細なシーンごとのキーワードで分類されるようになっている。
例えば、人物であればAIによって自動的に認識された人物ごとに「これは誰ですか?」に名前を設定しておけば、以後、その人物の写真が自動的に分類されるようになる。
このような人物認識は、既存のNASでも可能だったが、AIの威力が発揮されるのは「主題」での分類だ。
例えば、「子供」「犬」「食事」「卒業式」「湖」「ダンス」「サッカー」「動物」「花」など、非常に細かな分類が可能になっている。
「犬」と「動物」など、似たようなカテゴリがあるが、犬の写真は動物にも含まれるといったように、写真が複数のカテゴリに分類されることもある。これは複数の集合の関係や集合の範囲を視覚的に図式化した“ベン図”のようなイメージと言える。これはこれで、写真を選ぶ範囲を柔軟に変えられるので便利だ。
スマートフォンで撮影した写真には、いろいろなシーンのものがあるだろうが、それを自動的に分類してくれるのはありがたい。
もちろん、スマートフォンの写真だけでなく、PCの写真も分類可能だ。ホームフォルダーの「\Drive\Moments」配下にコピーするか、ウェブブラウザーからMomentsの画面にドラッグして写真をアップロードすれば分類される。
ちなみに、Synologyの発表会で、「日本料理」と分類されている写真があったので、ジオタグが判断基準になっているのではないか? と質問してみたが、純粋に画像に写っている内容から判断しているようだ。例えば、中国の日本料理店で撮影した場合でも「日本料理」になるとのことだった。なかなか興味深い。
写真の分類に悩んでいる人は、使ってみるとよさそうだ。
ただ、すでに同社のNASを利用している人の中には、家族の写真がPhotoフォルダーに大量に存在するはずだ。個人の写真を分類するという考え方は理にかなっているが、将来的には、ホームフォルダーの写真だけでなく、Photoを含む任意のフォルダーも、Momentsで自動分類してくれるようになるとありがたいところだ。
統一された環境でファイルを管理もう1つの注目したいアプリ「Synology Drive」
これは、同社のファイル管理環境を統合するものだ。SynologyのNASではこれまで、「File Station」とそのモバイル版「DS File」、同期用の「Cloud Station Drive」など、ファイルを管理するためのアプリが複数存在した。
用途ごとに各機能が進化してきたので、複数手段が存在するのは仕方ない部分もあるが、慣れていないとその違いを把握したり、使い分けるのが難しかった。
このため、新たなファイルポータルとして登場したのが「Synology Drive」だ。ウェブブラウザーからアクセス可能なファイル操作画面、PC用の同期ソフト、スマートフォン用のアプリなどが、「Drive」として統合されている。
使い勝手は、従来のFile Station+Cloud Station Driveのようなイメージで、先に紹介したMomentsとも密接に連携する。例えば、スマートフォンで写真を撮影すると、自動的にMomentsでNASへとアップロードされ、同時にSynology DriveでPCとも同期される。このため、スマートフォンで撮影を行えば、数秒後にはPCのフォルダ上にその写真が表示されることになる。これは便利だ。
また、個人ファイル(ホームフォルダーのデータ)だけでなく、新たにチームでファイルを共有できる「チームフォルダ」での管理が可能となっている。
ベースとなるのはNAS上の共有フォルダー(アクセス権などを継承)なのだが、共有フォルダーの中でも、Synology Drive上での利用が許可されたものだけが、Driveの画面上にチームフォルダとして表示される。
なお、Momentsの保存先は、Synology Driveの配下に存在する。複数台のPCでSynology Driveを利用している場合は、Momentsでアップロードした写真がほかのPCにも自動的に同期される。もし、同期したくなければ、Synology Driveの設定で同期対象からMomentsを外しておけばいい。
もちろん、すべての共有フォルダーを表示して、Windowsのエクスプローラーでのファイル管理からブラウザーベースでの管理に切り替えることも可能だ。しかし、バックアップ用の共有フォルダーといった余計なフォルダーを表示することなく、本当にチーム作業に必要なフォルダーのみを表示できるため、分かりやすいし、作業効率がいい。
スマートフォンからのリモートアクセスも可能だが、こちらも同様に必要なデータだけに素早くアクセスできるのが便利だ。
ビジネスシーンで、Synologyならではの機能をより活用しやすくなったと言えるだろう。
ハード・アプリとも着実に進化している
以上、Synology DS918+と、ベータ版アプリ「Moments」「Synology Drive」を実際に使ってみた。その使いやすさに、また一段と磨きがかかった印象だ。
NVMe SSDによるキャッシュが利用できる点も大きなメリットだが、MomentsのAIエンジンやSynology Driveのスマートさは、ほかのNASには見られないSynologyならではの特徴と言える。
同じくベータテスト中のDSM 6.2で、また一段と機能が進化するようだが、MomentsやSynology Driveは現行ファームウェアでも試せるので、興味がある人は試してみるといいだろう。きっと、NASの新しい使い方が見えてくるはずだ。
(協力:Synology)