清水理史の「イニシャルB」

Synology NASがビジネス機能を強化、最新OS「DSM 6.2 beta」と最新データ保護機能を試す

10GbE NIC/M.2 SSD対応の6ベイNAS「DS3018xs」でテスト

「DSM 6.2 Beta」の画面

 Synologyから、同社製NAS向けのファームウェア「DiskStation Manager(DSM) 6.2 Beta」が登場した。前回紹介した「Moments」や「Synology Drive」などのアプリがコンシューマー向けの改善であったのに対し、DSM 6.2 Betaは、スナップショットなどによるデータ保護機能「Snapshot Replication」をはじめ、主にビジネスシーンでの信頼性が強化されている。発売されたばかりの最新モデル「DS3018xs」とともに、その実力を検証してみた。

ビジネスシーンで求められる性能や信頼性を備えた「DS3018xs」

 Synologyから登場した「DiskStation DS3018xs」は、中小規模のビジネスシーンに適したデスクトップタイプのNASだ。

Synologyのビジネス向け6ベイNAS新モデル「DS3018xs」

 SynologyのNASの中では、末尾に「+」が付くPlusシリーズがビジネス向けに位置付けられているが、今回のDS3018xsは、さらに上位に位置付けられる「FS&XSシリーズ」のモデル。デスクトップタイプながら、高い性能と信頼性を備えた製品となっている。

 実際、価格レンジ的に近い(と言っても約5万円の差はあるが……)Plusシリーズの「DS1817+」とスペックを比べてみると、ベイ数は6(DS1817+は8)と少ないものの、ビジネスシーンに求められるパフォーマンスや信頼性が、きちんと備えられていることが分かる。

正面
背面
DS3018xsDS1817+
実売価格17万640円11万9000円
CPUPentium D1508(デュアルコア、2.2GHz)Atom C2538(クアッドコア、2.4GHz)
AES-NIハードウェア暗号化
ハードウェアエンコード
メモリ8GB(DDR4 ECC)8GB(DDR3)
最大メモリ32GB16GB
ベイ数68
最大ベイ数30(DX1215×2)18(DX517×2)
LAN1000Mbps×4
LAG
USB3.0×33.0×4
拡張ポート2
eSATA2
PCIeGen3 x8スロット×1Gen2 x4スロット(x8形状)×1
本体サイズ166×282×243mm(幅×奥行き×高さ)166×343×243mm(幅×奥行き×高さ)
動作時消費電力126.89W61.5W

 CPUにはPentium D1508が採用されており、多数のアクセスを快適に処理できるようになっている。メモリも搭載量こそ8GBと同じだが、3018xsはECCメモリが採用されている上、最大容量も32GBまでと、高い拡張性も備えている。

 前述した通り、搭載可能なHDDは6台だが、背面に2つのInfinibandポート(基幹系やHPCサーバーなどで採用される高速I/Oバス)を搭載しており、オプションの拡張ユニット「DX1215」を利用することで、最大30ベイまでドライブを拡張することができる。

 DS1817+では、拡張ユニット「DX517」がeSATA接続となる上、最大18ベイにとどまることを考えると、この拡張性は大きなメリットだ。

背面に拡張用のInfinibandを2ポート搭載する

 細かな点だが、DS3018xs、DS1817+ともにx8形状のPCIe拡張スロットを搭載するが、DS1817+のx4接続に対し、DS3018xsは内部的にx8で接続される。

 拡張スロットには、M.2 SATA SSD×2を搭載可能なアダプターカード「M2D17」、10GbE対応のネットワークカードを追加できるが、このような高速なキャッシュやネットワークの環境でも、この仕様によって、より高いパフォーマンスを発揮できるようになっている。

M.2 SATA SSDや10GbE NICを搭載できるPCIeスロットはx8接続

 実際、10GbEで接続すると、本製品は非常に高いパフォーマンスを見せる。複数ユーザーからのアクセスを1Gbps×4のLAGで処理しつつ、仮想環境のサーバーなどを10Gbpsで接続するといった用途には、やはり本製品が適しているだろう。

10GBASE-T接続時のCrystalDiskMark 6.0.0計測結果

DSM 6.2 Betaでさらにパワーアップ

 このように、ビジネスシーンに適した高い性能を持つDS3018xsであるが、今後、提供が予定されているDSM 6.2と組み合わせて利用することで、よりビジネス向きのNASとして活用することができる。

 本番環境で実際に使えるようになるのはもう少し先になるが、現状、ベータ版が各モデルに提供されている。これを利用することで、主にデータの信頼性の部分を大幅に向上させることができるわけだ。

 現状のDSM 6.2 Betaにおける新機能は以下の通りだ。

iSCSI関連

  • 管理用のiSCSI Managerが刷新され、Advanced LUNによる超高速なLUNスナップショットやクローン作成に対応
  • シーケンシャル書き込み性能が46%向上
  • VAAI/ODXサポートが追加

Snapshot Replication

  • Advanced LUNに対応し、共有フォルダとiSCSI LUNの高速なスナップショットを実現
  • Snapshot Calculatorによりスナップショットで使われるレポートを作成可能

ストレージマネージャ

  • ダッシュボードが一新されストレージの概要がひと目で確認可能に
  • 従来のディスクグループをストレージプールに変更し、管理体系を整理
  • bit rot保護に対応
  • データスクラブ機能が強化され、RAIDやファイルシステムを検知し、最適な方法を自動選択可能に。またスケジュール設定の確認が容易に
  • RAIDの再構築の速度が向上

Synology High Availability Manager

  • クラスター構成時にシステムアップデートで必要のない再起動が抑止され、サービス稼働率が向上
  • クラスター管理の設計を、より直感的でセキュアな方式に変更
  • クラスターの初期設定が短時間で可能に
  • アクティブとパッシブ両方のサーバーのパフォーマンスを表示可能に

システム強化

  • Btrfsファイルシステムが、DS418などx18シリーズのARMプラットフォーム搭載機でも利用可能に
  • コントロールパネルにパフォーマンスの項目が追加され、遅延防止かスループット向上を選択可能に

Azure ADサポート

  • Azure ADに対応。SSOクライアントとして接続可能に

セキュリティ保護

  • Security Advisorで異常なログインを検知し、位置情報を表示可能に
  • Security Advisorで日次、月次のレポートを作成可能に
  • サービスごとにTLS/SSLプロファイルのレベルを選択可能に

パッケージセンター

  • パッケージセンターのUIを分かりやすく刷新

その他

  • FTPSでECDSAをサポート
  • VMware vSpere 6.5向けにNFS v4.1マルチパスをサポート

 注目したいのはシステム強化の「Btrfs」ファイルシステムへの対応だ。SynologyのNASでは、DSM 5.2の時代から、限られた機種で「Btrfs」の採用が進められてきたが、DSM 6.2では、ARM系CPUを搭載したValueシリーズでも利用可能になった。それだけでなく、Btrfsのメリットを最大限に活かすストレージ系の機能強化が図られているのが特徴だ。

 個人的には、DSM 6.2ベースの「Audio Station」でAmazon Alexaサービスが使える点なども注目ではあるのだが、コンシューマー向けのメリットは、また改めて取り上げることにしたい。

「Snapshot Replication」アプリでスナップショットや複製が可能に

 それでは、DSM 6.2 Betaの中でも、注目の「Snapshot Replication」アプリの機能を実際に使ってみることにしよう。なお、Snapshot Replication自体は、現行のDSM 6.1でもベータ版として利用可能だ。

 Snapshot Replicationでは、共有フォルダやiSCSI LUNのデータを保護するための機能を提供する。スナップショットによって差分を記録しておくことで、過去の時点にデータを戻したり、同一NASもしくはリモートNASに対して共有フォルダーやiSCSI LUNを複製することができるようになっている。

 物理的な故障やオペレーションミスによるデータの喪失に対応できるだけでなく、最近ではランサムウェアなどのセキュリティ被害によってデータが失われるケースもあり、こうしたトラブルから大切なデータを守る手段として活用できる。

最低限のディスク容量で手軽にデータを復元できる「スナップショット」

 従来、NAS上のデータの保護には、バックアップが活用されてきたが、これにプラスしてスナップショットを活用すると、より手軽な方法で、より多くの復元機会を、最低限のディスク容量の消費だけで得ることが可能となる。

 使い方は、とても簡単だ。パッケージセンターから「Snapshot Replication」をインストールして起動後、[スナップショット]の項目で、「共有フォルダ」または「iSCSI LUN」を指定して[設定]ボタンをクリックする。

スナップショットの作成対象とするフォルダを選択

 設定用のウィザードが起動するので、スケジュールで頻度を設定する。標準では毎日0:00に実行されるが、頻度を最短で「5分ごと」に設定することなども可能だ。もしも、スナップショットを参照できるようにしたい場合は、[詳細設定]で[スナップショットを検出できるようにする]にチェックを付けておけばいい。これで、[#snapshot]フォルダから過去のデータを参照できるようになる。

スナップショットの頻度を設定
スナップショットを参照できるように設定する

 これで[OK]をクリックすれば、指定したタイミングでスナップショットが自動的に作成される。復元したい場合は、同じく、Snapshot Replicationから[復元]を選ぶだけで構わない。インプレースで元のファイルを置き換えることもできるし、別名で復元することもできる。また、前述したように「#snapshot」から個別にファイルを参照することも可能だ。

復元するときは、元のファイルを置き換えるかどうかを選べる

同一NASやLAN内の別のNAS録画へデータを同期できる「複製」

 続いて、共有フォルダやiSCSI LUNを同期する「複製」を試してみよう。同一NAS上で複製することもできるが、ネットワーク内の別のNASに複製を保存することもできる。物理的に離れた場所などに複製すれば、災害時のデータリカバリーにも活用できる。

 複製には、複製先にBtrfsボリュームとSnapshot Replicationが必要になるが、設定自体はウィザードで簡単にできる。試しに、リモートNASに複製してみよう。

 複製先で[リモート]を選択後、[サーバー名またはIPアドレス]を指定する。ドロップダウンボックスをクリックすると、同一ネットワーク内のNASがリストアップされるので、ここから選択すればいい。

リモートを選ぶと、同一ネットワーク内の別のNASにファイルを複製できる
自動的にリストアップされた複製先のNASを選択

 アカウントを指定して接続すると、リモートNASのボリュームが表示されるので、複製先のボリュームを指定。続いて、ローカルNAS上の複製したいデータ(共有フォルダ)を選択する。

複製先のボリュームを選択する
次に、複製元のデータを選ぶ

 初期コピーの転送方法をネットワークと外部ストレージ経由のいずれかから選択し、スナップショットと同様に実行頻度のスケジュールを設定。最後に、複製元と複製先にスナップショットをどれくらいの期間で保持するかというポリシーを設定すれば、設定は完了だ。

 これで、リモートのNASに、現在のNASと同じ共有フォルダ(もしくはiSCSI LUN)が作成され、定期的にデータが同期されるようになる。

初期コピーの方法を選ぶ
データを複製する頻度を設定
スナップショットのポリシーを設定
レプリケーションが実行される

 このように、Snapshot Replicationでは、スナップショットと複製を簡単に実行でき、かつ統一されたUIで管理できるため非常に便利だ。今回は共有フォルダのスナップショットと複製のみを試したが、iSCSI LUNも高速にスナップショットできるので、ぜひ試してみるといいだろう。

ビジネスシーンでの実力が大幅アップ

 以上、新モデルのDS3018xsとDSM 6.2 Betaを実際に試してみたが、ビジネスシーンで求められるパフォーマンスと信頼性が兼ね備えられた非常に良好な組み合わせと言える。

 特にSnapshot Replicationは、手軽に設定できるわりに、非常に強力にデータを保護できる。本番用としてリリースされれば、ぜひとも導入しておきたいパッケージと言える。

 このほか、信頼性の部分でかなり手が入れられているので、テスト環境などでDSM 6.2 Betaの実力を試してみることをお勧めする。

(協力:Synology)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。