清水理史の「イニシャルB」

ハイエンドの性能をお手頃価格で、最大1625Mbpsの11ac対応ルーター、TP-Link「Archer C2300」

TP-LinkのIEEE 802.11ac対応ルーター「Archer C2300」

 TP-Linkから新型の無線LANルーター「Archer C2300」が発売された。実売1万4000円前後と手の届きやすい価格を実現しながら、ハイエンドクラスの処理性能を実現した製品だ。トレンドマイクロのセキュリティ機能「HomeCare」も搭載した注目製品を、実際にテストしてみた。

3ストリーム対応ながら、実用性を重視した高処理性能モデル

 TP-Linkから新たに登場したArcher C2300は、その位置付けがちょっと難しい製品だ。

 見た目や処理能力から判断すると、ハイエンドライン中の下位モデルと言うのが正しいと思われるが、無線性能や価格面で考えると、ミドルレンジと言うこともできる。

TP-Link Archer C2300と付属品一式

 無線LANルーターの性能は、大きく無線性能と処理能力に分けられる。前者は、例えばトライバンド+4ストリームMIMOで1733Mbpsといった、対応する無線LAN規格のスペック、後者は搭載されるCPUやメモリで判断できる。

 これまでの無線LANルーターは、この2つがある意味セットになっていて、ハイエンドモデルはどちらも高く、ミドルレンジはどちらもそこそこ、といった構成になっていた。だが、本製品は、このルールから外れ、無線性能はそこそこで、処理性能が高いという、ある意味ミスマッチな構成になっている。

 具体的には、同社製の上位モデルであるArcher C3150を凌ぐCPU、メモリ構成でありながら、無線LANのスペックはデュアルバンド、3ストリーム対応止まりとなっており、5GHz帯は1625Mbps、2.4GHzは600Mbpsという速度だ。このCPU性能なら、4ストリーム対応の2167Mbps対応でもよさそうなものだ。

 実際、デュアルバンド対応で、同価格帯(しかもセキュリティ機能搭載)の製品を比べてみると、Archer C2300のCPUとメモリ構成の豪華さがよく分かる。

ハードウェアスペック
TP-Link Archer C2300ASUS RT-AC85Uエレコム WRC-2533GST
実売価格1万3980円1万2722円1万2951円
CPUデュアルコア、1.8GHzデュアルコア、880MHzデュアルコア(周波数非公開)
メモリ512MB128MB非公開
IEEE 802.11acWave2
2.4GHz帯対応チャンネル(1-13ch)
W52対応チャンネル(36/40/44/48)
W53対応チャンネル(52/56/60/64)×
W56対応チャンネル(100/104/108/ 112/116/120/124/128/132/136/140)×
対応バンド数222
通信速度(2.4GHz帯)600Mbps800Mbps800Mbps
通信速度(5GHz)1625Mbps1734Mbps1733Mbps
ストリーム数344
アンテナ数外付け3内蔵4内蔵8
変調方式(最大速度時)1024QAM256QAM256QAM
スマートコネクト××
MU-MIMO
ビームフォーミング
アクセスポイントモード
WAN(1000Mbps)1
LAN(1000Mbps)4
LAG××
USB3.0×1、2.0×13.0×2
ハードウェアスペック
TP-Link Archer C2300ASUS RT-AC85Uエレコム WRC-2533GST
帯域制御(QoS)TraditionalAdaptive×
メディア共有(DLNA)×
ファイル共有(Samba)×
ファイル共有(FTP)×
プリンタ共有×
TimeMachineバックアップ××
IPS○(HomeCare)○(AiProtection)○(スマートホームネットワーク)
ペアレンタルコントロール
ゲストアクセス
VPNサーバーPPTP/OpenVPN×
クラウド機能TP-Link CloudAiCloud×

 他社製品が4ストリームMIMOで無線LAN性能を高める一方で、Archer C2300は3ストリームMIMOまでに速度を抑えながら(1024QAMで1625Mbpsと高速だがクライアント側の対応も必要)、CPUは1.8GHzのデュアルコア、メモリは512MBを搭載と、無線LAN性能だけから考えると過剰と思える処理能力を持っている。

 この目的は2つ考えられる。1つは接続端末の増加に対応するためだ。PCやスマートフォンに加え、テレビ、ゲーム機、スマートスピーカー、おもちゃなど、無線LANに接続する機器は、今や1軒の家庭でも十数~数十に達することがある。

 こうした大量の機器が接続される環境では、無線のピーク速度よりもCPUの処理性能の方が重要になると考えた結果だろう。

 MU-MIMOによる同時接続を考えると、Archer C2300の3ストリームよりも4ストリーム対応機の方が理論上は優れているが、せっかくの4ストリームでも、処理を捌ききれなければ意味がない。であれば3ストリームでも、余裕を持って捌ける方が実用的だ。

 もう1つの目的は、本製品の特徴の1つであるセキュリティ機能への対応だ。本製品には、トレンドマイクロの技術を採用した「HomeCare」と呼ばれるセキュリティ機能が搭載されている。この機能では、外部からの不正な通信による攻撃を防いだり、危険なウェブサイトをフィルタリングできるが、こうした処理を快適に実現するためには、それなりの処理能力が必要になる。そこに、1.8GHzのデュアルコアCPUと512MBのメモリが一役買っているわけだ。

 今までのTP-Linkの無線LANルーターは、スペックのどの部分を見ても、他社製品に比べてコストパフォーマンスが高いモデルが多かったが、本製品は無線スペックだけを比べると少し見劣りするものの、処理性能(と後述するリンクアグリゲーション)に関しては、コストパフォーマンスに優れた製品となっている。

 実際に家庭で運用を始めると、この処理性能の高さが活きてくる。というわけで、たくさんの機器をつなぎたいなら、積極的に選びたい製品と言えそうだ。

上位モデルを小型化、有線LANはLAG対応

 それでは、実際の製品を見ていこう。

 前述したように、上位モデルのArcher C3150とほとんど同じデザインの本体を、ひと回り小型化した印象だ。サイズは、Archer C3150の263.8×197.8×37.3mmに対し、216×164×36.8mmとなっている。

 最近はアンテナを内蔵するWi-Fiルーターも増えてきたが、本製品は外付けで、背面からしっかり3本伸びている。実用性を考えれば、外付けアンテナのメリットは確かにあるが、デザイン的には内蔵の方がいいというのが個人的な感想だ。

正面
側面
背面

 インターフェースは、側面にUSB(2.0×1と3.0×1)、WPSボタン、Wi-Fiのオン/オフボタンが搭載される。WPSとWi-Fiのボタンは形状が同じなので、欲を言えば押し間違えないような工夫が欲しかった。

 有線ポートは背面に用意され、WAN×1、LAN×4のすべてが1000Mbpsに対応している。

 特徴的なのは、このLANポートがリンクアグリゲーション(LAG)に対応している点だ。4つのポートのうちの任意の2つを組み合わせ、トータル2Gbpsの帯域として利用できる。ただ、上位モデルのArcher C3150では動的なモードも選択できたが、本製品では静的LAGしか選択できない。小規模な環境向けという印象だ。

 とは言え、高性能なCPUにより多数のクライアントの接続に対応できる製品だけに、その接続先となるNASなどへの接続で、LAGによって帯域が確保できるのは大きなメリットだ。最近では、低価格なNASでもLAGに対応したものが増えているので、こうした製品と組み合わせることで、通信帯域の負荷を分散できる。

任意のLANポート2基をLAGで束ねられる

無線LAN接続はWPS、iPhoneでは手動のみ

 セットアップは、PCおよびスマートフォンから実行可能だ。付属の「かんたん設定ガイド」でも、スマートフォンからの設定が先に紹介されており、同社製の「Tether」アプリを使えば簡単に初期設定を実行することができる。

 Tetherでは、初期設定だけでなく、現在の通信状況や通信速度、接続クライアントの確認、後述するHomeCareによるセキュリティ、ゲストネットワークなど、さまざまな設定が可能だ。

 無線LANルーター向けのスマートフォンアプリとしては完成度が高く、基本的な設定であればPCレスで実行できるのはありがたい。

アプリのTetherを使ってセットアップ可能
接続状態や速度、接続端末を確認したり、各種の設定が簡単にできる

 ただ、無線LAN接続に関しては、AndroidはWPSで接続できるものの、iPhoneでの接続は底面のSSIDとパスワードを手入力する必要があり、いまひとつ手軽さに欠ける印象だ。

 同社製の無線LANルーターでは、「Deco M5」や、先日リリースされたゲーマー向けの「Archer C5400X」が、Bluetoothによる無線LAN接続設定に対応している。この方法が非常にスマートなだけに、本製品のような手動設定は、とてももどかしく感じられる。

 ハードウェアのコストがかかるのは承知だが、Bluetooth接続設定のような手軽な方法は、できれば低価格な普及モデルにこそ搭載してもらいたいところだ。

 ちなみに、最近の製品の中では、QRコードを利用したネットギア・ジャパンの採用する方式が非常によくできており、iOS 11以降の標準カメラアプリを利用し、QRコードから一発で無線LANルーターに接続できるようになっている。この方式は驚くほど簡単なので、ぜひ他社も真似をしてもらいたいところだ。

 そう言えば、先日、TP-Linkの無線LANルーターがAlexaに対応するというニュースがあったが、今のところ本製品はその対象には含まれていない。筆者が確認したところでは、AlexaアプリのスキルでTP-Linkを検索しても該当スキルが表示されないため、日本での利用はもう少し先になるのではないかと考えられる。

 なお、前述したLAGの設定など、一部の機能に関しては、設定画面の詳細設定ページに項目が用意されているため、TetherではなくPCから設定画面にアクセスしないと設定を変更できない。同様に、2.4GHzと5GHz帯で同じSSIDを利用する「スマートコネクト」の機能なども詳細設定画面にあるので、PCから設定画面へ一度はアクセスして、設定項目を確認しておくことをお勧めする。

LAGやスマートコネクトの設定項目は詳細設定画面にあり、PCからのアクセスが必要

 また、アクセスポイントモードへの変更にも対応するが、ルーター機能を無効にした場合は、後述するQoSやHomeCareなどの機能は使えなくなる(USBストレージの共有はOK)。日本では、プロバイダーから支給されたルーターを使わざるを得ない状況があることを考えると、アクセスポイントモードでいかに多くの機能を提供できるかが、今後はカギになると考えられる。これは、本製品だけに限らず、他メーカーも含めた課題になるだろう。

新世代チップの採用でパフォーマンスも優秀

 パフォーマンスについては優秀だ。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階にArcher C2300を設置し、各階でiPerfによる速度を計測した結果だ。3階の端でも80Mbps近く出ているので、なかなかパフォーマンスが高いと言えそうだ。

Archer C2300
3F窓際78.6
3F階段付近184
2F333
1F537

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

 実は本製品が搭載している無線LANチップは、1月30日に発表された実売価格5万円のゲーマー向け超高級モデル「Archer C5400X」と、同じ“世代”のものが搭載されている。

 もちろん、Archer C5400Xは4ストリーム、本製品は3ストリームの対応なので、同じと言っても同一なわけではなく、あくまでも「世代」が同じだけなのだが、この最新のBroadcomチップには、「レンジブースト」と呼ばれる機能が搭載されている。

 レンジブーストは、Archer C2300の受信性能を向上させる機能だ。従来モデルでも、ビームフォーミングによって送信機能を向上させることはできたが、これにより、送受信ともに性能を高めることができるようになった。

 CPUとメモリがハイスペックで、無線LANチップも最新となると、冒頭でも触れたように本当にこの製品の位置付けをどこにすべきかが分からなくなってくる。実売で14000円前後という価格帯は決して安いとは言えないが、実は相当にコスパが高い製品なのではないかと思えてくる。

 なお、本製品の特徴は、高性能なCPUによる処理能力の高さだが、今回はテスト期間が限られていることもあり、そこまで検証をし切れなかった。多数のクライアントを接続した状態で、パフォーマンスがどこまで確保できるかは興味深いところだ。

 なお、USB 3.0のファイル共有の性能も期待したのだが、今回のテストではあまり高い値は出なかった。以前テストした「Archer C3150」では、シーケンシャルで100MB/sを越えていたのだが、本製品では40MB/sほど。とは言え、NASほどとは言わないまでも、バックアップやファイル共有には問題ないレベルなので、実用性は十分と言えそうだ。

USBストレージでファイルを共有したり、DLNA対応機器からメディアを参照できる
共有されたUSBストレージへのCrystalDiskMark結果

HomeCareでネットワークをしっかり保護

 注目のセキュリティ機能であるHomeCareだが、本製品では、以下の3つの機能を利用できる。

  • 保護者による制限
  • QoS
  • アンチウイルス

 保護者による制限はプロファイルベースでの管理になっており、例えば「おとうさん」や「家電」といった用途ごとのプロファイルを作成し、そこにPCやスマートフォンなどの機器を登録。これに対して、フィルタリングレベルや適用時間を選ぶという方式になっている。こうした方式のメリットは、プロファイルごとに複数台の端末を登録できる点、端末を登録するプロファイルを移動するだけで制限内容を容易に変更できる点などがある。

プロファイルベースのコンテンツフィルタリングを採用。「おとうさん」などの人や、「ゲーム機」などの機器カテゴリーでプロファイルを分け、それぞれに異なるフィルタリングレベルや時間を設定可能。柔軟な構成ができる

 QoSは、ゲームやストリーミングなどのカテゴリー、もしくはデバイスを選択することで、その通信を優先させるというもの。例えば、ゲームの通信を優先させたいなら、カテゴリーで「ゲーム」を選ぶか、デバイスの一覧でゲーム機を選択してQoSをオンにするという2つの方法から選択できる。オンラインゲームやストリーミングサービスを多用する場合は、この機能が頼りになることだろう。

ゲームやストリーミングなどのアプリケーション、もしくはデバイスごとに通信の優先度を設定可能

 最後のアンチウイルスが、トレンドマイクロの技術を使った機能だ。悪意のあるコンテンツのフィルタリング、侵入防止システム(IPS)、感染したデバイスの隔離の3つの機能で構成される。

 PCにインストールするアンチウイルスソフトの代わりになるわけではなく、ネットワーク内を流れる通信を監視し、その中に危険なウェブサイトへのアクセスや、機器の脆弱性を突く攻撃、マルウェアに感染した機器が外部と通信する兆候などを発見した場合に、通信を遮断する機能となる。

 本連載では以前、監視カメラの脆弱性について紹介したが、こうした攻撃を検知して遮断できるわけだ。

 トレンドマイクロの技術を利用しているため、機能的には冒頭で紹介したASUSやエレコムの無線LANルーターとほぼ同じで、目新しさはない。ただ、逆に言えば、すでに実績も多くある信頼性の高い機能と言えるだろう。

 個人的には、これから無線LANルーターを買い換えるなら、このようなセキュリティ機能を搭載した製品をお勧めしたいところだ。

トレンドマイクロの技術を使ったセキュリティ機能を搭載

5GHz帯の対応は現状W52のみだが、改善されるかも?

 以上、TP-Linkの新型無線LANルーターArcher C2300を実際にテストしてみた。

 高性能なCPUを搭載したことによる処理性能の高さから、パフォーマンス的には優秀な製品で、リーズナブルな実売価格と相まって、お買い得な製品だと言って差し支えないだろう。

 トレンドマイクロの技術を利用したHomeCareが使えるのも有利で、脆弱性などを悪用した攻撃から、PCだけでなく、無線LANに接続したスマートフォンや家電を守れるメリットも大きい。

 今回はあまり触れなかったが、VPNサーバー機能も使いやすく、OpenVPNの接続用の証明書や設定ファイルの生成も簡単にできる。VPNアクセラレーション機能も搭載しており、高いハードウェア性能によってVPN接続時のスループット向上も見込めるはずだ。

 しかしながら、ひとつ残念だったのは、5GHz帯がW52のみに限られている点だ。上位モデルのArcher C3150もそうだったが、本製品も同じくW52のみしか利用できない。トライバンドでなくても、4ストリームでなくても構わないが、5GHz帯の通信チャンネルの選択肢だけは削らないで欲しかったところだ。

 同社に尋ねたところ、ファームウェア更新によるこの点の改善を検討しているとのことなので、タイミングや方法は分からないが、W52以外も使えるようになる可能性はある。そこに期待したいところだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。