清水理史の「イニシャルB」
USB HDDより安心・安全にデータ保管! 2万円を切るQNAPの2ベイNAS「TS-228A」で低コストかつスナップショットも使えるプライベートクラウドを導入しよう
2018年2月19日 06:00
PCやスマートフォンのデータを安全に、しかも手軽に保管するにはどうすればいいだろうか? USBの外付けHDDも1つの選択肢だが、今なら本体のみだが1万円台で買えるようになってきた低価格NASが狙い目だ。特に注目したいのが、ARM CPU搭載の低価格モデルでもスナップショットが使えるようになったQNAPの製品だ。初めてのNASとしてちょうどいい「TS-228A」を実際に使ってみた。
もう一声の予算プラスでUSB HDDより便利さ断然アップ
PCにスマホ、タブレット。写真や動画、文書など、扱う機器もその種類も増える一方のデータを、効率的に、しかも安全に保存するには、どうすればいいのか? これはなかなか難しい問題だ。
これまでは、USBの外付けHDDがデータ保存やバックアップ用として広く使われてきたが、PCの台数が増える度にUSB HDDの台数も増やさなければならず、PCだけでなくスマホのデータも保管したいとなると、さらに対応が難しくなる。
一方、クラウドは端末の種類を問わず使えるものの、容量が増えれば、それだけ月額料金も高くなる。気が付くと、その負担が大きくなっている場合もある。
そこで、改めて注目が集まりつつあるのがNASだ。HDDを搭載したデータ保存用の機器だが、USBではなくネットワークに接続することで、複数台のPCから同時に利用したり、PC以外のスマホなどでも利用したり、はたまた家庭内だけでなく外出先からもインターネット経由で使える応用性の高いストレージだ。
NASそのものは、以前から販売されており、ここ数年で利用者も増えてきたが、各メーカーからエントリーユーザー向けのリーズナブルな製品が登場してきたことで、現在、さらに注目が高くなっている状況だ。
中でもQNAPから新たに発売されたTS-228Aは、実売価格で2万円を切るリーズナブルな製品ながら、高性能なCPUを搭載し、しかも機能的には上位モデルと同等となっていることから、今後のNAS市場の目玉になることが想定される製品と言える。
NASの場合、本体の価格に加えて、内蔵するHDDを購入する費用が別途掛かるが、2~3TBのHDDは、NAS用の高品質な製品であっても約1万円で購入できることから、2台内蔵したとしてもトータルで3万円台の出費で収まることになる。
2TBのUSB HDDが1万円前後と考えると、「ちょい足し」より、もう少し余計に予算の増額が必要になるが、2ベイ以上のNASであれば、複数台のHDDにデータを分散させることで、万が一の故障でも大切なデータを保護できる。さらにQNAPのNASならば、後述する「スナップショット」という奥義的なデータ保護機能が、最安の低価格モデルでも使えるようになっている。
PCやスマホが増えてもNASなら1台で済むというのも大きなメリットだが、USB HDDとは比べものにならないほど、安全にデータを保管できるとことが、バックアップにNASを使う最大のメリットというわけだ。
QNAPなら低価格モデルでも! これからのNASに必須の「スナップショット」
とは言え、NASには、いろいろなモデルがあるし、機能も豊富過ぎて、どれを選んだらいいのかが分からない……。と悩んでいる人も多いことだろう。
本来であれば、購入する際に、モデルごとの性能や機能の違いを考慮しなければならないところだが、そんな面倒なことをしたくないというのであれば、QNAPのNASは悪くない選択肢となってくれる。
もちろん、QNAPのNASも、搭載されているCPUによって対応できる機能(仮想化技術など)に違いはあるのだが、基本的な機能は全モデルで共通となる上、最新版のファームウェアである「QTS 4.3.4」以降では、エントリーモデルでも「スナップショット」が使えるようになったことで、ストレージとしての本質的な機能におけるモデルごとの違いがなくなった。
スナップショットは、ある時点でのデータの状態をバックアップとして保管する機能だ。1日おき、1時間おきなど、タイミングを設定しておくことで、タイムラプスの写真のように、一定時間おきにその時点のデータを自動的に保管することができる。
バックアップと同じようなものだと考えればいいが、直前に保管したデータの差分だけを記録するため、短時間かつ少ない容量で済み、使い勝手がいいのが特徴だ。
現在、NASでもっとも注目度が高い機能で、各メーカーが自社製品の特徴としてアピールしているが、多くのメーカーでは、ミドルレンジ以上の製品でしか利用できず、さらに、利用するためには、特定のファイルシステムでHDDを初期化しなければならないなど、制約も多い。
これに対して、QNAPの製品では、最新のファームウェア(QTS 4.3.3以降)から、CPUやファイルシステムの制約なく、非常に幅広いモデルでスナップショットが利用可能になった。具体的には、ARM CPUで1GBメモリの環境や、ファイルシステムがEXT4のままでも構わない。
これにより、初めてNASを使うユーザー向けとなる、今回のTS-228Aのような低価格のエントリーモデルであっても、スナップショットによる高度なデータ保護機能が使えるようになった。これは他社のNAS製品にはない、QNAPならではの大きな特徴だ。
ドライバーいらずで簡単に使える「TS-228A」
それでは、実際にエントリーモデルであるTS-228Aを見ていこう。
まずは、ハードウェアだが、筐体は縦型で、置き場所を取らないコンパクトなサイズを実現している。これなら、奥行きがあまりない棚に設置しても気にならないだろう。
デザインも、奇をてらったところがないシンプルなもので、「キカイ」感があまりなく、どこに設置しても違和感がない印象だ。
動作音も非常に静かで、HDDのアクセス音がかすかに聞こえる程度。リビングなどに設置しても騒音に悩まされることはないだろう。内部の基板には小型のファンが取り付けられており、本体下部のスリットから廃熱する仕組みになっている。
冬の時期なので参考程度に考えて欲しいが、筆者宅で利用している5ベイのNASのHDD温度が32度のところ、本製品は37度となっていたので(いずれもHDDはWD Red)、若干、温度が高めとは言える。ただ、初期設定やベンチマークなどで負荷をかけても問題なく動作していたので、置き場所にさえ気を配れば、常時起動していても問題はないだろう。
特筆すべきは、組み立ての手軽さだろう。QNAPのNASは、基本的にHDDを自分で装着する必要があるが、この際にドライバーなどの工具は一切不要で、とても作業が楽になっている。
具体的には、底面の取っ手付きのネジを取り外し、本体をスライドさせるようにして開ける。その後、内部のトレイにHDDを滑り込ませるようにして装着し、付属のブラケットをHDDの側面からパチリと取り付けて固定するだけでいい。
作業時間としては10分もあれば十分で、ドライバーを使わなくていいため、とにかく手間が掛からない。
初期設定も簡単だ。PCからブラウザーを利用して「https://start.qnap.com」にアクセスすれば、ハードウェアの組み立て方法やファームウェアのインストールなど、一覧の流れが作業できるようになっている。また、本体側面に貼り付けられたQRコードを読み取ることで、スマートフォンでも簡単に初期設定ができる。
前述したように、ファイルシステムに依存せずにスナップショットなどの機能が使えるため、初期設定はウィザードに従うだけで、何も考えずに進めても後悔することなく、初めてでも安心してセットアップできるだろう。
バックアップ環境とスナップショットを設定する
実際の使い方も簡単だ。恐らくNASの使い方としては、PCやスマホのバックアップのニーズが高いと思われるが、PCに関してはQNAPのNAS向けに提供されている無料のツール「NetBak Replicator」を利用することで、簡単にバックアップすることができる。
一方、スマホでは、写真と動画が主なバックアップの用途だと思われるが、こちらはスマホに「Qfile」というアプリをインストールし、アップロードの設定をしておくことで、Wi-Fi接続時などに自動的に写真や動画をNASに保存することができる。
このほか、OneDriveやGoogle Driveといったクラウドストレージのデータも、「Hyper Backup Sync」というツールを利用することで、NASにバックアップすることができる。
それぞれの具体的なバックアップ方法については、こちらの記事を参考にしてもらうとして、今回は、バックアップしたデータをさらに保護するスナップショットを設定してみよう。
スナップショットは、QNAPの管理画面にある「ストレージ&スナップショット」から管理できるが、実際のスナップショットの取得は「File Station」から実行する。
File Stationを起動すると、右上に「スナップショット」というボタンが表示されるので、ここからスナップショットを取得したいボリューム(通常は初期設定で作成したDataVol1)を選んで、「スナップショットマネージャー」を起動する。
スナップショット画面で「スナップショットを撮る」をクリックすれば即座にボリュームのスナップショットを作成可能だが、定期的に作成したいときは「スナップショット設定」をクリックしてスケジュールを設定する。
標準では1日おきに7日間スナップショットが保存される設定になっているが、毎時間スナップショットを取得することも可能だ。PCやスマホからバックアップしたデータを保護するだけなら、さほど高い頻度に設定する必要はないが、頻繁に更新される共有フォルダのデータも保護したいなら、毎時間などに設定しておくと、万が一の場合に戻せるデータとして、より直近のものを選択できるようになる。
スケジュールを有効にすれば、設定したタイミングで自動的にスナップショットが作成され、PCやスマホから保存したバックアップデータはもちろんのこと、ボリューム上のデータがすべて保護されるようになるわけだ。
バックアップデータをさらにスナップショットで保護するなんて無駄ではないか?
そう思う人も少なくないかもしれない。しかし、ランサムウェアの脅威などを考えると、データを二重三重の構えで保護するのは、今や当たり前だ。PCやスマホのデータを単にNASにバックアップするだけでは、万が一、バックアップデータそのものがランサムウェアによって暗号化されてしまった場合に対抗できない。
これに対して、スナップショットでバックアップデータの履歴を保持しておけば、ランサムウェアによって暗号化される前のタイミングにバックアップデータを戻すことで、元のデータを取り戻すことができる。
NAS上のバックアップデータをさらにスナップショットで保護することにより、こうした高い安全性を確保できるというわけだ。
もちろん、スナップショットからのリストアも簡単で、「スナップショットマネージャ」から、復元したい日時を選択して、特定のファイルやボリューム全体を、指定したタイミングに復元することもできる。また、スナップショットのデータにはFile Stationからもアクセス可能で、通常のフォルダに保存されているデータと同じように、過去のスナップショットにアクセスできる。
スナップショットというと難しいイメージがあるが、操作ではそれを意識しなくて済む上、いざというときの復元も簡単なので、誰でも手軽に利用できるだろう。
さらにスナップショットを活用する
このように、手軽に使えるスナップショットだが、もちろん高度な設定をすることもできる。標準では、スナップショットに使う領域は可変となっているが、これに一定の容量を割り当てることもできる(保証されたスナップショット領域)。
保証されたスナップショット領域は、ボリュームを後から拡張する可能性があるときに便利だ。通常の領域設定では、後からデータ用のボリュームを拡張する際に、拡張用の容量を確保するために古いデータからスナップショットが削除される可能性があるが、保証されたスナップショット領域を使えば、スナップショットが削除されることがない。
また、スナップショット共有フォルダという機能も搭載されている。これは、共有フォルダの作成時に、その共有フォルダのスナップショットを保存するための専用ボリュームを同時に作成する機能だ。共有フォルダごとに個別にスナップショット領域を確保できるため、共有フォルダをまるごと復元したい場合など、スナップショットからの復元操作が高速化される。
TS-228Aは、ホームユーザー向けのエントリーモデルだが、こうした機能を活用することで、ビジネスシーンでも非常に高度なレベルでデータを保護することが可能だ。
豊富なアプリを使えるのもNASならではのメリット
もちろん、NASのメリットはデータを安全に保管できるだけではない。豊富なアプリによって、さまざまな用途に利用できるのもNASならではの魅力だ。
「Photo Station」や「Music Station」、「Video Station」などのアプリを使って、写真や音楽、動画などをNASで手軽に管理したり、「sMedio DTCP Move」を使えば、例えばNASNEなどのレコーダーで録画したテレビ番組をNASにムーブしたり、IFTTTエージェントを使ってNASをクラウドサービスと連携させることなどもできる。
スマートフォン向けのアプリも豊富で、前述したQfileアプリだけでなく、「Qvideo」や「Qmusic」などを使って、外出先からNASの動画や音楽を楽しむことなどもできる。
こうした機能は、単純なストレージであるUSB HDDには到底できないことだ。単純なコストだけを比べると、まだまだUSB HDDとNASの間には開きがあるが、NASの導入によって得られる快適さを考えると、コストパフォーマンスは高いと言えるだろう。
コスパ抜群のNASの入門機
以上、QNAPから登場したTS-228Aを実際に使ってみたが、このモデルは思った以上にコストパフォーマンスが高い印象だ。スナップショットが使えるメリットが絶大だが、機能的にも性能的にも上位モデルに劣らないため、かなり使い勝手がいい。
欲を言えば、HDDのホットスワップやLANポートが2ポート以上あるモデルの方が使いやすいが、一般家庭で使うなら、そこにこだわる必要もないだろう。また、オフィスでの利用と違って、常時、HDDがフル稼働するような負荷の高い使い方もしないため、設置場所に気をつけ、ホコリなどをこまめに掃除すれば、温度なども問題ないと考えられる。価格を考えるとお買い得といっていいモデルだ。
(協力:テックウインド株式会社)