清水理史の「イニシャルB」

小さくてもギガ! SSID引っ越しもできて値付けも機能も絶妙なWi-Fiルーター「Aterm WG1200CR」

IEEE 802.11ac対応のコンパクト無線LANルーター「Aterm WG1200CR」

 NECプラットフォームズから、エントリー向けの小型無線LANルーター「Aterm WG1200CR」が発売された。実売価格は5000円ほどとリーズナブルながら、2ストリーム867Mbps対応のIEEE 802.11acに対応し、有線LANも1Gbps対応となる充実したスペックを誇る製品だ。その実力を検証した。

「帯に短く……?」、ない!

 「無線LANルーターどれがいい?」なんて聞かれて、いろいろアドバイスした結果、最終的な買いましたとの報告が全然別の機種だったりというのは、いわゆる「あるある」だったりするのだが、そんな報告で多いのが、5000円前後のコンパクトな無線LANルーター。

 確かに、家に置くとなると大きな製品は邪魔だし、裏方の通信機器である無線LANルーターに、それほどお金をかける気持ちになれないのは理解できるのだが、表面的には「おお、よかったね」などと答えつつも、心の中では「えー、100Mbpsだし、いろいろ機能も省かれてるじゃん……」と落胆してしまうこともしばしばある。

 というわけで、「それなら、5000円前後のコンパクトモデルで、こちらとしても積極的に推せる製品が出てきて欲しいなぁ」と考えていたところに登場してくれたのが、今回、NECプラットフォームズから発売された「Aterm WG1200CR」だ。

 Atermシリーズには、従来から「Aterm WF1200CR」というコンパクトな製品が存在していたのだが、今回のAterm WG1200CRは、この上位に位置しており、ほぼ同サイズ(若干高さがある)ながら、従来モデルで不満に感じていた部分に見事に手が入れられ、「帯に短し」などと感じさせられる部分のない製品に仕上がっている。

 一人暮らしの部屋や自分の部屋専用の無線LANルーターとしての導入を考えたい製品と言えそうだ。

NECプラットフォームズのAterm WG1200CR。値段、サイズ、性能のどれもがちょうどいい普及モデル

既存モデルからどこが進化した?

 それでは、実際の製品を見ていこう。外観は、先にも少し触れたように既存モデルであるAterm WF1200CRと非常によく似ているが、カラーがブラックに変更されている。よく見ると、LED周りの作り込みが若干変更されていたり、背面にも「CNV/BR/RT」の切り替えスイッチなどが追加されている。

側面
背面
底面

 スペックは、無線LANの基本機能こそ既存モデルと同等で、5GHz帯が最大867Mbps、2.4GHz帯が最大300Mbpsとなっているが、有線LANの通信速度は従来の100Mbpsから1Gbpsへと大幅に進化している。

 光ファイバーを利用した10Gbpsのサービスも登場している時代だが、ようやく普及価格帯の無線LANルーターも有線1Gbpsが当たり前の時代になりそうだ。

 機能面でも、実用性が大幅に向上している。背面に新たに追加されたスイッチからも分かる通り、本体の動作モードは標準で設定されている「RT」のルーターモードに加え、スイッチを「BR」にすることでルーター機能(およびDHCPサーバー機能など)をオフにしたアクセスポイントとして利用できる。「CNV」に切り替えると、無線LANの中継機および有線LANにしか対応しない機器を無線LANに接続するためのコンバーターとして利用できる。

 この機能が追加されたことは、後々を考えると非常にうれしい。将来、より高性能な無線LANルーターを購入した場合でも、モードを切り替えれば中継機やコンバーターとして再利用できるわけだ。

見にくいが、背面に物理スイッチが追加され、動作モードを切り替え可能になった

 「Wi-Fi設定引越し」機能に対応した点も注目だ。この機能を利用することで、既存の無線LANルーターに設定されているSSIDや暗号キーをAterm WG1200CRへボタン操作で簡単に引き継ぐことができる。

 すでに無線LANを利用している場合、無線LANルーターを交換すると、同時にスマートフォンやPC、テレビ、ゲーム機などの接続設定もやり直さなければならない場合があるが、既存設定を引き継げるこの機能のおかげで、こうした手間を省くことができる。

 Aterm WF1200CRとの価格差が1500円前後であることを考えると、有線の1Gbps化だけでは、もしかすると安い方を選ぶ人もいるかもしれない。しかし、こうした機能までプラスされていることを考えると、文句ナシにこちらを選んだ方がメリットが大きいと言えるだろう。

既存製品との比較
Aterm WG1200CRAterm WF1200CR
実売価格5200円3640円
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/b
対応チャネル2.4GHz(1-13ch)、W52(36/40/44/48)、W53(52/56/60/64)、W56(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140)
対応バンド数2
通信速度(2.4GHz)300Mbps
通信速度(5GHz)867Mbps
ストリーム数2
アンテナ数内蔵
変調方式(最大速度時)64QAM
スマートコネクト-
バンドステアリング-
MU-MIMO-
ビームフォーミング
アクセスポイントモード
中継機能×
コンバーター×
設定引っ越し×
ペアレンタルコントロール-
VPNサーバー-
QoSTVモード(WMM)
IPS-
ゲスト
WAN1Gpbs×1100Mbps×1
LAN1Gpbs×1100Mbps×1
USB-

低価格の海外メーカー製品とも競合

 続いて、ライバル製品とも比較してみよう。価格的には、バッファローの「WCR-1166DS」が一段安いが、この製品は有線LANが100Mbpsなので、どちらかというとAterm WF1200CRとの競合となる。有線LANがギガビットに対応したAterm WG1200CRのライバルは、どちらかというと、もうワンランク上のクラスとなるだろう。

 というわけで、こうした機能面や価格面からピックアップしたライバルが、TP-Linkの「Archer C1200」ということになる。

競合製品との比較
NECプラットフォームズ Aterm WG1200CRバッファロー WCR-1166DSTP-Link Archer C1200
実売価格5200円3346円5758円
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/b
2.4GHz 1-13ch
W52(36/40/44/48)
W53(52/56/60/64)×
W56(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140)×
対応バンド数2
通信速度(2.4GHz)300Mbps
通信速度(5GHz)867Mbps
ストリーム数2
アンテナ数内蔵外部3
変調方式(最大速度時)64QAM
スマートコネクト-
バンドステアリング-
MU-MIMO-
ビームフォーミング
アクセスポイントモード手動
中継機能×
コンバーター×
設定引っ越し×
ペアレンタルコントロール-
VPNサーバー-OpenVPN/PPTP VPN
QoSTVモード(WMM)×WMM、帯域幅制御
IPS-
ゲスト×
WAN1Gpbs×1100Mbps×11Gpbs×1
LAN1Gpbs×1100Mbps×11Gpbs×4
LAG-
デュアルWAN-
USB-USB2.0×1

 無線LANのスペックは、5GHz帯が最大867Mbps、2.4GHz帯が最大300Mbpsで、いずれも同じだが、Archer C1200はW53/W56の帯域が使えないのが欠点となる。アンテナが外付けである点は電波の飛びに関係がありそうだが、Aterm WG1200CRに限らず、NECプラットフォームズの製品は、サイズにかかわらず全方位にしっかりと電波を飛ばしたり、無線LANに悪影響を与える基板内部の電磁ノイズを遮断する独自技術が搭載されているため、アンテナの内蔵が弱点となるわけではない。むしろ、アンテナ内蔵のおかげでコンパクトになっている点を素直に評価すべきだろう。

 機能面では、Archer C1200がVPNサーバー機能を搭載している点が大きなメリットとなる。この価格帯の無線LANルーターとしては珍しいので、これが使いたいならこのメリットが活きてくるが、万人受けする機能ではない。同様にUSBポートも、誰もが必要とする機能ではないだろう。

 一方、ペアレンタルコントロール機能が使えないのが、Aterm WG1200CRの欠点とは言えるが、本製品はどちらかというと、一人暮らしや自分の部屋への設置に適した製品となっているため、これも大きなマイナスポイントにはなりそうにない。

 むしろ、先に触れた既存モデルとの違いでも述べたように、中継機やコンバーターとして利用できる点や、「Wi-Fi設定引越し」などの機能が搭載されている点を高く評価すべきだろう。

 余計な機能に頼ることなく、無線LANルーターとしての基本に忠実で、実際の利用シーンを考えて、機能の取捨選択がうまく行われている点こそが、本製品の美点と言えそうだ。

 なお、セットアップに関しては、QRコードを利用した方法が手軽だが、前述した通り、本製品は「Wi-Fi設定引越し」機能が搭載されているので、せっかくなので、この機能を使って既存のルーター(NURO光のレンタルルーターF660T)からSSIDなどの設定を引き継いでみた。

 詳細な方法は、こちらのウェブサイトを参照して欲しいが、実際にやってみると、若干手順が煩雑だ。背面スイッチをコンバーターモードに切り替えた状態で、らくらくスタートボタンを押しながらACアダプターを本体に接続し、CONVERTERランプが点滅したことを確認後、再度らくらくスタートボタンを押し、引き継ぎたい無線LANルーターのWPSボタンを押すことで、ようやく設定が引き継げる。ただしその後にも、スイッチを戻して電源を入れ直す必要がある。

 まあ、手順が複雑になるのは仕方がないが、できれば、この手順はウェブサイト上ではなく、同梱されている「つなぎかたガイド」に記載してれた方が、無線LANルーターを入れ替えようと購入したユーザーにも親切だったように思える。

 これは、引き継ぎ元の機器からSSIDなどの情報をWPSで取得してくるという仕様上の課題でもあるのだが、例えば既存の無線LANルーターで2.4GHz帯と5GHz帯に別々のSSIDを設定している場合、WPSの設定対象になっている方の情報が、Aterm WG1200CRの2.4GHz帯と5GHz帯の両方に設定されてしまう。例えば、既存の無線LANルーター側の2.4GHz帯のSSIDが「24」、5GHz帯のSSIDが「5」だとして、Atermには2.4GHz帯、5GHz帯ともSSIDが「5」になってしまう。

 既存のルーターと完全に同じ設定にしたい場合は、最終的にはAterm WG1200CRのウェブ設定画面でSSIDや暗号キーの確認や再設定が必要となる。引き継ぎ元の環境に依存するので難しい部分も多いのだが、他社も含め、この部分を改善できるような画期的な方法が登場してくることを期待したい。

Aterm WG1200CRの設定画面。シンプルで分かりやすい構成
「Wi-Fi設定引越し」で、NURO光のレンタルルーター「F660T」から設定を引き継いでみた。F660T側の設定も影響するため、Aterm WG1200CRの2.4GHz帯にも5GHz帯のSSIDが設定されてしまった。完全に設定を移行するには、最終的にはウェブ管理画面での再設定が必要

気になる実力は?

 気になる実力だが、実用性としては十分というか、むしろコンパクトな製品のわりに検討している印象だ。

 以下は、筆者宅の1階にAterm WG1200CRを設置し、同じ部屋、2階、3階の各場所にてiPerfにより速度を計測したものだ。有線が1Gbps化されているので、近距離で十分なパフォーマンスが得られるようになったが、3階でも100Mbps以上、窓際でも20Mbps以上を確保できているので、コンパクトな製品ながら、長距離でも十分な速度を発揮できるという印象だ。

Aterm WG1200CR
3F窓際23.6
3F階段付近143
2F244
1F573

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

 以上、NECプラットフォームズのAterm WG1200CRを実際に試してみたが、価格を考えるとなかなか魅力的な製品と言える。

 一人暮らしの環境などに適した製品だが、基本的な機能が揃っている上、パフォーマンス的にも悪くはないので、シンプルにIEEE 802.11ac対応の無線LANルーターが欲しいという場合の選択肢として広くお勧めできる。Wi-Fi設定引越し機能は、環境によって再設定が必要になる場合もあるが、あまりコストをかけずに既存の無線LAN環境をアップグレードしたい場合にも検討するといいだろう。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。