清水理史の「イニシャルB」
技適未取得の中華Wi-Fi 6ルーターをテスト? 関東総合通信局に届出!
総務省に聞く! 特例制度活用のカギは3つのお約束「ちゃんと調べる」「ちゃんと管理する」「ちゃんと責任を持つ」
2019年12月2日 06:00
11月20日から、新電波法に基づく「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」の運用が開始された。技適のない機器でも、最大180日のテストが可能になったわけだが、この制度を正しく運用するためには、いくつかの「お約束」がある。せっかく我々のために開放された「お花畑」なのだから、踏み荒らして出禁を喰らわないように、正しく運用したいものだ。
関東総合通信局に届出!
11月20日、改正電波法の施行に伴い、総務省のウェブサイトに「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」のウェブページが公開された。
2019年の夏くらいから徐々に話題が盛り上がっていたが、技適なしの機器を国内でテストできる環境が、これでようやく整ったことになる。
「これで技適未取得のWi-Fiルーターもテストできる!」。
ということで、早速「VANIN Juplink RX4-1500」というWi-Fi 6対応のルーターをAmazon.comから購入してみた。
11月25日、海外から届いた実機を関東総合通信局に持ち込み、その場で「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」の届出をしてきた。
届出は実にカンタン。
メールアドレスを登録しないと届出項目が表示されないので、上記のウェブサイトにアクセスしただけではイメージしにくいかもしれないが、届出者の氏名や住所、連絡先、実験の目的、テストに利用する機器の規格、相当技術基準の適合確認、運用開始予定日、運用機器のシリアル番号や製造者、設置場所といった項目を入力し、届出書を印刷、直筆のサインか押印して届出すればいい。
唯一迷ったのは、無線設備の規格だ。今回のWi-Fi 6の場合、IEEE 802.11axの項目がDraft 1.0~4.0まで存在する。どのドラフトに対応しているかを特定できれば明記できるが、今回は機器側で明確な記述がなかったため、発売日(2019年9月)からDraft 4.0対応であると予想して提出した。
来年以降は、ウェブページから直接届出できる仕組みも予定されているが、現状は先行運用期間のため、書面の郵送、または直接、管轄の総合通信局に持ち込んで届出できる。
届出は提出先(今回は関東総合通信局)に届いた時点で有効になるため、筆者の場合は11月25日の提出日当日から、すぐに実機のテストが可能になった。実際には、届出完了のメールが届くので、それを受信したタイミングから、テストを開始できることになる。
とは言え、実際に機器から電波を送信するテストをするとなると、「これは大丈夫?」「あれはどうすればいいの?」と、さまざまな疑問が沸いてきた。
世間で飛び交うウワサを整理
そこで、直接届出するついでに取材を依頼。総務省総合通信基盤局電波部電波政策課課長補佐の山内匠氏(以下、山内氏)に、今回の制度について、詳細な話を聞いてみた。
Q.スマホは届出できる? A.届出できるが通信事業者のLTE網につなげられない
まず、疑問に感じていたのはスマホの届出だ。今回、筆者はWi-Fiのアクセスポイントを届出したが、今回のニュースで海外製のスマホをテストのために購入しようと考えている人も少なくないかもしれない。
結論から言うと、スマホの届出もできるが、現時点で届出できるのはスマホの通信機能のうち、Wi-Fi、Bluetooth、場合によっては「sXGP」(1.9GHz帯)などに限られる。
今回の特例では、対象となる機器が2つのグループに分けられている。1つは、筆者も利用したWi-Fi、Bluetooth等のグループ、もう1つはLTE等(4G、5G)のグループだ。これは、免許が不要なグループと免許が必要なグループとも言い換えられる。
今回、届出が可能になったのは、免許不要で利用できるWi-Fi等のグループの機器のみとなっている。下記画像の資料(総務省作成)にも記載があるが、LTE等のグループは、携帯電話事業者での準備が必要となる。
このため、スマホを届出することもできるが、特例制度が利用できるのはスマホの通信機能のうちWi-Fi、Bluetoothに限られ、通信事業者がサービスを提供している周波数帯を使ったLTEでの通信については、実験の届出はできない(ただし、1.9GHz帯を使うsXGPはOK)。
山内氏によると「LTE等のグループに関しても特例制度が利用できるよう、現在準備中です。できるだけ早く提供できるように調整を進めているところです」とのことだ。
ただし、準備が整ったとしても、Wi-Fi等のグループとは異なる運用になるという。「LTE等のグループの機器は、携帯電話事業者などの第一号包括免許の範囲での運用となります。このため、携帯電話事業者(免許を持つ事業者)があらかじめ特例制度の運用方法について許可を受ければ、利用者はその携帯電話事業者と契約することで、自分の端末を使った実験ができるようになるのです」(山内氏)。
よくよく考えれば当然だ。実験する際の接続先となる基地局の設備は、通信事業者が保有するものとなるため、ユーザーが端末を届出したからといって、その基地局に接続していいかどうかは、また別の話だ。
ただし、この話題については、次のブログが興味深い話題を扱っている。中でもMVNO事業者の扱いについては、今後の課題として、ぜひ検討して欲しいところだ。
Q.どんな機器でもOKか? A.海外の認証マークか無線従事者の実証が必要
技適未取得の機器だからといって、どんなものでも届出ができるわけではない。届出時の入力項目にも存在するが、テストする機器には、技適相当の技術基準とほぼ同等の海外の法令による認証を満たしていることが要求される。
具体的には、IEEE 802.11acなどの無線LANの規格に準拠していること、さらにFCC(米国)やCE(EU)などの認証を受けていることが条件となる。
こうした確認ができない場合には、一定以上(第一級総合無線通信士や第一級アマチュア無線技士など上位の資格)の無線従事者免許を持つ技術者が、技適に相当する基準および電波法第三章の技術基準への適合を確認できる場合は、届出ができる。
この後者に関しては、どちらかというと無線搭載製品を開発するメーカー向けの基準だ。山内氏によると「通常、技適を取得するまでには一定の期間が必要になります。今回の制度を活用すると、認証されるまでの期間を利用して、メーカーなどが製品の市場テストなどを実施できます」とのことだ。
例えば、今回、筆者が届出した「RX4-1500」の場合、パッケージおよび本体底面のラベルに「FCC」のマークと認証番号が記載されている。つまり、このWi-Fiルーターは、米国のFCCの認証を受けた製品となるため、今回の特例制度を利用した実験の対象とすることができるわけだ。
Q.FCC/CEマークありなら無条件に使える? A.日本の電波法下の周波数帯だけに
ただし「技適未取得」といっても、どのような機器でもOKという意味ではないので、注意が必要だ。
前述のように、FCCやCEの認証を受けていることが、今回の実験で利用する機器の条件の1つではあるが、この条件を満たしているからと言って、無条件に運用していいというわけではない。
例えば、筆者が届出したRX4-1500の場合を見てみよう。
このWi-Fiルーターは、2.4GHz帯と5GHz帯に対応しているが、スペック表によると、このうちの5GHzの周波数帯では5.8GHz帯(149/153/157/161チャネル)が使われている。
山内氏によると「5.8GHz帯は、日本ではETCでも利用されている周波数帯で、この帯域を使うことはできません」という。
RX4-1500のマニュアルや海外のレビューサイトを見ると、周波数帯を選択可能なので、日本でも利用可能な5.2GHz帯(36/40/44/48チャネル)に固定して使う必要がある。
海外製のWi-Fiルーターの場合、5GHz帯の帯域(チャネル)が日本と異なるので、事前に必ずチェックしておこう。
Q.海外製Wi-Fiルーターは電波が強い? A.電波法で規定の出力を守る必要がある
5GHz帯の帯域(チャネル)と同様に、電波の出力にも注意が必要だ。海外のWi-Fiルーターは電波が遠くまで届く製品が多いが、これは出力が高いからだ。
具体的には、FCCの場合、送信電力(空中線電力)の規定が2.4GHz帯で1W、5GHz帯で250mWまで許可されている。日本の技適では2.4GHz帯、5GHz帯ともに送信電力は200mWまでなので、そのまま運用してしまうと、この規定をオーバーすることになる(上記画面参照)。
今回のRX4-1500もそうだが、通常は詳細設定で無線の出力を調整できる。例えば、100%となっている設定を20%、40%、60%、80%のいずれかに変更すれば、この条件を満たすことが可能だ。
しかしながら、問題は何%を選ぶか?だ。最大値で考えれば、2.4GHz帯は200/1000なので20%、5GHz帯は200/250なので80%を選んでおくのが無難だ。しかし、機器が1Wや250mWの最大出力で電波を送信しているとは限らない。
山内氏はこの点について次のようなアドバイスをくれた。「出力に関しては、機器メーカーに確認することもできますが、FCCの認証を取得しているのであれば、そのテスト結果からも判断ができます。FCC IDを使って検索できるので、調べてみるのが確実です」という。
このアドバイスに従い、RX-1500のFCCの情報を検索してみた。
RX-1500のFCC IDは「2AT9Z-RX4-1500」。この値はパッケージやラベル、ウェブページなどに掲載されている商品情報などで確認できる。
この値をFCCのID検索ページに入力して検索(プロダクトコードの検索がうまくできなかったため、今回はGrantee Codeに「2AT9Z」のみを入力してリストから選択した)すると、FCCの届出情報や結果(Grant)を参照できる。
正確には、このサイトでGrantやテスト結果のPDFを確認する必要があるが、このページは探しにくく、結果も見にくいので、個人的には「FCC ID.io」の利用をお勧めしたい。
すると、2.4GHz帯のPowerOutputが「110mW」、5GHz帯(W52)の値が「220mW」と表示された(FCC本家で同じ値であることを必ず確認)。5GHz帯は200mWを少しオーバーしているが、2.4GHz帯はFCCの1Wどころか、日本の200mWの範囲内に収まっている(逆に、他製品は2.4GHz帯で900mW後半のケースもあるので、米国の利用者からは逆に2.4GHz帯が飛ばないという不平がありそうだが……)。
つまり、2.4GHz帯に関しては出力調整の必要なしでそのまま使えるが、5GHz帯は調整が必要で、ただし80%に設定をしておけば問題ないことになる。
FCCのテストレポートのPDFには、どのようなテストをしたのかや、帯域幅のレポートもあるので、これらにも必ず目を通しておかなければならない。今回のRX-1500は、W52しか使えないが、例えばW53の帯域が利用可能な場合は、DFSの有無を確認する必要がある上、各帯域の占有幅の状況などもチェックしておく必要がある。
Q.テストが終わったらどうすればいいの? A.別目的で届出することもOK、終了時は必ず廃止届出を
今回の特例制度では実験期間は180日に設定されている。実際に届出すると、受付メールに廃止期限が記載されているので、それを参照すればいい、筆者の場合、廃止期限は2020年5月22日となっていた(届出開始は2019年11月25日)。
この期間の延長はできないが、別の目的での実験で再度届出することは可能だ。いたずらに届出することは避けるべきだが、複数回に渡るテストも不可能ではない。
しかしながら、ここで注意したいのが届出者に課せられる管理措置の義務だ。山内氏によると「運用は自己責任で、その間は法律を守っていただくことはもちろんですが、第三者が実験に参加したり、機器を使っていることを紹介する際は、特例制度を利用している旨(以下の例を参照)を案内、表示していただく必要があります」という。
運用中に課せられる管理措置による案内・表示の例
本記事で掲載している無線設備は電波法第三章に定める技術基準への適合が確認されておらず、法に定める特別な条件の下でのみ使用が認められています。当該条件に違反して当該無線設備を使用することは、法に定める罰則その他の措置の対象となります
また、「実験が終わったら、必ず廃止の届出をしていただく必要もあります(山内氏)」ということだ。こちらも、実際の届出時に送信されてくるメールに記載されているアドレスから、変更・廃止届出書の作成フォームへと進み、必要項目を入力してメールで届け出る必要がある。
これは、いわゆる「野良」の無線設備を防止するための措置だという。現在は、主に開設届出に注目が集まっているが、実験中や、実験完了後の対処も、実は非常に重要なのだ。
届出OK、調査も万全、でも実験は……
さて、このように筆者も無事に届出が完了し、機器を実験するための準備も整ったわけだが、実際の実験はできていない……。
なぜか? というと、電源を入れることができないからだ。
前述したように、今回届出したRX4-1500は、5.8GHz帯を利用している上、5GHz帯の出力が少しオーバーしている。
もちろん、これらの設定を設定画面から変更すれば、晴れて実験を開始できるわけだが、設定を変更するために電源をオンにすると、その瞬間に、日本では利用できない5.8GHz帯が選択されてしまう可能性がある上(チャネル設定がAutoになっているため可能性がゼロではない)、日本の法律で定められた出力を超える5GHz帯の電波が出力されてしまう可能性もあるからだ。
これを回避するには、米国で設定を変えてから日本に持ち込むか、日本で電波暗室や電波暗箱などを使って電波が外部に漏れない状態にして、設定を変更してから実験するしかない。
山内氏によると、「製品によっては、起動時に国を選択することで日本の法律で許可された電波だけを使えるようになったり、起動時に電波の出力を止めることができるもの(Wi-Fi電波のオン/オフスイッチがある機種など)もあると聞いています」ということだ。
アンテナを外すという方法もありそうだが、今回のRX4-1500は取り外しができない上、外したとして出力を下げることはできても、5.8GHz帯が選択されてしまう可能性は残っている。
現在、編集部に「電波暗箱」の購入またはレンタルをお願いしているので、これが実現すれば、実際のテストができることになるが、いずれにせよ時間がかかりそうだ。
どなたか「電波暗室/電波暗箱ミーティング」でも開催していただけないだろうか?
「今回の特例制度の目的はイノベーションの促進」3つの約束「ちゃんと調べる」「ちゃんと管理する」「ちゃんと責任を持つ」
以上、11月20日に開始された「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」について紹介した。
今回の特例制度は、届出自体は非常に簡単で、誰でも手軽に技適未取得の機器を実験できる非常に画期的な試みと言える。5月17日の法律公布から運用開始までの期間が短かった割りに、ここまで制度を整えて運用できる状態になっているのは、正直、驚きだ。
山内氏が「今回の特例制度の目的はイノベーションの促進」と述べるように、この制度の活用によって、これまで技適の壁で使えなかった機器が日本でテストできるようになれば、さまざな新しい使い方やサービスが生まれることになりそうだ。
しかしながら、実際に話を聞いてみると、実験に際して注意しなければならない点も多い。いろいろ述べてきたが、まとめると「ちゃんと調べる」「ちゃんと管理する」「ちゃんと責任を持つ」という3つがポイントだ。
ちゃんと調べる
- パッケージやマニュアルで規格や周波数帯などについて調べる
- FCCなどの認証情報を確認し、テスト結果を理解して使う
ちゃんと管理する
- 機材が日本の法律に違反しない状態で使うための設定をする
- 情報を発信する際に特例の下で運用していることを明記する
- 実験終了後に忘れずに廃止届出をする
ちゃんと責任を持つ
- 「ちょっとならいいか」と考えない
- 「自分は大丈夫」と考えない
冒頭でも触れたが、今回の特例は、いままで立ち入ることができなかった「お花畑」だ。いろいろな人の努力によって、これがようやく開放されたことになる。
しかし、そこで身勝手に行動し、万が一にも花を踏み荒らすようなことがあれば、また立ち入り禁止になってしまうかもしれない。そのことを心に刻んだ上で、今回の特例をうまく活用したいものだ。