清水理史の「イニシャルB」

「10GbEと2.5GbEを誰にでも!」、“コモディティ化が使命”のバッファロー、10G/2.5GBASE-Tスイッチのコンセプトを聞いてみた

10G×2/2.5G×4ポートのスイッチ「LXW-10G2/2G4」(左)、2.5Gbps×5ポートのスイッチ「LXW-2G5」(中央)、USB 3.1 Gen1接続の2.5G対応LANアダプター「LUA-U3-A2G」(右)

 バッファローから、圧倒的に安価な10G/2.5GBASE-T対応の製品が発売された。10G/2.5GBASE-T対応のスイッチ「LXW-10G2/2G4」、2.5GBASE-Tに対応したスイッチ「LXW-2G5」、USB 3.1 Gen1接続の2.5GBASE-T対応LANアダプター「LUA-U3-A2G」の3製品だ。

 そしてこれらは「単に安いだけ」ではなく、“開発者のコダワリが詰まりまくったもの ”なのだという。同社の伝統とも言える「高価な製品をコモディティ化する使命感」はもちろんだが、単に低コスト化すればいいわけではなく、性能を大事にした機能や趣味性まで視野に入れたデザイン、技術を採用するタイミングなど、様々な視点でのコダワリがあるという。

 最新の無線規格であるWi-Fi 6や、10Gbps接続のインターネット回線などが登場する中、家庭内LANの10Gや2.5Gによる高速化を“コモディティ化(付加価値製品を一般化すること)”することを目指した同社の取り組みについて、話を聞いた。

そう言えば、いつもバッファローだった忘れていた記憶が、よみがえってきた

 1990年代、某PC雑誌編集部で初めて目にしたLAN製品が、NetwareLiteをバンドルした10BASE-2用パック製品であるバッファロー製の「NLP98」だった。デスクの裏側に同軸ケーブルを這わせる先輩を見て、「何してんだろう?」と思った記憶がある。

 2000年前後、某PC編集部の仕事で、当時、登場したばかりのIEEE 802.11b無線LANの電波がどこまで届くのかを検証するために、カメラマン宅に設置した親機から国道20号を挟んだ向かい側で接続テストをしたのが、こちらもバッファロー製の「AirStation」だった。

 発売前の製品を借りてテストしたのが3月頃で、花粉症などという言葉が普及していなかった当時、くしゃみを耐えながら、国道20号の向かい側にいる担当編集者に、手を上げて「○」サインを出していた。

 そして、これはちょっと曖昧な記憶だが、ファイルサーバーと言えばWindows Serverだと思っていた筆者が初めて検証したNASもバッファロー製で、確か「LinkStation」だったような気がする。

 ルーターにしろ、Wi-Fiにしろ、NASにしろ、筆者は、比較的バックエンドのハードウェアをレビューをすることが多かった。そう言えば、各ジャンルの初体験になった製品はバッファロー率が高かったものだ。

 なぜ、そんなことを思い出したのかというと、今回のインタビューで諸氏が口々に発した「コモディティ化」というキーワードが頭に残ったからだ。

 「高価な法人向けのネットワーク製品をコモディティ化することで、一般ユーザーの誰もが家庭に導入できるようにする――」との考え方は、バッファローに昔から根付く理念のようなものとのことだが、この数カ月の同社の動向は、まさにこの「コモディティ化」の実践に他ならなった。

 Wi-Fi 6と10Gbps LANを組み合わせた「WXR-5950AX12」が実売4万円台でリリースされたことは、以前の本連載でも触れたが、これに加え、8500円前後のUSB 3.1 Gen1接続の2.5GBASE-T対応LANアダプター「LUA-U3-A2G」、2.5GBASE-T×5ポートのスイッチ「LXW-2G5」を2万円ですでに発売している。さらに12月上旬には、10GBASE-T×2/2.5GBASE-T×4ポートのスイッチ「LXW-10G2/2G4」が3万円台で発売される。

 10Gや2.5Gといった1Gbpsを超えるネットワーク機器が、さらに一歩、我々の手に近づいた印象だ。

 どのような意図で、こうした製品が開発されたのか? WXR-5950AX12でも見えた「やりすぎ」感さえある開発のコダワリは、今回の製品にも存在するのか? をあらためて同社に聞いてみた。

「10GbEや2.5GbEを誰の⼿にも届けたい」

 「今回の一連の製品群の開発は、2018年12月あたりからスタートしました。10Gbpsの光回線が登場してきた中、そこにつなぐWi-Fi 6対応ルーターを開発する必要があるのはもちろんですが、そのさらに先につながるスイッチやネットワークアダプターの必要性も議論に上がりました」と、株式会社バッファローブロードバンドソリューションズ事業部長の田村信弘氏(以下、田村氏)は語った。

 田村氏は続ける。「当時、1Gbps以上のスイッチやネットワークアダプターは、法人向けの製品しかなく、非常に高価でした。こうした製品をコモディティ化し、誰もが導入できるようにすることを目指していました」。

株式会社バッファロー ブロードバンドソリューションズ事業部長の田村信弘氏

 現状、10Gや2.5Gに対応したネットワーク機器は、まだ法人向け、安くても中小企業やプロフェッショナルシーン向けという印象だが、同社は、今回の製品群について、明らかにコンシューマー向けとして設定しているという。

 同社ブロードバンドソリューションズ事業部第二開発課有線開発係長の永戸良樹氏(以下、永戸氏)も、過去を振り返りながら、次のように話す。

 「20数年前ですが、エンタープライズ向けの製品しかなかったスイッチング機能を備えたハブを、3万9800円(筆者注:1998年。当時の市販製品の半額以下)で発売しました。そして今やハブと言えばスイッチとなり、誰でも買えるようになりました。今回発売するスイッチやネットワークアダプターも、当時と同じく、10Gbpsや2.5Gbpsのネットワーク環境を誰の手にも届くようにすることを目指して開発した製品です」とのことだ。

 実際、価格面の優位は大きそうだ。10G+2.5Gという組み合わせは珍しいため、競合製品と直接比較することはできないが、10/5/2.5G×2、2.5G×4のLXW-10G2/2G4の市場想定価格は3万4000円ほど。全ポートで1Gbps以上の通信が可能なフル1Gbpsオーバーのスイッチとしては、現状最も安い。

 ゲーミングPCや自作PCを中心に、2.5Gbps対応のLANポートを備えた製品が登場しつつある上、クリエイター向けの「iMac Pro」や「Mac Mini」などでも10Gbpsポートが搭載されるようになってきたことを考えると、この製品の存在意義は大きいだろう。

ビックリするほどの「重さ」は、放熱のため……だけでなく「趣味」の要素も?

 それでは、注目の「LXW-10G2/2G4」の開発秘話に迫っていこう。マルチギガ対応の10GBASE-T×2ポートと2.5GBASE-T×4ポートを備えたスイッチングハブだが、実は、この製品、ぜひ手に持ってみて欲しいが、ビックリするほど重い。

 スペックの質量は1060g……。同社の1Gbps対応スマートスイッチの8ポートモデル「BS-GS2008」は0.5kgなので、何とその倍もある。

 株式会社バッファローブロードバンドソリューションズ事業部第二開発課HW開発係の大関寛之氏(以下、大関氏)が、その秘密を教えてくれた。

 「LXW-10G2/2G4は、外観の高級感に非常にこだわりました。金属製の筐体を採用するだけでなく、フロントパネルに厚みを持たせて高級感を演出しています。その正面はヘアライン加工で、側面が鏡面加工と非常に凝ったものとなっていて、2.5GBASE-T×5ポートのLXW-2G5との大きな違い[*1]でもあります」という。

株式会社バッファローブロードバンドソリューションズ事業部 第二開発課 HW開発係の大関寛之氏

[*1]……※筆者注:LXW-2G5も薄型ながらヘアライン加工のフロントパネルで高級感は高い

 ブロードバンドソリューション事業部マーケティング課コンシューママーケティング係長の髙木義行氏(以下、髙木氏)が、その狙いを説明する。

 「LXW-10G2/2G4は、コンシューマーの中でも、ゲームや写真などのクリエイティブな使い方をするユーザーもターゲットとしています。例えば、写真の転送などに高速なネットワークを必要とする人が、机の上に設置するスイッチとしても想定しているので、『趣味性』という要素も含んだ製品となっているのです。フロントパネルだけでなく、底面にはオーディオ機器をイメージさせるようなインシュレーターも装着しています」とのことだ。

 どうやら、この外観には社内でも「やりすぎ」の声が上がったようだが、「なぜこんなに重いのか?」という疑問の一部は、これで解けたわけだ。

 もちろん、「重さ」の要因は、このように趣味性の高いデザイン的な要因だけでなく、実用性も考慮されてのことだ。

 そのあたりについては永戸氏が教えてくれた。「LXW-10G2/2G4は、コンシューマー向けの製品ですので、まずはファンレスにこだわりました。家庭に設置する以上、ファンの音がうるさいと実用的とは言えません。このため、大型のヒートシンクを搭載しています」という。

 さらに、ハードウェア設計という点からは、大関氏が補足してくれた。

 「ヒートシンクは、大型なだけでなくグラフェンコーティングも施しています。炭素を原料にした放熱塗料をヒートシンクに塗装することで、高い放熱効果が得られます」とのことだ。

 1Gbps以上の通信に対応した製品は、スイッチに限らず発熱が大きい。そのための対策によって、重量が増しているというのが実情だろう。

 こうした熱対策は、このほかにも徹底して施されているという。「電源に関しても、今回はACアダプターを採用しました。スイッチは電源内蔵へのニーズも高いのですが、熱対策と本体サイズを考えると、電源部分を本体と切り離す必要がありました」と大関氏は語る。

1ポート2Wの最新チップを採用、熱対策をさらに徹底

 永戸氏によれば、熱対策には設計段階からも取り組んだという。「スイッチは、MACとPHYの2種類のチップで構成されていますが、このうち各ポートごとに配置されるPHYには、Aquantia(現在は買収によりMarvell傘下)製の最新チップを採用しています。14nmの製造プロセスにより、旧世代の製品に比べて発熱量が大幅に軽減されています。旧世代チップではポートあたり3~4Wだった電力が、新チップでは2W程度になっているので、熱対策としては非常に有効です」とのこと。

株式会社バッファロー ブロードバンドソリューションズ事業部第二開発課有線開発係長の永戸良樹氏

 同社では、開発段階からチップベンダーと密にコミュニケーションを取ることで、製品リリース時点で最新チップをいち早く搭載できるようにしているとのことだ。

 本製品の登場で、市場では競合製品が値下げされる可能性がある。しかしながら、同様に10GBASE-Tや2.5GBASE-Tに対応していても、旧世代チップが採用された製品を選ぶと、熱対策に苦労させられる可能性が高い。この点は、製品購入時に考慮しておきたいポイントと言えそうだ。

 それにしても、筐体に加えてチップレベルでも、最新かつ最良を追い求めるとなると、よく3万円台を実現できたとコストの面でも感心させられる。田村氏によると「チップに関しては、LXW-10G2/2G4だけでなく、WXR-5950AX12やNASなどで同じものを採用することで、コストを削減をしている」とのことだ。やりたいことを詰め込んだ製品を生み出すには、こうした苦労も絶えないようだ。

「スイッチオン」で10GBASE-Tを優先処理、レイテンシーを半分以下に

 機能的な特徴としては、本体背面に搭載されている物理スイッチが印象的だ。

 LXW-2G5では「LED ON/OFF」「LOOP DETECTION ON/OFF」、LXW-10G2/2G4では加えて「QoS ON/OFF」という物理スイッチが配置されている。

 LEDのON/OFFに関しては、「マーケティング部門と相談して搭載しました」(大関氏)とのことだ。「ユーザーからの声で、自宅に設置していると寝るときにLEDがまぶしいという声が多くありました」(髙木氏)ということで搭載を決めたそうだが、「すべてLEDを消してしまうと稼働状況を確認できないので、『POWER』ランプだけを残して消灯するようにしています」(大関氏)という。

株式会社バッファローブロードバンドソリューションズ事業部マーケティング課コンシューママーケティング係長の髙木義行氏

 こうした点も、一般家庭で利用することを強く意識した設計と言えるだろう。

 もちろん、こうした設定の切り替えをウェブの設定画面内の1項目とすることも可能だが、「IPアドレスが分からない、といったユーザーも多く使うことを考え、誰でも簡単に扱える物理スイッチにしました」(永戸氏)とのことだ。

 それにしても、ユニークなのはLXW-10G2/2G4に搭載されている「QoS」というスイッチだろう。

 「このスイッチをオンにすると、LXW-10G2/2G4の6つのポートのうち、10GBASE-Tに対応した2ポートの通信が優先的に処理されるようになります。2.5GBASE-Tのポートに接続した機器からの通信が一度に流れ込むと、10GBASE-T側のレイテンシーが若干ながら下がってしまうことがあります。10GBASE-T側の通信のレイテンシーを絶対に下げたくない、という場合は、このスイッチをオンにすることで、優先処理が可能になります(永戸氏)」という。

 同社の内部で測定器を使った検証結果を見せてもらったが、そこでは10Gと2.5Gとの混在時、QoSスイッチオフで130.55マイクロ秒だったレイテンシーが、QoSスイッチオンで3.24マイクロ秒にまで下がっている状況が示されていた。

10G×1、2.5G×4のポート1~5から、ポート6へパケット送信して輻輳させたとき、QoS有効時に通信遅延が改善されることが分かる

 同社によると、「あくまでもテスト環境での結果であり、実際のインターネット接続時はWAN側のレイテンシーが存在するため、一概には言えない」とのことだが、スイッチ自体の効果は確実にあると言えそうだ。

 ゲーミングなど、「勝つためなら全てやっておきたい」という環境では、有効なスイッチと言えそうだ。

⼩さく⾒えても熱対策万全、USBアダプター「LUA-U3-A2G」QoSへの対応でゲーム向けも視野に

 このほか、USB接続のネットワークアダプター「LUA-U3-A2G」も、一見、普通の製品に見えて、同社ならではのコダワリが詰め込まれた製品になっていた。

 大関氏によると、「LUA-U2-A2Gは、チタニウムブラックの塗装とエンブレムが印象的なデザインも特徴ですが、形状を工夫しました。本体のサイズを小さく見せつつ、表面積が多くなる独自の形状になっています」という。

 実際、本体を側面から見ると多角形になっている。

 「実は、表面積を大きく取ることで放熱性を高くしています。内部にはヒートシンクとして機能するアルミのパネルも入っているので、熱対策も十分です」とのことだ。

 2.5GBASE-T対応のUSBアダプターは、筆者も別ベンダーの製品を常用しているが、10GBASE-Tほどではないにしろ発熱が大きい。筆者は、実際にトラブルを経験したことはないが、熱が高くなり過ぎるとスピードが低下する可能性もあるそうなので、こうした対策がなされていることは大きなメリットだ。

 また、本製品はQoS機能を搭載可能なチップを採用しており、ゲーミング用途にも使えるものだという。こうした機能を有効に活用するためのアプリの開発にも現在取り組んでいるとのことなので、ゲーミング用途での活用も期待できそうだ。

「10G/2.5Gのコモディティ化」への思いを結実、15年ぶりの大きな進化へ

 以上、「LXW-10G2/2G4」「LXW-2G5」「LUA-U3-A2G」というバッファローから登場した10G/2.5G対応有線LAN製品について、その開発経緯や秘話を聞いた。

 スイッチのようなシンプルな機器であっても、10GBASE-T、2.5GBASE-Tへの対応となると、さまざまな工夫が必要となることが理解できた。だが、それ以上に、これらの製品に込められた開発者の「やり過ぎ」と思える思いの大きさに感心させられた。

 永戸氏は「2003年前後に1Gbps対応のギガビット製品が登場して以降、有線LANの世界は15年以上、大きな変化がなかった状況でした。今回の10G、2.5G製品の登場は、われわれとしても久しぶりの大きな機会なので、今までの思いを製品として具体化しました」とのことだ。

 また、髙木氏は「これまで、10Gbpsの回線サービスを手がけるISP様などから、家庭側につなぐ機器がないという声を多く聞いていましたが、ようやく自信を持って提供できる製品を発売できました。ゲーミングでの利用、写真などの転送はもちろんのこと、これから4K、8Kの動画配信なども当たり前になることを考えると、今回の製品の意義は大きいと言えると思います」とのことだ。

取材時にファイルコピーを行うデモも実施。こちらは10GBASE-T環境のダウンロード(左)とアップロード(右)の画面。
1000BASE-T環境のダウンロード(左)とアップロード(右)の画面。単純な比較ながら、転送速度が3倍以上であることが分かる

 冒頭でも触れたが、今回、話を伺ったメンバーからは、口々に「コモディティ化」というキーワードが登場したが、実際に製品に込められたコダワリを考えると、コストや手間が想像以上に掛けられているにもかかわらず、価格を下げた功績は大きいと言えそうだ。今回の製品の登場によって、10Gや2.5Gのネットワークが少しでも普及すれば、開発陣の思いも報われるだろう。

(協力:株式会社バッファロー)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。