清水理史の「イニシャルB」

技適未取得の中華Wi-Fi 6ルーターをDMM.make AKIBAのシールドルームで電源オン!

テックスタッフの助言でFCCを見直して送信電力も再チェック

 12月7日付記事『技適未取得の中華Wi-Fi 6ルーターをテスト? 関東総合通信局に届出!』では、5.8GHz帯の制限から、電源を入れられずに終わった中華Wi-Fi 6ルーター「Juplink RX4-1500」。

 今回、DMM.make AKIBAのシールドルームを借りて、ついに電源をオンにすることができた! 初体験の「シールドルーム」も感動モノだったが、それ以上にありがたかったのがプロ(DMM.make AKIBAのテックスタッフ)の助言だ。前回の送信出力のままだと、うっかり法律に反してしまうところだった。

米国のAmazon.comから購入した技適未取得のWi-Fi 6対応ルーター「Juplink RX4-1500」

難航したシールドルーム探し

 前回の記事掲載後、「電波暗箱(シールドボックス)」を編集部におねだりするも許可が下りず……、公的機関が提供しているシールドルーム(電波暗室)を借りようと試みるも、利用目的が合致せずに断られ……、個人で電波暗箱を買おうとするも、数十万円の価格に踏み出せず……。

 と、すっかり行き場を失ってしまったAmazon.comで購入した技適未取得の中華Wi-Fi 6ルーター「Juplink RX4-1500」。

 電源を入れると、日本で許可されていない5.8GHz帯のチャネルが選択されてしまう可能性があることに加え、無線送信電力が日本の法律で許可されている200mWを超えてしまう可能性もあり、電波を遮断して設定を変更する必要があったが、なかなか場所を確保できない状況が続いていた。

 そんな中、救いの手を差し伸べてくれたのがDMM.make AKIBAだ。

秋葉原にあるDMM.make AKIBAの「Studio」

 2014年に秋葉原に開設された「DMM.make AKIBA」には、「ものづくり」に必要なさまざまな機材がそろっており、会員になれば、これらを活用できるようになっている。

 本格的な工作機械がズラリと並ぶコマーシャル映像を目にしたことがある人も少なくないかもしれないが、「Studio」と呼ばれる秋葉原のビルの一角に設けられたスペースには、こうした工作機械だけでなく、機器の各種検査を目的とした測定機器も備えられている。今回の目的でもある「シールドルーム」も、その中に用意されている。

Studioの中には、工具や機材がずらりと並ぶ
中央に見える青の扉が、今回使用させてもらったシールドルーム
DMM.make AKIBAの利用料金

 シールドルームの利用には、本来、Studioの利用権が含まれる会員(Base Plus、TeamRoom、Studio、Holidayのいずれか)になる必要があるほか、これとは別に1時間あたり500円ほどのライセンス料金も必要だ。

 例えば、週末・祝日の前日20時~翌日10時までの限られた時間のみ利用可能なHoliday会員なら、初期費用2万4000円、月会費1万2000円、さらに利用時間に応じたシールドルームの料金で使うことができる。

 今回の筆者のような目的の場合、できれば12時間のスポット利用が可能なDrop-in会員で利用したいところだったが、シールドルームは、スタッフの立ち会いや機材利用料、利用に際しての予約、DMMが発行するライセンスの取得が必要な特殊な施設であることから、上記の通常プランへの加入が必須となる。

 ただし今回は同社のご厚意で、このシールドルームを1時間ほど特例でお借りすることができた。だから言うわけではないが、DMM.make AKIBAのこのスペースは実に有意義だ。

 豊富な機材が使えるのもそうだが、何より、専門の知識を持ったテックスタッフが相談に乗ってくれることがありがたい。

 実際、今回、サポートしてくれたテックスタッフの鈴木氏は、Wi-Fiなどを含む電気、電波系の経験と知識が非常に豊富で、前回掲載した記事も読んでくれていただけでなく、さらにJuplink RX4-1500のFCC技術資料もチェックしてくれていた。その上で、1つの課題を指摘してくれたのだ。

 なお、前回の記事で、筆者は以下のように記載していたが、どうやらここに「問題がありそうだ」というのだ。

2.4GHz帯のPowerOutputが「110mW」、5GHz帯(W52)の値が「220mW」と表示された(FCC本家で同じ値であることを必ず確認)。5GHz帯は200mWを少しオーバーしているが、2.4GHz帯はFCCの1Wどころか、日本の200mWの範囲内に収まっている(逆に、他製品は2.4GHz帯で900mW後半のケースもあるので、米国の利用者からは逆に2.4GHz帯が飛ばないという不平がありそうだが……)。

 その問題について詳しくは後述することにしたいが、とにかく、テックスタッフは単に機材の使い方を教えてくれる存在ではなく、「ものづくり」をしたいという人に、その知識を活用して、さまざまな方面からアドバイスしてくれる存在というわけだ。

 DMM.make AKIBAと言うと、どうしても豊富な機材に目が行ってしまうが、実は、この人材と知識を活用できる点こそが、このサービスのメリットにほかならない。月額1万2000円ほどで、定期的に専門家に相談できるなどというのは、普通では考えられない。

いよいよシールドルームを初体験

 さて、前置きが少し長くなったので本題に入ろう。

 今回、お借りしたシールドルームは、分厚い壁と扉で構成された2畳ほどのスペースだ。外部からの電磁波の影響を受けず、かつ外部に影響を与えないように、きっちりと隔離された設備となっている。

 内部には、人が入って準備するのに十分なスペースがあるが、消防法上、検査自体を中で行うことはできないそうで、中に機器を設置し、実際の検査に必要なオペレーションはシールドルームの外から実行することになる。

シールドルームの内部。電源は引き込まれているが、今回は事前にLANケーブルを配線していただいた

 電源は内部に確保されているが、電源ケーブルに対して外部から電磁波が入り込んだり、逆に内部の機器から外部に電磁波が漏れる可能性があることから、電源にも特殊な機器が接続されていた。

 また、通常は、内部に設置した機器をシールドルームの外に置かれた測定器に接続するための同軸ケーブルが配線されているが、今回は事前にテスト内容をお伝えしていたため、特別にLANケーブルを配線してくれていた。

 利用目的によってきめ細かな対応をしてくれるのも、テックスタッフが常駐する設備ならではのメリットだ。

 というわけで、内部にJuplink RX4-1500を設置して、電源とLANケーブルを接続。この段階で、機器の電源ボタンもオンにした。

しっかりとロックして、使用中のカンバンを掲示

 ドアを開けた状態で電源をオンにすると電波が漏れてしまうが、この段階では前述した電源をクリーンにする機器に電源ケーブルがつながっていないため、実際には電源が入らない。

 その後、ドアを閉めて、しっかりとロック。「使用中」のカンバンを下げてから外部の電源をオンにして、実験スタートというわけだ。

電源もクリーンにする工夫がされている。大元をオンにすると内部の機器に通電する
通常は、横に設置された計測機器を利用。今回は、近くにPCを設置して、そこからオペレーションした

2.4GHz帯は1W越え?

 今回の目的は設定を変更するだけなので、5GHz帯のチャネルをW52に固定し、無線の出力を調整するだけと、シールドルーム自体の利用は一瞬で済むはずだった。

設定画面から設定を変えているところ。これですんなり終わるはずが……

 しかし、ここでテックスタッフの鈴木氏から、先に触れた問題が報告されたのだ。

 鈴木氏によると「FCCの資料をよく調べると2.4GHz帯が1Wを超えている可能性がある」という。

 前回の記事で、筆者はFCCサイトの検索結果から、2.4GHz帯の出力を110mWと確認していた(低すぎるとは思っていた……)が、どうやらこの値は、別の結果から単純に計算されただけのもので、FCCのテスト結果によって算出された送信出力ではない可能性があるというのだ。

DetailのPDF資料に記載されているFCCのテスト結果。2.4GHz帯の802.11n、40MHz幅では、3kHzあたりのピーク値がトータルで-9.574dbmとなっている。これを元に送信電力を計算する必要がある

 実際、FCCのテスト結果(DetailのPDF資料)をチェックしてみると、Wi-Fiルーターのアンテナ端子に計測器を接続して検出した送信出力の結果が、以下のように掲載されていた。

 11g、11nの20MHz、11nの40MHzなど、各モードごとに送信出力が検査されており、その結果が個別に掲載されている。この送信出力を元に、日本の法律に合わせた送信出力(200mW以下)に調整しないと、法令違反になってしまう可能性があると指摘してくれた。

 というわけで、もう一度、出力を計算してみることにした。

 「技適未取得機器を用いた実験等の特例制度」のウェブページでは、送信電力がざっくり200mW以下と紹介されている。これは実際には、無線LANが利用する帯域幅を考慮しなければならない。

 通常、無線LANのチャネルは1チャネルあたり20MHz幅となっているので、1チャネルを利用する規格(例えば11gや11a)であれば、200mW÷20MHz=10mW/1MHzあたりとなる。

 一方、11nでは40MHz、11acでは80MHz、11axでは最大で160MHz幅を利用する、こうした広い帯域を利用する場合、200mW÷40MHz=5mW/1MHzあたり、200mW÷80MHz=2.5mW/1MHzあたり、200mW÷160MHz=1.25mW/1MHzあたり、となる。

 FCCの資料では、2.4GHz帯のテスト結果は、dBm/3kHzで掲載されているので、この値をまずmWに換算し、3で割って1kHzに換算。それを1000倍してMHzあたりに直し、20MHz、40MHz、80MHzあたり(今回のRX-1500は160MHzは利用しない)の送信電力を計算する必要があるというわけだ。

 ちなみに、dBmからmWに変換するには「10^(dBm/10)」で、mWからdBMへの変換は「10*LOG(mW)」で計算できるので、これをもとにExcelで計算した。

 2.4GHz帯の結果は、以下の表のようになった。FCCの資料には、複数のチャネルでの計算結果が掲載されているので、この中の最も高い値を利用した。

 また、結果はANT0、ANT1、Totalで掲載されているため、MIMOを利用する方式の場合は両方のアンテナを使うTotalの値、MIMOを使わない方式の場合はANT0かANT1のどちらか高い方の値で計算している。

 このあたりは、技適の検査結果からも詳細なテスト状況を確認し、複数アンテナで通信する機器でトータルの値が基準値に収まっていることが確認できたので、それに準じている。

2.4GHz帯の送信電力計算(Peak Power Spectral density、GetApplicationAttachment-24 P39-P43)
方式送信アンテナ帯域幅Total dBm/3kHzmW判断結果
11nMIMO40MHz-9.5741470.75利用不可
11nMIMO20MHz-6.4961493.856利用不可
11g-20MHz-10.188638.423320%にすれば利用可
11b-20MHz-8.1041031.594利用不可

送信出力の計算結果は…

 前回、110mWとお伝えした送信出力だったが、計算してみると大きく異なる結果となった。多くのモードで1Wを超えており、11nでは1400mWほどにも達している。この値は、「Peak Power」なので、平均するとおそらくFCCの規定の1000mW(1W)に収まると考えられるが、日本でテストすることを考えると、ピーク値を基準に出力を制限した方が安全だ。

 Juplink RX4-1500では、無線の送信出力を20%、40%、60%、80%の4段階にしか制限できない。このため、この計算結果を考えると、11g(要するにMIMOなし)にし、しかも、20MHz幅に制限した状態で出力を20%に設定した場合のみ、日本で運用できることになる。

 もちろん、設定画面で2.4GHz帯の無線LANを停止してしまうこともできるが、今回は11gの20%で固定した状態で運用することにした。

今回は、アンテナを1本しか使わない11gに固定し、出力を20%に押さえた

 続いて、5GHz帯をチェックしてみた。こちらは、FCCのテスト結果が1MHzあたりで記載されている(5.8GHz帯は500kHzあたりだが、日本では使えないのでW52の1MHzあたりの記載のみで計算)。

 前回、80%に出力を抑えれば利用可能と紹介したが、今回の計算結果でも、それは変わらないと言えそうだ。

5GHz帯の送信電力計算(GetApplicationAttachment-5 P24-P42)
方式送信アンテナ帯域幅Total dBm/MHzmW判断結果
11axMIMO80MHz-5.2723.77333100%で利用可
11axMIMO40MHz-1.8825.94538100%で利用可
11axMIMO20MHz1.528.25075100%で利用可
11acMIMO80MHz4.555228.344280%にすれば利用可
11nMIMO40MHz6.084162.3529100%で利用可
11nMIMO20MHz8.976157.9901100%で利用可
11a-20MHz5.03363.72796100%で利用可

※複数チャネルでテストされているので、もっとも大きい値をピックアップ
※MIMOの場合はアンテナのトータルの値で計算、MIMOなしの場合は最大値をピックアップ
※赤字部分をFCCのPDFのPower Spectrumの項目からピックアップして入力
※機器側で設定可能な出力は20%/40%/60%/80%

しっかりと調べ、管理し、責任を持つ

 最も高い出力は、11acの80MHz幅時だが、これで228.3442mWなので、出力を80%に設定しておけば問題ない。そのほかのモードはいずれも200mWを下回っており、どれも問題ないことになる。

 ということで、5GHz帯に関しては、チャネルをW52の36chに固定し(これで5.8GHz帯は使われないことになる)、出力を80%に設定した。

5GHz帯に関しては、36ch固定、出力を80%で運用した

 あやうく2.4GHz帯で強烈な電波を発信してしまうことになりかねなかったが、テックスタッフの鈴木氏のおかげで回避できた。

 「ちゃんと調べる」「ちゃんと管理する」「ちゃんと責任を持つ」が大切だと自分で書いておきながら、調査が不十分だったことを深く反省している。

Wi-Fi 6での接続をテスト

 というわけで、無事に我が家でJaplink RX4-1500の電源をオンにし、実際に通信テストすることが可能になった。

 結果は以下の通りだ。今回は、IEEE 802.11axが最大1200Mbps対応なのでiPhone 11でのみ計測したが、速度としては優秀だ。1階で最大745Mbps(下り)を実現できており、Wi-Fi 6対応機らしい高速な通信ができている。

iPerf3による通信速度テスト
1F2F3F入口3F窓際
iPhone 11上り55941011956
下り745483222112

※サーバー:Synology DS1517+

 5GHz帯の最大出力を80%に設定してある影響か、3階での結果は若干物足りない印象があるが、それでも最も遠い場所で112Mbps(下り)で通信できているので、11ac世代のWi-Fiルーターよりは高速との印象がある。今回のJuplink RX4-1500は、Amazon.comで89.99ドルで販売されている格安のWi-Fi 6対応ルーターだが、実力的には問題なさそうだ。

 以上、今回は、DMM.make AKIBAのシールドルームの詳細とFCC資料に基づく送信電力の再計算、そして実際の通信テストをお届けした。

 今回の実体験を踏まえて改めて言えるのは、やはり「ちゃんと調べる」ことの大切さ、そして、プロのアドバイスのありがたさだ。今回の体験で学べたおかげで、今後、海外からWi-Fiルーターを購入してテストする不安が減ったことに感謝したい。

法令に基づく表示

本記事で掲載している無線設備は電波法第三章に定める技術基準への適合が確認されておらず、法に定める特別な条件の下でのみ使用が認められています。当該条件に違反して当該無線設備を使用することは、法に定める罰則その他の措置の対象となります

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。