清水理史の「イニシャルB」

小さいのに速くて安い「Wi-Fi 6×トライバンド」、ASUS「RT-AX92U」をチェック

「高性能が欲しい、でも置き場所がない」問題を解消!

 ASUSから登場した「RT-AX92U」は、コンパクトなWi-Fi 6対応ルーターだ。見た目は小さくて控えめだが、その実力は十分で、最大4804Mbpsでの通信が可能なIEEE 802.11axに対応する上、5GHz帯2系統と2.4GHz帯1系統の同時通信が可能なトライバンドにも対応する。実売3万円台というリーズナブルな価格も魅力の実力派だ。

ASUSのWi-Fi 6対応トライバンドルーター「RT-AX92U」

置きやすいサイズでも妥協のないスペックと機能

 「ゴツくても性能が高い」を選ぶか? それとも「コンパクトだが速度は控えめ」にしておくか?

 どうやら、この2択問題から解放されそうだ。

 この1年で、次世代の無線LAN規格「Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)」に対応したWi-Fiルーターが数多く登場してきたが、現状のラインアップは、ゲーミングも見据えたハイエンドモデルか、Intel製チップを採用したリーズナブルなモデルかの両極端だった。

 もちろん、性能で選ぶか、価格で選ぶかというのは、選択の大きな基準ではあるのだが、もう1つ大きな基準となる条件が置き去りにされていた。

 本体サイズの問題だ。

 ハイエンドな製品は、電波を改善するために、複数本の大きなアンテナが飛び出している上、熱問題を解決するための大きなヒートシンクによって巨大と言ってもいいくらいで、「うーん、どこに置こうか」と悩むようなサイズとなっていた。

 このため、高性能なWi-Fi環境が欲しくとも「置き場所がない」という理由で、購入を見送ってきた人も多いはずだ。

 そんな中で登場したのが、ASUSの「RT-AX92U」だ。

 アンテナは外付けとなるものの、小振りなサイズが四隅からちょこんと伸びているに過ぎず、サイズも見るからにコンパクト。実際、155mm四方(高さは52.6mm)しかない。

 同じくASUSから発売されているハイエンドの「GT-AX11000」と比べてみると、高さはほとんど同じだが、幅と奥行きは3分の2ほどで、設置面積は大幅に小さい。

同じくWi-Fi 6に対応するハイエンドルーター「GT-AX11000」(右)との比較。「RT-AX92U」(左)は本体サイズがコンパクトで、アンテナやデザインも控えめだ

 もちろん、性能に差はあるのだが、実はどちらも5GHz帯×2、2.4GHz帯×1の同時通信が可能なトライバンドに対応する。デザインも、赤をあしらったゲーミングルーターのような派手さはなく、ゴールドのラインで落ち着いた雰囲気がある。

RT-AX92UGT-AX11000
実売価格3万5178円5万4531円
CPUデュアルコア、1.8GHzクアッドコア、1.8GHz
メモリ512MB1GB
Wi-Fi対応規格IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/bIEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
最大速度(5GHz-1)867Mbps4804Mbps
最大速度(5GHz-2)4804Mbps(11ac時4333Mbps)4804Mbps
最大速度(2.4GHz)400Mbps1148Mbps
チャネル(5GH-1)W52/W53W52/W53
チャネル(5GH-2)W56W56
チャネル(2.4GHz)1~131~13
ストリーム数44
アンテナ4本(外付け)8本(外付け)
WAN1000Mbps×11000Mbps×1(デュアルWAN対応)
LAN1000Mbps×42500Mbps×1、1000Mbps×4
USBUSB 3.1(Gen1)×1、USB 2.0×1USB 3.1×2
動作モードルーター/アクセスポイント/リピーター/メディアブリッジ
サイズ(幅×高さ×奥行)155×52.6×155mm240×60×240mm

 iPhone 11やゲーミングPCなどのWi-Fi 6対応製品が増えてきた中で、そろそろ自宅のWi-Fiルーターを買い換えたいという場合は、このコンパクトさが家族を説得する大きな材料になる可能性が高そうだ。

5GHz-1が11acで、5GHz-2が11ax(Wi-Fi 6)

 それでは、製品をチェックしていこう。

 外観は先に触れた通りコンパクトで、デザインも控えめだが、サイズが小さな割にインターフェース類の不足もない。

正面

 前面には状態を示すLEDが配置されているほか、側面にUSB 3.1(Gen1)×1、USB 2.0×1の各ポートとWPSボタンが備えられ、背面にはすべてギガビット対応のLANポート×4(しかもリンクアグリゲーション対応)と、WANポート×1、電源ボタン、リセットボタンが搭載されている。

 このサイズに、Wi-Fiを3系統搭載し、しかもそのうちの1つがIEEE 802.11axとなると、内部基板は相当に窮屈で、熱対策も難しいと思われるが、そうした技術的な事情を乗り越えながらも、LANポートなどを削ることなく、しっかりと配置されている。

 これは、技術者の工夫が相当に詰め込まれているのではないかと想像される。

側面
背面
標準ではAXモードや160MHz幅はオフなので、Wi-Fi 6端末を接続する場合は有効にして利用する

 無線のスペックは、前述した通りWi-Fi 6への対応がメインで、内部的には5GHz-2のバンドに割り当てられている。11axモードと160MHz幅の両方を有効にすることで、最大4804Mbps(4ストリーム)の通信が可能になる。

 ご存じの方も多いと思われるが、Wi-Fi 6ことIEEE 802.11axは、5GHz帯だけでなく、2.4GHz帯にも対応している。だが、本製品では11axへの対応は2つめの5GHz帯のみに限られ、しかもこの帯域はW56のチャネルのみの利用に限定されている。

 なお、ファームウェアの標準設定では、5GHz-2の11axモードと160MHz幅はどちらもオフになっており、出荷時設定のままでは11axでは動作せず、11acの最大4333Mbps対応となる。

5Hz-1は11ac対応でW52/W53の利用となる

 一方、5GHz帯のもう1つのバンドである5GHz-1は、IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)対応となっており、最大速度は867Mbpsと控えめだ。こちらは2ストリーム、80MHz幅までの対応で、利用できるチャネルはW52とW53となっている。

 W56の帯域は広いので、5GHz-1でも使えるようにして欲しいところだが、帯域が絶対に重ならないように、という配慮だろう。

 最後の2.4GHz帯は最大400Mbpsで、こちらも控えめな速度だ。2.4GHz帯は混雑していて、そもそも速度が出にくい環境なので、この帯域の速度が低いのは、さほど気にしなくてもいいだろう。

 基本的には、速度が要求される端末を5GHz-2に接続し、そのほかの端末を5GHz-1か2.4GHz帯に割り当てるといい。本製品は、ASUS製品同士でメッシュネットワークを組む「AiMesh」にも対応しているので、複数台を利用したエリアの拡大も容易だし、トライバンド対応によって5GHz帯を中継用の専用経路に使えるのがメリットだ。

 AiMeshに対応しない一般的な中継機などを用いた際には、高速な端末を5GHz-2、そのほかを2.4GHzに接続し、5GHz-1は中継機を使った中継用の帯域に使うといいだろう。

「AiMesh」や「AiProtection」など豊富な機能ゲーミング向けのQoSや「wtfast」も

 ASUSのWi-Fiルーターは、モデルごとに機能の差がほとんどないが、コンパクトな本製品でも同様に、実装される機能は豊富だ。

 「AiProtection」と呼ばれるセキュリティ機能は、トレンドマイクロの技術を使ったもので、いわゆるIDS/IPSと呼ばれるパケット検査機能によって、外部からの不正な通信や内部の感染端末からの不正な情報発信を検知することができる。また、フィッシングサイトなどの悪質なサイトへのアクセスもブロック可能で、ペアレンタルコンロール機能も備える。

 一方、ゲーミング用途にも最適だ。「アダプティブQoS」によってゲームの通信を自動的に判断して優先度を上げたり、「wtfast」と呼ばれるゲーム向けのVPN機能も利用可能となっている。

「AiProtection」などの豊富な機能で、セキュリティの面でも安心して利用できる
ゲーム向けにQoSや「wtfast」も利用できる

 このほか、USBポートに接続したストレージの共有やVPNサーバー機能なども備え、機能的には十分過ぎるほどだ。

小さいのに速い! WI-Fi 6の速度はハイエンドモデルに匹敵

 それでは、気になる速度をチェックしていこう。

 いつものように、木造3階建ての筆者宅の1階に本製品を設置し、各階でiPerf3により速度をチェックしたのが次の表だ。

iPerfテスト
1F2F3F入口3F窓際
ThinkPad P1上り942837422148
下り943890608333
iPhone 11上り60033510350
下り795577282209

※サーバー(NAS):Synology DS1517+(Intel X540-T2)、5GHz1、5GHz2ともに802.11ax HEと160MHzを有効に設定

iPhone 11と並べても、本体サイズがそれほど大きくないことが分かる

 結果はかなり良好だ。Wi-Fi 6のチャネルが空いているW56だからという理由もありそうだが、3階の入口でPCが下り608Mbps、iPhone 11が282Mbpsとかなり速く、最も遠い3階窓際での結果も、PCが333Mbps、iPhone 11が209Mbpsと、相当に速い。

 ハイエンドモデルに比べるとCPUの性能も控えめで、4本のアンテナもさほど大きくないため、速度はそこそこと予想していたが、Wi-Fi 6の実力としては、ハイエンドモデルに匹敵すると言えるかもしれない。

ルーターの管理画面でWi-Fiで接続した各端末のリンク速度が分かる

 ちなみに、ASUSのWi-Fiルーターは、接続している各端末のリンク速度が管理画面から確認できるので、家庭内の無線状況をチェックするのに適している。こうした機能は、ぜひ他社にも真似て欲しいところだ。

 この速度で、しかもトライバンド対応にもかかわらず、実売が3万円台だというのだから、コストパフォーマンスは相当に高い。

 冒頭でも触れたように、サイズ感もデザインも良好なので、ASUS製ルーターの中でも「売れ筋」モデルとなる予感がする製品だ。

 「そろそろWi-Fi 6を」と考えている場合は、有力な候補となるだろう。

Amazonで購入

(協力:ASUS JAPAN株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。