清水理史の「イニシャルB」

テレワークでの「Wi-Fiが届かない」を解決! TP-LinkのメッシュWi-Fi「Deco M9 Plus」の実力を検証

Wi-Fiカメラ「Tapo C200」やスマートプラグ「HS105」との接続も試す

TP-LinkのメッシュWi-Fiシステム「Deco M9 Plus」

 これからの時代、Wi-Fiに求められるニーズは何だろうか? ギガ越えの速さ? 最新規格への対応? セキュリティ対策? もちろんこれらも大事だが、何より重要なのが「電波が届く」こと、それも家の隅の隅、今までWi-Fiが使えなくても構わなかった場所にまで電波が届くことだ。

 壁や天井へのIoT機器の設置、普段使わない部屋でのテレワークなど、今までになかったWi-Fiの使い方をサポートするメッシュWi-Fiの魅力に迫ってみよう。

予算2万円で悩む2つの選択肢

 今、あなたが、予算2万円ほどでWi-Fiルーターを購入するとしたら、次のどちらを選ぶだろうか?

 1つは、最新のWi-Fi 6対応ルーター。最大通信速度4804+1148Mbpsのデュアルバンド、有線LANは1Gbps対応の製品。

 もう1つは、規格としては1世代前のWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)ながら、最大通信速度は867Mbps+867Mbps+400Mbpsのトライバンドに対応する、有線LANが1GbpsのメッシュWi-Fiルーター。

 この選択は正直悩ましく、環境と用途次第、と言いたいところだが、今、選ぶなら「迷うことなく後者」という人が増えてきている。

 その理由はシンプルだ。とにかく「電波が届く」ことを優先したいからだ。

 スマートスピーカーや照明器具、テレビ、監視カメラ、エアコンなど、ここ1~2年でWi-Fi対応のIoT機器が身近な存在になった。こうしたIoT機器の多くは、部屋の壁際、天井などに設置されることが多く、しかも、リビングなどのメインの部屋だけでなく、廊下や寝室など、普段あまりWi-Fiを利用しない場所へ設置されることも多い。

 それに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、テレワーク(在宅勤務)を推奨する企業が増えてきたが、これに欠かせないビデオ会議などでは、周囲に人がいない静かな場所から参加したいというニーズが高い。リビングなどと違い、普段使わない部屋はWi-Fiの電波が弱かったり、プライバシーを気にして背景を壁にすると速度が極端に低下したりするため、「テレワークに適した場所=Wi-Fiが快適」とは限らない。

 こうした状況から、ピークパフォーマンスはそこそこで構わないから、家中、それも端の部屋から壁際まで、すみずみまで「電波が届く」メッシュWi-Fiへの注目が高まりつつあるわけだ。

設置場所が広範囲に及ぶIoT機器の利用や昨今のテレワークに対するニーズの高まりで、家中すみずみまで電波が届くメッシュWi-Fiの人気が高まっている。写真はTP-LinkのメッシュWi-Fiシステム「Deco M9 Plus」と、IoT機器であるスマートプラグ「HS105」(左下)、ネットワークカメラ「Tapo C200」(右下)

メッシュWi-Fiの魅力

 メッシュWi-Fiについて簡単に説明すると、複数台のアクセスポイントを連携させることで、広いエリアをカバーできるWi-Fiシステムのことだ。

 1台のアクセスポイントだけだと、カバーできるエリアは限られてしまう。特に広い住宅や、壁などの障害物が多い環境では、アクセスポイントから発信された電波が途中で減衰し、遠い場所にあるPCやスマートフォンにまで十分に届かないことがある。

 これに対してメッシュWi-Fiでは、複数台のアクセスポイントで家の中のエリアを分担してカバーする。

メッシュWi-Fiでは、複数台のアクセスポイントでエリアをカバーする。写真はTP-Link「Deco M9 Plus」

 例えば、1台目はリビングに設置してリビング+キッチンエリアをカバーし、2台目は玄関近くに設置して寝室や浴室エリアをカバーする、といったイメージだ。

 こうしたWi-Fiのエリア拡張は、これまではアクセスポイント+中継機という組み合わせで実現されることが多かった。しかし、メッシュWiーFiであれば、複数台のアクセスポイントが、全体で1つのシステムとして構成されるため、設定や管理がとにかく簡単なのが特徴だ。

 これにより、家中、どこでも数100Mbpsで通信できる環境が実現できるだけでなく、複数台のアクセスポイントに負荷を分散させて、より多くの機器の同時通信が可能となる。

 Wi-Fi対応のエアコンを買ったものの、エアコンを設置したい天井付近の壁際に電波が届かず、ウリである遠隔操作が使えない……。などという話も耳にすることがあるが、こうした状況こそ、メッシュWi-Fiの出番だ。

トライバンドで2万円台の「TP-Link Deco M9 Plus」

 では、メッシュWi-Fiの製品の中から、具体的にどのような製品を選べばいいのだろうか?

 実は、冒頭で触れた2つの選択肢のうち、メッシュWi-Fiとして紹介した後者の製品は、TP-Linkから発売されている「Deco M9 Plus」という製品だ。

TP-Link「Deco M9 Plus」

 2ユニット構成のメッシュWi-Fiシステムで、Amazon.co.jpでの実売価格は2万4527円。最大通信速度は867Mbps(5GHz帯)+867Mbps(5GHz帯)+400Mbps(2.4GHz帯)を実現できるトライバンド対応の製品だ。

 TP-Linkは、高性能ながら比較的低価格で、コストパフォーマンスに優れたWi-Fi製品を提供することで有名な企業だ。本製品もトライバンド対応メッシュ製品とは思えないほど、リーズナブルな価格設定がなされている。

背面にはUSBポートと、WAN/LANを各1ポートずつ装備

 もちろん、価格が安いからと言って性能面が犠牲になっていることもない。

 メッシュWi-Fiと言っても、デュアルバンド(5GHz帯×1+2.4GHz帯×1の2系統)対応の製品では、アクセスポイント間の中継と、PCやスマートフォンを接続するための接続帯域が共有されてしまう。

 これに対して、前述した通り、トライバンド対応で、5GHz帯×2と2.4GHz帯×1の3つの周波数帯を同時に利用できるDeco M9 Plusでは、3系統のうちの1つ(通常は5GHz帯)をアクセスポイント間の通信専用に利用できる。このため、デュアルバンド対応製品のような速度低下は発生しないことになる。

Deco M9 Plus
台数2
実売価格2万4527円
CPU-
メモリ-
Wi-FiIEEE 802.11ac/n/a/g/b
バンド数3
最大速度(2.4GHz)400Mbps
最大速度(5GHz-1)867Mbps
最大速度(5GHz-2)867Mbps
チャネル(2.4GHz)自動
チャネル(5GH-1)自動
チャネル(5GH-2)自動
ストリーム数2
アンテナ内蔵
WAN1000Mbps×1
LAN1000Mbps×1
Bluetooth
USB-
動作モードRT/ブリッジ
サイズ(直径×高さ)144×64mm
スマートフォンのアプリを利用し、Bluetooth経由で簡単にセットアップできる

 もちろん、メッシュWi-Fiならではの設定のしやすさも大きなメリットだ。スマートフォン向けのアプリを使って、Bluetooth経由で初期設定ができる。

 パッケージに同梱されているアクセスポイントは2台だが、それぞれを個別に設定する必要はない。アプリの指示に従って、インターネット接続やWi-Fiのパスワードを設定し、2台目を家の中の別の場所に設置するだけでいい。

 設定や管理において2台あることを意識する必要はないが、つながりやすさや快適さの面で、2台あることを実感させられる。PCやスマートフォンなど、接続可能な最大の端末台数が100台(!)というのも恐れ入る。

IoT機器の活用やセキュリティ対策も万全

セキュリティ機能を搭載しているため自宅で仕事をする場合でも安心

 このように、メッシュWi-Fiとしての“地力”が高いDeco M9 Plusだが、付加機能が充実している点も見逃せない。

 まずは、セキュリティ機能だ。トレンドマイクロの技術を使ったセキュリティ機能「TP-Link HomeCare」が搭載されており、悪質なウェブサイトへのアクセスを制限する機能や、IoT機器の脆弱性を狙った攻撃を検知してブロックする機能などを利用できる。

 テレワークでの在宅勤務を考えても、仕事でPCやスマートフォンを安心して使えるのは大きな魅力だ。

 また、IoT機器のハブとしても活用できる。Deco M9 Plusはスマートホームハブを内蔵しているため、Wi-Fi、Bluetooth、Zigbeeなどを用い、各種IoT機器を簡単に扱える。

 TP-Linkは、ネットワーク機器ベンダーとして知られているが、スマートホーム関連の機器も広く扱っている。Deco M9 Plusは、例えば以下のような製品との組み合わせて利用することもできる。

ネットワークWi-Fiカメラ「Tapo C200/C100」

 レンズが上下左右に動くパンチルトに対応する「Tapo C200」と、非対応ながら3千円台と安価な「Tapo C100」。いずれも1080pの高画質動画の撮影が可能で、ナイトビジョンにも対応するので夜間や暗い場所でも監視可能だ。さらに、動くものを検知して通知したり、アラーム音とライトやスピーカーで不審人物に警告する機能も搭載する。

 撮影した動画は、SDカードへ保存可能。カメラが可動するので、設置場所を選ばず広い範囲を監視できるし、ペットなど移動する対象の監視にも最適。監視はスマートフォン向けのアプリで可能なので、使い方も簡単だ。

ネットワークカメラ「Tapo C200」
ネットワークカメラ「Tapo C100」

スマートプラグ「HS105」

スマートプラグのHS105

 コンセントにつないだ機器の電源を遠隔操作でオン/オフできる直差しタイプのスマートプラグ。スマートフォンのアプリから操作できるほか、スケジュール設定でのオン/オフや、音声コントロールによる操作も可能だ。

 サーキュレーターやホットカーペットなど、インターネット接続機能を持たない普通の家電製品もコントロールできる。

 Deco M9 Plusが優れているのは、こうした機器を単につなげられるだけでなく、どこにでも設置できる点だ。

 前述した通り、メッシュWi-FiであるDeco M9 Plusは、家中のあらゆる場所をWi-Fiエリアにできる。このため、こうしたネットワークカメラやスマートプラグを設置する際に、電波が届くかどうか? を気にする必要がない。

 監視したい場所、コントロールしたい機器近くのコンセントなど、好きな場所に設置することができる。

 これは、当たり前のことのように思えるが、電波の死角が発生しやすい従来型のアクセスポイントではなかなかできなかったことだ。当たり前なことが当たり前にできるのも、メッシュWi-FiであるDeco M9 Plusの特徴だろう。

使いたい場所で当たり前にWi-Fiが使える

 実際の実力だが、なかなか優秀だ。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階と3階の階段踊り場の2カ所にDeco M9 Plusを設置し、各地点でiPerf3による速度を計測した結果だ。

1F2F3F入口3F窓際
iPhone 11上り461190153194
下り558325318287

※サーバー:Synology DS1517+
※ノード(2台目)は3階の階段踊り場に設置

 1階で500Mbpsオーバーと十分な速度が出ている上、本来であれば速度が低下しやすい2階や3階でも、あまり速度が低下せず、ほぼ300Mbpsで通信ができている。

 特に3階の窓際は、家の中で最も遠くなる地点だが、ここでも下り287Mbpsを実現できた。

 筆者宅では、室内で犬を飼っているため、ときどき窓際にサーキュレーターを設置して空気の循環をすることがあるが、これなら電源コンセントの接続をスマートプラグHS105に置きかえた場合でも問題ない。外出先などからでも、任意のタイミングでサーキュレーターをオンにして、ペットのために空気を循環させることができるだろう。

 上りは下りに比べて少し速度が落ちる傾向が見られるが、それでも2階3階で150Mbps以上は確保できている。これなら、テレワークで1人になりたいときにも安心だ。リビングではカメラに写り込む家族やテレビの音が問題になるが、3階など離れた場所でも十分な速度が出るので、スムーズな映像と音声でビデオ会議ができる。

 繰り返しになるが、「使いたい場所でWi-Fiを使う」という当たり前のことができるのは、やはりありがたい。こうしたシームレスな感覚は、メッシュWi-FiシステムであるDeco M9 Plusならではのメリットと言えるだろう。

 以上、TP-LinkのDeco M9 Plusを例に、メッシュWi-Fiシステムの魅力に迫ってみた。IoT機器の利用やテレワーク環境の改善にお勧めしたいが、本製品はトライバンドのメッシュWi-Fiシステムとしては破格の安さなので、用途を問わず、普通にWi-Fi機器の買い換えにもお勧めできる製品と言えそうだ。

 テレワークニーズで、PCやUSBカメラの購入が増えていると聞くが、一緒にWi-Fi環境の見直しもしておきたいところだ。

(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。