清水理史の「イニシャルB」
メッシュWi-Fi子機が5000円から! 自由にメッシュが組めるTP-Link「Deco」シリーズを試す
「Deco M5」と「M4/M3W/M9 Plus」を用途や予算で組み合わせてみた
2019年8月26日 06:00
TP-LinkのDecoシリーズと言えば、コストパフォーマンスに優れたメッシュWi-Fiシステムとして有名だ。そしてもう1つ、ラインアップが豊富という点も、ほかに類を見ない。今回は、その豊富なラインアップを、どう組み合わせればいいのかを検証してみた。
自由に組み合わせられるメッシュWi-Fi
何も考えずにWi-Fiを快適にしたい! というのであれば、今ならメッシュWi-Fiに対応した製品を選ぶことをお勧めする。
もちろん、Wi-Fi 6のような、より高速な規格も登場しつつある状況だが、まだまだ価格が高く手が出しにくい。同じ予算を投入するなら、限られた環境の最高速度を追求するより、より多くの機器をより広い範囲で使えるメッシュWi-Fiは、現実的な選択肢として、導入後の満足度も高いだろう。
そもそも、メッシュWi-Fiって何? という人のために簡単に説明しておこう。メッシュWi-Fiは、複数台のアクセスポイントで1つのネットワークを構築するWi-Fiシステムの一種だ。家の中で複数のアクセスポイント、例えば1階、2階などの各フロアに設置して、そのアクセスポイントの間を無線でつながるようにする。
アクセスポイントの台数が増えると、それぞれのアクセスポイントへの接続がメッシュ状になり、同じ行き先の通信でも複数の経路が生まれることになる。こうした経路の中から、最適な経路を自動的に選択できるのがメッシュWi-Fiだ。
アクセスポイント2台の組み合わせは、中継機を追加した場合に似ているが、ざっくり言ってしまえば、より賢く、手間がかからないのがメッシュWi-Fiと考えればいい。
つまり、アクセスポイントと中継機を組み合わせたときのように、Wi-Fi子機からどちらへ接続するのかをユーザーが意識する必要がないわけだ。
メッシュWi-Fiはセット販売が中心だったが……
こうしたメッシュWi-Fiは、複数台のアクセスポイントがセットで販売されることが多い。
例えば、TP-LinkのDecoシリーズであれば、売れ筋となるミドルレンジモデル「Deco M5」であれば、1ユニット(8964円)、2ユニット(1万8705円)、3ユニット(2万4395円)がラインアップされている。
メッシュWi-Fiに対応した製品は、製品ごとの相互接続性が確保されていない場合が多いため、基本的にセットで購入するのが常識だった。だが最近では、その組み合わせを自由に選べる環境も整ってきた。
その代表とも言えるのがTP-LinkのメッシュWi-Fi製品であるDecoシリーズだ。トライバンド対応の「Deco M9 Plus」を筆頭に、売れ筋のDeco M5、エントリー向けの「Deco M4」、コンセント直結の追加用ユニット「Deco M3W」と、さまざまなタイプのモデルがラインアップされ、それぞれの組み合わせが自由にできるようになっている。
これにより、予算に合わせてモデルを選んだり、住居の間取りに合わせて組み合わせたり、電波状況を見ながら次第に拡張していったりと、より自由な発想でメッシュWi-Fiを構築することができるわけだ。
Deco M5 | Deco M4 | Deco M3W | Deco M9 Plus | |
実売価格 | 8874円 | 8180円 | 4980円 | 1万5300円 |
CPU | クアッドコア、717MHz | シングルコア、755MHz | 未公表 | クアッドコア、717MHz |
メモリ | 256MB | 128MB | 未公表 | 512MB |
Wi-Fiチップ | IPQ4019 | QCA9563 | 未公表 | IPQ4019 |
対応規格 | IEEE 802.11ac/n/a/g/b | ← | ← | ← |
バンド数 | 2 | 2 | 2 | 3 |
最大速度(2.4GHz) | 400Mbps | 300Mbps | ← | 400Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 867Mbps | ← | ← | 867Mbps |
最大速度(5GHz-2) | ― | ― | ― | 867Mbps |
その他ワイヤレス | ― | ― | ― | Bluetooth 4.2/ZigBee HA1.2 |
5GHz帯ストリーム数 | 2 | 2 | 2 | 2+2 |
アンテナ | 内蔵 | ← | ← | ← |
LAN/WAN | 1000Mbps×2 | ← | ― | 1000Mbps×2 |
メッシュ最大数 | 10 | ← | ― | 10 |
MU-MIMO | ○ | ← | ― | ○ |
自動経路選定 | ○ | ← | ← | ○ |
APステアリング | ○ | ← | ← | ○ |
バンドステアリング | ○ | ← | ← | ○ |
ビームフォーミング | ○ | ← | ― | ○ |
IPv6 | ○ | ← | ― | ○ |
アンチウイルス | ○ | × | ― | ○ |
保護者による制限 | ○ | △(別機能) | ― | ○ |
QoS | ○ | △(別機能) | ― | ○ |
組み合わせを考えてみよう
では、具体的にどのような組み合わせで利用するといいのだろうか?
すべてのモデルを組み合わせると膨大になってしまうので、今回は、ミドルレンジの売れ筋モデル「Deco M5」をベースに、メッシュWi-Fiのエリアを拡張する例を見ていこう。
ベースのDeco M5に、同じDeco M5を組み合わせるタイプだ。この組み合わせは、セット製品もラインアップしているように、汎用性が高い。
まず、ベースとなるDeco M5の無線性能をフルに生かせる。Deco M5の最高通信速度は、5GHz帯が867Mbps、2.4GHz帯が400Mbpsとなっている。
メッシュWi-Fiでは、このどちらかを使ってほかのアクセスポイントと接続することになるため、ペアで使うもう1台も、同じ無線性能であることが望ましい。
Deco M4やDeco M3Wは、5GHz帯は867Mbpsながら2.4GHz帯は300Mbpsなので、わずかながら速度の低下が発生してしまう。これはもったいないので、同じスペックで統一しようという考え方だ。
この組み合わせは、1階と2階、マンションの部屋と部屋など、あらゆるパターンに対応できる。まずは、この基本の組み合わせから検討するといいだろう。
次の組み合わせは、エントリーモデルのDeco M4をM5に組み合わせるタイプだ。この組み合わせのメリットは、若干ながら価格が安くなる点にある。
エントリーモデルのDeco M4は、前述したように2.4GHz帯の最大速度が300Mbpsとなることに加え、CPU性能が若干抑えられ、さらにDeco M5に搭載されている「TP-Link HomeCare」の機能が省かれている。
HomeCareは、トレンドマイクロの技術を利用したセキュリティ機能だ。通信内容をチェックし、マルウェアの通信を検知したり、外部に送信される不正な通信を遮断できるほか、保護者による制限の機能も使うことができる。
しかしながら、もともと高いCPU性能やHomeCareの機能は、ベースとして組み合わせるDeco M5に搭載されているため、これに組み合わせるアクセスポイントには不要だ。なので、これらの制限は、実質的なマイナスポイントにならない。2.4GHzが若干遅くなることに目をつぶれば、その分、安く構成できるメリットがあるわけだ。
このため、最高速度が求められるような環境ではなく、いろいろな場所にあるスマートフォンやIoT家電などの機器を幅広くカバーしたい場合に適した組み合わせと言える。
続いては、ちょい足しタイプだ。
Deco M5だけでは、端の部屋や浴室など、電波が届かない、もしくは届いても速度が遅い場所がある場合に、コンセント直結タイプのDeco M3Wを利用することで、通信エリアを補充するイメージとなる。
こちらも2.4GHz帯が300Mbpsまでとなるが、実売価格は4980円と大幅に安い。このため、場合によっては、2台、3台とさらに追加し、カバーエリアを広げていくという考え方も無理なくできる。
場合によっては、先のDeco M5+Deco M5や、Deco M5+Deco M4の組み合わせに、Deco M3Wをさらに追加して、エリアを広げたりピンポイントの電波状況を改善する、といった使い方もできるだろう。
最後は、上位モデルのDeco M9 Plusを組み合わせるタイプだ。
通常、異なるレンジの2モデルを組み合わせるのであれば、ベースとなる方に高性能なモデルを配置するのが一般的だ。しかし環境によっては、追加する2台目に高性能なモデルを配置するという考え方もある。
例えば筆者宅の場合がそうだ。回線の引き込み口は1階だが、普段、人が多く集まり、しかもビデオ配信サービスなどをテレビで多用する環境は、2階が中心となっている。
この場合、2階の方が接続するWi-Fi機器も多く、ビデオ配信など速度が求められる使い方も多い。このため、1階にDeco M5を、2階にDeco M9 Plusを配置するのが適している。
Deco M9 Plusは、ほかのモデルと異なり、2.4GHz帯に加え5GHz帯を2系統使えるトライバンド対応の製品だ。5GHz帯のうちの1系統を1階のDeco M5との接続に使いつつ、もう1系統の5GHz帯でビデオ配信、2.4GHz帯でスマートフォンなどの機器の接続と、その帯域をフルに活用できる。
もちろん、こうした帯域の使い分けは、機器任せで済むのがメッシュWi-Fiの特徴なので、ユーザーは対応機器を配置さえすれば、あとはお任せでいいのもメリットだ。
ベンチマークテスト
それでは、上記の組み合わせで、実際にどれくらいの速度が実現できるのかをチェックしてみよう。
以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅で、1階にDeco M5を設置し、3階の階段付近に各機器を設置し、各階でiPerf3による速度を計測した結果だ。
メッシュWi-Fiの場合、設置場所や台数によって速度が変わるが、過去の筆者宅のテストでは2台の組み合わせで、2台目を3階の階段付近に設置するのが効率がいいことが判明している。今回は、この設置に統一して計測を行った。
1台目 | 2台目 | 1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | |
Deco M5 | Deco M5 | 上り | 453 | 218 | 176 | 108 |
下り | 351 | 207 | 118 | 114 | ||
Deco M4 | 上り | 477 | 180 | 146 | 112 | |
下り | 311 | 233 | 107 | 104 | ||
Deco M3 | 上り | 447 | 213 | 121 | 124 | |
下り | 313 | 237 | 105 | 104 | ||
Deco M9 Plus | 上り | 482 | 214 | 153 | 122 | |
下り | 323 | 228 | 115 | 107 |
結果を見ると、筆者宅の場合であれば、どのモデルを選んでも大きな差がないことが分かる。Deco M5を1台のみ設置した場合は、3階の端では30Mbps前後しか速度が出ないが、メッシュ構成にした場合は、どのモデルでも100Mbps越えを実現できるようになった。
なお、今回、3階の階段に設置したため、計測場所によっては2階で速度が変化する例も見られた。例えば、Deco M9 Plusを3階に設置した場合、2階での計測で下りで110Mbps前後、上りで150Mbps前後となっている。これは、3階に接続されてしまっているようにも思える結果だ。
メッシュWi-Fiの場合、ちょうど中間となるような微妙な位置での接続経路を、自動的に選択してくれることがメリットだが、必ずしも速度が向上するとは限らない。場合によっては、設置場所を調整したり、M9 Plusを1階のメインに置き換えることも検討すべきかもしれない。
幸い、Decoシリーズでは、こうした場所の入れ替えも簡単にできるので、さまざまなパターンで最適な設置方法を探し出すことが可能だ。
使いやすさも絶品
以上、TP-LinkのDeco M5を中心に、他モデルをメッシュWi-Fiで拡張するパターンを紹介した。
筆者宅の環境では、あまりモデルによる違いが現れなかったが、共通して言えるのは、どのモデルを使った場合でも、同じシンプルな手順で拡張できる点だ。
スマートフォンのアプリを使って追加するモデルを選ぶと、自動的に設置したアクセスポイントが認識され、メッシュWi-Fiで構成される。2台、3台と追加していくとしても、全く手間がかからないので、初心者でも安心して利用できるだろう。
今回は、あまり触れなかったが、HomeCareを利用したセキュリティ機能や保護者機能も優秀で使いやすい。
家庭でのWi-Fi環境の悩みには、電波状況、セットアップの手間、セキュリティなど、いろいろな側面があるかと思われるが、Deco M5、もしくはDeco M9 Plusをベースに選択しておけば、こういった問題に悩まされずに済むはずだ。Wi-Fi環境を見直す際の選択肢として、検討するといいだろう。
(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)