清水理史の「イニシャルB」

PCやNASの有線LANを5~10倍速に!? QNAPのUSBアダプターとThunderboltアダプターを試す

Windows、Mac、NASのどれでも利用可能

 QNAPから、PCやMac、NASのネットワーク速度を5倍、10倍に引き上げるネットワークアダプターが発売された。USB 3.0接続で最大5Gbpsの「QNA-UC5G1T」、Thunderbolt 3接続で最大10Gbpsの「QNA-T310G1T」の2製品を実際に試してみた。

QNAPから発売されているThunderbolt 3接続の10Gbps対応ネットワークアダプター「QNA-310G1T1」(左)とUSB 3.0接続の5Gbps対応ネットワークアダプター「QNA-UC5G1T」

もはやネットワークは1Gbpsでは足りない!

 PCにしろ、NASにしろ、もはや1Gbpsのネットワークでは限界だ。

 ウェブを閲覧する、メールをチェックする、といった用途がメインだった時代と異なり、高品質な動画の再生や、大量の更新プログラムなどのダウンロードを日常的に行うようになったことで、ネットワークの使用量は飛躍的に増えている。

 例えば、NASに保存した動画資料を見ながら調べ物をすることも珍しくないが、動画が高品質なものであれば、ウェブの表示やファイルの同期など、別の通信が発生する度に、再生中の動画が途切れるようなことも珍しくない。「そろそろ1Gbpsでは限界か?」と感じさせられることも多くなってきた。

 こうした状況の一方、ネットワークの性能は、ここ1~2年で向上が図られるようになってきた。10GBASE-Tをはじめとする1Gbps以上の有線LANは、エンタープライズ向けとしてすでに存在していたが、こうした規格を採用した機器が、我々の手にも届くようになってきたのだ。

 NASは、すでに10GBASE-Tに対応した製品が発売されていたが、市場では、ゲーミングPCや最新のマザーボードなど、2.5Gbpsに対応する有線LANポートを装備した製品が増えてきている。

 これから購入するなら、こうした高速な有線LANを使える製品を選べばいいとして、今の時点で手元にあるPCやNASをどうすればいいのだろうか。

 有線、無線を含め、市場で1Gbps以上のネットワークが当たり前になってくれば、そうした環境を前提として、さらにリッチなコンテンツや大容量の通信が当たり前に行われるようになる。

 そうした大容量通信時代が到来すれば、従来の1Gbpsのまま放置されたPCやNASは、その使い道が限られることになってしまう。

 そこで、注目したいのが、USBやThunderboltなどを利用し、手軽に有線LANを高速化できるネットワークアダプターだ。

 ネットワーク機器メーカーから、いくつかの製品がすでに登場しているが、NASベンダーとして知られるQNAPからも、同様の製品が登場してきた。デスクトップPCに内蔵するタイプのPCI Express接続のLANカードとは異なり、ノートPCで利用できる上、装着もつなぐだけと簡単なことから、既存製品のネットワーク強化用として重宝されそうだ。

金属筐体で放熱対策を施したQNA-UC5G1TとQNA-T310G1T

 それでは、実際の製品を見ていこう。今回用意したのは、QNAPの「QNA-UC5G1T」と「QNA-T310G1T」という2つの製品だ。

USB 3.0接続で5Gbps対応の「QNA-UC5G1T」

 QNA-UC5G1Tは、USB 3.0接続のネットワークアダプターで、最大通信速度は最大5Gbps。いわゆるNBASE-T対応と呼ばれる製品で、利用するネットワークケーブルの規格や、接続先の機器によって、通信速度は変化するようになっており、5G/2.5G/1G/100Mでの接続がサポートされる。

 インターフェースは前述した通りUSB 3.0だが、USB 2.0への接続も可能だ。ただし、インターフェースの理論上の最大速度は、USB 3.0接続であれば5Gbpsとなり、ネットワークの最大速度である5Gbpsで接続できるが、USB2.0の場合は最大でも480Mbpsまでとなってしまうため、ネットワーク側の高速さが活かせない。PC側にUSB 2.0と3.0のポートが両方ある場合は、必ず3.0の方に接続しよう。

正面
背面
側面

 本体は、市場で見かける1GbpsのUSBネットワークアダプターと比べ、一回りから二回りほど大きい。筐体は金属製で、かなりしっかりとした作りだ。

 高級感があるのはもちろんだが、上部に表面積を増やすための浅い溝があしらわれ、しっかりと放熱面での対策がされている印象だ。

 PCI Express接続の10GBASE-T対応LANカードを利用するとよく分かるが、1Gbps以上の通信に対応した製品は、負荷による発熱が結構高く、PCケース内部のエアフローが不十分だと、認識されなくなってしまうことも珍しくない。

 通信速度が5Gbpsまでであれば、そこまで熱に神経質になることはないのかもしれない。それでも、本製品ではしっかり熱への対策がなされており、コストをかけてでも安定性を重視する姿勢が現れている印象だ。付属のUSBケーブルは片側がType-C、反対側がType-Aだが、自分でケーブルを用意すれば、PC側の端子がType-Cでも接続できる。

 なお、市販の2.5Gbps対応USB接続アダプターの中には、低価格なチップを採用した製品が増えてきたが、本製品に採用されているチップは、搭載実績が多く、信頼性の高いAquantinaの「AQC111U」が採用されている。

 利用時には、Aquantinaのウェブページからドライバーをダウンロードする必要がある。Windows版はインストーラーを使って簡単にインストールできるが、Macでは、kextを使った手動でのドライバーインストールが必要なので注意したい。

同梱のケーブルは一般的なType-Aコネクター
Type-Cケーブルを用意して接続することもできる
利用にはドライバーのダウンロードが必要だ

Thuderbolt 3接続で10Gbos対応の「QNA-T310G1T1」

 一方、QNA-T310G1T1は、より高速な10Gbpsでの通信に対応したネットワークアダプターだ。Aquantina「AQC107S」を搭載しており、PCとの接続にはThunderbolt 3を利用する。

 前述したQNA-UC5G1TはUSB 3.0接続となるため、最大速度が5Gbpsとなっていたが、こちらは最大40Gbpsの転送速度を持つThunderbolt 3をインターフェースとして利用するため、ネットワーク側が10Gbpsでも、帯域には余裕がある。

 本体のサイズは、QNA-UC5G1Tを2つ並べたほどとなり、さらに大きいが、同様に金属筐体によってしっかりと放熱対策がなされている上、内部にはファンも搭載していて、10Gbps通信時の高負荷な状態でも、安定して稼働するように工夫されている。

QNA-UC5G1TQNA-T310G1T
実売価格1万3729円3万2083円
LANチップAQC111UAQC107
対応速度5G/2.5G/1G/100M10G/5G/2.5G/1G/100M
接続USB 3.0(Type-A)Thunderbolt 3
LANコネクターRJ-45RJ-45
電源バスパワーバスパワー
対応OSWindows 10/8.1/7、macOS 10.14以降、Linux 4.4/4.2/3.2//3.12/3.10、QNAP 4.3.6以降Windows 10/7、macOS 10.13.3以降、Linux 4.4/4.2/3.2//3.12/3.10、QNAP 4.3.6以降

 接続後、しばらくするとファンが回転し始めるため、静かな環境では音が気になるが、前述した通り、10Gbps対応製品は熱対策を不十分だと通信エラーにつながることもある。むしろ、万全の対策で安定稼働が見込める点を評価すべきだろう。

 なお、細かな点だが、デスクの上に置いたときにズレにくいよう、底面に樹脂パーツが取り付けられる工夫がされていて、Thunderbolt 3やLANケーブルが抜けるトラブルが起こりにくくなっている。こうした点も評価したいポイントだ。

 さらに、macOSではドライバー不要で利用できる点も地味に嬉しい。WindowsやLinuxではドライバーが必要なのだが、macOSでは繋ぐだけですぐに認識してくれるので、非常に気軽に利用できる。

MacBookに接続した様子。ドライバー不要ですぐに認識される

 このほかQNAPでは、SFP+対応の「QNA-T310G1S」もラインナップしている。データセンターやサーバーで利用するなら、こちらを検討するのもいいだろう。

 また、いずれの製品も、PC(Windows/macOS/Linux)だけでなく、NASへの接続もサポートしている。利用可能なのは、USBまたはThunderboltのインターフェースを備え、ファームウェアがQTS 4.3.6以降のQNAP NASに限られる。NAS側に高速なネットワークインターフェースを物理的に追加し、転送速度を大幅に向上させることができる。

 最近のNASは、CPUやストレージ性能が向上しているので、製品自体の潜在能力は高い。しかし、ネットワークが1Gbpsまでとなるために、ストレージへのアクセス速度がが頭打ちになってしまうことが多い。これを改善する方法としても、注目の製品と言っていいだろう。

USB接続で1Gbpsの3倍以上、Thunderbolt接続で5倍以上の転送速度をマーク

 それでは、実際の転送速度をチェックしていこう。

 今回のテストでは、NAS側に10Gbps対応の有線LANを標準搭載した「TBS-453DX」を使用した。ストレージはSSDに対応していて、今回は容量250GBのウエスタンデジタル製SATA接続SSD「WD Blue WDS250G2B0B」×4でRAID 5を構成している。非常に高いパフォーマンスを発揮できるのはもちろん、静音性にも優れ、動画などのメディアの再生や編集などの用途に適した製品だ。

QNAP「TBS-453DX」
10Gbps対応のLANポートを標準で搭載
4基の「WD Blue WDS250G2B0B」でRAID 5を構成した

 まずは、USB接続のQNA-UC5G1Tを一般的なWindows PCでテストしてみた。

 なお、有線LANが1Gbps以上の環境では、ジャンボフレームを有効にしないと実力を発揮し切れない。このため今回は、全てのテストでジャンボフレームを「9000」に設定して計測を行っている。

Windows(左)もMac(右)も、もちろんNAS側もジャンボフレームを「9000」に設定している

 まず、ストレージも含めたトータルの速度をCrystal Disk Mark 6.0.2で検証してみよう。前述したように、今回はSSD×4構成のNASを利用しているため、ストレージへのアクセスも非常に高速だ。

 シーケンシャルでは、リードが457.2MB/s、ライトが422.2MB/sとなっており、こちらは4Gbpsを超える結果をマークできている。実際に使っていても、かなり快適な印象だ。これなら、大量のファイルをコピーしたり、バックアップするのも、まったく苦にならないだろう。

QNA-UC5G1Tによる5Gbpsの結果
1Gbps接続時の結果

 iPerf3の結果は、下りが3.65Gbps、上りが3.31Gbpsと、1Gbpsを大きく上回る結果が表示された。5倍とまでは行かなかったが、実効速度で1Gbpsの3倍以上をマークしており、かなり優秀と言えるだろう。

 続いて、さらに高速なQNA-310G1T1も試してみた。

 こちらはThunderbolt 3接続となるため、「Macbook Air 1600MRE82J/A Retina」を利用した。前述したようにmacOSでは、ドライバー不要で認識してくれるので便利だ。

 以下の結果の通り、iPerf3が下りで5.83Gbps、上りで5.25Gbpsとなった。10Gbps対応なのでもう少し伸びて欲しいところだが、実環境であれば妥当な値とも言える。もちろん、5Gbpsまでの対応となる先ほどのQNA-UC5G1Tより圧倒的に高速だ。

iPerf3テスト
DOWNUP
Mac+Thunderbolt 3(10G)5.835.25
Windows+USB 3.0(5G)3.653.31
1Gbps0.980.89

 続いてストレージを含めた速度を、macOS向けのツールである「Black Magic Disk Speed Test」で計測してみた。ストレージを含めた速度は、リードが491.7MB/s、ライトが422.5MB/sとなった。

QNA-310G1T1による10Gbps時の結果
1Gbps時の結果

 リードは、先の5Gbps環境をわずかながら上回ったが、ライトはほぼ同じだ。今回のテスト環境では、このあたりが上限となってしまっている可能性が高い。

 一般的な利用であればQNA-UC5G1Tで十分に思えるが、macOSとQNA-310G1T1の組み合わせは、ドライバー要らずの手軽さがとにかく便利な上、環境によってはさらに上のスピードも望めるため、予算に余裕があるならQNA-310G1T1を選ぶことも検討したいところだ。

安価なNASのネットワークを高速化することも可能

 最後に、QNA-UC5G1TをNASに接続してみた。

 前述したように、QNA-UC5G1Tは、QTS 4.3.6以降を搭載したQNAP製NASに対応している。QTS 4.3.6は、コンシューマー向けの低価格なNASでも広く採用されているため、現在入手可能なQNAPのNASであれば、事実上ほぼ使えると考えていい。

 今回は、少し古めの製品である「TS-231+」につないでみた。2ベイの安価なSOHO向けNASで、CPUはCortex A15のデュアルコア1.4GHz、メモリは1GBと、小規模オフィスなどでよく使われているベーシックなモデルだ。

 ファームウェアが条件を満たしていること(今回は4.4.1だった)を確認後、フロントのUSB 3.0ポートにQNA-UC5G1Tを装着すると、数秒で認識され、ネットワークケーブルを接続したコネクター部分のLEDが点滅を開始した。

「TS-231+」に接続
特別な設定は必要なく、つなぐだけで認識される

 設定画面から「ネットワークと仮想スイッチ」を確認すると、有線LANが問題なく5Gbpsの速度でリンクしていることが確認できた。そこで先のテストと同じく、ジャンボフレームを「9000」にした状態でiperf3を実行してみた。

iPerf3テスト(NAS接続)
DOWNUP
Windows+USB 3.0(5G)2.761.73
1Gbps0.940.93

 下りが2.76Gbps、上りが1.73Gbpsと、いずれもしっかり1Gbpsの壁を越えている。NASのパワーが限られるせいかTBS-453DXほどの速度は出なかったが、ネットワークの速度はかなり向上している印象だ。

 ただし、ストレージを含めた性能となると、なかなか厳しい面もあるだろう。シーケンシャルのリードこそ176MB/s(1408Mbps)と1Gbpsを超えたが、2台のHDDでは、ネットワーク帯域の性能向上に追いつけない印象だ。

 とは言え、1.5倍の速度向上を図れるため、例えば、現状では動画の再生が途切れることがあったりして、混雑時の利用に限界を感じているような環境であれば、QNA-UC5G1Tを使ってNASの潜在能力を引き上げるのは悪くない選択だ。

 もし、NASの買い換えについて悩んでいるようなら、検討してみる価値があるだろう。

TS-231+にQNA-UC5G1Tを接続した際の結果
1Gbpsの結果

WindowsでもMacでもLinuxでもNASでも使える汎用性の高さが魅力

 以上、QNAPの「QNA-UC5G1T」と「QNA-T310G1T」を実際に試してみたが、WindowsでもMacでもLinuxでも、そしてNASでも使えるという汎用性の高さは大きな魅力だ。

 価格はそれなりに高いが、作りはしっかりとしているし、放熱対策が万全で安定動作が期待できる。PCのネットワークの高速化を検討している場合はもちろんのこと、NASのアップグレードにもお勧めしたいアイテムだ。

 現状のPCやNASを維持したまま、手軽にネットワークを高速化したいというニーズに適した製品と言えるだろう。

(協力:テックウインド株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。