清水理史の「イニシャルB」

「Synology Drive」でテレワークもファイル共有も! 1万円台のNASでもPCとファイルを自動同期

VPNサーバーにもできるSynology NASでやってみた

 コロナ禍によるテレワークの普及拡大で「リモート」が当たり前になった今、あらゆるシチュエーションで組織のデータを共有できるようにしたいなら、SynologyのNASを活用するのがお勧めだ。

 「Synology Drive」による同期で、出社時もテレワーク時もNASのファイルにアクセスできるし、いざとなればVPNなどを利用して社内ネットワークにもアクセスできる。

 通常のクラウドサービスとは異なり、ユーザーごと、月ごとの課金は不要で「ファイルの場所」の制約を取り払うことができる「Synology Drive」は、1万円台の家庭向け1ベイモデルでも利用できるが、今回は中小企業での利用を想定し、4ベイNAS「DiskStation DS920+」で体験してみた。

出社時もテレワーク時も同じ感覚でファイルを共有できるSynologyのNAS。写真は4ベイモデルの「DiskStation DS920+」

NASは自宅でも会社でも場所を問わず使えるストレージに

 NASの用途として、真っ先に思い浮かべるのは社内のファイル共有だろう。

 部門単位で共有したいファイル、全社員が利用するテンプレート、プロジェクトごとの資料など、社内でさまざまなファイルを保存するためにNASが利用されるケースが圧倒的に多かった。

 しかし、2020年に入ってから、こうしたNASの概念が見直され始めていると言ってもいい。

 コロナ禍によるテレワークの普及拡大によって、自宅やリモートオフィス、コワーキングスペースなどでの勤務が増え、リモートからも社内の情報へアクセスすることが当たり前になってきたからだ。

 こうしたニーズの変化から、高い注目を集めるようになってきたのがSynologyのNASだ。同社はもともとリモートアクセスや同期ソリューションの導入に積極的だったので、この数年で市場が追い付いてきた印象だが、中でも同社のNASで利用可能な「Synology Drive」というアプリは、手軽でありながら高度な機能を使える「同期ソリューション」と言えるものだ。

「Synology Drive」を使うと、NASのデータをインターネットにつながる環境なら、どこでも同期できる

 このソリューションが優秀な点はいくつもあるが、今回は次の3点に注目した。

カンタン設定で外部からアクセス、ルーター側の設定変更は不要

 「QuickConnect」設定で、例えば「ShimizuNAS」のような名前をNASに設定しておくことで、社内でも社外からも、この名前でNASへ接続可能になる。Synologyが管理する中継サーバーを経由して外部ネットワークとの接続が実現されるため、ルーターのポート開放やファイアウォール設定などを変更することなく、外部からのアクセスが可能だ。

 IPv4やIPv6といったインターネット回線の構成も判断して、自動的に最適な方法で接続してくれる。もちろん、中継サーバーは安心の日本国内運用なので、速度面の問題もない。

「QuickConnect」を使うと外部からの接続がカンタン

個人データも組織データも同期

 個人用だけでなく部門単位の共有フォルダーも、「チームフォルダー」として同期対象に設定できる。このため、普段、社内で共有しているデータをそのままリモートでもアクセス可能だ。もちろん、ファイルに変更を加えれば即座に同期されるため、普段通りの使い方で共同作業ができる。

「チームフォルダー」として共有フォルダーをPCと同期できる

オンデマンド同期でPC側の容量を節約

オンデマンド同期でアクセス時にファイルをダウンロード。PC側ストレージの容量を節約

 PC上には、同期対象のフォルダーのデータの全てがダウンロードされるわけではない。クラウドサービスなどでも利用されている「オンデマンド同期」の機能が使えるため、PC上にはショートカットのようなファイルの一部のみが保存され、開くときにファイルの実態がNASからダウンロードされる仕組みだ。

 「チームフォルダー」のように自分とは関係のないファイルが大量に存在するフォルダーを同期しても、PCのストレージ容量を圧迫する心配がない。

 早い話、いついかなるシチュエーションでも「普段と同じ」状態で使えるのが、SynologyのNASのメリットと言える。

実際に使い始めるときも、操作は最小限

 もちろん、設定がカンタンといっても、最低限の操作は必要になる。具体的には、次のような流れで設定するが、管理者の操作のうち、2.のQuickConnectと、3.の「Synology Drive Server」のインストールに関しては、NASの初期設定ウィザードでスキップしていなければ設定済みになっているはずだ。このため、実際に必要な操作はわずかだ。

管理者の操作

  1. 準備:ユーザーやグループ、ユーザーホーム、共有フォルダーを設定しておく
  2. QuickConnectで外部からのアクセスを可能にする
    (通常は初期設定で設定)
  3. パッケージセンターから「SynologyDrive Server」をインストールする
    (初期設定でインストールされる場合もある)
  4. チームフォルダーを有効化する
    (チーム用の共有フォルダーを有効化)

ユーザーの操作

  1. ウェブブラウザーでSynology Driveにアクセスする
    (DSM経由でも可)
  2. Windows用アプリをダウンロードしてインストールする
  3. Synology Driveクライアントで同期タスクを作成する
  4. QuickConnect IDで接続する
  5. 同期元と同期先を設定する
    (標準設定でユーザーホームが同期される)
  6. [作成]からチームフォルダーを指定して同期を設定する

 これで、NASのユーザーホームと指定したチームフォルダーのデータがPCに同期される。社内で使っているときはもちろん、インターネットに接続できる環境であれば、在宅勤務や外出先、出張先などでの利用時も、これらのフォルダーが常に同期されることになる。

 実際に使ってみると、その手軽さに感心する。

 社内で共有ファイルを編集するとき、自宅から自分のファイルを開くとき、コワーキングスペースで仲間とファイルを編集するとき。Synology Driveのおかげで、どのようなシーンでもアクセスする先は同じ場所、同じファイルでいい。

 場所の違いや同期の仕組みは全てSynology Drive(とQuickConnect)におまかせで、ユーザーは意識する必要がないわけだ。

ユーザーホームとチームフォルダーが同期される。これで、社内で普段使っているデータへどこからでもアクセス可能になる
社内でもリモートでも、エクスプローラーから同じファイルを利用可能。ファイルを更新すれば自動的にNASと同期される

 こうしたソリューションは、クラウドストレージのメリットとして語られることが多いが、実はNAS、というかSynologyのNASでは、以前から利用可能だった。それでいてクラウドストレージと決定的に違うのは、月額費用負担が「0円」で、しかも利用プランなどによる容量制限なし(もちろんNASの総容量には依存する)で使える点だ。

 しかも、社内で使うときは、ギガビットなどの社内LANを使った高速転送が可能で、大容量ファイルも気兼ねなく転送できる。「カンタン」「便利」「安心」「高速」「低コスト」……と、いくつものメリットを兼ね備えたものと言えるだろう。

いざとなればNAS経由で社内リソースにVPNでリモート接続

 このようにSynologyのNASには、「Synology Drive」という超強力なソリューションが用意されているが、これ以外にもリモート環境で便利に使える機能が用意されている。

 QuickConnectを使ったNASへのウェブアクセス(管理者による管理やユーザーごとのNAS機能の利用が可能)に加えて、本格的なVPNサーバーとして利用できることが、もう1つのメリットだ。

 それを実現するには「VPN Server」のアプリパッケージをインストールを行なう必要がある。これで、PPTP、OpenVPN、L2TP/IPSecの3つの方式に対応したVPNサーバーとしてNASを構成できるものだ。

「VPN Server」のアプリパッケージをインストールすることで、高価な装置を購入しなくても、NASを使ってVPN接続が可能になる

 VPNは、高額な専用の通信機器で利用されることが多いが、普段ファイル共有に利用しているNASが、この役割を担うことができるメリットは大きい。シンプルに設置機器を減らせるだけでなく、NASの潤沢なCPUパワーを活用することで、複数セッションの同時接続にも耐えられる。

 同時接続数は、利用するNASのCPUやメモリなど、モデルによって異なるが、例えば今回試用したDS920+であれば、最大30の接続に対応できる。このため、小規模な環境や部門単位での利用であれば十分にまかなえるだろう。しかも、SynologyのNASの場合、PPTP、OpenVPN、L2TP/IPSec接続のどれを利用する場合でも、クライアント用ライセンスは不要で無料で利用できる。

 こうした機能を活用し、外出先から社内にVPN接続可能にすれば、NASのデータだけでなく、社内に設置してある業務サーバーなどへのアクセスも安全に可能になる。経理や給与などの仕事で、どうしても社内の業務アプリケーションを利用しなければならないという場合でも安心だ。

 SynologyのNASが1台あれば、シームレスなファイルアクセスだけでなく、シームレスな業務環境も低コストで構築できるだろう。

SSDキャッシュの搭載にも対応する高性能な4ベイNAS「DS920+」

 では、具体的にどのようなハードウェアを使って、こうした環境を構築すればいいのかを見ていこう。

 SynologyのNASでは、どのモデルでも前述したQuickConnectやSynology Drive、VPN Serverなどの機能が利用可能だ。このため、ハードウェアは、シンプルにCPU性能と搭載可能なHDDの数で選べばいい。

正面

 家庭や個人事務所であれば、低価格な2ベイモデル「DS220+」や、場合によっては1ベイのモデルなどでもいいかもしれないが、中小規模の環境で、前述したような複数ユーザーでのリモート同期やVPNアクセスを実現したいのであれば、4ベイの「DS920+」あたりを推奨したい。

 クアッドコア、2GHzのCeleron J4125と、標準で4GBのメモリ(最大8GBまで増設可能)に対応したパワフルな製品だ。

側面
背面
底面の2つのスロットにNVMe SSDを装着可能

 このモデルの特徴は、2つのM.2 SSDスロットを搭載している点だ。オプションのM.2 NVMe SSD(「SNV3400-400G」など)をキャッシュとして利用することで、本体のベイに装着したHDDへのアクセスを高速化できる。

 SynologyのNASは多機能なことで有名で、今回取り上げたDS920+では、Synology Officeを利用した表計算アプリやワープロアプリをNAS上で稼働させたり、ビジネスチャットアプリを実行したり、Virtual Machine Managerの利用によってNAS上でWindows、Linuxなどの仮想マシンを稼働させたりすることもできる。

 SSDキャッシュは、NASのファイルアクセスを高速化することができる技術だが、こうした複数の役割をNASに担わせたときに、そのレスポンスを高速化できるメリットもある。

SSDキャッシュを利用することで、NASのアクセスを高速化できる

 今や多機能なNASではSSDキャッシュが不可欠な存在と言っても過言ではないが、中小企業向けの4ベイモデルで、しかも実売価格が6万円台とリーズナブルな製品でも、SSDキャッシュを利用した高速化のメリットを享受できるのは魅力的だ。

 なお、性能に関しても十分なものだ。1Gbpsの有線LANで接続したPCから、NASの共有フォルダーに対してCrystarlDiskMarkを実行した結果が次の通りだ(HDDは3TB×4のSHR2(RAID6相当)で構成)。

 ネットワークが1Gbpsなので、上限まできっちり速度が出ている印象だ。これなら複数台の同時アクセスでも、速度が低下しにくいだろう。

テレワークでのリモートアクセスの悩みをNASで解決

 以上、Synologyのテレワーク向けソリューション「Synology Drive」「VPN Server」を最新の4ベイNAS「DS920+」で利用してみたが、全体を通じて印象的だったのは、やはり「手軽さ」だ。

 NASや同期、さらにはVPNと聞くと、中小規模の企業では導入に期間も費用もかかるのではないか? と心配になるかもしれない。だが、SynologyのNASであれば、面倒なネットワーク関連の悩みは、ほぼ「QuickConnect」が解決してくれる上、各ソリューションともアプリをインストールして最低限の設定をするだけですぐに利用できるので、設定などに悩まされることがない。

 慣れれば1時間ほど、初めてでも流れさえ押さえておけば1日もあれば設定できるし、機材もNAS本体と内蔵するHDDさえ用意すれば済むので、急にテレワークを導入する展開になっても、これなら十分に対応できる。

 社会的な情勢が落ち着きつつあるとは言っても、もはやリモートでの作業を抜きに企業活動を続けることは不可能になりつつある。「NASならまだ間に合うし、はじめてでもできる」ので、導入を真剣に検討するといいだろう。

(協力:株式会社アスク、Synology Japan株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。