清水理史の「イニシャルB」

手のひらサイズなのにDS-Lite対応でWireGuardも使えるOpenWrtトラベルルーター GL.iNet「GL-MT300N-V2」

 香港GL.iNetが発売している「GL-MT300N-V2」は、USB給電で動作する手のひらサイズのトラベルルーターだ。

 スペックはかなり控えめだが、OpenWrtベースのソフトウェアが強力で、トラベルルーターなのにDS-Liteでつながるし、WireGuardのサーバーにもなれる。その実力を検証してみた。

小型のトラベルルーターGL.iNet「GL-MT300N-V2」。OpenWrtベースの製品となっている

ようやく「使う気」になった

 実は、本製品を購入したのは2020年の11月。それから寝かせ続けることおよそ半年、ようやく「使おう」という気分になれた。

 というのも、購入当初に搭載されていたファームウェアは、普通にトラベルルーターとして使う分には問題ないのだが、IPv6が意図的にオフにされていたり、DS-Liteのモジュールはインストールできなかったりと、記事の「ネタ」になりそうな機能がことごとくトラブルで使えない状況で、面白みに欠ける製品であった。

 それが、この4月にリリースされた最新ファームウェア「3.201」でようやく改善され、IPv6が使えたり、DS-Liteが使えたり、IPv6でWireGuardサーバーを構築できたりと、急に、小型のトラベルルーターとは思えない多才さを発揮する製品となったのだ。

 本来は、旅行先のホテルなどで複数台の機器をインターネット(やVPN)接続するための機器だが、実態としてはOpenWrtベースの小型組み込みマシンで、自宅のサブルーターとして遊ぶのにちょうどいい製品となっている。

 今回の3.2xの新ファームは、今回の「GL-MT300N-V2」だけでなく、同社のほかのモデル向けにもリリースされている。より高性能なモデルを自宅でDS-Lite用ルーターとして利用したり、テレワーク対策のVPN(WireGuardまたはOpenVPN)ルーターとして活用したりと、実用シーンにおける選択肢としても、現実的な製品となったと言えそうだ。

実売3000円で手のひらサイズ

正面

 それでは実機を見ていこう。

 本体は、サイズも色も、以前に本連載の『DS-Liteルーターを自前で! シングルボードコンピューター「NanoPi R2S」をOpenWrtで使う』で紹介した製品にそっくりだが、よく見ると、各種インターフェースの配置が違っている上、中身も全くの別物となっている。

 メインのチップはMediaTekのMT7628N(シングルコア、580MHz)で、128MBのメモリを搭載している。ネットワーク関連は、Wi-Fiが最大300MbpsのIEEE 802.11n。有線は、ともに100BASE-TX対応となるWAN/LANの2ポートが搭載される。

側面
背面

 スペックだけ見れば、かなり貧弱ではある。ただし、もともと本製品がUSB給電で動作するトラベルルーターであることを考えれば妥当なところだろう(より高性能なモデルもあるので、必要ならそちらを購入すればいい)。

 最大の注目はソフトウェア部分で、本製品はGL.iNetが開発した独自の設定画面も搭載されているのだが、これに加えてオープンソースのルーター向けLinuxである「OpenWrt」も搭載されている。

 このため、通常のトラベルルーターとして使う場合は、簡略化された設定画面(もちろん日本語にも対応)で、必要最低限の機能を簡単に設定することができる。

標準の設定画面

 しかし、裏側ではOpenWrtが動作しており、これを利用することで、自由度の高いWi-Fiルーターとして使えるようになる。

 もちろん、本製品は技適取得済みで、国内での利用は問題ない。また、OpenWrtといえども、きちんと法的な規制への対応がなされており、Wi-Fiのカントリーコードを変更することなども、基本的にはできない仕様になっている。

OpenWrtの設定画面(Luci)

 全てが自由というわけではなく、きちんと国内仕様の中で自由度が保たれている点は評価したい。

「Luci」でDS-Lite接続する

 それでは、実際に使ってみよう。ここでは、通常の設定画面とOpenWrtの両方を使って設定していくことにする。

 まずは、通常の設定画面でインターネット接続の設定をする。後述する「Luci」をインストールする必要があるため、PPPoEやDHCPなどでインターネットに接続できる状態にしておく。

 続いて、IPv6を有効にする。標準ではオフになっているので、[その他の設定]の[IPv6]の項目から、機能をオンにしておく。

 次に、luciをインストールする。標準の設定画面の[その他の設定]の「高級機能]の項目からluciをインストールすると、以後「http://192.168.8.1/cgi-bin/luci」でOpenWrtのGUI設定が可能になる。

インターネットに接続した状態で「luci」をインストール

 luciに接続できたら、「DS-Lite」のパッケージをインストールする。[System]の[Software]で「ds-lite」を検索してパッケージをインストールし、ルーターを再起動しておく(再起動しないとインターフェースとしてリストアップされない)。

 再起動したら、[Interface]で[Add new Interface]を選択。次に[Dual-Stack Lite(RFC6333)]を選び、AFTRのアドレスを指定する。その後、[Firewall]で既存の[wan」のルールを適用する。

パッケージを追加することで機能を拡張できる。「ds-lite」をインストールすることで、IPoE IPv6上でIPv4インターネット接続を利用できる

 最後に、最初に暫定で設定したPPPoEやDHCPのWANを[unmanaged]へ変更すれば、設定は完了となる。

 もちろん、慣れている人なら、SSHからコマンドを使って設定しても構わないが、GUIを使えば、それほど迷わずにDS-Liteで接続することができるだろう。

 なお、筆者宅には回線がないので試すことができないが、mapパッケージをインストールすることで、MAP-Eでの接続も可能となっている。OpenWrtによるMAP-E接続に挑戦している記事もネット上にいくつか見つけられるので、試してみる価値はあるだろう。

WireGuardも使える

 本製品のもう1つの特徴は、標準で「WireGuard」が組み込まれていて、GUI設定で簡単にVPN接続が可能となっている点だ。

WireGuardサーバーを搭載

 WireGuardは、高速なVPN接続サービスだが、現状、機能として組み込んでいるルーターは少なく、GUIで設定できるとなると、さらに機種が限られる。

 本製品は、そんなGUIでWireGuardを手軽に使える製品の1つで、しかも前述したIPv6環境でも使えるようになっている。

クライアントの設定パラメーターをQRコードで読み込むだけで接続可能

 実際にIPv6環境で使うには、クライアント側の設定ファイルを書き換えたり(接続先をIPv6に対応したホスト名に変更)、IPv6アドレスをDNSに登録して名前解決できるようにしたり、外部からのアクセスを制限するためにIPv6をNATIVEモードではなく、NATモードに変更したり、ファイアウォールの設定を変更したり……、と、かなり手間がかかる。

IPv6環境で使うには、IPv6アドレスをNATに変更したり、ファイアウォールでIPv6を有効にしたり、IPv6のWAN側アドレスの名前解決を可能にしたりと、結構手間はかかる

 また、もちろん遠隔地の接続する側もIPv6が使える必要があるので、モバイル環境や公衆無線LAN環境では接続できないケースの方が多い。

 どちらかというと、簡単な拠点間ネットワークに使うとか、会社と社員宅でテレワーク用VPNを構築するとか、そういった用途向けと言えそうだ。

 以上、GL.iNetの「GL-MT300N-V2」を紹介したが、本来のトラベルルーターとしてももちろんだが、特に低価格の実験用OpenWrtルーターとして興味深い製品と言える。パッケージを追加することでさまざまな機能を追加できるので、興味のある人は試してみるといいだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。