清水理史の「イニシャルB」

小規模オフィスならコレでいい ネットギアの低価格な法人向けWi-Fi 6ルーター「WAX202」

 ネットギアの「WAX202」は、法人向けWi-Fi 6ルーターのエントリーモデルだ。小規模な環境に適したスタンドアロンタイプで、価格も実売1万円以下と入手しやすい(Amazon.co.jp、2022年4月16日時点)。充実した保証が特徴となる同製品を実際に使ってみた。

ネットギアの「WAX202」。Wi-Fi 6に対応した低価格な法人向けWi-Fiルーター

小規模オフィス向けのスタンドアロンタイプ

 法人向けのWi-Fiルーターは、クラウドでの管理に対応するものが多くなってきた。今回取り上げたネットギアの「Insight」もそうだし、有名どころではCiscoの「Meraki」などもある。

 多くの通信機器の設置や多拠点への展開を考えれば、クラウドでの管理は今や必須と言えるが、個人事務所や店舗などのより小規模な環境では、そのコストが気になる場合もある。

 このため、同じ法人向けでもエントリー向けとしてラインナップされるモデルは、従来通り機器に搭載された管理画面を使って設定するスタンドアロンタイプの人気も根強い。

 今回取り上げるネットギアの「WAX202」も、そんなスタンドアロンタイプのWi-Fiルーターだ。

 最大1201Mbps(5GHz帯)+574Mbps(2.4GHz帯)の通信速度となるデュアルバンドに対応したWi-Fi 6ルーターで、有線ポートはWAN×1、LAN×3の全てが1Gbpsとなるベーシックな構成だ。法人向けながらリーズナブルな1万円以下となる9778円の実売価格で提供されている。

WAX202
価格9778円
CPUクアッドコア
メモリ256MB
Wi-Fiチップ(5GHz)
対応規格IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
バンド数2
160MHz対応×
最大速度(2.4GHz)573Mbps
最大速度(5GHz-1)1201Mbps
最大速度(5GHz-2)
チャネル(2.4GHz)1-13ch
チャネル(5GHz-1)W52/W53/W56
チャネル(5GHz-2)
新電波法(144ch)
ストリーム数(2.4GHz)2
ストリーム数(5GHz-1)2
ストリーム数(5GHz-2)
アンテナ内蔵
WPA3
メッシュ×
IPv6×
DS-Lite×
MAP-E×
WAN1Gbps×1
LAN1Gbps×3
LAG×
USB×
セキュリティステートフルファイアウォール
動作モードRT/AP
ファームウェア自動更新
本体サイズ(幅×奥行×高さ)170×63×242mm

法人向けを選ぶメリットは?

 法人向けが個人向けWi-Fiルーターと違う点は、大きく2つある。

 1つは保証が充実していることだ。ネットギアの製品は、本製品だけでなく個人向けでも3年の長期保証となっているが、これに加えてオンコールサポートサービス(1320円/年)や、クイックデリバリーサービス翌営業日対応(1万1000円/年)を付加することができる。

 故障の際の交換時などに、なるべく早く代替機を手に入れることができるクイックデリバリーサービスなどは、業務の継続が必要なオフィス向けとしてはうれしいサービスだ。

 もう1つは、法人用途を考慮した機能設計がなされている点だ。これにはいくつかあるので、以下で個別に紹介していこう。

アクセスポイントとして利用しやすい

 法人向け環境では、ルーターが別に存在するケースが多い。このため、本製品の初期設定では、最初の選択肢が動作モードの選択であり、ルーターとして利用するか、ルーター機能なしのアクセスポイントとして利用するかを選べるようになっている。ルーターとしての利用を前提とした製品が多い個人向けとは設計が異なるわけだ。

初期セットアップの最初の選択項目が動作モードの選択。アクセスポイントモードで使う用途が多いことが想定されている

複数のSSIDを利用しやすい

 個人向けにも複数のSSIDを設定可能な製品は多いが、本製品もSSIDを3つまで登録し、例えばオフィス用と店舗用、営業部と総務部と経理部など、用途によって接続先を使い分けることができる。

 単に複数のSSIDを設定できるだけでなく、設定画面のトップに3つのSSIDを常に表示することで管理しやすくなるよう工夫されていたり、各SSIDで相互通信ができないように隔離する機能が標準でオンになっていたりと、扱いやすい。

ワイヤレス1~3と複数SSIDを手軽に利用可能。トップページに状態が表示される

管理しやすい

 ルーターのステータス画面では、CPU負荷を確認できたり、ログを定期的にメールで送信できたり、管理画面からスピードテストを実行できたりと、ルーターの状態を把握したりトラブル発生時の対処を行ったりする際に活用しやすい機能が設定画面に組み込まれている。

 ファームウェアの自動アップデート機能も搭載されており、管理者の手をわずらわせることなく、常に最新版のファームウェアで利用可能となっている。

ルーターの情報でCPU負荷やメモリ使用量などを確認できる

機能や性能は十分

正面

 デザインは、最近のモダンなオフィスに合わせたかのような、ホワイトでアンテナ内蔵のシンプルな構成となっており、ロゴなどの主張も強くなく、スッキリとした印象を受ける。

 機能としては、このほかにスケジュール設定が可能で、Wi-Fiを利用可能にする曜日や時刻を指定できる。オフィスなどで利用可能な時間帯を制限したい場合に利用するといいだろう。

 ただし、VPNサーバー機能は搭載しない。法人向けということを考えると、実際に有効にして運用するかどうかは別としても、機能としては搭載されていてもよかったのではないかと思える。

側面
背面

 なお、WAN側は、固定IP、DHCP、PPPoEに対応しているが、MAP-EやDS-LiteなどのIPv6 over IPv4接続だけでなく、IPv6そのものにも対応しない。

 また、PPPoE接続時のMTUも標準では「1492」となっているので、日本国内で最も普及している「フレッツ 光」の回線で使う際に、「1454」へと手動で設定する必要がある。

 このほか、設定画面の「高度な設定」の中に「VLAN/ブリッジ設定」という項目があるが、これは海外のインターネット環境向けの設定項目のため、LAN側のVLAN設定はできない。

 法人向けとしてシンプルな構成なのはいいが、いささか国内の通信状況に対応し切れていないのではないかという印象だ。VPNも含め、ルーターは別途用意されていることを前提に、アクセスポイントとしてシンプルに使って欲しいという狙いの製品なのかもしれない。

 ハードウェアには、クアッドコアCPUと256MBのメモリを搭載しており、性能面では十分と言える。実際、木造3階建ての筆者宅にてiPerf3のテストをした結果は以下の通りだ。近距離は700Mbps近くをマークしているが、2階で200Mbps前後、3階端は標準では下りで71.2Mbpsと、さして高速というわけではない。

 広めのオフィスも1台でカバーできる実力を持ってはいるが、パフォーマンスはそこそこという印象だ。

 なお、標準で2.4GHz帯と5GHz帯のSSIDが同一となっているため、最も遠い3階端での値は、自動的に2.4GHz帯で接続されたことが影響している。SSIDを分離し、5GHz帯のみで接続した場合は、下りが154Mbpsまで高まったので、5GHz帯が有利な環境では、こちらで運用する方がいいだろう。

iPerf3 Test
1F2F3F入口3F窓際
3F(2.4GHz)上り76726923549.4
下り69527631371.2
3F(5GHz)上り102
下り154

※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、ストレージ:1TB NVMe SSD、OS:Windows 10、※クライアント Microsoft Surface Go 2(Intel AX200)

安さが魅力

 一般的に、ネットギアのWi-Fiルーターは高品質で高機能だが価格が高いというイメージを持つ方が多いと思われる。しかし、本製品はこうしたネットギアのイメージとは少し異なる方向性を持ったWi-Fiルーターだ。価格をぐっと下げることで、小規模な環境でも導入しやすくした製品となっている。

 このため、機能的にはある程度割り切って使う必要がある製品と言える。どちらかというと、すでにルーターが存在する環境で、Wi-FiのみをWi-Fi 6へアップグレードしたい場合に適した製品と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。