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わが社はAIを使わないから「AI PC」は不要!? Windows 10サポート終了まで3カ月、欲しい新PCのスペックを考える

今さら聞けないAI PCの基本をおさらい

 Windows 10のサポート終了(2025年10月14日)まであと3カ月を切った。前回のアンケート結果を見ると6割ほどはすでにWindows 11になっているようだが、今まさに入れ替えの真っ最中という企業も少なくはないようだ。

 では今買い換えるならどんなPCなのか? というところで、おそらく気になるのが2023年に登場したいわゆる「AI PC」だろう。ビジネスシーンでもAIを活用するシーンが増えていることもあって、Windows 10 PCのリプレース候補として注目されている。そこで今回は、あらためてAI PCとはどういったものか確認しつつ、今選ぶべきAI PCの基準をチェックしていこう。

そもそもAI PCってなんのこと?

AI PCってなんだ?

 「AI PC」とは言っても、それは一体どういったものなのか、分かりにくいのも事実。そこでまず、AI PCの基準を見ていこう。

 現在AI PCと呼ばれている製品は、AI処理に特化したプロセッサである「NPU(Nural Processing Unit)」を内蔵したPCのことを指している。

 実のところ、AI処理はNPUを利用せずとも行える。通常のCPUで処理できるし、ビデオカードのGPUでも処理できる。“AI処理が行えるPC”という意味であれば、それこそ全てのPCをAI PCと呼んでいいことになる。

 ただ、NPUはAI処理に特化したプロセッサとなっているため、同じAI処理を行うならCPUよりもはるかに効率良く処理が可能。つまり、AI PCは圧倒的にAI処理が得意なPCと考えていい。

AI処理に特化したプロセッサーがNPU(Nural Processing Unit)

 ちなみに、AI PCという呼称を提唱したのはインテルで、2023年に登場したNPU内蔵プロセッサ「Core Ultra プロセッサー」を搭載するPCをAI PCと呼び始めた。ただ、NPUを内蔵するプロセッサはインテルだけでなくAMDやQualcommも供給しており、現在ではそれらを搭載するPCも含めてAI PCと呼ぶことが多くなっている。

Copilot+ PCとAI PCって同じじゃないの?

 AI PCと並んで、AIに特化したPCの呼称に「Copilot+ PC」というものがある。こちらは、マイクロソフトが提唱するAI処理に特化したWindows PCの基準だ。Windows 11の最小システム要件に加えて、以下に示したCopilot+ PCの最小システム要件を満たしたうえで、マイクロソフトが認定したPCがCopilot+ PCを名乗れることになる。

Microsoftが定めるCopilot+ PCの最小システム要件

  • プロセッサ:40 TOPS(1秒あたり40兆回)以上の実行性能を持つNPUを備えた、互換性のあるプロセッサまたは System on a Chip (SoC)
  • メモリ:16GB DDR5/LPDDR5
  • ストレージ:256GB SSD/UFS

 実は、インテルが提唱するAI PCでも、初期に登場した製品はNPUの処理性能が低く(初代Core Ultra プロセッサー内蔵NPUの処理能力は11TOPS)、Copilot+ PCの要件を満たせないものがある。インテルのプロセッサで現在Copilot+ PCの要件を満たすのは、処理性能が40TOPSまたは45TOPSのNPUを内蔵する、「Core Ultra プロセッサー(シリーズ2)」に属する「Core Ultra 200V」シリーズとなる。

Copilot+ PCの要件を満たしたIntel Core Ultra 200Vシリーズプロセッサー

 AMDのプロセッサでは「Ryzen 7000」シリーズからNPUを内蔵しているが、そちらに内蔵するNPUの処理能力も10TOPSにとどまる。AMDのプロセッサで現在Copilot+ PCの要件を満たすのは、処理能力が50TOPSのNPUを内蔵する「Ryzen AI 300」シリーズとなる。

AMD Ryzen AI 300シリーズ

 Qualcommのプロセッサでは、処理能力が45TOPSのNPUを内蔵する「Snapdragon X」シリーズが該当する。

Qualcomm Snapdragon Xシリーズ

 そして、Copilot+ PCとして認定されたPCでは、マイクロソフトがCopilot+ PC向けに提供するAI機能が利用できる。その主な機能は、画像生成アプリの「コクリエイター」「イメージクリエイター」、画像の解像度を高める「フォトのスーパー解像度」、過去の作業内容などを検索できる「リコール」、音声の自動文字起こしや翻訳を行う「ライブキャプション」、画面に表示しているコンテンツを認識して検索などのアクションを実行できる「Click to Do」などがある。そして、Copilot+ PCでは、これらAI機能を、プロセッサ内蔵のNPUを利用しPC内で処理を行う。

 合わせて、現在のAI PCでは、このCopilot+ PCの要件を満たすことがひとつの条件となっている。そのため、本稿ではこれ以降も便宜上AI PCと呼ぶが、Copilot+ PCと同義と考えてもっても構わない。

別にAIなんて使わないし、AI PCなんていらないでしょ?

 近年注目されているAI PCだが、Windows 10 PCのリプレース先として選ぶべきなのだろうか。

 先ほど紹介したCopilot+ PC向けのAI機能のうち、積極的にビジネスシーンで活用したいものは少ない。しかも、一般的なビジネスPCと比較すると、AI PCは高価な製品が多い。そのため、Windows 10 PCのリプレースにAI PCを選ぶ必要性はそれほど高くないという印象を持っている人も少なくないはずだ。しかし、実際のところはそうとも言えない。

 テレワークでWeb会議を行う場合、カメラで自分を捉えた映像の背景をぼかしたり、明るさを調整することがあると思うが、その処理はAI処理に位置付けられる。そして、AI PCで利用できる「Windowsスタジオエフェクト」では、それらの処理をNPUで行うことになる。

Web会議の背景ぼかし処理、ここにもNPUが使われる

 また、ビジネスPCでは、セキュリティの観点からマルウェア対策ソフトの導入がほぼ必須だが、最新のマルウェア対策アプリでは、NPUでマルウェア検出処理を行うものが登場してきている。

 通常のPCでは、これら処理はCPUで行う。Web会議時の画像処理を利用したり、マルウェア対策ソフトが検出処理の実行を始めるとPCの動作が重くなって作業効率が下がる、と感じることがあるのはそのためだ。

 しかし、それらの処理をNPUで行うようになると、CPUはその処理から開放され、動作が重いと感じることがなくなり、作業効率が低下しなくなる。これは、ビジネスPCとして大きな利点と言える。

 さらに、今後ビジネスシーンで利用されるアプリの多くがAI機能を取り入れる予定で、それらAI機能は多くがNPUで処理されることになる。つまり、今後はビジネスシーンでもNPUを活用する場面がどんどん増えていくと考えていい。

 つまり、長い目で見ると、導入コストが高くなるとしても、AI PCを選んでおいた方がより長期間利用できるうえ、業務効率も高められるため、Windows 10 PCのリプレースとして可能な限りAI PCを選択すべきと言える。

でもお高いんでしょ?

 AI PCは、登場当初は比較的高価な製品が多かったが、その後選択肢が増え、最近ではかなり手ごろな価格の製品も増えてきている。

 AI PCとして手ごろなのは、AMDのRyzen AI 300シリーズを搭載する製品が中心。法人向けでも実売価格10万円台の製品が多く、中には15万円前後と、一般的なメインストリームビジネスPCに迫る価格で購入できる製品もある。コストパフォーマンス優先なら、かなりお勧めできる。

Dell Pro 14 ノートパソコン。AMD Ryzen AI 5 340 プロセッサーを搭載し、実売で14万円台前半
HP EliteBook 6 G1a 14。AMD Ryzen AI 5 340 プロセッサーを搭載し、実売で17万円前後

 対するインテルのCore Ultraシリーズ2、Core Ultra 200Vシリーズ搭載製品は、法人向けでは実売価格が20万円台の高価格帯の製品が多くなる。それでも、登場当初と比べると価格は下がってきており、17~18万円程度で購入できる製品も増えているため、そのあたりの製品を狙うのは十分ありだろう。

 ところで、インテルのCore Ultra シリーズ1搭載製品はどうか。プロセッサにNPUは内蔵するが、AI処理能力が低く、Copilot+ PCの要件は満たさない。それでもNPUが存在することで、NPUを活用するアプリ利用時のシステム全体のパフォーマンス向上は十分期待できるし、実売価格でもシリーズ2と比べて数万円安い製品もある。とはいえ、同じ価格帯でRyzen AI 300シリーズ搭載でCopilot+ PCに準拠する製品が存在する以上、お勧めはしづらい。

マウスコンピューターのMousePro G4-I5U01BK-Eはインテル Core Ultra 5 プロセッサー 226Vを搭載して実売19万円台
Dell Pro 16 Plusノートパソコンはインテル Core Ultra 5 236V,vProプロセッサーを搭載して実売18万円台

 最後にQualcommのSnapdragon Xシリーズ搭載製品だ。こちらは実売価格が10万円前後から購入できる製品が存在しており、コストパフォーマンスという点ではAMDのRyzen AI 300シリーズ搭載製品に近い。

ThinkBook16 Gen 7 Snapdragonは10万円台からラインアップ。ただしOSがHomeなのでカスタマイズが必要
法人向け Surface Laptop,Copilot+ PC,13インチ|Snapdragonは2025年9月出会で16万1480円から

 ただ、Snapdragon Xシリーズ搭載製品で注意したいのがアプリの互換性だ。インテルとAMDのプロセッサは基本的に同じx64/x86アーキテクチャを採用しており、アプリの互換性もしっかり保たれている。それに対しSnapdragon XシリーズはArm64アーキテクチャを採用しており、x64/x86アーキテクチャと互換性がない。そのため、OSがWindows 11であっても、正常に動作しないアプリが存在する。

 実際には、Arm64向けWindows 11では、x64/x86向けアプリを動作させるエミュレーション機能が用意されており、多くのx64/x86アプリは問題なく動作する。しかしハードウェアを直接制御するようなアプリは動作しない。それが業務で不可欠なアプリだった場合には、業務を遂行できなくなってしまう。

 業務で利用するPCをリプレースする場合には、事前に業務で必要なアプリが正常に利用できるかどうか確認してからになるはずで、それで問題がなければSnapdragon Xシリーズ搭載製品も十分選択肢として魅力がある。とはいえ、わずかでも懸念が存在する以上、現時点ではビジネスPCとしてはあまりお勧めしづらいのが正直なところだ。

 ということで、将来性や作業効率を重視するならAI PCの選択が基本。その上で、コストパフォーマンス重視ならAMDのRyzen AI 300シリーズ搭載製品、安定性や互換性重視ならインテルのCore Ultra 200Vシリーズ搭載製品を選べばいいだろう。