第34回:常時接続環境でストリーム配信に挑戦
BROAD STREAM TSR-MS4をテスト



 ADSLやFTTHのメリットは何も速度だけではない。実は「常時接続であること」が大きなメリットなのだ。今回は、このような常時接続環境の活用にうってつけと言えるアイ・オー・データ機器のネットワークビデオサーバー「BROAD STREAM TSR-MS4」の試作機をお借りしてテストしてみた。果たして、その実力はどれほどのものなのだろうか?





ネットワークビデオサーバーとは

「BROAD STREAM TSR-MS4」本体に内蔵した10万画素のCMOSカメラとマイクで動画や静止画を撮影。ネットワーク経由で表示することができる

 今回、アイ・オー・データ機器から発売された「BROAD STREAM TSR-MS4」は、「ネットワークビデオサーバー」という聞き慣れないカテゴリの製品だ。名前からも想像がつく通り、ネットワークで映像を配信するためのサーバー機器なのだが、早い話が高機能なWebカメラだと思ってくれればいい。基本的には、本体に内蔵された10万画素のCMOSカメラとマイクで撮影した動画(MPEG-4)や静止画をネットワーク経由で表示することが可能となっている。

 まあ、この手のネットワークに対応したWEBカメラは他社からもいくつか販売されてはいるのだが、BROAD STREAMの特徴となるのは、単純なWEBカメラではない点だ。

 本体には、CFカードスロットが備えられており、ここにメモリカード、そして無線LANカードやNTTドコモのPHSカード(AirH"はバージョンアップ対応)などの通信機器を装着可能となっている。このため、たとえばメモリカードに保存した映像や画像を配信したり、無線LANでの接続、PHSによるダイヤルアップ接続やリモートアクセスが可能となっている。

 WEBカメラの主な用途としては、やはり遠隔地から自宅の様子を見るなどといった使い方になるが、この経路としてインターネット以外に、PHSによるRAS接続が可能になっているのは面白い。撮影する映像によっては、インターネットなどの公衆のネットワークを介するのに躊躇する場合もある。しかし、PHSであれば、クライアントと1対1の完全に閉じたネットワークとなるため、安全性やプライバシーの保護に有効と言える(発信者番号による制限も可能)。このような使い方ができる点は、非常に興味深い。

 この他、本体背面に用意されているビデオ入力端子やマイク端子にビデオなどを接続すれば、撮影した映像や音声を配信することも可能となっているなど、とにかく多機能だ。


本体背面には、CFカードスロットを装備。メモリカードや各種通信カードを装着できる。無線LANカード(対応は同社製のみ)を装着すれば、無線LAN環境でも利用可能。PHSによるRAS接続にも対応する




ADSLの上り速度では256kbpsが配信の限界か?

 さて、実際の使用感だが、初期設定に関しては、それほど難しくなかった。BROAD STREAMには、標準で192.168.0.150のIPアドレスが割り当てられている。このため、ネットワークの設定に特に問題がなければ、単純に接続するだけでWEBカメラとして利用することが可能となる。ブラウザを利用して、BROAD STREAMにアクセスすれば、それだけでカメラの映像を見ることができるわけだ。


留守宅の監視などであれば、解像度などの点ではまったく問題ない。音声もきちんと再生できる

 なお、BROAD STREAMのストリーミング配信では、映像にMPEG-4、音声にG.726のコーデックを利用するが、クライアント側での再生にはWindows Media Playerがこれらのコーデックは映像を再生するときに自動的にインストールするため、特に設定の必要なく、非常に手軽に利用できる。

 テストに使用した試作機の画像だが、残念だが、あまり良いとは言えなかった。画質の設定は、標準ではデータレートが64kbpsで、画質が中、解像度がQCIF(176×144)となっているが、これは変更することが可能となっており、最大768kbps、解像度CIF(352×288)まで設定できるようになっている。しかし、あまり高いデータレートや解像度に設定しても、大幅な画質の改善は望めない。これは伝送速度の問題というよりは、本体内蔵のCMOSカメラなどの画像処理能力があまり高くないのが原因だろう。製品版では改善も期待されるが、実質的にはLANでの利用であっても高画質で快適に再生できるとは言い難かった。


データレートは64kbps~768kbpsまで、サイズはSQCIF、QCIF、CIFの3種類が設定可能

 もちろん、これをインターネット経由で利用する場合は、さらに画質を落とさないと使い物にならない。BROAD STREAMは、映像の配信にTCPのポート80のみを利用するため、ルーターなどでポートフォワードの設定さえすれば、簡単にインターネット経由でも利用できる(ユーザー登録による認証も可能)。しかし、ADSLなどで利用する場合は、上りの帯域がボトルネックになるため、256kbps以上では映像が途切れやすくなる。ユーザー側の上りの速度にもよるが、実質的には256kbps以上での配信は難しいだろう。

 また、映像のなめらかさを求める場合は、解像度をQCIFに設定しておくのが無難だ。CIFではカクカクとした印象があり、スムーズには再生できない。リモートから留守宅の監視をするような使い方であれば、これでも問題はないのだが、ビデオの映像などを配信する場合は、やはりQCIFの方がスムーズだ。サイズはかなり小さくなってしまうが、スムーズさを優先したい場合は、致し方ないだろう。

 試しに、家庭用テレビのVide OUTとBROAD STREAMのVideo Inを接続し、テレビ放送をストリーム配信してみたが、やはりQCIFでないとスムーズに再生されなかった。まあ、テレビをストリーム配信するという方法が現実的かと問われると、著作権の問題やチャンネルが変えられないなどの問題があるため、実用性は乏しい。やはりデジタルビデオカメラなどで撮影した映像を配信するという用途が適しているのだろう。





価格を考えると、気軽に手を出しにくい

 このように、BROAD STERAMは、ブロードバンド環境を利用して、手軽に自宅の監視やビデオ映像の配信などが可能になる便利な機器だと言える。実際、ADSLやFTTHなどの「常時接続」というメリットがあまり活かされていないことを考えると、この商品コンセプトは高く評価することができる。

 しかし、定価で6万5800円(実売約6万円)という価格を考えると、購入には慎重にならざるを得ない。確かに、CFカードスロットにさまざまな機器を装着することで機能を拡張できたり、Video Inを装備することでさまざまなソースの映像を配信できるのは魅力だが、実際に使ってみると、この画質か……と残念に思ってしまう。せめて、CIFで1Mbpsクラスの映像をスムーズに再生できるくらいの能力は欲しいところだ。

 もちろん、ADSLなどでは、上りの帯域がボトルネックになるのでデータレートを抑えなければならないが、FTTHなどでの利用を考えると、画質にはもう少しこだわりたいところだ。また、無線LANに対応していることを考えると、LAN上で利用したいというニーズも多いはず。この製品には画質とそれを実現するためのハードウェアのバージョンアップを期待したいところだ。それとも、思い切った価格設定で普及拡大もよいかもしれない。


関連情報

2002/11/19 11:21


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。