第112回:40Mbpsから47Mbpsへ高速化
アッカ 47Mサービスの実力は?



 アッカ・ネットワークスが、これまで提供していた下り40MbpsのADSLサービスを47Mbpsへと高速化した。果たしてどれほどの速度向上が見られるのだろうか? 実際の回線で確認してみた。





より速く、より限定されたサービスへ

 昨年末から今年頭にかけて40/45Mbpsサービスが登場したばかりのADSLだが、ここにきて、再び高速化の予定が相次いで発表されている。すでに8月から、主要なADSL事業者が47/50Mサービスを開始すると発表しているが、これに続けてアッカ・ネットワークスが年内に50Mサービスの投入予定があることを発表、JANISもVDSLを利用した60Mサービスの投入を発表している。40/45Mサービスが登場したときは、これでしばらく下りの高速化はないだろうと予想していたが、少々、見通しが甘かったようだ。

 ただ、個人的には、高速化の発表を目にしても、そろそろ期待感を持てなくなってきた。上りの3Mbps化、5Mbps化には、まだ楽しみがあるが、下りの高速化については、もはやそれほど必要性を感じない。確かに、速度自体が向上することはありがたいことだが、現状の速度で不満があるわけでもない。もちろん、ADSLの速度に不満を持っているユーザーも少なくないだろうが、そういったユーザーの場合、そもそも線路長が長いなど環境があまり良くないため、新たに登場した高速なプランの恩恵を受けることは難しいだろう。

 筆者宅も同様に、もはや新サービスの恩恵を受けるには厳しい環境となりつつある。確かに、より速く進化しているADSLだが、その一方で、恩恵を受けられるユーザー層がより少なくなってきているのは、少々残念なところだ。





クアドスペクトラムユーザー向け

 このように、高速化はなされたものの、その対象ユーザーが限定されているという点では、今回アッカ・ネットワークスが開始した47Mサービスも同様だ。ファームウェアのアップデートのみで手軽に40Mサービスから移行できるため早速試してみたが、結論から言えばほとんど効果はなかった。

 筆者宅は、最寄りのNTT収容局からの距離が1.57km、伝送損失が38dBという環境にあり、これまでの40Mサービスでは下り10,400kbps、上り1,088kbpsでリンクアップしていた。NTT収容局側での工事が完了していることをスケジュールで確認後、ファームウェアをアップデートして同様にリンク速度を確認してみたが、下り10,688kbps、上り992kbpsと、ほとんど同じ速度であった。下りは若干、速度が向上しているが、この程度であれば誤差の範囲内だ。

サービス種別接続モード下りリンク速度上りリンク速度インターリーブディレイインターリーブデプスノイズマージン
40MサービスG.dmt AnnexI10,400Mbps1,088Mbps4/432/46
47MサービスG.dmt AnnexI10,688Mbps992Mbps4/432/25

40Mサービス(左)と47Mサービス(右)の近端ビットマップ。多少の違いはあるものの、おそらくトレーニング時の誤差と考えられる。クアドスペクトラムで接続されている環境以外では、その効果が速度の差として表われることは期待できない

アッカ・ネットワークスが公表している47Mサービス、50Mサービスのイメージ図。1.4km、15dB以内でないと効果は期待できそうにない

 これは当然と言えば、当然の話だ。前述したように、筆者宅は線路長に比べて伝送損失が高い環境にあるため、従来の40Mサービスでもクアドスペクトラムが利用されることはなく、ダブルスペクトラムのAnnexIで接続されていたからだ。

 アッカ・ネットワークスが公表しているリリースを見る限り、今回の47Mサービスの効果が期待できるのは、線路長で1.4km、伝送損失で15dBの環境までとなっている。この条件から推測する限り、少なくともクアドスペクトラムで接続され、20Mbps以上のリンク速度を実現できていないと47Mサービスの恩恵は受けられないと予想できる。実際、同社に確認してみたところ、今回のバージョンアップで効果が期待できるのは、やはりクアドスペクトラムで接続されている環境のみだという回答が得られた。

 もちろん、ファームウェアをアップデートするだけで手軽に利用できるため、誰でも47Mサービスを試すことができるが、実際に47Mサービスのモードで接続され、その効果が表れるかどうかは、環境次第と言えるだろう。





50Mサービスの効果は期待できるか?

 このように、47Mサービスでさえも、かなり環境が限られることがわかったわけだが、今後予定されている50Mサービスは、どうなのだろうか?

 この判断は非常に微妙だ。同社が年内投入を目指している50Mサービスは、従来26~138kHzまでを利用していた上りの帯域を4~5.1MHzという高い周波数帯に変更し、26~3.75MHzまでをすべて下りで利用するというSUQ方式だ。アッカ・ネットワークスでは、既存のサービスで26~138kHzを上りと下りでオーバーラップさせていたが、この必要がなくなる。エコーキャンセラで重ねた信号を取り出す際の損失がなくなれば、低い周波数帯を有効に使えることは間違いないため、帯域が増える上りが高速化するのは当然として、下りの高速化も実現可能となる。

 ただし、これは50MのSUQ方式でリンクすればという条件付きだ。50Mサービスも、47Mサービスと同様に、速度向上の目安は線路長で1.4km以内、伝送損失で15dB以内と条件は厳しい。これを考えると、SUQ方式でリンクするユーザーもかなり限定されることになる。また、たとえSUQ方式でリンクして、下りの高速化が実現できたとしても、今度は非常に高い周波数帯を利用する上りの速度をどこまで確保できるかが微妙と言える。このあたりは、実際に利用するかどうかは別にして、技術的には非常に興味深いところだ。

 いずれにせよ、線路長が長かったり、伝送損失が高いユーザーは、蚊帳の外におかれているという感じは否めないだろう。個人的には、近距離向けのサービスはもう十分だと思えるので、中距離の速度向上やさらなる長延化を目指して欲しいと感じる。


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2004/8/3 11:07


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。